地域医療を守るために。北海道・小樽潮陵高校「医心類型クラス」で医学部を目指す生徒たちの苦悩と願い

公開: 更新: テレ東プラス

歴史や校風、卒業生のネットワークまで、名門校の知られざる姿を通してその秘密に迫る「THE名門校!日本全国すごい学校名鑑」(BSテレ東 毎週月曜夜10時)。「名門とはいったい何か?」常識を打ち破る教育現場に密着する。

今回の主人公は、「北海道小樽潮陵高等学校(以下、小樽潮陵高校)」に通う2人の男子生徒。2人の目標は医学部合格。なぜ医師になりたいのか? その理由を聞くと意外な返答が。厳寒の地で奮闘する高校生の姿を追いかけた。

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観光地としても人気の北海道・小樽の高台にある、小樽潮陵高校。来年、創立120周年を迎える地域でトップクラスの公立進学校だ。この学校には文系・理系の他に、「医進類型クラス」がある。将来、医療の担い手となるため、医学部を目指す生徒たちを特訓する特別なクラスで、1クラス15人前後と少人数制の徹底指導。数学と英語のほか、物理や化学など理系科目を重点的に学ぶクラスの特徴は、授業スピードの速さ。教科書の内容を早めに学び終え、残った期間を医学部の受験対策に充てている。

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授業が始まると、先生は生徒たちの間を跳び回り、一人ひとりの疑問に向き合う。理数系科目の教員が通常の高校より1人多いこともあり、丁寧な指導が可能になっている。授業後も、生徒が納得するまで質問に答える道見ますみ先生は、「つまずきを小さくするようにアドバイスをしたり、様子を見たりして気をつけています。少人数だからできること」と語る。

過去10年間で小樽潮陵高校の医進類型クラスから医学部医学科に合格した先輩は44人。文系・理系・医進類型の3つのコースに分かれるのは2年生からで、1年生の秋には先生と話し合い、進むコースを選ぶ。

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医進類型クラスでは、医療機関の見学や医師の講演会、医学部を目指す他校の仲間と学ぶメディカルキャンプ・セミナーなど、医療従事者になるモチベーションを高めるためのカリキュラムが組まれている。

医学部を目指す生徒を学校が全力でサポートする背景には、北海道が抱える特有の課題があった。それは、地域医療を担う人材の不足。

北海道教育委員会高校教育課の岩渕啓介主査は「地域によっては、医師の数が足りないことが深刻な社会問題になっているところがある。まずは医師という職業に価値を見出して、『医師になって社会に貢献するんだ』という子どもを早い段階から育てていく必要がある」と語る。北海道教育委員会が取り組む「地域医療を支える人づくりプロジェクト事業」。未来の地域医療を担う人材を育てるため、小樽潮陵高校を含む道内の公立高校9校を医進類型指定校として支援している。

篠原水城くん(2年生)も医進類型クラスの1人。医学部を目指すキッカケは、幼い頃の悲しい出来事にあった。

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小学校低学年の頃、兄弟のように仲が良かったいとこを、がんで失ったという水城くん。「自分と同じ気持ちを他の人にさせたくない」という思いから、医療関係の仕事に就くことを決意。「病気で苦しむ人を救いたい。より人を大切にしないといけない」と、部活を続けながら医学部を目指している。夜は疲れて早く寝るため、毎日午前3時に起き、3時間勉強してから登校する。

それでも医学部に進むには学力が足りず、努力を続ける姿を毎日見ているお母さんは「努力だけじゃ報われないこともある。レベル的にはまだ全然足りないけど、本人がなりたいと思うなら、なりたいものになってほしい」と語る。日々たゆまぬ努力を重ねても容易ではない医学部合格。それでも努力するより他はなく、今日も水城くんは机に向かう。

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小樽から西へおよそ60kmに位置する北海道・岩内町。少子高齢化が進むこの町から毎日、バスで片道約2時間かけて小樽潮陵高校へ通っているのは、医進類型クラスの多賀文哉くん。岩内町が大好きだという文哉くんだが、毎日往復4時間をかけてまで小樽に通うのには、ある理由があった。

それは3年ほど前の出来事。文哉くんのお祖父さんは、毎月病院に通い、検査結果も特に問題がなかったが、ある日突然倒れてしまったという。病院からの診断は、末期の肺がん。余命宣告を受け、やがて亡くなってしまった。定期的に通院していたにもかかわらず、早期発見につながらなかったことに衝撃を受けたという。

地域医療の現実を目の当たりにし、「医師になろう」という思いが芽生えた。「当時は怒りや納得のいかない部分もあった。でも時が経つにつれ、早い段階で高齢者のがんなどを発見できるような、地域に還元できるような医師になることができたらと思い始めた」と胸中を明かしてくれた。母親が町内で訪問看護の仕事をしているという文哉くん。北海道の地域医療の現実を肌で感じつつ、医学部を目指している。

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医学部を目指す生徒のために生まれた医進類型クラスだが、中にはまだ進路を定めていない生徒も。具体的な目標は見えないものの、まずは難関理系大学への進学を目指し、模索している。「北海道大学を目指すなら、医進類型クラスに入ったほうがいい」「難関理系大学を目指すうえで自分のためになると思い、入った」とそれぞれ思いを明かしてくれた。

志望大学を医学部に絞るということは、高校生の時点で将来の仕事を決めることにもつながる。多感な年ごろゆえに、迷いが生じるのも自然なこと。「希望どおり医学部に進学できたとしても、そもそも自分は医師に向いているのだろうか」「将来、医師としてやっていけるのだろうか」。自分の適性がまだハッキリと見えていない高校生にとって、医学部を目指すことは大きな決断なのだ。

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医進類型指定校9校からの医学部進学者数は、プロジェクト開始前は年平均51人だったのに対し、現在は年平均61人と10人増加。この医学部進学率アップには、先生と生徒たちの努力の成果が現れている。迷いと不安の中で日々努力を続ける生徒たち。北海道の未来の地域医療が、新しい力を待っている。

番組では他にも、文哉くんの遠距離通学の様子に密着、小樽の病院で研修医として働くOBからのエールなどを紹介する。

11月15日(月)夜10時放送! 「THE名門校!日本全国すごい学校名鑑」(BSテレ東)は、「馬の高校に通う2人の高校生...一体なぜ」と題して送る。

主人公は千葉県八街市にある"馬の高校"「東関東馬事高等学院」に通う若者たち。競馬騎手を目指す高校3年生の山本大翔くんと競争馬の世話をする厩務員を目指す高校2年生・大野ミミさん。

山本くんはサッカー選手になる夢を諦めてしまった自分に後悔、新たな夢となった競馬騎手を目指し今年3月、農業高校から転入。人生を決めるJRAの騎手試験の時を迎えていた。大野さんは小学生時代いじめにあい、馬との時間に救われた経験を持つ。今は担当する競走馬を上手く育成できていないことに悩んでいるが...。

馬を愛し、馬に救われ、馬に青春をかける高校生たちの挑戦に密着した。

どうぞお楽しみに!