俳優・森岡龍、M-1グランプリ出場経験から適役と思われた漫才師役。厳しい演出で毎日頭が真っ白「本当につらかった」

公開: 更新: テレ朝POST

16歳のときに初めて受けたオーディションで映画『茶の味』(石井克人監督)に出演し、多くの映画、ドラマ、舞台に出演してきた森岡龍さん。

主演映画も多く、2017年に公開された映画『地の塩 山室軍平』(東條政利監督)では、「I WILL TELL INTERNATIONAL FILMFESTIVAL2020」(イギリス)で最優秀主演男優賞を受賞。俳優として活動する傍ら、大学在学中に「ぴあフィルムフェスティバル」に入選し、映画監督としても活動。

約10年ぶりとなった監督作『北風だったり、太陽だったり』が公開になり、2022年12月24日(土)には監督作『プレイヤーズ・トーク』の公開が控えている。

 

◆映画の漫才コンビ“エミアビ”として「M-1グランプリ」に出場

2016年、森岡さんは映画『エミアビのはじまりとはじまり』(渡辺謙作監督)に前野朋哉さんとW主演。

この映画は、事故で相方の海野(前野朋哉)を失った漫才師・実道と残された者たちの再生を描いたもの。高校時代に友だちとコンビを組み、「M-1グランプリ」に出場して2回戦まで進んだ経験がある森岡さんにとって漫才師の役は、まさに適役だと思われたが…。

「エミアビは本当につらかったですね。謙作さん(監督)が。かなり演出的に厳しくご指導くださったので、性格が変わった気がします(笑)」

-(撮影時の)渡辺監督のテーマの一つが「映画の中で森岡龍を壊すこと」だったとか-

「本当にそうなんですよ。なので、ほぼほぼ記憶がないくらい、毎日頭が真っ白になるくらいパンパンに追い込んでくださって(笑)。でも、それまでは俳優なのに『俳優です』と言えない自分がどこかにいたんですけど、エミアビに出たことで『俳優です』と言えるようになりました。覚悟ができたんだと思います。

あれがあったから、さらにまた違うステージに行けたなというのは思うので、エミアビも僕にとってすごく大事な映画です」

-相方役の前野朋哉さんとの掛け合いも、すごく息が合っていました。ずいぶん練習したのでは?-

「はい。ものすごく練習しました。それぞれの時間を調整して、カラオケに入って二人で練習したり、渋谷の路地で練習していて警備員に怒られたこともありましたね。必死で練習して、実際に二人でM-1にもトライしましたし」

-どこまで進んだのですか?-

「あれも2回戦です。昔と同じく。エミアビのときには、『1回戦通過したらいいよね』っていうのを二人の目標にしていたんですよ、2回戦は本当にレベルが高いので。でも、もちろん本気で臨みましたけど、落ちましたね。2回戦の壁は大きいです。本当に難しいですよ、突破するのが」

-前野さんとは、一緒に漫才を見に行ったり、いろいろなことをされていたとか-

「はい。前野くんとは前に同じ事務所だったので結構会っていたのですが、ずっと一緒にいるのは初めてだったんです。なので、最初はお互い好きな音楽のCDの貸し借りからはじめて、一緒に漫才を見に行ったり、本当にちょっとずつ距離を詰めていきました。

実は、この前ドラマで久しぶりに前野くんとコンビの役をやったんです。二人で映像を作っているコンビの役だったんですけど、久しぶりに会っても漫才コンビなんですよ(笑)。

数年ぶりに会ったのに、コンビ感というかテンポ感はまんまだったし、そのドラマの監督もエミアビを観てくださっていて、エミアビのまんまで出てほしいということでキャスティングしていただいたという感じで(笑)」

-前野さんも監督をされていますが、そういうお話もされるのですか?-

「はい。前野くんは、自主映画をお互いに作っている頃からの知り合いで、映画作りのこととかも話しますね」

-前野さんは新人監督の自主映画にも出演されていますね-

「そうですね。前野くんは本当に何でも来た仕事は受けていますし、僕もそうですけど、何でもお引き受けするというスタンスです。前野くんは『こだわりはない』と言っていて、それはそれでカッコいいなあと思います。引っ張りだこですよね」

 

◆5年前に事務所から独立。何でも引き受ける覚悟で…

2017年に事務所を独立して以降も、映画『葵ちゃんはやらせてくれない』(いまおかしんじ監督)、映画『ONODA 一万夜を越えて』(アルチュール・アラリ監督)、『クロサギ』(TBS系)など多くの作品に出演することに。

「役の大小にはあまりこだわりがなくて、とくに5年前に事務所から独立してからは、もう絶対に仕事は選ばない。スケジュールさえ合えば、いただいた仕事は何でも引き受けるという覚悟でやっています」

-かなりいろいろ出演されているイメージがありますね-

「いえいえ、1カ月空いちゃって不安で眠れない夜とかもあります」

-それでも比較的コンスタントにお仕事をされていて、テレビドラマも多いですね-

「ちょっとずつ自主映画時代の仲間とかが、監督として1本立ちをしたり、いろいろ仲間が増えてきている感じがあるので、それで何とか呼んでいただける機会が増えてきているということだと思います」

