倒産寸前の町工場、奇跡の大逆転:読んで分かる「カンブリア宮殿」

公開: 更新: テレ東プラス

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寝返りが楽&丸洗いも~秘密は画期的な素材

石川・七尾市、能登半島・和倉温泉の「加賀屋」。明治39年創業、「最高のおもてなし」の評判は全国に轟く。「プロが選ぶ日本のホテルと旅館100選」で36年連続一位に選ばれた名旅館だ。季節の高級食材をふんだんに使った加賀屋の味が振舞われ、1泊2食5万6250円から。決して安くはないが、大人気で予約はなかなか取れないと言う。

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実は、意外な物も隠れた人気になっている。それが寝具。布団タイプのマットレスはちょっと薄めだが、それ一枚だけでシーツをかける。

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この寝具を作ったのが、浅田真央さんのCMでおなじみのマットレスなどの寝具のメーカー、エアウィーヴだ。全室に導入した加賀屋の若女将・小田絵里香さんは言う。

「『加賀屋』に滞在していただいて、3分の1は睡眠の時間です。『これは何?』『どこで売っているの?』とご質問を受けます。エアウィーヴを入れてからお客様の睡眠に対する声が逆に上がってきたという感じです」

寝心地の良さが「また加賀屋に来たくなる理由」の一つになっているのだ。

東京・中央区の「日本橋三越本店」。エアウィーヴが他の寝具と何が違うのかを客に売り場で聞いてみると、「寝返りが楽」という声が聞かれた。

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通常、人は一晩に20回から30回、寝返りを打つことで体圧を分散し、血行を促している。寝返りがしやすいと深い眠りが続くので疲れも取れる。

エアウィーヴが寝返りを打ちやすい秘密は、エアファイバーという中材にある。細かい繊維が複雑に絡まったような形状で、押してみると適度な硬さがあり、すぐに元の形に戻る。一般的なマットレスの中材、ウレタンと比べると、エアファイバーのほうが、反発が強い。だから体が沈み込まず、寝返りが打ちやすくなるのだ。

エアウィーヴと共同で睡眠の研究にあたる早稲田大学の金岡恒治教授はこう語る。

「エアウィーヴのマットレスと、低反発の素材を敷いた状態とで背骨の曲がり具合を調べたのですが、エアウィーヴを使ったほうが湾曲が少ないという結果が得られました」

この湾曲の差が寝返りの際の「腰の負担の差」となり、良質な睡眠につながるのだ。

エアウィーヴは大きく分けて3タイプがある。一つ目は「ベッドマットレス」タイプ(11万円~)で、シングルからキングサイズまで。二つ目は布団やマットレスの上に敷くだけの「マットレスパッドタイプ」(3万7400円~)。簡単に寝心地を変えられると1番人気になっている。そして三つ目は、加賀屋も使っていた畳などに直接敷く「敷き布団」タイプ(10万4500円~)だ。

中材まで洗剤で丸ごと洗うことができることも、エアウィーヴの特徴だ。

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最高級寿司店でも...~一流が次々に導入

エアウィーヴは2007年創業。後発メーカーだが売り上げを伸ばし続け、去年は過去最高の195億円に達した。

「ここまで会社が大きくなるとは思っていなかったです。毎年精進すれば10億円、20億円ぐらいにはなる思ってました」と語るのは、会長兼社長・高岡本州(61)だ。

この会社はもともと寝具とは無縁の、高岡の伯父が経営する工作機械のメーカーだった。釣り糸や漁網を作るための機械を生産していたが、

「毎年5000~6000万円の赤字を出していました。海外でも同じような機械を作れるので厳しい経営になっていました」(高岡)

そこで2004年、伯父から経営を任された高岡は工作機械の製造から撤退し、新たな事業に乗り出す。

実は以前から釣り糸の工作機械とは別に、釣り糸を水の中に垂らして固め、板状の塊にして緩衝材として売っていた。高岡はこれでマットレスを作ろうと思い立つ。そして2007年から売り出したのがエアウィーヴだった。

