ペルーで牛を育てる男性が、初めての和牛に感動!”幻の和牛”の飼育方法を学び、大成功!:世界!ニッポン行きたい人応援団

公開: 更新: テレ東プラス

ニッポンに行きたくてたまらない外国人を世界で大捜索! ニッポン愛がスゴすぎる外国人をご招待する「世界!ニッポン行きたい人応援団」(月曜夜8時)。毎回ニッポンを愛する外国人たちの熱い想いを紹介し、感動を巻き起こしています。

今回は、「ニッポンにご招待したら人生変わっちゃった! スペシャル」をお送りします。

肉のスペシャリストの技を体験し、尾崎牛の飼育方法を学ぶ

紹介するのは、南米ペルーに住む、「和牛」をこよなく愛するルイスさん。

nipponikitai_20220725_01.jpg
サシから旨味とコクが滲み出し、口に入れた瞬間とろけるような食感を生むニッポンの和牛。飛鳥時代から明治時代に文明開花を迎えるまで、仏教の影響で牛肉を食べることを禁じていたニッポンですが、先人たちが緻密な品種改良を重ね、わずか150年で最高品質の和牛が完成。今やアメリカやオーストラリアなどの牛肉大国でも、「WAGYU」が作られるまでに。

42年前、牛を飼育し始めたルイスさん一家。長男のルイスさんは2歳の時に父親を亡くして以来、おばあちゃんから牛の飼育を学びました。後継ぎとして家業の牧場を守るため、休む暇もなく働く毎日。必死に貯金しながら、大学の奨学金も返済しています。

ルイスさんが尊敬するのは、和牛の父と呼ばれる田尻松蔵さん。松阪牛や神戸牛の元となる但馬牛を兵庫県で飼育し、黄綬褒章も受賞した伝説の牛飼いです。約80年前に田尻さんが飼育した雄牛「田尻号」は、良質な牛を量産し、全国で引っ張りだこに。近年、高級黒毛和牛の母牛の99.9%が田尻号の子孫であることが証明されました。

nipponikitai_20220725_02.jpg
ニッポンにはまだ一度も行ったことがないルイスさんは、20歳の時にインターネットで見た霜降り肉の美しさに一目惚れして和牛の虜に。しかし、和牛を食べたことはありません。経済的にニッポンに行くのは難しく、せめて気分だけでも味わおうと、できるだけ霜降り肉に似ている肉を薄切りにし、魚の出汁でしゃぶしゃぶにして食べています。

いろいろな和牛の料理を食べて味を確認し、最新の飼育方法を持ち帰りたい。そんな夢を持つルイスさんを、ニッポンにご招待! 2年半前、念願の初来日を果たしました。

ここで、ルイスさんには着替えてもらいます。実は、海外に滞在した人がニッポンの農場に入るにはルールがあるのです。入国して1週間は畜舎など衛生管理をしているエリアには入れず、海外で使っていた服や靴なども持ち込めません。家畜の伝染病には感染力が強いものもあり、宮崎県では2010年、牛や豚に感染する口蹄疫が発生。被害総額は2350億円に!

念のため体をきれいにして、着替えを済ませたルイスさん。牧場に入ることができない1週間を利用して、創業110年の「すき焼割烹日山」にやってきました。2011年から、10年連続ミシュランガイド東京に掲載された老舗。隣にある直営の精肉店で、夢にまで見た霜降り肉と初対面し、「脂の量がハンパないですね!」と大興奮!

早速、和牛のすき焼きを初体験します。秘伝の割り下で、さっと火を通したA5ランクの米沢牛を味わうと、肉の柔らかさにびっくり。「あまりにも美味しすぎて、頭がのぼせてきちゃいました」。

nipponikitai_20220725_03.jpg
その後、高級和牛の美味しさの秘密を教えていただくため、日山畜産社長・村上聖さんのもとへ。和牛の格付けを指すA5とは何を表すのか質問します。

アルファベットのA~Cが示すのは牛一頭から取れる肉の量、歩留等級。1~5の数字が示すのは肉質等級で、脂肪の量や肉の質で決まるそう。つまりA5ランクとは、肉も取れて質もいい最高級品なのです。さらに肉のプロの間では、サシと呼ばれる霜降りの度合いは脂肪交雑と呼ばれ、12段階に分けられています。

これらは肉の量や見た目の評価ですが、ルイスさんは味の評価についても質問。村上さんによると、美味しさについては食べてみるしかないそうで、「日山」では、お客様に販売する前に全部試食し、香りと脂質、味わいの3項目を確かめているそう。和牛には一頭ずつ個体識別番号がついているので、「日山」で購入した肉であれば、この番号をホームページに入力すると産地や生産者と共に味の評価を確認できます。