2019年、映画『五億円のじんせい』(文晟豪監督)に出演。この映画は、幼少期に善意の募金5億円で心臓手術に成功した17歳の少年が、お金と人生に向き合う旅を描いたもの。

森岡さんは裏社会の男だが、いざというときに頼りになる丹波役を演じた。

-丹波はカッコいいキャラでしたね-

「はい。あれはおいしい役でした(笑)。自分の中でも思い出深い役です。共演した松尾諭さんからは『この役は浅野忠信さんがやる役なのに、何でお前がやってるんだ?お前につとまるのか?』ってハッパかけられましたけど(笑)。

あれは本当に脚本も良かったんですよ。題材がやっぱりおもしろかったですね。主人公は、5億円もの善意のお金で助かったのだから…という世間の期待と好奇の目、マスコミ報道に耐えられなくなって飛び出してしまい、さまざまな経験をすることになるんですけど、視点がユニークで。きれいごとじゃないのがいいんですよね」

2020年には映画『東京の恋人』(下社敦郎監督)に主演。そして2017年に公開された映画『地の塩 山室軍平』(東條政利監督)で「I WILL TELL INTERNATIONAL FILMFESTIVAL2020」の最優秀主演男優賞を受賞した。

映画『東京の恋人』は、結婚を機に映画監督という夢を諦めた主人公がかつての恋人と数年ぶりに再会。ひと時のアバンチュールの時間を過ごし、それぞれが戻らない青春と決別する姿を描いた作品。

「あれは濡れ場に初挑戦だったかな(笑)。何か、その都度自分の年齢に見合ったものだとか、新しいもの、ワクワクドキドキできるものに飛びつき続けていきたいですね」

『地の塩 山室軍平』は、慈善活動を行う日本救世軍の創設者で、社会福祉の先駆者として知られる山室軍平の生涯を描いた映画。

「日本での公開が終わって、2年後ぐらいに急に海外の映画祭を回りだして、コロナ禍だったのでリモートだったんですけど、『一応ノミネートされているから出てください』って言われて」

-最優秀主演男優賞と聞いたときは?-

「朝方、妻役の我妻三輪子さんとリモートで出ていたら、各国の人がいる中で急に名前を呼ばれて、『何か一言ください』って言われたんですけど、英語もしゃべれないし、『どうしよう?』みたいな感じで。『サンキュー、サンキュー、サンキュー』という感じでした(笑)。

自分が演技で賞をいただける日が来るなんて思っていなかったので驚きましたけど、めちゃめちゃうれしかったです。仕事はやっぱり役者なので、ものすごく励みになりました」

※映画『北風だったり、太陽だったり』
全国順次公開中
配給:マイターン・エンターテイメント
配給協力:ミカタ・エンタテインメント
脚本・編集・監督:森岡龍
出演:橋本一郎 足立理 川添野愛 フジエタクマ 浦山佳樹 松﨑翔平 宮部純子 飯田芳

◆コロナ禍で結婚。映画は“森岡流結婚報告”?

私生活では、2021年の年末に結婚。2022年1月1日にSNSで結婚したことを発表した。

「コロナでクサクサしていたところに結婚という、自分の中では一大イベントがあり、それを発表したら、みんなから『暗いニュースばかりの中で、こういうニュースが聞けて良かった。ありがとう』って言われたんですよ。

コロナで結婚式はあげられなかったですけど、僕が結婚したことでみんなをハッピーにできるというのがすごくうれしかったですね。それで、結婚を機に何か1本書いてみようと思ってシナリオを書いたのが、『北風だったり、太陽だったり』なんです。自分の人生を切り売りしながら映画を作るという感じですけど(笑)」

※映画『北風だったり、太陽だったり』=かつて人気絶頂だったときに暴力事件を起こして解散したお笑いコンビ“北風と太陽”のマネジャーだった葉山(橋本一郎)は、自身の結婚を機に、ボケ担当で服役中の金井(飯田芳)に報告するため、元相方・奥貫(足立理)とともに刑務所に向かう。

-プレスシートに「これは森岡流結婚の報告です」と書いてありました-

「そうです。まだ面と向かってお話ができていない方もいるので、映画公開を機にいろんな人にまたちゃんと報告できたらいいなと思って」

-撮影はいかがでした?-

「準備期間が1週間ぐらいしかなかったのでバタバタだったんですけど、せっかく映画を作るならコロナで本当に絶望の淵を見ているし、味わい尽くしてやろうという感じで、お金はかかるけど16ミリフィルムで撮ったんです。

ずっとフィルムで映画を撮りたいと思っていたので、本当に楽しかったですね。自分のやりたいように、好きな仲間で好きなように撮らせていただいて、とにかく楽しかったです」

©マイターン・エンターテイメント

-『ニュータウンの青春』から約10年ですが、キャストもスタッフもほとんど皆さん再集結されたそうですね-

「はい。各々(おのおの)が10年経っても頑張り続けていたということが、すごくうれしい。だからこそできたわけなので」

-途中で撮影ができなくなるかもしれないという危機もあったとか-

「そうなんですよ。途中で大雪が降っちゃって、撮影を中断しないと東京に戻れないんじゃないかみたいなことがありましたけど、ほとんど順撮りでやっていたので、雪が降ったら降ったで生かして撮っていくみたいなことが功を奏しましたね。

