林家たい平、さまざまな“挑戦”の理由は「初めて落語を聞く人の落語家になりたい」

公開: 更新: テレ朝POST

2006年、林家こん平師匠の代打として『笑点』(日本テレビ系)に大喜利メンバーとして出演することになった林家たい平さん。

子どもの頃から家族そろって見ていた人気長寿番組で、出演者は大先輩の師匠ばかりの中にいきなり加わることになって2022年で17年目。落語だけでなく、『芝浜ゆらゆら』で歌手デビューも果たし、ラジオパーソナリティー、ナレーターとしても活躍。2010年から武蔵野美術大学客員教授(芸術文化学科)に就任し、かつての教師になるという夢も実現。

さらに2014年に公開された映画『もういちど』(板屋宏幸監督)では、企画・主演・落語監修をつとめ、俳優としても話題に。現在、主演映画『でくの空』(島春迦監督)が公開中。

 

◆林家こん平師匠の弟子になるのは運命だった

母親が「オレンジが好きな人に悪い人はいない」と言うほどオレンジ色が大好きで、小さい頃からオレンジ色の服をよく着せられていたたい平さん。子どもの頃から『笑点』でオレンジ色の着物姿の林家こん平師匠が強烈に印象に残っていたという。

「オレンジ色の着物ということもですけど、うちの祖父も同じ新潟出身で軍平という名前ですし、縁とかつながりというものを感じます。だから僕は、こん平のところに行くべくして行ったんだと思います」

-こん平師匠の優しそうな笑顔は見ているだけで幸せな気持ちになりました。たい平さんからご覧になってどんな方でした?-

「みんなに愛されていました。どんなに疲れていても街中などで『こんちゃーん』って声をかけられると、『あーっ』ってニコニコしながら手を振って応えている姿を後ろに付いて見ていましたから、やっぱり人に愛されなきゃなあというのはすごく感じていました」

-結構厳しいことも言われたりしたのですか-

「いいえ、『修業中は嘘をつくな』とか、『社会人として間違っていることをするな』というようなことは言われましたけど、落語について『ああしなさい、こうしなさい』というようなことは言いませんでした」

-こん平師匠に言われたことで一番印象に残っていることは?-

「いつも『お前は少し真面目すぎるから、稚気(ちき)を持ちなさい』って言われていました。もっと子どものように自分の感情をそのまま出して…ということだと思うんですけど、『とにかく人から愛される芸人になりなさい』って常日頃から言われていました。

『何とかあの子を助けてあげたいとか、そういうふうに思わせるようじゃないとダメだよ』って。こん平は、どんなに忙しいスケジュールの中でも空き時間があると楽屋でお礼状を書いていました。みんなから本当に愛されていましたし、お客さんを大切にしていましたね」

 

◆落語を初めて聞く人の落語家になりたくて

たい平さんは、1992年に二ツ目になった頃からラジオの仕事を始め、2006年には『芝浜ゆらゆら』で歌手デビューも果たした。

「ラジオの仕事はずっと途切れることなくいろんなところでおしゃべりさせていただいているのですが、ラジオは言葉で伝える仕事なので落語にも直結しますし、すごくいいお仕事ですね。自分も楽しいし、落語に一番近い仕事だと思います。

ほかにはナレーションの仕事をさせていただいたり、映画に出演したり、歌も歌わせていただいたりしていますけど、それはそこで有名になるというよりも、落語に接してもらうきっかけ作りになればいいなと思っているんです。

今でも30年くらい前に僕が出ていた文化放送のラジオで、外で中継をしていた僕の声を聞いて、『この子の落語を聞きに行こう』って寄席に来てくれた方が、それからずっと、もう30年近くいまだにファンでいてくれたりするんですね。

そういうきっかけは落語家にとってとても大切で、僕は初めて落語を聞く人の落語家になりたいと思っているので、今言ったみたいに『ラジオに出ている林家たい平さんっておもしろいけど、落語家なんだ。じゃあ、この人の落語を聞きに行ってみよう』ってなればいいなあって。

落語というボールだけでは届かなくても、歌とかラジオ、ナレーション、映画といういろんなボールを自分の中に持つことで、出会うきっかけを増やしたい。それがいろんなことに挑戦する理由なんです」

-CDも出されていますし、オーケストラをバックに『青雲の歌』を歌っているCMも放映されていますね-

「あれは緊張しました(笑)。カラオケだったら何度でもできますけど、オーケストラの皆さんに『もう一度お願いします』とはなかなか言えないので。でも、一発OKくらいだったんですよ。『OKだけど、もう1回ずつ撮りましょう』という感じでした。

