「突然すみません…私は、おじさまに助けていただいたホッケです。いつもきれいに食べていただいて感謝しております。今日はその恩返しにやって参りました」
もうすぐ令和5年、久々に見たテレビドラマは“ホッケの恩返し”をやっていた。
「何言ってんの?」という方は、人生で一度も打った事がないであろうその文字列で、試しに検索してみて欲しい。旨そうな一夜干しなどが並ぶ中、宇宙一かわいいホッケの画像が出てきたら、それこそがこれから記していく偶然の出会いの一端だ。
一日中好きなだけゲームをして暮らし、その合間に働くという子供のころ夢見た日々を送っている私に、「今『コンビニ★ヒーローズ』というドラマを放送していまして…」と連絡があった。奇しくも、コンビニバイトに明け暮れた学生時代に入社試験を受けて落ちた関西テレビさんからだ。
それで、最新話の第5話から見始めたら、主人公を演じる横田真悠さんから冒頭のセリフが飛び出したのだった。
途中から視聴参戦してもオモロイか確認するため、初回まで遡る形で見続けた感想を一言でまとめると「危なかった…」である。もし教えてもらわなかったら、絶対知らずに見ないまま人生を終えていた。だとしたら、えげつないほど損したはずだからだ。
地上波では関西ローカルで自分は名古屋民のため、知らなかったのは無理もない。しかし今やTVerなどもある中で、このドラマは「知らなかった」で未視聴に終わるには勿体なさすぎるほど満足感があり、痛快だ。
モノに例えるならば、お店の“詰め放題”で、パンパンになって商品がはみ出ているビニール袋に近い。30分枠なのに2時間分ぐらいのエンタメ要素が凝縮されているのである。
ストーリーを簡潔に紹介すると、代々コンビニを営む家に生まれた主人公が、常連客のわずかな違和感を見抜き、ほぼ全員変人である他の店員らと共に5人のヒーローとなって勝手に助けにいって、異空間の戦場で常連客を悩ませるハラスメント怪人をコンビニ必殺技で倒すという話だ。
果たして何人の方がついて来られただろうか。これだけフルスロットルのコメディかつ謎のヒーロードラマが、フツーに地上波の深夜枠で放送されている関西は、恐ろしくも羨ましくもあるエリアである。
いただいた資料によれば、脚本はNetflix『全裸監督』『新聞記者』などの山田能龍さんと、キングオブコント決勝の最多出場コンビ「さらば青春の光」の作家・渡辺佑欣さんとのこと。コメディのプロが本気で挑んで来ているので、見る側としては四の五の言わず身を委ねてしまうのが吉と言えよう。私の場合は、ただただ声を出して笑う20数分間が終わるたび、心がじんわりとして、ノイズが消えていった。
さらに触れておきたいのが魅力的なキャストの皆様だ。主演・横田真悠さんがコメディエンヌとしても素晴らしかったことは論をまたないが、ヒーローの中で唯一変人じゃない役のINI・尾崎匠海さんの好演ぶりはドラマ初出演とは思えず、「ワイ、彼のドラマデビュー作『コンビニ★ヒーローズ』、リアルタイムで見てましたわ」とドヤれることになる未来まで見える。
各話ゲストの皆様も普通じゃなくて全員掘り下げたいものの、字数の関係で割愛することをお許しいただきたい。ドラマ公式サイトのキャスト欄をご覧いただくとそうそうたる顔ぶれがズラリと並んでいる。中でも私のイチオシは怪人を演じる怪人ナダルさんだ。
さて最後に、自分がテレビ局員だった頃、あるレジェンドプロデューサーから教わった“虚構の喜び”について、当ドラマを見ていて久々に思い出したので、引用して結びとしたい。今回この作品に出会えた幸運を、皆様にもお分けできたら嬉しく思う。
「犬が人を噛むのはドラマじゃない。人が犬を噛むのがドラマなんだ」
(Web・SNSプランナー/ライター 平岡敏治)