瀬尾まいこ×岡田惠和スペシャル対談「悲しいことはあるけれど、それだけでは終わらない、優しい気持ちになれる作品。”心から愛する小説”をドラマにしてお届けできることが幸せです」

公開: 更新: テレ東プラス

社会や天下の大事件よりも個人の事件を描きたい。作家の思いより登場人物の言葉を考えたい(岡田)

――優しい世界観の作品ですが、お2人が作品を創る際、大切にしていることを教えてください。

瀬尾「大事にしているなんて大層なことはありませんが、難しくならないようにしたいとは思っています。そもそも賢くないので難しい話が書けないというのもありますが、本を読むのにお金も時間もかかるので、その時だけでも気楽に楽しんでもらいたいというのがあります。“これを絶対に伝える”みたいな道徳っぽい話にならないようにするというか(笑)。あくまで自分の感覚でわかる…もちろん作り話ですが、想像ばかりでは書けませんし、書かないようにしています」

岡田「瀬尾さんのお話を聞いて、ちょっと似ているなと。僕も社会とか天下の大事件より、個人の事件を描きたいと思っています。ですからどうしても、話が小さく地味になりがち(笑)。あと、自分が何を書きたい、自分がどう思っているかというのをなるべく消すようにしています。作家の思いより登場人物の言葉を考えたい。まぁ昔から、自分の中に“これを伝えたい”という熱いものがないというのもありますが…。人の気持ちになるといろんなことが見えてくるのが好きでこの仕事をしているので、極力気配を消しています(笑)」

瀬尾「本当に岡田さんに同感で。私もそう思います」

――SNSが普及し、様々なコンテンツがあふれる中、エンターテインメントにおける役割をどのように感じていらっしゃいますか?

瀬尾「難しいことはよくわかりませんが、私はエンターテインメントの力で心が震えたり、もうちょっと頑張ってみよう、何かできるかもしれないという思いを持たせてもらった経験がたくさんあります。それだけで十分なのではないでしょうか。小説を読んで笑ったり、読んでいる1時間を心地よく感じたり、明日が楽しみと思ってもらえたらうれしい…そう思いながら仕事をしています」

岡田「近年、特にドラマはツールが変わってきて、テレビで観るだけではない時代になりました。そして今、外国ドラマが人気です。様々な変化はありますが、自分が生きている間くらいは、同じことをやっていても大丈夫なんじゃないかなという思いがどこかにある。ドラマにはいろんなジャンルがあっていいのですが、自分が書くときは、見ている人が自分を肯定して終われるような作品を作っていけたら…。そういう気持ちになるのもエンターテインメントの一つの役割だと思います」

――新春から優しい気持ちになれる「優しい音楽~ティアーズ・イン・ヘヴン 天国のきみへ~」。最後に見どころを教えてください。

岡田「自分が愛している小説をドラマにしてお届けできるという仕事ができてすごく幸せですし、自信がある作品になっていると思います。悲しいことはあるけれど、それだけでは終わらない、優しい気持ちになれるドラマです。とにかく俳優の皆さんがステキなので、ぜひご覧いただきたいと思います。そしてまた、瀬尾さんと一緒にお仕事ができれば(笑)」

瀬尾「そう言っていただけるだけでうれしいです。私はどのシーンも好きでした。悲しい出来事はありますが、決して悲しい話ではなく、優しい気持ちに包まれる、人の優しさに触れたような2時間になると思います。いろんな立場の人の思いやる気持ちに触れられる心地いい時間になると思いますので、ぜひご覧ください」

(取材・文/玉置晴子)

【瀬尾まいこ プロフィール】
1974年、大阪府生まれ。大谷女子大学国文科卒。2001(平成13)年、「卵の緒」で坊っちゃん文学賞大賞を受賞し、翌年、単行本『卵の緒』で作家デビュー。 2005年、『幸福な食卓』で吉川英治文学新人賞、2008年、『戸村飯店 青春100連発』で坪田譲治文学賞、2019年、『そして、バトンは渡された』で本屋大賞を受賞。

岡田惠和 プロフィール】
1959年、東京都生まれ。1990年、ドラマ「香港から来た女」(TBS)で脚本家デビュー。 NHK朝の連続テレビ小説「ちゅらさん」「おひさま」「ひよっこ」、映画「いま、会いにゆきます」「阪急電車」など数多くのテレビドラマ、映画、舞台の脚本を手がける。ドラマ「彼女たちの時代」では芸術選奨文部大臣新人賞を、連続テレビ小説「ちゅらさん」では第10回橋田賞と第20回向田邦子賞をW受賞。1月より、ドラマ「ファイトソング」が放送される。

【あらすじ】

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大学教授の父・雅志(仲村トオル)、歌がうまくて完璧な母・桂子(安田成美)と暮らす女子大生・鈴木千波(土屋太鳳)が、いつもより早く家を出たある朝のこと。最寄りの江ノ電・極楽寺駅に着いた千波は、ホームにいた永居タケル(永山絢斗)を見るなり、思わず立ちすくみ激しく動揺する。だが心当たりがないタケルは、話し掛けられても困惑するしかなく…。

広木克彦(佐藤浩市)が営む小さな造船所で日々真面目に働くタケルは、古い木造アパートでひとり暮らし中。家には過去に何かあったのか、家族写真や父母のものらしき眼鏡が大事に飾られている。そんな境遇の違う2人は、奇妙な出会いを経て、やがて恋人同士に。ところが千波は、なぜかタケルを頑なに両親と会わせようとしない。初めて千波の家に足を踏み入れた時、衝撃の理由が明らかに――。その事実をタケルはどう受け止めるのか?

鎌倉を舞台に、それぞれが忘れられぬ過去から新たな一歩を踏み出すまでの〝再生〟を描いた、音楽が繋ぐ優しさ溢れる〝愛〟と〝絆〟の感動物語!

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