だが後発のエアウィーヴは百貨店などでなかなか売り場を取れない。そこで高岡は一流の旅館やホテルに売り込みをかけた。加賀屋もその一つだ。他にもJAL国際線のビジネスやファーストクラス、JR九州の「ななつ星」のデラックススイートなど、特別な場所に売り込み、評判を作ったのだ。

東京・千代田区の「東京ミッドタウン日比谷」に。今、最も予約が取りにくいと言われている話題の店「鮨 なんば」がある。その日に仕入れた極上ネタのお任せコースのみで3万8000円という高級店だ。大将の難波英史さんは居心地にもこだわる。

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「コースが2時間半くらいなので、居心地の良さも寿司なんです。腰かけて長時間座っていられるという感触も最大限に重視します」(難波さん)

そこで椅子につけたのが、長く座っても疲れないというエアウィーヴの「座クッション」。背もたれ付きで一つ1万7600円。去年、導入したところ、大好評だと言う。

トップアスリートが愛用~飛躍のきっかけは浅田真央さん

エアウィーヴの熱烈ファンはスポーツ界にも多い。もともとエアウィーヴの愛用者で、それが知られてCMに起用されるケースもある。東京五輪女子卓球団体・銀メダリストの石川佳純選手もそのひとりだ。

エアウィーヴとの出会いは10年前。以後、海外遠征などには欠かさず持っていくと言う。今でも初めて使った時の感触を忘れていない。

「寝た時に心地よかったのを覚えています。いい睡眠をとることは大事だし、いいプレーに直接繋がってくると思います」(石川選手)

その活躍の裏には良質な睡眠があったのだ。

エアウィーヴの発売は2007年。最初はまったく売れなかった。

「皆さん寝具売り場に来て、触って、予算に合うかを確認して、最後にブランドを見る。従来の寝具メーカーさんのほうが圧倒的に強いですね」(高岡)

知らないブランドは買ってくれない。そもそも売り場に置いてくれない。そんなジリ貧状態が3年続いたが、2010年、風向きが変わり始める。

2009年、カナダ・バンクーバー五輪に国民的スターだった浅田真央選手が出場。真央ちゃんフィーバーは最高潮となった。この頃から、空港で目撃されるカートにはエアウィーヴのマットレスパッドが乗っていた。

「真央ちゃんが使っていることは知っていたんです。ただ、どれくらい必要とされているかは分からなかった」(高岡)

だがその翌年、高岡は目を見張る。四大陸選手権出場のため空港にやってきた浅田選手が報道陣に呼び止められたのだが、その左手の甲に「マットレス」の文字が。忘れないようにと本人が書いていたのだ。

「エアウィーヴがなくてはならないほど好きな商品になってくれている。これは広告塔をお願いするしかないと」(高岡)

高岡は2011年、浅田選手とスポンサー契約。当時の会社の売り上げはわずか3億円。スーパースター、浅田選手との契約は大きな賭けでもあった。

結局、高岡はこの賭けに勝つ。もともと愛用していた浅田選手のCMは説得力があり、客は目に見えて増加。3億円だった売り上げは1年で11億円まで増えた。

エアウィーヴがその後も着実に売り上げを伸ばし、2015年には100億円に達した。

東京五輪選手村に~大失敗が生んだ画期的商品

すると高岡はまた勝負に出る。海外進出、狙うはニューヨークだった。

「ニューヨークのソーホーの最も地価の高いところに店を出しました。40億円くらい投資しました」(高岡)

この時の様子をテレビ東京「ガイアの夜明け」が取材していた。市場調査を兼ね、寝具販売店の女性にエアウィーヴを試してもらうと「正直言って、気持ちよくないわ」「700ドル? クレイジー」という反応。薄いマットレスパッドに高いお金を払う文化はなく、見向きもされなかった。

「それならば」と、パッドではなく厚いマットレスを開発し、売り出したのだが、今度は返品の嵐に。一枚物のマットレスの運送は大変で、向こうに着く頃にはボロボロになり、半数は破損、返品という事態になったのだ。

結局アメリカでは年間20億円の赤字に。2年間あがいたが、ソーホーの店は閉店した。

「パッドも失敗、ベッドも失敗、見事な失敗でした」(高岡)

