ロシア供給不安でニッケル急騰 ザルやおたま・・・ステンレス製品値上げ⁉「すでに過去最高」

公開: 更新: テレ東プラス

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ニッケルの急騰でボウルやザルなどステンレス製品がさらに値上げする可能性も

調理器具などに使われるステンレスや、EV(電気自動車)などに欠かせないリチウムイオン電池、そして50円硬貨。これら全てに使われているのが、レアメタルの一種であるニッケルです。実はこのニッケル、ロシアへの経済制裁の影響で価格が一気に高騰しています。ロンドンの取引所は急な価格変動を受けて取引停止になっています。ニッケルの高騰は私たちの生活にどのような影響を及ぼすのでしょうか。

東京・合羽橋にある調理器具の専門店「高橋総本店」では、来月からバット(調理用の容器)、ボウル、ザル、飲食店で使うレードルというおたまなど、ステンレス製品を値上げするといいます。ステンレスにはニッケルが含まれるためより腐食に強いのが特徴です。

コロナ禍の供給不足で、ニッケルや鉄などの原料価格が上昇し、仕入れ値が高騰。さらにロシア情勢を受け、今後も値上がりしていく可能性があるといいます。

「海外情勢が悪化すると、半年後や1年後に(商品の)価格が上昇する可能性がある。すでに過去最高、見たことがないぐらい上がっている。昨年に対して(販売価格が)2倍近くになる商品も出てくるのかもしれない」(高橋総本店 調理道具部の國府田麻理菜店長)

大同特殊鋼では、世界有数の特殊な設備でステンレスなどの合金を生産しており、その原料の一つにニッケルがあります。同社では2月、ニッケルを含むステンレスの価格を4月契約分から10%値上げすると発表しました。

「ニッケルは2年前と比べ2倍の価格。2月時点で1トンあたり約2万4000ドルになっています。ただ、ロシアがウクライナに侵攻したことでニッケルの価格は急騰し、2万4000ドルの倍くらいになった」(大同特殊鋼の清水哲也取締役)

世界第3位の生産量を誇るロシアからの供給不安で、ニッケル価格は急上昇。その影響で8日からロンドン取引所が取引停止になったため、この会社ではニッケル製品の注文を受けても見積もりが出せない状況になっているといいます。

「これは異常な事態だという認識です。見積もりが出せないということは当社にとっても全く記憶がない。原料・市況の価格に応じて値上げなど適正価格をお願いしないといけない」(清水取締役)

高まるリサイクル需要

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自動車から取り出されたステンレスにもニッケルが含まれる。

こうした中、需要が高まっているのがステンレスのリサイクルです。静岡・富士宮市にあるエンビプロ・ホールディングスが持つ工場では、月に2000〜2500台の自動車が持ち込まれ、およそ30トンのステンレスを取り出しています。

「今はロシアとウクライナの問題でステンレスに使われているニッケルの価格が急騰していて、そのような需要もあるが、過去にはなかったEVのマーケットからニッケルが引っ張られて市場価格が高騰している」(エンビプロ・ホールディングスの佐野文勝専務)

EVやノートパソコンに使われるリチウムイオン電池のリサイクルも行っていて、分解した電池から取り出すのはブラックマスと呼ばれるコバルトやニッケルを含む濃縮滓です。

「ニッケルが多いものでは30%含まれているものもある。この中からそういう希少金属を回収するという意味では宝の山」(佐野専務)

リチウムイオン電池リサイクル事業は需要の高まりから、エンビプロ・ホールディングスでは2021年7-12月期の売上高が前の年の3倍に増加しました。

世界でのEV拡大に伴い、電池が不足すると専門家は指摘します。

「半導体も電池も同じだが、材料の争奪戦になっている。これは国レベルの争奪戦。経済安全保障の観点で、このリサイクル技術の強化と、この回収の仕組みを強化することは、国家戦略上非常に重要になってきている」(伊藤忠総研 上席主任研究員の深尾三四郎さん)

また、ロシア情勢の悪化で原油高、ガソリン高になっていることなどから、深尾さんはEV化が加速すると予想。リサイクル市場がさらに拡大するとみています。

「すでに日本の企業は、リユース・リサイクルの技術は高いものがある。日本の自動車産業はものづくりだけでなく、海外に強固な販売流通網がある。中古のEVと使用済みのバッテリーを回収する仕組みをつくることで、EV車載電池はまさに『都市鉱山』そのもの。それを囲い込む戦略とが非常に重要になる」(深尾さん)

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