吉田鋼太郎が、結婚5年ほどだという自身の妻や、昨年3月に生まれたばかりの娘について語った。
舞台人として名を馳せ、映像の世界でも引く手あまた。重厚な作品からコメディまで、自由自在に演じ分ける稀有な俳優・吉田鋼太郎。
その吉田が主演を務める東海テレビ×日本映画放送 共同製作連続ドラマ、土ドラ『おいハンサム!!』が、1月8日からスタートする。

漫画家・伊藤理佐原作のコミック「おいピータン!!」「おいおいピータン!!」「渡る世間はオヤジばかり」などから、さまざまなエピソードをリミックスして映像化。
脚本・演出・プロデュースは、ドラマ『カバチタレ!』、映画「闇金ウシジマくん」などを手掛けた山口雅俊。自身のプロデュース作品である『ランチの女王』(2002年/フジテレビ)以来、大事にしてきた“食”と“家族”の物語を、令和の現代にアップデートしてドラマ化する。
吉田が演じるのは、ややこしいけど情に厚く、憎めない“昭和のガンコ親父の生き残り”伊藤源太郎。男を見る目がまったくない3人の娘たちの幸せを願って奮闘する源太郎を演じる吉田に、作品の魅力や役柄について、プライベートなどを聞いた。
<吉田鋼太郎 インタビュー>

昭和テイストがちょっと残ったホームドラマ「がんばっているお父さん像が全編を通して流れている」
――令和のホームドラマとして、どんな作品になりそうですか?
ホームドラマというと、僕が学生時代に見ていた『寺内貫太郎一家』(1974年/TBS)を思い出します。小林亜星さん演じるガンコ親父が、ちゃぶ台をひっくり返したり、西城秀樹さん演じる長男の周平を投げ飛ばしたりして、家族が手を焼くという、傍若無人さを前面に出した内容でした(笑)。
『おいハンサム!!』は、そこまではやらないけれども、昭和のテイストはちょっと残っています。たとえば、ベロベロに酔っ払って、お寿司の折り詰めをぶら下げて帰ってくるお父さんって最近はあまりいませんが、このドラマにはそういう描写が出てきます。
また、源太郎は3人の娘たちのことが大事でかわいくてしょうがないんだけれども、面と向かって口出しができなかったり…。普段は口数が少ないけれど、娘たちへ愛を伝えたい気持ちでいっぱいだとか、そういうところがたくさんあって、とても微笑ましい存在です。
そんながんばっているお父さん像が全編を通して流れている作品になると思います。
――源太郎のどんなところに魅力を感じていますか?
持って回った表現方法でないと娘たちに自分の思いを伝えられないというシャイな部分ですね。特に、昭和のお父さんはそうだったような気がします。
泥酔して帰ってきて、突然、「お前のことを愛してる!」と言ったりするわけですよね。それが、とってもよくわかるなと思うんです。

――ご自身の中にもそういうところはあると思いますか?
いや、僕はもう現代人になっているので(笑)。今の風潮は、ちゃんと言うことを言わないと、相手に伝わらなくて大変なことになったりするじゃないですか。3月に娘が生まれたこともあって、最近はなるべく言いたいことは言うようにしています。
――脚本・監督・プロデュースを手がけているのは、元フジテレビのプロデューサー・山口雅俊さんですが、脚本を読んだ感想はいかがですか?
山口さんは、映画「闇金ウシジマくん」や「カイジ」シリーズなど多くの話題作を世に放ってきたヒットメーカーで、いろんな意味で有名な方なんです。
とにかくこだわりが強くて、台本を読んだだけだと抽象的でちょっとわからない描写が出てきたり、現場でサプライズが起きたりするんです。
たとえば、台本に「源太郎がオフィスで鼻歌を歌いながらパソコンを見て、仕事のチェックをしている。その内容を少しだけ部下と話している」というト書きがありました。ところが、現場に行ってみたら、「源太郎がオフィスのテーブルの上に靴を脱いで上がって、パソコンを小脇に、部下に向かって大きい声で叱咤激励しながら叫ぶ」というシーンになっている。
しかも、セリフが大量に増えているんです。「まったく違うじゃないか!」とツッコみたくなるくらい。だから、台本を読んだ印象は、はっきり言ってなんだかよくわからないです(笑)。