しかし、この失敗から会社の未来を切り開く画期的商品が生まれる。

ネット販売は続けるため、運送の問題は解決が必要だった。そこで高岡が考えたのがマットレスを分けること。1枚のマットレスを三つに分ければ、小さなダンボールで運べ、破損リスクが下がり、輸送料も安くなる。アメリカから撤退した翌年には「3分割マットレス」を売り出した。

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2年後、東京五輪選手村でのエアウィーヴのベッド1万8000床の採用が決まる。それこそが3分割マットレスだった。しかも、硬さの違うパーツを組み合わせることで選手一人一人の体型に合うようにした。

「例えば靴だったら、100メートル走る人と40キロ走る人は違う靴を履く。寝具はみんな一緒。それはおかしいだろうと」(高岡)

貴重な映像が残っていた。東京五輪の前年、本社にやって来たのは、五輪で金メダルを獲得することになる柔道のウルフ・アロン選手だ。身長・体重を測定の上、体型の写真を撮り、人工知能・AIで判定。さらに実際に横になってもらい寝心地を確認。こうして測定と生の声を合わせ、身体に合うマットレスの組み合わせを割り出した。ウルフ選手は腰まわりが大きいため、真ん中を硬めにし、寝返りを打ちやすくした。

東京五輪の前にこの作業を全選手分行い、快適な寝心地を提供した。選手村で使った選手からは「今まで使用したベッドの中でも最高。持ち帰りたいくらい良かった」「肩のケガをして以来、寝る時に気にしていたが、このマットレスは肩が圧迫されず、寝返りしやすくて良い」などなど、称賛の声が相次いだ。

身体に合う3分割マットレスは今では誰でも買うことができる。東京・中央区の「銀座コア」にある直営店では客が体験していた。まず、身長・体重を入力の上、正面写真、横向きの写真を撮影。これだけでAIが体型を判定し、最適なマットレスの組み合わせを瞬時に提示してくれるのだ。

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あの選手村ベッドは今...~広がるエアウィーヴ

奈良・北葛城郡の名門校、西大和学園。全国でも有数の進学校で今春の東大合格者は79人にのぼった。5月24日、その学生寮に大きなトラックが到着。エアウィーヴのマットレス。200枚以上が運び込まれた。

実は全て東京五輪の選手村で使われていたもの。エアウィーヴはオリンピック終了後、こうして学校や福祉施設などにプレゼントしているのだ。

一方、名古屋・御園座の前には長い行列ができていた。お目当ては坂東玉三郎だ。熱心なファンが駆けつけ、会場は満員御礼となったが、この日は座席のことも客の話題になっていた。「以前より今回のほうが楽」というのだ。

この公演の4日前にエアウィーヴのクッションを導入。長時間の演目も快適に見てもらおうと、全ての座席に取り付けたのだ。色も座席に合わせた特注品だ。

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玉三郎さんもエアウィーヴのCMキャラクターを務めるが、やはりその前からの愛用者だった。
「普通のベッドや柔らかい布団という概念からはずいぶん変わったものなので、薄いからこれで痛くないのかなと思っていたのですが、楽でした。マッサージの時なども使っています」(坂東玉三郎さん)

村上龍の編集後記~
大型の水槽から、太めの糸のような樹脂が、複雑に絡み合ったものが引き上げられる。それをカットしてカバーをつければ高級マットレス「エアウィーヴ」の出来上がり、ということだが、普通、樹脂を寝具の材料にしてみようとは思わない。高岡さんは、追突事故で頸椎を痛め、この樹脂を試作して寝てみたら寝起きが気持ちよかった。頸椎の痛みがヒットを生んだ。だが売上高が数億円のころ、研究に数千万をかけていた。その投資が寝具で成長を続ける決め手となっている。

<出演者略歴>
高岡本州(たかおか・もとくに)1960年、愛知県生まれ。1983年、名古屋大学工学部応用物理学科卒業。1985年、慶應義塾大学大学院 経営管理研究科修士課程を修了後、日本高圧電気に入社。1998年、代表取締役社長就任。2007年、ウィーヴァジャパン(現エアウィーヴ)代表取締役社長就任。

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