質問は止まらず、気づけば1時間以上経過。国は違えど和牛を愛する者同士、まだまだ話し足りないルイスさんと村上さんでした。

この日、ルイスさんがやってきたのは山口県岩国市にある「ミコー食品」。こちらでお世話になるのは、肉をカットするスペシャリスト・沼本憲明さんです。その包丁さばきは「沼本カット」と呼ばれ、余分なスジや脂をミリ単位で削ぎ落とし、和牛の旨さを最大限に高める神技の持ち主。これまで20ヵ国で技を披露し、和牛を世界に普及させています。

早速、世界を魅了する包丁さばきを見せていただきます。用意したのは、地元岩国の「高森和牛」のウデ肉。筋肉が発達し、スジや筋膜が多い部分です。普段はスライスしてすき焼き用にする部位ですが、沼本さんはこれを7つの部位に分けるそう。

肉を傷つけないよう丁寧に脂を削ぎ落とし、筋膜ごとに分けてブロックにしていきます。さらに厚さ数ミリのスジを丁寧に取り除くと、肉は柔らかくなり、焼いた時にふっくらと膨らむのです。沼本さんが取り除いたスジは透けるほど薄く、全く肉がついていません。

nipponikitai_20220725_04.jpg
カット開始から50分、普段はこのままスライスされるお肉が、味も食感も異なる7つの部位に。今回は、切り出した部位をステーキ用にカットします。切り口を見たルイスさんは「手で圧力を加えていないから角が全く潰れていません。断面も驚くほど平らです」と驚いた様子。ルイスさんもカットに挑戦したものの、断面にはガタつきが。

ここで、沼本さんが家庭のフライパンでも美味しくお肉を焼く裏技を披露。まずは赤身のステーキから。お肉は常温にしておき、中心に火を通りやすくするのがポイントです。熱したフライパンから煙が出る前に、牛肉の脂の成分と同じオレイン酸を含むオリーブオイルをひき、煙が出たら焼き始め、片面に塩と胡椒を。両面を焼いたらフライパンから肉を取り出し、30秒ほど余熱で火を通します。

その後、肉をフライパンに戻して弱火に。和牛は中がレアよりも若干火が通った方が、和牛香という和牛特有の甘くコクのある香りがしてくるそう。弱火で20秒、余熱で30秒火を通し、これを2、3度繰り返します。時間をかける人は4〜5時間かけて焼くことも。「低温加熱でゆっくり可愛がって焼いてあげるイメージ」と話す沼本さんに、「愛情ですね」とルイスさん。最後にバターで風味づけをして出来上がりです。

nipponikitai_20220725_05.jpg
実は、お肉をカットする角度も重要。一口サイズにカットする場合、ステーキの側面を見ると斜めに肉の繊維が流れています。これに対して直角に切ると、食感が良くなるのです。「一口食べた時に最高の1枚に仕上げるのが僕たちの仕事」と沼本さん。試食したルイスさんは「これほどまでに美味しいステーキは生まれて初めて食べました」と感動。沼本さんのお肉への愛を感じました。

続いて、サシが多い希少部位・ミスジをステーキに。焼く途中で出てきた脂でフライになるのを防ぐため、ペーパーで脂を取り除きながら焼くと、ふっくら仕上がります。同じウデ肉でも、ミスジは先ほどの赤身とは違って霜降り。「噛むと脂が溢れ出してきて、こちらの方が旨味をしっかりと感じられました」と、味の違いを体感します。

お次はミスジはサイコロステーキに。火が通りやすく、比較的失敗せずに焼けるそう。地元名物の岩国寿司とわさびも合わせ、和牛を心ゆくまで堪能しました。

nipponikitai_20220725_06.jpg
別れの時。「沼本さんの技を間近で見学し、愛こそが道を極める秘訣だと知りました」。最後に沼本さんから「これからも一緒に肉を勉強して、牛を愛し続けていきましょう」と励ましの言葉をいただきました。

来日してから1週間、いよいよ念願の牧場へ行ける日がやってきました。向かったのは、宮崎市。宮崎牛は、5年に1度の品評会「全国和牛能力共進会」において、3大会連続で日本一に選ばれています。宮崎産の和牛の中でも、入手の難しさから「幻の和牛」と呼ばれるのが「尾崎牛」。あっさりとした脂と旨味の強い赤身が特徴です。

今回は、尾崎牛の生みの親・尾崎宗春さんにお世話になります。尾崎牛は世界各国へ輸出しているため、国内用は月にわずか30頭。数が少ない上、ほとんどが予約で埋まり、なかなか一般には流通しないそう。最大の特徴は、通常の和牛が生後26ヵ月前後でお肉になるところを、4ヵ月長く飼育する点にあります。そうすると、赤身と霜降りのバランスが良くなり、香りも良くなるとか。

