効率の悪い業界に変革を!~「ラクスル」急拡大の秘密:読んで分かる「カンブリア宮殿」

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チラシ、ポスターを手軽に作成~驚きの印刷サービス

高くて大量に頼まないと受け付けてもらえないというイメージがあるポスターの印刷。だが、ラクスルを利用すれば1枚から注文できる。

まず客の注文をラクスルが受ける。そして提携するおよそ100の印刷会社から、機械の空き状況や印刷の内容に応じて仕事を振り分ける仕組みだ。

ラクスルと提携する東京・江東区の印刷会社「ネットスクウェア」では、ラクスルから主に小ロットの仕事を受けている。神奈川・藤沢市の合唱団から受けた発表会の告知ポスターの注文は、1枚3233円で4種類だった。

「一つ一つのオーダーが小さくても、たくさん集まれば一つの大きな事業になります。売り上げを4倍にすることができました」(社長・浦上義久さん)

2016年にラクスルと提携して以来、売り上げを伸ばし、工場も拡大、機械はフル稼働の状態だという。

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一方、東京・江戸川区のカフェ「パティスリーカフェひばり」。店のイチ押しはシフォンケーキだ。北海道産の上質な小麦を使い、フワフワな食感に仕上げている。オーナーシェフの竹内絢子さんは、このケーキのチラシを作ろうとしていた。

「お客様に、このシフォンケーキのこだわった食感や素材の話をちゃんとお伝えしたいと思って」(竹内さん)

立ち上げたのはラクスルのサイト。無料で使えるデザインや写真のテンプレートが豊富にあるので、選んで文字を入力するだけ。初心者でも簡単に作れる。竹内さんは自分で撮った写真を使い、自らレイアウトした。そして用紙のサイズを選択。注文する量と納期を選ぶ。今回は1000部。翌日なら6969円、3日後なら5733円と、納期を遅くすれば安くなる仕組みだ。午前10時12分、注文ボタンを押して完了した。

埼玉・日高市にあるニシカワ印刷に、ラクスルを通じてデータが送られてきた。今回ここが最適だと判断されたのだ。

まず、アルミの板で刷版(さっぱん)を作る。絵柄が入った刷版を印刷機にセットして紙に転写する。1つの印刷物に対して、刷版は8枚必要だ。カラー印刷の場合、使う色は4色。だから表と裏を合わせて8枚というわけだ。1色ずつ重ねて刷ることで、両面ともフルカラーで印刷される。1000部のチラシがわずか1時間で完成した。

翌日午前10時、竹内さんの元にチラシが届いた。ラクスルなら最短で注文の翌日には届く。そこには生クリームや小麦粉など、竹内さんのこだわりがびっしりと書かれていた。

「すごく分かりやすく、システムも使いやすい。安くて助かっています」(竹内さん)

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ムダが多かった印刷業界~仕組みを変えれば、世界はもっと良くなる

東京・品川区にあるラクスル本社。創業は2009年、社員は447人。売り上げ302億円(2021年)のメガベンチャーだ。

社長の松本恭攝(37)は慶應大学を卒業後、2008年に外資系のコンサルティング会社に勤務。当時はリーマンショックのさなかで、クライアント企業が求めるのは「コスト削減策」だった。企業のコストを調べてみると、最もムダが多かったのが印刷。松本は、印刷業界そのものが非効率なことに気付いた。

「なぜこんなに非効率なのかと思い、業界構造を調べたら、非常に多くの会社が、直接お客様から仕事を受けるのではなく、下請けとして仕事が回ってくる」(松本)

当時、大口の印刷は、大手2社の下に3万社の下請け、孫請けが連なる構造になっていた。大手から注文が来なければ、下請けの印刷会社は機械を動かせず、収益も出ない。

「小さい会社でもしっかり仕事ができる会社はたくさんあります。そこにダイレクトに需要を結びつけると、より効率的な仕組みを提供できるのではないかと」(松本)

意を決した松本は、24歳で会社を辞め、ラクスルを立ち上げた。

先ほどのニシカワ印刷は創業70年。従来は主に新聞の折り込み広告など、数万部単位の印刷を請け負っていた。しかし、紙の印刷は年々減少、売り上げは半分以下に。危機感を抱く西川誠一社長のもとに現れたのが松本。ラクスルの構想を熱心に語った。

