世界が注目する日本発「究極のグリーン水素」

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環境問題、貧困、ジェンダー、働き方...。国際社会は今、数多くの難題に取り組んでいます。こうした中、持続可能な社会の実現のために国連サミットで採択されたのが2016年から2030 年までの国際目標「SDGs」です。

持続可能な社会・経済を作り上げるために、日本は何ができるのか。BSテレ東では『日経スペシャル SDGsが変えるミライ~小谷真生子の地球大調査』と題し、日本の進むべき道を考えるシリーズを2020年3月からスタート。

2021年11月19日の放送では、「脱炭素」に取り組む産官連携プロジェクトを紹介しました。

新たなエネルギー源として需要が高まる水素

化石燃料に代わる新たなエネルギー源として、世界的に注目されている水素。その水素の経済規模ですが、2050年には2兆5000億ドル(約262兆円)に拡大。世界のエネルギーの4分の1が水素になるという予測もあります。水素社会の実現に向けた取り組みを取材しました。

武田信玄ゆかりの山梨県甲府市。同市にあるスーパーオギノでは水素を使って電気を作り出すことで、電力消費の多い午後の電力を補っています。そもそも水素から電気を一体どうやって作るのでしょうか。

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水素は空気中の酸素と結びつくと水になりますが、実はこのとき電気を発生しています。二酸化炭素を全く出さずに発電するこの仕組みは、トヨタの燃料電池自動車MIRAI(ミライ)にも使われています。

クリーンエネルギーとして需要が高まり始めている水素。山梨県には、今年6月に稼働を始めた最先端の水素生成プラントがあります。米倉山太陽光発電所の中にある白い建屋で水素が作られているのですが、なぜ太陽光発電所にプラントがあるのでしょうか。

実は米倉山太陽光発電所では、太陽光の電力で水を電気分解し、水素を作り出しているのです。二酸化炭素を出さずに作る、まさに究極とも言えるグリーン水素。驚くべきはその発生量にありました。

「1時間あたり120立方メートルの水素を生成できます。(水素)燃料電池自動車10台分。1回充電すれば500キロ走れますので、車を5000キロ走らすだけのエネルギーが、1時間ごとに作れます」(山梨県企業局新エネルギーシステム推進室の坂本正樹副主幹)

世界中が注目する東レ開発の電解質膜

世界中で水素の発生に関する技術開発が進む中、米蔵山の発生量はトップクラスにあるといいます。その鍵を握るのが、東レが開発している電解質膜です。

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電解質膜とは、水を電気分解する際に、水素を効率よく取り出すための膜。この電解質膜の性能が水素の発生量を左右します。

米倉山で使われているのは、素材メーカーの東レが独自に開発した膜で、従来の電解質膜で発生させた水素と比べると、東レの電解質膜の方が水素の泡が大きく、その発生量は2倍になるといいます。この性能は、環境先進国ドイツのエネルギー機器大手シーメンス・エナジーAGの目にも留まり、東レはパートナーシップを締結しています。

世界が注目する電解質膜を開発したのは、東レHS事業開発推進室の出原大輔主席部員です。実証実験の舞台に米倉山を選んだ理由について、出原さんは「山梨県の水素利用ネットワークと東京電力のエネルギーマネジメントシステム。融合できれば、革新的なシステムを実現できるというふうに思いました」と話します。
ここ、米倉山の施設は、水素インフラを持つ山梨県と、素材メーカーの東レ、そして電力マネジメントを行う東京電力が協力し合う産官連携プロジェクトです。出原さんは、この異分野の連携に惹かれたのです。

「異分野の専門性を持つ他社と連携することで、グローバルなグリーン水素のサプライチェーンを構築して、最終的にはカーボンニュートラル社会にも貢献したい」(出原さん)

水素社会を切り開く新たなモデル

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この産官連携プロジェクトでは、水素をより社会に広めるため、生産コストの削減も視野に入れています。その鍵は、太陽光発電です。太陽光の電力が水素生成の低コスト化に役立つといいます。

「再生可能エネルギーの電気をもとに水素を作るので、電気代が大きなウエイトを占めます。太陽光発電が多く発電して電気が余るようなとき、安価な電気をうまく使って水素の低コスト化に役立てたい」(東京電力ホールディングス技術戦略ユニットの矢田部隆志プロデューサー)

太陽光発電で作りすぎた余剰電力は電気代が安く、この電気を使えば水素の生産コストを下げられるといいます。コストダウンも見えてきた産官連携のグリーン水素。山梨県では、カーボンニュートラル社会の実現に向け、水素の地産地消も進められています。

県内にある半導体工場では、発電とは違う形で水素が使われていました。水素ボイラーです。この工場では水素を燃やして得られる熱を温水などの熱源として利用しているのです。都市ガスから水素に変えることでCO2の排出はゼロになりました。

燃やしても二酸化炭素を全く出さない水素。さらなる普及に向け、今年9月、プロジェクトに日立造船やシーメンス・エナジー日本法人のシーメンス・エナジー(株)など民間5社が新たに加わり、2025年度までに装置の10倍ほどの大型化を目指すことが発表されました。

産官連携プロジェクトプロジェクトを取り仕切る山梨県。自治体の役割をこう語ります。

「行政が国との折衝を行う。行政同士のノウハウがある。グリーン水素を普及させるには、国ともよく連携してやっていきたい」(山梨県公営企業管理者の中澤宏樹さん)

民間の技術力を結集し、自治体が国と働きかける。水素社会を切り開く新たなモデルとなるかもしれません。

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