井桁弘恵さん主演の土ドラ『自由な女神-バックステージ・イン・ニューヨーク-』は、空気読みすぎの冴えない田舎女子・サチ(井桁)が、ド派手なドラァグクイーンと出会い、ファッションデザイナーとして評価されるまでの成長物語。

原作は、オーツカ・ヒロキさんの電子コッミック配信サービスで配信されている漫画「バックステージ・イン・ニューヨーク」。舞台をニューヨークから東京に移してドラマ化しています。
本作で、伝説のドラァグクイーン・クールミントを演じている武田真治さんにインタビュー。
自分の信念と夢にまっすぐなクールミントは、サチだけでなく多くの悩める人たちの背中を押し、人生を変えてきた人物です。役を演じるうえで大切にしていた思い、井桁さんとの共演、自身が人生で悩んだ時のことなどを武田さんに聞きました。

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ドラァグクイーンショーでは、しなやかなダンスの動きと10センチヒールに苦戦
<武田真治 インタビュー>

――ドラァグクイーンの役を演じてみていかがでしたか?
自分としては、しなやかにクールミントに変身したかったんですけれども、ご存じの通りというか、ここ数年は筋肉質な体型でやらせていただいているので、その体型と露出の多い衣装のコラボレーションに、正直、「なんじゃ、こりゃ?」という感じがありました(笑)。
でも、今はこんなにカッコいい役柄を演じさせていただいて、ありがたいと思っています。素晴らしい経験になりました。
――ドラァグクイーン姿に変身すると気分も変わりましたか?
ドラァグクイーンとしてのパフォーマンスシーンは、僕1人の力ではなく、スタッフさんが照明を当ててくださり、音楽が流れ、エキストラさんに盛り上げていただいて、そういう状況が出来上がっていたからこそ、乗ってできたかなと思います。

そして、井桁さんが褒めてくれて、現場でも評判がよかったので、自信を持って演じることができました。皆さんに女性でも男性でもない、「新しいカタチのカリスマに見えた」と言っていただいたことで、演じきれた部分があります。
――お正月を返上してダンスの練習をしたそうですが、苦労したことはありますか?
どうしても振り付けがカクカクしてしまうんですよね(笑)。しなやかな動きって、日常生活ではなかなかしていないものだと痛感しました。
また、昨年末に右足のかかとを骨折して有酸素運動から離れていたのですが、役作りのために軽いジョギングや筋トレを再開して体を絞って準備しました。
それでも、本番は10センチ以上あるハイヒールを履くので、足首がしんどかったです。女性は、こんなふうに努力をしているのだと分かり、いい経験になりました(笑)。

