テレ東の強みと資産をあますところなく投入した日本最大級の経済動画プラットフォームが描く未来

公開: 更新: テレ東プラス

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ニッポン経済の「現場」を元気にする――このミッションのもと2021年4月、有料会員数約10万人のテレビ東京ビジネスオンデマンドとYouTubeチャンネル登録者数約100万人のニュースサイト「テレ東NEWS」が統合し、日本最大級の経済動画サービス『テレ東BIZ』が誕生しました。コロナ禍で先行き不透明な経済状況が続く中、冒頭のミッションをどう遂行していくのか。競合ひしめく配信サービスの中、差別化のポイントはどこにあるのか。山川龍雄編集長にローンチの背景やサービスの特徴、今後の展望について語っていただきました。

最新かつ最深の経済情報をいつでも、どこでも、手のひらに

――そもそもどのような経緯で当サービスが生まれたのでしょうか
今後本格化していくであろう配信時代に備えて、テレビ東京(以下テレ東)の報道局として何らかの基盤を持っておくべきではないか、という意識ですね。近いうちにTVerの同時配信も本格化しますし。

――テレビも動画もネット対応での配信がデフォルトになると
テレ東としてはもともと会員数10万人超を誇る『テレビ東京ビジネスオンデマンド』という、番組をスマホをはじめインターネットで見られるサービスがありました。加えて『テレ東NEWS』というYouTube登録者数約100万人のニュースサイトも持っていた。このふたつを統合することで、かなりスケールの大きなプラットフォームができるんじゃないかと考えたんですね。

――サービスの基盤はすでにあったわけですね
そうした土台の上に、僕らスタッフみんなで作ったビジョンを掲げていこうと。それが「最新かつ最深の経済情報をいつでもどこでも手のひらに」というもの。僕自身はずっと雑誌や新聞、つまりテキストの世界で生きてきて、文字情報の良さを知り尽くしているんだけれど、動画コンテンツはそれ以上に五感に訴えかける力があるんですね。

――映像も音声もありますしね
そもそも伝えられる情報の量が違うわけです。それらをうまく使いながら、いま特に話題になっていること、もやもやしていることなどの疑問に答えていきたい。深くしっかり解説していきたいと思っているんです。加えてすでにテレ東BIZ内には5万件を超える動画ストックもあります。

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――WBS(ワールドビジネスサテライト)をはじめとした番組コンテンツの蓄積があると
さらに紙媒体と比べてテレビ番組って、とても贅沢な作り方をしているんですよ。どういうことかというと、取材して得られた大量の素材があるにも関わらず、実際にOAされるのはその10分の1だったりするんです。

――もったいないですね...
雑誌や新聞でも100%とはいわないけど、だいたい3割から5割ぐらいは使うんです。だから本当にもったいない。でも、配信になればこういった尺の制約から解放されるんですね。これまでは捨てざるを得なかったところに実は面白い部分が隠れていたりしたんだけど、それらもぜんぶ出すことができる。

――ある意味、無編集の良さというか
実際、編集による切り取りの果てに本来の意図が婉曲したまま伝播することもあるでしょう。その一方で編集の妙というものがあることも事実です。だからそれは尺の制約があるテレビが担えばいい。テレ東BIZは全部載せる。地上波が賄えない部分を補う役割もあると認識しています。

――尺の壁を打ち破るのもテレ東BIZの特徴なんですね
それがビジョンに掲げた「最深」につながると信じています。実際、そのまま全て見せてくれというニーズもありますし。WBSでも尺の都合で刈り込んでいくと最後、惜しいところを切らざるを得なくなるんですよ。ディレクターたちも忸怩たる思いがあるはず。そういうことがなくなるのもいいし、彼らのやりがいにもつながるんじゃないかと思います。

テレ東そのものが最大の差別化要因

――山川編集長は『テレ東BIZ』の話を聞いたとき、どう感じましたか?
直感的に面白い、って思いましたね。配信サービスに打って出る上でテレ東っていうポジションがいいなと。経済番組のストックがある。顔の売れたアナウンサーやキャスターがいる。スタジオも映像編集の技術もある。そこに日経グループのバックアップ体制が加わる。ネット系スタートアップはもちろん、他局にも真似できない資産があるわけですよ。

――たしかに、テレ東ならではの強みですね
その資産の豊富さって中にいる人にとっては当たり前で、意外に気づきにくいものなんです。でも僕のような立場から客観的に見ると可能性しかない。先ほど挙げた数多くの強みをネットを媒体にして組み合わせると、相当おもしろいものができるんじゃないかと。

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――しかも得意領域である経済に特化しています
配信自体はどこの局も力を入れていますよね。ただし経済、企業、マーケットの分野においてはテレ東は独自性を持った存在。地上波ではWBS、Newsモーニングサテライト、ガイアの夜明け、カンブリア宮殿と経済系の番組を作り続けてきて、取材のネットワークもある。BSでも日経ニュース プラス9や日経モーニングプラスFTなど経済番組を持っています。