「この先どうしようと悩んでいる時に、『新しいビジネスモデルを使えば、利益の源泉があって、まだまだ変えられるところがいっぱいある』と、熱意をもって語られた。そこにほだされました」(西川さん)

全国の印刷会社を営業で回った松本は、作業着を着て仕事を手伝いながら、外からの目線で課題を見つけていった。

まず見つけたのはさまざまな動きのムダ。これを「カイゼン」していった。その一つが印刷機と仕上がりを確認する作業台を90度に配置すること。これで歩数のムダをなくした。こうした積み重ねで作業のスピードを上げ、小さな注文を数多くこなせるようにした。

また、通常の印刷では、一つの刷版で同じチラシを8枚刷る。これだと1件のチラシごとに刷版の費用がかかる。それを見た松本は、刷版の費用を抑える方法を思いついた。それは、一つの刷版で8件のチラシを刷ること。1件あたりの費用は8分の1になるため、小口の注文を格安で受けやすくなるのだ。

「版の数を減らせて、コストダウンになる。それが我々印刷会社の発想にはなかった。ラクスルさんが全国から多くの仕事を集められるから、それができる。ニシカワ単独ではできなかった」(西川さん)

ラクスルが紙の種類や部数、納期など、条件が同じものを集めてくれるから可能になった。

「一緒にノウハウを作っていかないと、なかなか効率よく印刷できない。ご一緒させていただいて、今、効率よく回せる工場を西川さんに作っていただいています」(松本)

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ラクスルは今、大手企業でも使われている。

東京・港区の「東京ガスライフバル港 みなと店」では、東京ガスの地域の窓口として、ガス機器などの販売や修理を行っている。修理に入る前に作業内容などを客に説明するためのチラシは、メインの文面こそ全店舗共通だが、下にある店舗名や連絡先は店ごとに変えなければならない。もともとは本部で一括して発注していたが、店舗が77もあり、作業が大変だった。

「ミスというか、発注間違えも起こってきていたので、店舗ごとに対応してもらえないかと」(東京ガス・栗原桃子さん)

そこで導入したのがラクスルの法人用サービス。本部ではなく各店舗が連絡先を入力。必要な部数を必要な時に発注できるようになり、無駄な在庫もなくなった。

「負荷が減ることによって、本来したかった中身の検討に時間を回せるようになったので、
業務のやり方が全く変わりました」(栗原さん)

印刷業界に変革を起こした松本はその後、全く異なる業界に参入し、次々と仕組みを変えている。

「『仕組みを変えれば、世界はもっと良くなる』というビジョンを掲げて、古い産業の中にインターネットを持ち込んで、その産業のあり方、構造自体を変えようと」(松本)

運送業界も大変革~テレビCMは「見える化」?

小さな運送会社に勤めるドライバーの清藤祐さんは、次々と入る集荷依頼の中からドライバーの都合に合わせて受注できる、あるサービスを利用している。

「明日の朝の分の案件を取りました」と言う清藤さんに配送の仕事を依頼したのは、仕出し弁当のデリバリーを行う「くるめし弁当」だった。運ぶのは20ピース入りのサンドイッチ3セット。「翌日午前10時半から11時の間に届けてほしい」という注文だ。

「くるめし弁当」は、自社の配送トラックをもっていないため、「ハコベル」というサイトを使っている。ラクスルが作ったサービスだ。

荷主の配送依頼を受け付け、時間や場所に応じて、空いているトラックを手配するというもの。清藤さんが所属する運送会社も「ハコベル」に登録。ドライバーの空き時間をうまく活用しているのだ。

午前9時30分、清藤さんがやってきたのは渋谷区にあるサンドイッチ店「ベイス」。スパイシービーフや有機野菜をふんだんに使ったサンドイッチが用意されていた。清藤さんは商品を受け取ると、午前10時30分に港区の客に届けた。

車に戻ると、「ハコベル」で次の仕事をチェック。午後1時に同じ港区で集荷の依頼。「ハコベル」を使うようになってから、待機時間がほとんどなくなり、効率よく仕事を受けられるようになったという。

「以前はより長い時間働いて、疲れて。今のハコベルの仕事は1日の短い時間でいろいろな案件を入れて、収入も前より上がりました」(清藤さん)

現在、登録するトラックは全国で3万4000台。「ハコベル」を主な収入源にするドライバーも増えているという。

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2015年に「ハコベル」を始めた、ラクスル社長の松本。きっかけは、運送業界の課題に気付いたことだった。大手の下にいくつもの下請けが連なり、発注は電話やFAXなどとアナログ。空いているドライバーがいても、仕事をうまく振り分けることができず、非効率だった。