あとはコロナ禍で映画を作るということに本当にゼロからぶつからなきゃいけないみたいな状況で、変なうんちくとかそういうものはいらないという感じで臨んでいたので、雪が降って、目の前に撮りたい人がいて、その人たちが動いているのをフィルムでカラカラ撮っているだけで、もう十分でした。

『北風だったり、太陽だったり』も『プレイヤーズ・トーク』もそうですけど、仲間に仕事を振れるという喜びが大きかったです。

コロナ禍で僕も本当に死にたくなるくらい追い詰められちゃったし、皆さんもそうだと思いますけど、かなり死が間近に感じられて切迫していたから、自分が映画を作ることによって俳優部のみんなに仕事を振れるということが、一個のすごいモチベーションにはなっていましたね」

©「プレイヤーズ・トーク」製作委員会

※映画『プレイヤーズ・トーク』
2022年12月24日(土)より渋谷ユーロシネマほか全国順次公開
監督:半田健 森岡龍
出演:森岡龍 前野朋哉 西野入流佳 美馬アンナ 中上サツキ 松木エレナ フジエタクマ 足立理 芋生悠 豊原功補

クリスマスイブの2022年12月24日(土)に公開される短編映画『プレイヤーズ・トーク』は、主人公の映画監督・並木道夫(森岡龍)が、俳優やプロデューサー、脚本家などギョーカイ人たちと繰り広げる会話劇を4編のエピソードで描いたもの。

「『プレイヤーズ・トーク』は、1話と3話を撮った共同監督の半田(健)さんに『何か撮らないか』とお声がけをいただいて撮りました。本当にコロナで何もなかったので、向き合えることがあるほうがいいから、『ぜひ、ぜひ』みたいな感じで。

でも、やっぱり予算がないので、ワンシチュエーションで、『コーヒー&シガレッツ』(ジム・ジャームッシュ監督)みたいな会話劇にしてくれというオファーだったので、コロナ禍でフツフツしていたものだとか、セクハラ、言葉狩りみたいな制限、コンプライアンス…そういうものを題材に詰め込んだらおもしろいんじゃないかということで、『プレイヤーズ・トーク』は作りました」

-みんな思ってはいるけど、なかなか言えないことをよくぞ言ってくれましたという感じでした-

「本当ですか。いろんな人を敵に回しそうで、ヒヤヒヤしているんですけど(笑)。でも、表現の仕方が制限されてしまうので、みんなおかしいとは思っているでしょうね。

僕も事前に必ず妻に脚本をチェックしてもらって、女性から見て不快じゃないかとか、かなり気をつけています。今度初めてプロデュース作をやるんですけど、オーディションの際にハラスメントポリシーなるものを提出して、必ず女性の方、男性の方がいる場にするとか。もちろん怒鳴ったりもしませんし、気をつけています。

僕自身は、エミアビの監督や、初めて舞台に引っ張り上げてくださった豊原功輔さんもですけど、育てていただいたのは厳しい演出家だし、厳しい演出家にこそ出会いたいんですよ、まだまだもっともっと厳しくされたいんです。

だからこれからの役者が厳しい指導を受けられなくなったときに、どうやって成長していくんだろうって思うことはあります。やっぱり自分では剥けない殻みたいなものって絶対にあると思うので、それについてはどうするんだろうって思いますね」

-今は怒るに怒れない状況ですからね-

「そうなんですよ。『結局、恥をかくのは自分だよ』って。厳しさというのは優しさの裏返しだと思うから、それに気づいている人であれば、そういう厳しさを求めて『もっと言ってください』って言うんですよ。

幸いうちの若手も『厳しく言ってくれるほうがありがたいです』という人がそろっているので、怒鳴りはしませんけど、厳しく指導するときは指導しています」

©「プレイヤーズ・トーク」製作委員会

-今後はどのように?-

「役者をやりながら映画を作っていきたいですね。来年(2023年)は役者として舞台を1本やるんです。公開される映画もありますし、1年に1本ぐらい映画を作っていけたらなあと思っています。

コロナでいろいろきつかったですけど、無理をして事務所も借りて、映画を作らないといけない環境にまず自分の身を置いちゃったので、年に1本は映画を作らないと意味がないですよね。

それと、年1くらいのペースで自分が監督しなくてもいいし、何か作りたいのに作るチャンスがない人たちにそういう場を与えてあげられたらそれもまたステキなことだなあって思っています。『どうやってお金を集めるんだ?』とかいろいろありますけどね(笑)」

-ご結婚されたことで変わったことは?-

「規則正しい生活になりました。来年4月に子どもが生まれるんですけど、それが結婚よりもまた大きく自分を変えてくれそうというか、変わらなきゃいけないタイミングが来るかなと思っています(笑)」

初めてのお子さんの誕生に目を輝かせる。俳優として、映画監督として、さらなる活躍に期待している。(津島令子)

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