女優・内田慈、トップクラスの映画監督たちが望む“圧倒的な存在感”。オーディションでは歯に衣着せず「違和感があります」

テレ朝POST

19歳から舞台を中心に演劇活動を始め、新進気鋭の作家・演出家の作品に出演してきた内田慈(うちだちか)さん。

舞台を観に来ていた橋口亮輔監督の目に留まり、2008年、映画『ぐるりのこと。』に出演。

『ロストパラダイス・イン・トーキョー』(白石和彌監督)、『下衆の愛』(内田英治監督)、主演映画『ピンカートンに会いにいく』(坂下雄一郎監督)など多くの映画に出演。映画界でも注目を集める存在に。

 

◆初の映画出演で感動「この作品に関われたんだ」

内田さんのスクリーンデビュー作となった『ぐるりのこと。』は、『二十才の微熱』、『渚のシンドバッド』、『ハッシュ!』などで知られる橋口亮輔監督作品。

1990年代のさまざまな犯罪・事件を織り込みながら、ある夫婦が苦しみを乗り越えて生きる希望と再生の10年間を描いたもの。内田さんは、木村多江さんとリリー・フランキーさん演じる主人公夫婦の友人の妻を演じた。

「橋口監督が舞台を観に来てくださって、それで声をかけていただいたのがきっかけでした。めちゃくちゃ嬉しかったですけど、ちょっと不安もありました。やったことがないことだから大丈夫かなって。でも、舞台を観て声をかけてくれたことに何より感激でした。

ただ、私は舞台にばかり興味があって、恥ずかしながら映画をあまり観ていなくて、それまで橋口監督の作品を観たことがなかったんです。

それで橋口監督の作品を全部観てみたら、『すみません。今まで作品に触れずに』って思うほど本当にすばらしくて心打たれて。心の奥にしまっていた箱のフタを開けていただいたような感覚でした。橋口監督の作品には絶対に出たい、どんな人かもっと知りたいと思うようになりました」

-最初に連絡が来たときには、まだ橋口監督の作品をご覧になっていなかったのですね-

「はい。出ることが決まってから観ました。撮影に入る前にリハーサルがあって、そのときには作品を拝見していたので、橋口監督にお会いできる嬉しさと緊張でいっぱいでした。

そのリハーサルもまたおもしろくて。撮影するシーンというのは、主人公である木村多江さんとリリー・フランキーさん演じる夫婦と一緒にお鍋を囲んでいるところで、私は佐藤二朗さんと新婚の夫婦役だったんですけど、リハーサルのときにやったシーンはその撮影するシーンではまったくなくて。

『たとえば、この4人が10年前に違う組み合わせで付き合っていたとしたら、どんな会話をしていたと思う?』とか、そういうお互いの歴史、過去をみんなで作る、それでそれをみんなで共有するためのエチュードとかをやったので、それはある意味すごく演劇的でもあるんです、つくり方が。

すごく緊張していた私にとって、『いつもやっていた舞台とそんなに違うことじゃないんだな』というふうに思わせてくださったのもすごく大きかったですね。それで『ぐるりのこと。』からそのあとの『恋人たち』にもご縁がつながり、本当に橋口監督の存在は大きいです」

-撮影はスムーズに進んだのですか?-

「やっぱりカメラ位置がよくわからなくて。どこまでがフレームに入っているのか、どこからはみだしてしまうのかというのがわからなかったです。テストでやったことと同じこと、もしくはカメラを意識した芝居というのが最初はできなくて、何度かやり直しになりました。

今だったら多分繰り返すことのないテイクみたいなのを重ねていたと思いますが、皆さん優しかったので、怒号が飛ぶこともなく付き合ってくださいました」

-完成した作品をご覧になったときはいかがでした?-

「すごかったです。作品としてすばらしかったですし、自分の名前がエンドロールに流れていくのを見るのも初めてだったので、『この作品に関われたんだ』という感動は、映画館で観たときに想像もしなかった感覚になりました。親も喜んでいました。舞台に出るよりも映画に出ると親はうれしかったみたいです」

-『ぐるりのこと。』に出たことで、映像もやっていきたいという思いは芽生えました?-

「芽生えたりもしつつ…。でも、行く現場によっては空気感やつくり方は本当にそれぞれで。むしろ橋口監督の撮り方が特殊であることをあとから知りました。

いろんな現場でやっていくなかで、『やっぱり映像は苦手かも。私のホームはやっぱり舞台かな』って思っているところはかなりありました。だから映像を始めてしばらくは『映像もバリバリやろう』じゃなくて、ちょっとお邪魔しに行くみたいな感覚が続いていました」