――役作りはどのようにしましたか?
これは、制作陣にも話したことはないのですが…内面的な役作りで参考にしていたのは、“伝説のロックスター”忌野清志郎さんです。
クールミントは、“人の弱い面に寄り添う現代のロックスター”だと思ったんです。僕が思うロックスターとは、一方的に自分の主張をカッコつけて自分のスタイルで発信するという人ではなくて…。
かつて、僕は芸能界にいながら道に迷うという不思議な迷子になってしまったことがありました。清志郎さんは、僕が体調を崩し、心も折れてしまった時に出会った不思議な人です。1999年~2001年まで、一緒に時間を過ごさせていただきました。
清志郎さんは、僕の理解を超えた出で立ちでステージに上がり、ちょっとしたことでつまずいただけなのに夢をすべて諦めてしまった僕を、またステージに立たせてくれました。自分がいるべきところに連れて行ってくれた方です。
大きな恩があるのですが、恩返しできずに逝ってしまわれました。だから、清志郎さんにしていただいたことを、クールミントという役を通じて、人生に悩んでいる若い人たちに見せることができたらいいなと思いました。
だから、決して上から目線にならないように、僕自身が苦しんだ経験者として、勢いはあってもそこに優しさみたいなものが込められたらいいなと思いながら演じました。
役柄と自分を重ね合わせ「すべてのセリフは、自分の人生に起きたことのように」
――クールミントのセリフには名言がたくさんあります。心に響いたセリフはありますか?
この作品を通して、一番好きであり、若い人たちに言ってあげたいセリフの一つが「『なりたい自分』が見つからなければ、『なりたくない自分』から逃げ続けなさい」というもの。この後に続くセリフもいいんです。
僕自身、もしかしたらあの時代、自分が生まれ育った街では「なりたい自分」になれないかもと思い、でもどうしたら「なりたい自分」になれるかは、分からず。ただ、「なりたくない自分」から逃げてみようと思って、闇雲に東京に出てきました。
だから、クールミントのすべてのセリフを、自分の人生に起きたことのように言うことを心がけました。
――共感することは多いですか?
そうですね。クールミントは、強さだけではなくて、弱さもあるし、ときどき矛盾もあってとっ散らかるんです(笑)。
スーパーヒーローでもないし、主人公のサチや、自分を見失っているケン(古川雄輝)の足長おじさんでもナントカ先生でもない。自分が発する言葉の実践者であろうと努力している人。
サチやケンと一緒に成長していく群像劇だととらえていたので、完成されていない自分を受け入れ乗り越えようとしているところが魅力だし、共感できるところですね。

――本作は、サチが夢を追いかけて上京する物語です。武田さんが北海道から上京した時、東京にどのようなイメージを持っていましたか?
僕が上京したのは1990年でした。1980年代後半から90年代初頭にかけては、バブル全盛期。テレビで見る東京は、キラキラしていてまぶしくて、ニューヨークやロサンゼルスなどの海外よりも遠い街という印象でした。
実際に東京に来ると、サチがクールミントと出会うように、僕もいろいろな人たちに出会うことができました。今回、このようなステキな役柄を演じるチャンスをいただけたのは、たくさんの人に支えていただきながら経験を積み、喧噪の中で生き抜いた自分があったからかもしれません。
あの時代の東京に辿り着くことができてよかったと思っています。
和歌山初のTGCでの撮影は大盛況「撮影は時間キッチリ終わったのに…」
――井桁さんとの共演はいかがでしたか?
まず思ったのは、「この人は、みんなに愛されるような国民的な女優さんになるんだろうな」ということ。現場を明るく保ってくれましたし、いろいろなシーンに前向きにチャレンジしていました。
収録に入る前の本読みの時、監督から細かい注文を出されていたのですが、1回試したことの正反対のお芝居を要求されても見事に調整していたのが印象的でした。素直にすごいなと思いましたね。
そんな井桁さんや、彼女が演じるサチというキャラクターは、きっと魅力的に見えると思います。
――印象に残ったシーンを教えてください。
第3話のクライマックスシーンは、和歌山県で実際に開催された「東京ガールズコレクション(TGC)」のランウェイを6分間だけお借りして撮影しました。
5500人の観客が入ったファッションショーに、突然お芝居が始まって、武田真治かどうかもわからないドラァグクイーンが現れて会場が静まり返ってしまうのではないかという心配もありましたが、これが盛り上がっちゃって(笑)。
僕も年甲斐もなくテンションが上がってしまい、せっかく撮影は時間キッチリに終わったのに、その後のトークが少し長引いてしまいました(笑)。第3話は、ぜひ注目してほしいですね。
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――最後に、視聴者へのメッセージをお願いします。
この春、4月から上京しようかどうか迷っている方、まだ間に合います(笑)。「人生一度くらい大冒険をしてみてもいいのでは?」と思っているあなたの背中を押す作品です。
そして、僕としては、かつてバラエティ番組『めちゃ2モテたいッ!』を放送していた枠に、30年ぶりに大人になって帰ってまいりました。ぜひ見てください。よろしくお願いします。

撮影:今井裕治
スタイリスト:伊藤伸哉
ヘアメイク:堀江万智子