北と彩女はオレンジ色に染まる銀山温泉へ「うつっちゃうかもしれないけど...キス、して...」:雪女と蟹を食う

公開: 更新: テレ東プラス

回想から現実に戻る。銀山温泉街に辿り着き、彩女を背負いながら宿に向かう北。温泉街一帯は宿の灯りでオレンジ色に染まり、ノスタルジックな景色が広がっていた。

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「桃源郷みたい…」

「見たことあるんですか?」

「ものの例えじゃないですか?」と返し、笑い合う2人。

北は彩女を支えながら宿に入る。

「体調、苦しくないですか?」

「はい、いつもの事なので…」

「いつもの事?」

「私、気管支の持病を持ってるので、ちょっと無理をするとすぐ熱が出たり、呼吸困難になったりするんです」

「それ、なおさら病院に行った方がよくないですか?」

「嫌です。せっかくここまで来たんですもの」

「…わかりました。けど、本当に体調が変だと思ったら、すぐ言ってください」

「はい」

部屋に着くと、早々に布団に横たわる彩女。女将に頼んで夕飯はお粥に変更してもらったが、北は「何か欲しいものとかあります?」と彩女に尋ねる。

「…欲しいもの?」

「スポーツドリンクとか温かいお茶とか」

「怒られちゃうから…」

「ええ? 怒らないですよ。なんですか?」

じっと北を見つめながら、「うつっちゃうかもしれないけど」と言う彩女。

「はい?」

「…キス、して…」

「は、はい…お安い御用で」

起き上がった彩女を支え、キスをする北。彩女の左手を握った北が、指輪の感触にビクッとすると、彩女もパッと手を離す。

「ごめんなさい。いつもの習慣で、つい…。私にとって婚約指輪は、お守りみたいなもので…」

「お守り?」

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「体調が悪い時とか不安なことがある時、これがないと落ち着かないんです」

「…何で結婚指輪じゃなくて、婚約指輪なの?」

「あの頃が一番幸せだったから…かしら」

悲しげに彩女を見つめる北。

「でも、そんな過去の思い出を牛みたいに反すうして…馬鹿みたいですよね。こんな氷みたいな石、そばにあったって何の役にも立たないのに」

彩女は指輪を外すと、畳の上にそっと置く。そして北を真っすぐ見つめると「抱きしめて温めて」と言い、北は彩女をぎゅっと抱きしめる。

(これは、神様が見せた夢…? 本当の俺はあの時死んでしまっていて、覚めない白昼夢にとらわれたままなんじゃないか?)

彩女は両手で北の頬を包み、額にキスをする。

(そうじゃなければ、どうして彩女さん、あなたは…そんなに愛おしそうに俺の頬を撫でるんだ…)

「ありがとう。あなたは本当はとっても優しい人…」

その言葉を聞いた北は固まり、表情が暗くなる。ゆっくりと離れる北に、不思議そうな表情を浮かべる彩女。

「俺、全然優しくなんかないよ…」

「え?」

北はうなだれると、「俺は今まで、俺を冷たく突き離した人間を心の底から恨んでた。でもそれは…」とつぶやき、過去の出来事を回想する。

〜数ヵ月前〜

マホと付き合っていた頃、買い物帰りに「今度の連休、どっか行こうよ」と言われた北。「ちょっと会社でいろいろあってさ、気晴らしに海とか見に行きたいの」と言うマホに、北はそっけなく「金ないからなぁ。今月部屋の更新料払ったし、財布スカスカだわ」と返す。

「でも…もう何年も旅行してないしさ、いいじゃん、今度の連休くらい」

「あんまのんきなこと言ってんなよ。知ってるっしょ? 俺、お前と住むための家とか、車のために貯金してんだから。全部将来のためじゃん」

曇った顔で黙り込むマホ。北はその表情をチラッと見て「分かった。じゃあ来年! 沖縄でも北海道でも連れて行ってやるよ」と言う。

「去年も一昨年も、同じこと言ってた…」

「え?」

「きっとアンタは、来年も同じこと言うね」

悲し気な目で北の背中を見つめるマホ。北は振り向きもせず、スタスタ歩いて行く。

〜〜〜

「理不尽だと思っていたこと全部、俺が他人にしてきたことの報いだったんだ…」

「北さん…」

名前を呼んだ途端、激しく咳き込む彩女。北は慌てて背中をさすり、「大丈夫?」と声をかける。

「大丈夫、たいしたことないわ」

北が彩女の額に手をあててみると、先ほどより熱が上がっている。薬も全然効いていないようだ。

「少し寝れば良くなるから。言ったでしょ? 慣れてるって」

「慣れないでください、こんなこと!」

「!」

強い口調で言ったことに恥ずかしくなり、立ち上がる北。彩女を寝かせて布団を掛けてやると、少しうれしそうに「すごく久しぶりな気がします。誰かに看病してもらうの」と微笑む彩女。

「…旦那さんは?」

「旦那は出張で家にほとんど帰って来なくて…。出張じゃなくても、家だと執筆できないからって。ほら、物書きだから」

「え…? じゃあ、あの広い家にずっと一人…?」

「ええ…」

「図書館で会った時、俺は彩女さんのことを、美人なだけで何もしなくても旦那の稼ぎで悠々暮らしてる人だと思ってた」

「別に…間違ってないですよ」

彩女の手を包むように握る北。

「彩女さんも孤独に堪えてきたんだ…。怖い思いをさせて、ごめんなさい」

彩女は首を横に振る。

「俺が彩女さんにできることって、何かないかな」

彩女は北の顔をじっと見つめ、「北さんに、やってほしいことがあります」と告げる。

「…?」

果たして、彩女の願いとは…。さらに、彩女が北と旅に出た衝撃の理由が明らかになる!

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金曜深夜0時12分からは、第4話を放送!

死ぬ前に蟹を食べるため北海道へ向かう、人生に絶望した男・北(重岡大毅)と謎多きセレブ人妻・彩女(入山法子)。彩女が死ぬためにこの旅についてきたと知った北は、彩女の冷たい表情に何も言えなくなってしまう。
函館へと向かうフェリーへ乗り込んだ2人だったが、狭い客室で気持ちがすれ違い…。そんな中、彩女は北に「本当は死ぬのが怖くなったのではないか」と問う。北が出した答えとは…。