 

◆地下アイドルで風俗嬢のヒロイン役に

自分のホームは舞台かなと思っていたという内田さんだが、圧倒的な存在感と演技力は映画界の注目も集め、トップクラスの監督たちも起用したいと望む存在に。

2010年には、『孤狼の血』シリーズなどで知られる白石和彌監督の長編映画監督デビュー作『ロストパラダイス・イン・トーキョー』でヒロイン役に。この映画は、社会の片隅で必死に生きる3人の男女が小さな希望を見つけるまでを描いたもの。

内田さんは、秋葉原で地下アイドル活動を続けながら風俗で働くマリンを演じた。知的障害をもつ兄・実生(ウダタカキ)と2人で暮らすことになった幹生(小林且弥)が兄の性欲処理のために呼んだことから出会い、やがて3人は家族のような関係になっていく。

「あの映画は公開まで結構時間があったので、撮影自体はかなり前で。『ぐるりのこと。』の後、わりとすぐくらいだったかな。オーディションでした。小林且弥さんもウダタカキさんもオーディションで」

-オーディションを受けに行かれたときはどうでした?-

「すごい生意気に映ったと思います(笑)。メインキャストの3人が、血がつながっていなくても家族になれるんじゃないかとか、世の中にたくさんある偏見を吹き飛ばしていこうみたいな物語で、そこにやっぱりいろんな邪魔が入ってきますよね。

知的障害のある兄が昔犯した罪をすごく意地悪な形で暴こうとしてくる悪者みたいな人が物語上現れるんですけど、『悪者が悪者として描かれているところに違和感があります』とオーディションで言ったんです。それなのに受かって(笑)。後々聞いたら、その感じも含めて何かすごく役に合っていると思ったみたいなことを白石監督がおっしゃっていました」

-マリンちゃんはデリヘル嬢もやっているけど、地下アイドルという顔もあって歌って踊るシーンもありました-

「はい。我流のダンスですけど、歌ったり、踊ったりするのが好きでしたし、あの歌の歌詞は、白石監督とふたりで考えたんです。『仔猫は好きですか~』って。阿佐ヶ谷の2階のロッテリアで(笑)」

-スタイルが良くてアイドルの衣装も似合っていました。猫の耳もつけて-

「ありがとうございます。あれは白石監督の初めての長編だったので、自主映画ではないんですけど、自主映画のようなつくり方でした。小道具のポンポンもたまたま私が持っていたものだったし、白いブーツも私が別の作品で使ったブーツをもらって家にあったものだったと思います」

-撮影はいかがでした?-

「結構順調だったと思います。私はガッツリ映画に出るのは、そのときが初めてだったので、毎日めちゃくちゃ朝が早いからそれだけで大変でしたけど、今考えるとすごく順調な現場でした。

というのは、白石監督がいろんな監督の現場でたくさんのご経験を積んでこられためちゃくちゃ敏腕な、元超スーパー助監督だったから、ものすごく準備をされていたのでしょうね」

-完成した作品をご覧になっていかがでした?-

「うれしかったです。初めてガッツリ出たので、『あのシーンとあのシーンの私の芝居はつながっているかな』とか、すごく細部のことが気になっていたんですけど、作品を観たときに自分の芝居の細かいところとかよりも、意外と落ち着いて作品として観ることができて。

脚本に書いてあった世界がこういう風に立ち上がるんだと興奮しました。舞台を立ち上げるときのワクワクや、出来上がっていく過程のワクワクとはまったく違う喜びが映画にあるんだなということを身をもって知った、大切な経験でした」

この映画は、ロッテルダム、釜山、ドバイなど、海外の国際映画祭にも出品され注目を集めた。2010年、内田さんは子ども向け番組『みいつけた!』(NHK Eテレ)に声優として出演することに。

「『みいつけた!』も舞台がきっかけでした。『みいつけた!』がスタートした年にサボテンの役をやっている佐藤貴史さんと作家のふじきみつ彦さんと一緒に下北沢の小さい劇場でコントをやったんです。