――いずれもブランドといっていい番組ですよね
番組があるってことはそこには人がいて、経験を積んでいるわけ。その、人の部分がなによりの財産だと僕は思っています。報道局員が揃っていて、今日こうしている間も現場を駆け回っている。記者クラブに詰めているスタッフもいれば、海外に駐在員もいる。番組によっては日経の記者が取材したり、記者自身が出てくることもある。

――取材に裏打ちされた正確な情報を提供できると
これは僕の感覚ですが、いまネットを中心に匿名での情報が氾濫していて、みんなそろそろ正しいものを選びたいという気分になっているんじゃないかと。その揺り戻しというか反動がきつつあるように感じているんです。

――オーソリティに飢えてきている
どんなバックグラウンドを持った人のコメントなのかわからないまま、全体の空気がつくられてしまうこともありますよね。そういった風潮をずっと見ていくうちに、果たしてこれでいいのだろうかと疑問を抱く人も増えているはず。そんな時代の気分に風穴をあけるのも、テレ東BIZの役割だと考えています。

――時代の気分といえば、コロナ禍のもとでのリリースとなりました
もちろん準備はコロナよりもっと前からですけど、タイミングとしてはそうなりましたね。でも逆風ではなくむしろ、コロナがトリガーとなって人生や仕事、将来について見つめ直す人って多いと思っていて。そういった局面にこのサービスが良い影響を与えることができたら、という願いもあるんです。

――それがミッションに込められていると
ニッポン経済の「現場」を元気にする、ですね。もともとカンブリアにしてもガイアにしてもジャーナリスティックな目線でつくるんだけど、最後は視聴者の気分を明るく元気にしたいという番組ばかりです。それが全体として凝縮されたプラットフォームになればいい。ビジネスパーソンを勇気づけ、応援することで現場を元気にしたいんですね。

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気になるニュースがあったとき、最初にクリックされる存在に

――想定されているユーザーや、使われ方なんてありますか?
老若男女問わず仕事の質を高めたい、生活を向上させたいという人に見ていただきたいです。デイリーの帯番組から気に入ったものを毎日通勤時間で見る、というようなルーティンが生まれてくれると嬉しいです。逆にカンブリアやガイアなんかは週末にまとめて見たりね。

――とはいえ若者よりはハイブローな層が中心になるのでは?
テレ東ニュースのYou Tube登録アカウントには若い人がかなり多いので、そのタッチポイントでテレ東BIZに興味を持ってもらい会員化を促進できればと思っています。ただ自分たちからコンテンツを若者に向けて日和っていく必要はないとも思っていて。

――そのあたりはメディアとしての矜持ですね
わかりやすくはするけれどレベルは下げたくない。マーケット情報などはどうしても難解な用語が多くなりますが、勉強しながら見てもらうほうがいいかなと。もちろん演出の仕方やわかりやすさについてはテレビ以上に柔軟にしていいと思います。でも内容そのものが完全に軽くなるのは明らかに違う。

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――どまんなかの本質的な価値はぶらさない
僕らがまんなかに置く軸はジャーナリスティックですからね。丹念な取材に裏付けられたファクトベースのコンテンツづくり。そしてファンのいる番組を起点に、そこで獲得した信頼をさらに増幅していくエコシステムを目指しています。

――これからテコ入れを考えていることは?
ニュースの解説動画の充実ですね。ある程度の領域を網羅していきたいと思っています。長年にわたって築き上げてきたネットワークがあり「テレ東なら」と腰をあげてくださる有識者や経営者もいらっしゃいます。そういった方々に解説をお願いしたり、日経グループの記者の皆さんを起用するのもいいなと考えています。

――そこまで解説動画に力を入れる理由は?
いま若い人って何か事件が起きた時、You Tubeで検索する層が増えているんですよね。すでに動画で何かを知るという世界になりつつある。だからこそニュースに触れた人がテレ東BIZならどう取り上げているかな、と解説動画目当てに最初にクリックされる存在になりたいんです。特に経済、企業、マーケット系のニュースに関しては。

――第一想起されるブランドを目指すわけですね
そのためには体制の拡充を図る必要がありますね。やはり動画って工数かかりますから。ただしユーザーが何を求めているか、ということについては常にキャッチアップしておく必要があるかと。テレビ局が作る動画だからといってクオリティ偏重主義でやっていくと、ゴールを見誤る危険性もありますから。

――最後に、ライバルはどのサービスになりますか?
あえていうなら、日経新聞じゃないでしょうか。電子版も含めて。経済や企業、マーケットの情報収集における覇権争いになるわけですから。いちばん理想的なのは日経電子版とテレ東BIZの両方をセットで見ていただくことですけどね(笑)。

――ありがとうございました!

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山川龍雄
「ワールドビジネスサテライト」解説キャスター、BSテレ東「日経ニュースプラス9」メインキャスター(21年4月〜)、「日経プラス9サタデー」メインキャスター、「日経ビジネス」編集委員。
1965年10月熊本県生まれ。89年京都大学経済学部卒業後、花王を経て、91年日経BP入社。物流雑誌の編集に携わった後、95年「日経ビジネス」に異動。自動車、商社業界などを担当後、2004年〜08年までニューヨーク支局長。日経ビジネス副編集長、日本経済新聞証券部次長を経て、2011年4月から日経ビジネス編集長、2014年4月から編集委員を務める。