「とにかくサプライズが起こる現場」それが俳優陣のやる気にもなる
――源太郎を演じる上で心がけていることはありますか?
とにかくサプライズが起きる現場でもあり、それが非常に僕ら俳優のやる気にもなります。いい意味で、監督と俳優のバトルを繰り広げています。だから、一見、自由でラフなイメージだと思われるかもしれませんが、実はすべてが緻密に計算されている作品なのです。
僕は、わりとアドリブを挟み込んでいくのが好きなので、監督と共演者の方の了解を得られた上でおもしろくなるのであれば、アドリブを入れたいと思っています。
でも、今回は、台本に書かれていることを忠実に、そして、監督の指示通りに演じた方がおもしろいものになるのではないかと思って、アドリブは封印しています。
――アドリブがない分、ユーモアをお芝居で出していくのは難しいのでは?
それは、背中で語る…みたいな(笑)。しゃべらないけど、ちゃんとその空気感を出すというか。アドリブは、できていない部分をそれで補うみたいなところがなきにしもあらずですから、それを止めた時に自分がどういう芝居ができるのか。
無言でも、台本に書いてあることをきちんと表現できないといけないので、そこは楽しみにしていてください。できないかもしれないですが(笑)。

――吉田さんと源太郎は、似ているところはありますか?
源太郎とは同世代なので、源太郎が好んで行く店が、おそば屋さんや、老舗ではないけどチェーン店ではない歴史のある居酒屋だったりして、そういう店のチョイスは似ていますね。
本作では“食”もテーマになっていて、食べるものに関するエピソードもたくさん出てきます。目玉焼きの焼き方は、家族それぞれみんな好みが違うというシーンも出てくるのですが、僕は白身も黄身もどちらかというと生に近い半熟が好きなので、そこも源太郎に似ています。
――劇中で“食”に関しての注目ポイントや、ご自身の“食”へのこだわりがありましたら教えてください。
目玉焼きとか、おそば屋さんのおそばとか、どら焼きとか日常の食べものが出てきます。身近なものがたくさん出てくるので、“私は、目玉焼きはもうちょっと固い方がいいな”とか、“これを食べるならうどんよりおそばの方がいい”とか、そういうことを話しながら見ていただけるのも、見どころだと思います。今のところ、高級フレンチやスッポン鍋は、まだ出てこないです(笑)。
僕自身、食のこだわりは特にありません。最近は、食べるもの自体よりも、食べるシチュエーションが自分のその時の気持ちや状態に合っている方がおいしいなと思いますね。
――伊藤家の3人娘を演じる木南晴夏さん、佐久間由衣さん、武田玲奈さん、妻役のMEGUMIさんとの共演はいかがですか?
女性の方ばかりでうれしいのですが、まだ緊張感がありますね。コロナ禍ということもあって、撮影の合間に話をすることもあまりできないので、粛々と撮影は進んでいます。これからいろいろ芝居をしていくうちに打ち解けていかれたら。
伊藤家は、心の底から分かり合っている家族なので、そこで何を言えばいいのか、何を感じればいいのかをぶつけ合って、本当の家族みたいと思われるようになりたいと思います。

吉田流“男性選び”のポイントは食べ方「食事をする姿が美しい人は信じられる」
――源太郎の娘たちは、3人とも男性を見る目がないですが、“男性選び”について吉田さんがアドバイスするとしたらどんなことを挙げますか?
お金を持っているとか、地位があるなどでは絶対にないと思いますが、やさしさや思いやりというのも、必要ではあるものの、あまりにも抽象的ですよね。
このドラマは、食べることが重要な要素になってくるんですけれども、食事をする時の姿が美しい人は、僕は信じられますね。気取っているとか、ナイフとフォークの使い方がうまいという意味ではなくて、「あ、キレイだな、この人のご飯の食べ方」と思う人。そういう人は、信用できると思います。
――娘さんが、いつか彼氏を連れてきた時は、食べ方を見ますか?
まず、自分の娘にきちんとした食事の仕方を教えないといけないですよね。彼女がちゃんとした食べ方をしていれば、それを素敵だなと思ってくれる男性が、きっと現れると思うんです。そういう男性がいいのではないかという気がします。