そのときに番組のスタッフさんが観に来てくださって。番組に新しいキャラクターを登場させたいと思っていた頃だったそうで、お声がけいただいたんです。今13年目になるのかな。ずっと続いているんですけど、とても大切なチームです」

 

◆主演映画で“こじらせ女子”を熱演

2018年、内田さんは『ピンカートンに会いにいく』で映画初主演を果たす。この映画は、20年前にブレイク寸前で突然解散した5人組アイドルユニット「ピンカートン」に再結成の話が舞い込み、再起をかけた大勝負に挑む姿を描いたもの。

内田さんは「ピンカートン」のリーダーで、今も売れない女優を続けている優子役。ある日「ピンカートン」再結成の話を持ちかけられ、所属事務所もクビになり、崖っぷち状態だった優子は再起をかけて20年間会うこともなかったメンバーと連絡を取ることに。

「(松本)若菜ちゃん、山田真歩ちゃん、水野小論ちゃん、岩野未知さん、5人がすごく仲良くなって、完成披露試写会とか全員そろう舞台あいさつのときに、製作サイドから言われるのではなく、自分たちから『あれをもう一回踊っていいですか』って言って(笑)。

そのためにスタジオを取って自分たちで練習したりしていたので、結構大人の部活みたいな感じがありました。みんなダンスのキャリアはいろいろだったのに、めちゃくちゃ頑張ってすごく楽しかったし、今もみんな大切な友人です」

-みんなで一生懸命やっていると、結束力も強くなりますよね-

「はい。達成感もありましたし、稽古のとき、自分たちしかいないんですけど、誰が言い出したのか、『ひとりずつ踊ってみよう』となって。ひとりを4人で見てというのを順番にやったりしていましたね。それで『あそこの振りは良かったけど、あそこはちょっと』とか言い合いました。何かすごいストイックですよね(笑)」

-本当に部活みたいですね。皆さん息もピッタリで。大人チームの踊りのシーンは結構カットされていたとか-

「坂下監督はしゃべらなくて、びっくりするほどポーカーフェイスなんです。でも、本人はすごくおもしろいことが好きで、カメラの前でひとり笑っていたり、アイドルも結構好きだったりするんですよ。内にはすごく熱いものがあるんですけど、簡単には見せてくれない。そこが魅力です。

あのときは、ステージ衣装が1着しかなかったので、私たち年上チームと20年前を演じた若い子チームが同じ衣装を着ていたんです。脱いで渡してという感じで、本当に同じ衣装を着ていたんですけど、私たち年上チームが着ていると監督が笑っていたんですよ(笑)。

だけど、バカにしているんじゃなくて愛情をもってくれているんだろうなという感じで。坂下組は監督が無口だから俳優が結束しやすいんですよね。『監督がクスって笑っていたから、次も笑わせよう』って(笑)。おもしろかったです」

-いろいろなジャンルの作品に出演されていますがご自身で決めているのですか?-

「はい。自分のキャリアがどのタイミングだったとしても出演したい作品がオーディションであれば、全然関係なく、受けたいと思って受けるタイプなので、それは変わらずやって来ました。今も同じです」

2020年には『レディ・トゥ・レディ』(藤澤浩和監督)に大塚千弘さんとW主演。2022年には、『決戦は日曜日』(坂下雄一郎監督)に出演。

現在公開中の主演映画『あの子の夢を水に流して』は、ブラジルで開催された第12回バウネアーリオ・コンボリウー国際映画祭の長編コンペティション部門をはじめ、イタリア、メキシコ、インドなど多くの海外の映画祭に出品。次回はその撮影エピソードなども紹介。(津島令子)

ヘアメイク:山﨑沙央里
スタイリスト:長谷川杏花(山田かつら)

©「あの子の夢を水に流して」製作委員会

※映画『あの子の夢を水に流して』
下北沢K2にて公開中
配給:ベンチ
監督:遠山昇司
出演:内田慈 玉置玲央 山崎皓司 加藤笑平 中原丈雄

令和2年7月豪雨で被災した熊本県の球磨川を舞台に、10年ぶりに帰郷した女性が旧友と出会い、不思議な現象に遭遇する様を描く。生後10カ月の息子を亡くし失意の底にいる瑞波(内田慈)は、故郷の熊本県八代市に10年ぶりに帰省し、幼なじみの恵介(玉置玲央)と良太(山崎皓司)と再会する。そして3人は、豪雨災害の傷跡が残る球磨川で不思議な現象に遭遇することに…。

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