警備会社大手ALSOKがジビエ事業に参入 一体なぜ?<WBS>

公開: 更新: テレ東プラス

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ALSOKは捕獲したイノシシやシカを回収し、肉への加工も手がけている。

現在日本では、イノシシやシカなどの野生鳥獣が田畑を荒らすなど、大きな問題になっています。農作物への被害額は10年前と比べると1都3県で増加し、首都圏では19億円を超えています。こうした中、捕獲した野生鳥獣の肉をジビエ料理として活用する取り組みが広がっています。このビジネスに、警備会社ALSOKが参入しました。一体なぜなのでしょうか。

10月19日、千葉県・茂原市の稲作農家を訪れると山林のそばにあった田畑が荒らされ、収穫できない状態になっていました。土には踏み荒らした動物の足跡があり、農家の光橋国郎さんは「こんな状態にするのはイノシシ。被害額は200万円くらい」と話します。

野生鳥獣による千葉県の被害額(19年)は10年前と比べて約2割増加。イノシシとシカだけで約1.9億円です。茂原市役所農地保全係の芝﨑一郎係長は「人の住む地域とイノシシの生息する山林が近接しているので、近くの住宅街や人の出入りする畑に出没するケースが多い」といいます。

被害を受け、千葉県内の猟友会は捕獲に乗り出しています。しかし「平均年齢は約65歳。80歳くらいの人が現役でやっている」(猟友会)と高齢化が進んでおり、野生動物の処分なども重労働として足かせになっているのです。こうした中、注目を集めているサービスがあります。

20年ほど駆除を続けてきた長生郡市猟友会の石田英道さん。この日の朝、仕掛けた罠の様子を見にやってくると、1つの檻に、9頭ものイノシシが入っていました。すると石田さんは、おもむろに電話を取り出しました。

しばらくすると、1台の車が到着。降りてきたのは作業服を着た男性です。実はこの男性、警備会社大手ALSOKの社員。「捕れた場所を確かめるのに写真を撮らせてもらって、GPSとひもづける。時間・場所を把握している」と話します。男性はイノシシを用意した檻に移し、石田さんから書類にサインをもらいます。石田さんは「楽だしすぐに取りに来てくれる、自分で処理したら大変」と話します。

現金ではなく、イノシシを運ぶ回収車。行き先はALSOK千葉が自前で持つ食肉加工施設です。有害鳥獣が増えていることから、ALSOKでは2014年から一部地域で除事業を始めました。それらを食材として活用しようと、昨年千葉で初めてジビエ事業に進出しました。ジビエとは狩猟で捕獲した野生鳥獣の肉や料理のことです。

ALSOKは捕獲したイノシシやシカを回収し、行政への手続きを代行。肉の加工も手がけ、飲食店などに販売しています。昨年、約2億円をかけて加工施設「ジビエ工房茂原」を設立しました。一体なぜなのでしょうか。

「害獣から農作物(財産)を守るのも警備会社の仕事。(農家や猟友会は)高齢化が進んで苦労している。その部分をわれわれが引き受ける」(ALSOK千葉の竹内崇取締役)

異業種ともいえるジビエへの挑戦。ALSOK千葉では衛生管理など食品関連の資格も取得しました。

「今から先は現金自体もほぼ電子マネーに代わる。ALSOKは現金輸送の基地が山ほどあるが、仕事が同じように存続するのか警備会社として考えなければいけない」(竹内取締役)

ジビエ事業では、品質に安心感を持ってもらうため、トレーサビリティ(流通経路が追跡できること)が重視されています。

ALSOKでは警備でのノウハウを生かし、回収から出荷までを画像や位置情報を使ってさかのぼれる仕組みをつくりました。さらに感染症の検査なども実施しています。飲食店側は受け取ったQRコードで捕獲した日付や場所を一目で確認できます。ALSOKからジビエを仕入れている飲食店は「安心安全を(ALSOKから)買っていることになる」と話します。

健康志向の高まりの中、ジビエは新たな食材として人気となっています。ALSOK千葉はジビエの冷凍食品のネット販売を始めました。今後、年間5000万円の売り上げを目指します。

「儲かる仕事とは捉えないが、この仕事は社会にとって必要。社会にとって必要であれば、最終的にはビジネスとしても成功する」(竹内取締役)

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