「これは非常に印刷業界に近い。印刷業でラクスルがやっていることを、同じように運送業でできないかと」(松本)

「ハコベル」は今や大手企業でも利用されている。「味ぽん」でお馴染みの「ミツカン」もその一つだ。

大阪・枚方市のミツカンロジテック 関西物流センターから、全国の倉庫へ商品を運ぶ。そのために使うのは、自社のトラックではなく、複数の運送会社のものだ。以前は、FAXや電話で各運送会社に発注していた。しかし、しばしば問題がおきたという。

「我々としては手配しているという認識でも、先方が『受け取っていない』とか。車両が手配できないと商品が運べなくなるので」(生産物流本部・末永哲朗さん)

そこで「ミツカン」では2021年3月、「ハコベル」の法人向けサービスを導入。各運送会社への配車状況が一覧でわかるようになり、手配漏れもなくなった。

「ハコベル」を導入して1年。ある事業所で効果を検証したところ、配車業務は年間280時間短縮。さらに4600枚もの紙が削減されたという。

「業務も楽になったし、送ったか送っていないかの履歴も残るのが非常にいいと思います」(末永さん)

印刷や物流の業界に変革を起こしてきた松本は、2020年、新たな業界に切り込んだ。テレビCMの効果を可視化するサービス「ノバセル」だ。

例えば、「価格の安さ」を謳ったCMと「顧客満足度の高さ」をアピールしたCMの2つを作る。両方を、まずCM枠の料金が安い地方局で流す。放送後に、その会社のホームページにどれだけアクセスがあったかなどのデータを取って分析。効果の高かったCMをブラッシュアップして全国放送にかけるのだ。

「どれだけ投資をしたら、売り上げ・利益が伸びていったか。これを全部モデル化して、ノウハウをオープンにしていくことで、もっと多くの中小企業がテレビCMを簡単に打てる社会を作れるんじゃないかと」(松本)

ゼロからイチを生み出す~起業家の原体験とは

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松本の起業家としての原点は慶應大学時代。サークルの仲間と企画したビジネスコンテストだった。

それは、日本・中国・韓国の学生たちが新たなビジネスのアイデアを競う、というもの。1年後、3カ国の学生500人あまりを東京に集め、イベントは大成功を収めた。

次の時代を築きたいと考える同世代との交流で、松本はあることに気付く。

「世の中をこうしたいと想像することが大きな価値で、それを実行していくと、結構実現できるのではないかと」(松本)

松本はラクスルの立ち上げに際し、「仕組みを変えれば、世界はもっと良くなる」というビジョンを掲げ、それを実現するため猛烈に働き、売り上げを順調に伸ばしていった。

しかし、社内に異変が起こる。いつのまにか売り上げや利用者数といった数字ばかりを社員に聞くようになった松本に嫌気がさし、4割もの社員が会社を辞めてしまったのだ。

「僕自身が、何のためにこの事業をやっているのか、日本をどうしたいのか、お客さまにどういう価値を届けたいのか、語るのを忘れてしまった」(松本)

あらためてビジョンの重要さに気づいた松本は、社員たちにもそれを伝え続けている。

松本は起業家としての原体験をスタジオで次のように説明する。

「『想像できることは実現できる』ということを大学生の時に経験して、『いろいろなことを想像したらいろいろなことを変えられる』『ゼロからイチを生み出せる』と気づいたことが、起業家の原体験になりました」

※価格は放送時の金額です。

村上龍の編集後記~
不思議な会社だ。印刷、物流、テレビ広告などに、手を入れると、その業界がまともになっていく。印刷シェアリングプラットフォームを作ったときが、革命の幕開けだった。印刷も物流もテレビ広告も、合理性よりも、慣習がメインとなる世界だった。プラットフォームを作ることで透明性ができ、すべてがクリアになった。しかしプラットフォームを作るのは、楽ではない。印刷機を購入し、運送会社のトラックに乗ってみる。現実との交流がプラットフォームを生んだのだ。

<出演者略歴>
松本恭攝(まつもと・やすかね)1984年、富山県生まれ。2008年、慶應義塾大学商学部卒業後、コンサルティング会社A.T.カーニー入社。2009年、ラクスル創業。2019年、東証一部上場。

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