【ネタバレ】『シジュウカラ』何もかもから卒業した忍の"自分の王国"

PlusParavi
【ネタバレ】『シジュウカラ』何もかもから卒業した忍の"自分の王国"
【ネタバレ】『シジュウカラ』何もかもから卒業した忍の"自分の王国"

このドラマを観ていると、どこか、救われるような気がしていた。生きるのに不器用で、決して正しくはない、ちょっとぶっとんだ彼ら・彼女たちは、時に人を傷つけ、傷つけられ、ボロボロになりながら生きていた。どう生きればいいか、誰を好きなのかさえ、よくわからないまま。閉塞感漂う世界の中で、誰もが皆、必死だった。

大九明子監督作品、ドラマ『シジュウカラ』(テレビ東京)が最終回を迎えた。全篇に漂う狂気と可笑しみはそのままに、全ての登場人物に光を当てたラストだった。そしてそこには、元夫・洋平(宮崎吐夢)化する岡野(池内博之)を前に、前よりも強くなった忍(山口紗弥加)の姿があった。最終回のテーマは、親子、夫婦といったあらゆる関係性からの「卒業」だった。

まずは、岡野と夫婦になることを選ばなかった忍のこと。冒頭、岡野とのキスシーンが千秋(板垣李光人)とのかつてのそれと重ねられ、自分からキスをしようとする忍に対して岡野が言う「珍しい」という言葉が、かつての洋平の言葉と重ねられる。ここで示されるのは、今、忍と岡野の関係性が、恋人同士から夫婦へと変化しようとしているということ。そして、その予告通り、未来の夫として忍に接し始める岡野の口調は、まるで相手が自分のものになったことに安心したかのように、次第におざなりになっていく。

同い年にも関わらず忍を「オバサン」「賞味期限切れの面倒くさい漫画家」呼ばわり。かつての洋平を思い出さずにはいられない。そんな彼から逃れるように、忍は千秋との思い出を追い求め、神社に突き刺さっている枝を見ても千秋と見たチンアナゴを連想する。それからはっきりと岡野を拒み、彼の元から離れた忍は、「描く」ことへの闘志を漲らせ、かつて、千秋の心を救った、ササキシノブ時代のデビュー作『うさぎなんて追いかけない』の続編を描き、SNSで投稿するのだった。

そして、「自分と、読んでほしいたった1人の人のためだけに」描いたその作品は、編集・荒木(後藤ユウミ)の心を動かした。誰かを見下ろすか、見上げるかしかないこのドラマの登場人物たちの世界観において、共にソファーに寄りかかるようにして、上だけを見上げている2人の関係は、「同じ夢を見る」最高のバディだと言える。

次に、2つの「親子」の卒業。忍が依存してやまない息子・悠太(田代輝)はきっぱりと忍に言う。「幸せならいいんじゃない、家族それぞれにさ。お母さんもお幸せに。俺のためとかじゃなく、自分のために」と。突然手描きの自叙伝越しに「さらば悠太、俺は1人になる。生きろ、悠太」と告げてくる裸一貫の父・洋平といい、母といい、個性が有り余る両親の元で、よくぞこんなに真っ直ぐに育ったという感慨もあるが、彼による実質の「家族解散宣言」により、忍は彼女自身を縛っていた最後の固執「母親であること」から解き放たれた。

母親・冬子(酒井若菜)に縛られ続けた息子・千秋もまた、自分自身を解放することで、冬子にかけられた「呪い」を解く。「家は闇、家に幸せなんか存在しない」と子供の頃から思っていた冬子は、自分とも、自分を傷つけた千秋の父親とも似ている千秋にも「闇」が連鎖すると考えていた。自分を愛せず、愛されなかった彼女は、「幸せ」を自ら手放し、息子に殺されたいとすら思っていた。連鎖する「闇」を断ち切るには、千秋の「消えるわ」という一言が必要だったのだろう。坂道の上で、煙草を吸う2人の後ろを、猫が1匹通り過ぎる。

東京タワーをバックに、人形制作という自分のやりたいことを見つけ、千秋といい関係を築けるようになったみひろ(山口まゆ)の力強い後ろ姿を見つめ、同じく東京タワーを眼前に、洋平化せざるを得なかった岡野の事情を見つめることができたのも興味深かった。彼もまた、「クリエイティブになれなかった」凡人としてのコンプレックスによって、歪んだ愛情を忍に、憎しみを千秋に向けていた。

そして、みひろの言うところの「絵をやめられない2人」忍と千秋は、「自分と、読んでほしいたった1人の人のために」描いたそれぞれの漫画を通して、再び出会い、交わった。「描く」ことで、2人は互いを解放し、自分自身をも解き放ち、「自分の王国」を自分の中に作った。朝、忍の目の中で、シジュウカラが飛び立つ。大空に向かって自由に羽ばたくシジュウカラの自由を、羨むように見つめていた忍はもういない。なぜなら、彼女の王国は、彼女の中にあるのだから。

2人のための2人の漫画は、私たち視聴者の心も動かす。岡野も洋平も、冬子も、全ての登場人物が、そしてこのドラマを観た全ての「私たち」が、それぞれの心に「自分の王国」を築けますように。そんな思いが、そこにあった。

(文・藤原奈緒/イラスト・月野くみ)

◆放送情報
ドラマ24『シジュウカラ』
動画配信サービス「Paravi」で全話配信中

PICK UP