尾崎牛の美味しさの秘密を教えていただくため、翌朝6時、宮崎中央農業協同組合 家畜市場へ。こちらでは毎月2日間、約800頭の子牛がせりにかけられます。幻の尾崎牛を育てるには、子牛選びが重要。子牛の血統をもとに肉質や体格を調べ、どんな牛に育つか予想し、実物を見て入札します。

宮崎の子牛は優秀で人気が高く、全国の生産者がこぞって買いに来ます。和牛の銘柄は一般的に、生まれた場所ではなく、一番長く育った場所の地名がブランド名になるそう。

nipponikitai_20220725_07.jpg
この日、尾崎さんが買った子牛は60頭。尾崎さんによると、良い子牛のポイントは目と目の間隔にしっかりと幅があり、顔がホームベースのような形で口が大きいこと。そうした牛は体が大きくなり、あばらの骨に肉がつき、きれいなロースになって、そこに霜降りが入るのです。

翌朝6時、尾崎さんの牧場へ。こちらでは、約1600頭の和牛を飼育しています。実は、尾崎牛の育成の秘密は餌。トウモロコシやビールの搾りかすなど13種類を混ぜ、防腐剤は入れず、作り置きもしません。毎日2時間半かけて丁寧に配合しています。この配合を決めるのに、20年かかったそう。

餌に使うトウモロコシにも工夫が。蒸気で加熱して圧力を加えて潰し、端を鋭利にしています。この尖った部分が牛の胃壁を刺激し、食欲を促すのです。こうして2年間育てた牛は、出荷する頃には体重が1トンに!

しかし、尾崎牛ブランドを育てるまでには大変な苦労がありました。アメリカの牧場で働きながら大学で畜産を学んだ尾崎さんは、帰国後に理想の牛を育てる方法を模索。美味しく安全な牛を届けたいと思い、2005年に個人名でブランドを立ち上げます。

尾崎牛は評判を呼び、海外からも問い合わせが入るなど順調に売り上げを伸ばしていました。ところが2010年、宮崎県を口蹄疫が襲います。尾崎さんも2ヵ月半出荷できず、餌代などで借金が1億5000万円に。再び出荷できるようになると、今度は東日本大震災が発生。風評被害で海外からの注文が激減してしまいます。それでも諦めず、尾崎さんは未来を見据えて牛を育て続けたのです。

帰国前夜。尾崎さんが取引先を招く食事会に、ルイスさんも特別に同席させていただきました。尾崎牛をすき焼きと炭火焼きのステーキ、ハンバーガーでいただき、その美味しさに感動! 「最高に美味しいです」と笑みがこぼれます。

nipponikitai_20220725_08.jpg
別れの時。尾崎さんが人生をかけて作り上げた、尾崎牛の飼育方法を教えていただいたことに感謝し、「牛への愛情をもっと深めて勉強していきます」とルイスさん。尾崎さんから「頑張ってください」と激励され、ハグを交わしました。

あれから2年半。ルイスさんから届いたビデオレターを、尾崎さんの元へ届けます。

現在も、美味しい牛を育てるために頑張っているルイスさん。東京ドーム5個分の広さがある牧場で、約800頭の肉牛を飼育。乳肉兼用種のシンメンタールという種類の牛を中心に育てています。

2年半前は1つの囲いに10頭以上の牛を飼っていましたが、今は尾崎さんの飼育方法を参考に、血統書つきの牛は1頭ずつに分け、余裕を持たせたスペースを確保。餌も配合を見直し、栄養価の高い穀物を多く取り入れるように。

餌の回数も、以前は1度に1日分を与えていましたが、尾崎さんの牧場で餌を何回にも分けて与えているのを見て、1日3回に分けているそう。コロナの影響で一時期は売り上げが半減したものの、尾崎さんの教えを実践し、現在はコロナ前の9割まで回復しました。

nipponikitai_20220725_09.jpg
ここで、ルイスさんが作っている牛肉を見せてくれました。和牛のようにサシは入っていませんが、肉質や育て方に気を使うようになり、肉厚で柔らかく、きれいなピンク色に。街の精肉店での評判も上々だそう。尾崎さんは「こういうピンク色の良い肉質というのは、日頃の管理ができているということですよね」と感心。

帰国後、新たに始めたのが牧場のフンを集めて農園に売る事業。餌を変えたことでフンの質が良くなり、肥料としての栄養価が高いと農園の方に喜ばれています。毎日20トンのフンを出荷し、1日の売り上げは約20万円になるそう。

nipponikitai_20220725_10.jpg
「尾崎さんのおかげで、僕の人生が変わりました。またニッポンに行った時は、尾崎さんに会いに行きますね!」とルイスさん。尾崎さんは「ものすごくいい飼い方になっていると思います。その調子でますます頑張ってください」とエールを送りました。

ルイスさんをニッポンにご招待したら、牛の飼育により一層情熱を注ぎ、街でも評判の牛肉を提供していました!