――撮影中のエピソードがありましたら教えてください。
実は、撮影が始まる半年前くらいに藤原竜也くんを介して、山口さんと一緒に飲んだんです。そういう前振りがあったので、いきなり長ゼリフを差し込んできたり、撮影時間が長引いたりしても僕は理解できますが、前振りがない人は戸惑うと思うんです。
山口さんは、ニシンそばのニシンにそばが何本かかっているかまでこだわるから、必然的に撮影が長引くわけです(笑)。
先日、ハマケンさん(浜野謙太)とおそば屋さんのロケだったのですが、昼食のシーンだったので日中には終わるだろうと思っていたら、やはり時間がどんどん長引いて夜になってしまって。
彼は、その日に食事の約束をしていたらしいのですが、結局、終わったのが夜10時くらい。なかなか予約が取れないお店で、だれかに紹介してもらったようで…。
その人のメンツもあるし、待たせている人にも迷惑をかけてしまって、「いろんな意味で、僕はこれからヤバいです」と言っていました(笑)。
――そんな浜野さんとの共演は、いかがですか?
彼は、ミュージシャンでもあるんですよね。だから、いわゆる役者っぽくなくて、とても自由なんです。すごく緩やかで自由な空気を醸し出していて、共演者としてはとても気持ちが楽です。
しかも、先ほどのようなエピソードを提供してくれるので、ツッコミどころ満載だし、とても楽しくやらせてもらっています。

ドラマ『おっさんずラブ』がターニングポイント「自分の中のスキルが増えた」
――MEGUMIさん演じる妻の千鶴さんは、源太郎さんの扱い方が見事です。吉田さんは、“こんなことをしてもらうと機嫌が良くなる”というのはありますか?
こういう仕事をしていると時間が不規則なので、外食やデリバリーが多くなったりするんです。でも、「今日は家でご飯が食べたい。鍋なんか食べたいな」と思っていた時に、どこで伝わったかわかりませんが、奥さんから「鍋作って待ってる」と言われた時は、びっくりしてうれしいですよね。
たまにそういう時があるんですよ。まだ結婚して5年くらいですから、何もかもツーカーというわけではないですけれども、徐々にそういう気持ちの交流ができ始めたかなと感じる時があって。食べたいものがその時にあると、うれしいですね。
――上機嫌になると、どうなるのですか?
照れくさいので、奥さんに対して「ありがとう」とかあまり言わない方なんですけど、そういう時は、「ありがとう」と言いますね。「ありがとう」って言うと、気分がいいですよね。すべてが丸く収まるような一夜になります(笑)。

――源太郎さんには、“茶柱が立つとハンサムになる”というシーンがありますが、吉田さんがハンサムになるのはどんな時ですか?
本当に私事で恐縮ですが、子供が生まれて、やっぱりかわいいんです。抱き上げると笑ったり、ちょっとずつしゃべり始めたりして、そういう姿を見ると、自然と笑っているんですよ。
おそらく今までしたことがないような笑顔を、今自分はしているなと思う時が多々あって、その時の顔がたぶんハンサムなんじゃないかと思います(笑)。
――長いキャリアを積まれてきた中で、今作はご自身にとってどのような作品になりそうですか?
監督が繰り出してくるさまざまな演出、要求、それを1つ1つクリアしていくと、いつの間にかふっと楽しいシーンができあがっているという実感があります。
僕の今回の課題として、アドリブをやらないことを挙げているので、そうするとまた違う自分になれるんじゃないか、発見があるんじゃないかという気がしています。
素晴らしい監督の下で、今までやってきたことを止めてみる。そうすると何が生まれてくるのか。すごく楽しみにしていますし、ターニングポイントになるのではないかと思います。ひょっとしたら代表作になるかもしれないし、代表作にしたいと思います。
――これまでに、ターニングポイントとなった作品は何ですか?
どうやってこの演技をしたらいいのかと悩んだことでいうと、ドラマ『おっさんずラブ』(2016年/テレビ朝日系)でした。超えてはいけないところがあるけど、ある程度、大きく表現しないといけないという束縛が多い役柄で、そこをどうやって打ち壊していくかを、いつも考えて演じていたので、自分の中の1つのスキルになったと思います。

――最後に、視聴者へのメッセージをお願いします。
ガンコ親父を中心に、3人の娘たちと奥さんがいろいろな騒動を繰り広げる、あえて令和にお送りする昭和のお父さんが主役のホームコメディーです。
娘たちに言えないことや、それを言えないことの悲しさを抱いているお父さん。そんなお父さんが大好きなんだけど、どう受け止めたらいいかわからない娘たち。それでも、一生懸命にコミュニケーションを取ろうとしている家族。
そこに、男を見る目がない娘たちが選んだ、ちょっとダメな彼氏や娘の元恋人が絡んできて、事態はややこしい方向に進んでいきます。
また、目玉焼きや大根の煮物、どら焼きなどの日常のおいしいものがちょこちょこと出てきます。いろいろな要素が詰まった、なかなか最近では見ることができないドラマになると思いますので、ぜひ楽しみにしていただきたいと思います。
撮影/今井裕治