あれも本当に人との出会いで、僕は呼ばれたら一生懸命自分ができることすべてやるというのがポリシーなんですね。

日本香堂さんが毎年夏祭りをおやりになっていて、最後にみんなで『青雲の歌』を歌ってお祭りが終わるんです。それで、僕が楽屋で指導といったらおかしいですけど、『大きな声で歌いましょう』と言ってみんなで歌ったのを(日本香堂の)会長さんが見ていてくださったみたいで。

それで新CMで『青雲の歌を今度は誰に歌わせようか』となったときに、『夏祭りのときに一生懸命歌っていたたい平に歌わせよう』って言ってくださったそうなんです。それを聞いてめちゃくちゃうれしかったです。

子どもの頃から聴いている歌ですし、それまで歌っていた人たちがみんなすごい人だったのに、それが急に落語家ですからね(笑)。

最初は歌だけ使って映像はアニメの予定だったんですけど、歌を撮っているときに会長さんが、『これをそのまま流したらいいじゃないか』って言ってくださって、僕が歌っている映像も使われることになりました」

©2022 チョコレートボックス合同会社

◆映画館を落語の寄席に見立てて

2014年、たい平さんが企画・主演・落語監修をつとめた映画『もういちど』が公開に。これは、落語の中でも有名な噺の数々をストーリーに取り入れて描いた人情時代劇。ある悲しい出来事から噺家修業を諦めた主人公が、一人の少年と出会ったことをきっかけに再生していく様を描いたもの。

「(コンサートや舞台のライブビューイングのように)“映画落語”ができないか、というのから最初始まりました。落語の寄席というものが地方にはないけど、全国に映画館がたくさんあるので、その映画館を寄席に見立てて一人でも多く落語に出会って欲しいと思ったんです。

からだは一つしかないけど、映画になればいろんなところで林家たい平の落語を上映することができると思って、最初は映画落語というのを作りはじめたんです。

第一回は桂歌丸師匠とかに出ていただいて、最初の2作ぐらいは映画落語、普通の寄席で楽屋も撮ったりして。それで、もうちょっと映画館で上映するような映画に寄った落語をできないかなと提案したときに板屋(宏幸)監督と出会って、あの映画ができたんです」

-今回の映画にも通じるんですけど、つらいことを経験して前に進めなくなってしまった人が再生していく心温まる作品ですね-

「そうですね。『もういちど』のときは、まさに東日本大震災直後で、板屋監督も何とか映画で元気づけられないかなという思いがあって、その思いと映画落語を一つにして作ってくださった作品です」

©2022 チョコレートボックス合同会社

※映画『でくの空』
ユナイテッド・シネマ ウニクス秩父、ユナイテッド・シネマ ウニクス上里及びアップリンク吉祥寺ほか全国順次公開中。
配給:アルミード
監督:島春迦
出演:林家たい平 結城美栄子 熊谷真実 林家ペーほか

現在、主演映画『でくの空』が公開中。この映画は、埼玉県・寄居町や秩父市を舞台にした、仕事中の事故で部下を亡くした男の心の再生の物語。

たい平さん扮する主人公・周介は、長年ともに働いてきた従業員を工事中の事故で亡くしてしまったことから店をたたむ。妻子と別居して父(林家ペー)の元に身を寄せ、姉(熊谷真実)が営むよろず代行屋を手伝うことにして、亡くなった従業員の母・冴月(結城美栄子)の世話を焼こうとするが…。

-長い間コンビを組んで働いていた部下が仕事中の事故で亡くなってしまう…という切ない設定でしたね-

「そうですね。でも、生きていると多かれ少なかれみんないろんな経験をされていて、コロナ禍の中で、命を絶ってしまう人もいたじゃないですか。いろんな意味で困難なことはたくさんありますけど、乗り越えていく一助にこの映画がなってくれたらうれしいなあと思っています」

-罪悪感に苛(さいな)まれる主人公、亡くなった部下の母親の怒り、それぞれの複雑な心情がとても繊細に映し出されていました-

「結城美栄子さんが亡くなった部下のお母さんの感情をしっかりと表してくださったので、僕もすごく入っていきやすかったです。

最初拒絶するところは本当に拒絶されたので、何とかこじ開けて心の中に入っていきたいという思いになりましたし、結城さんのお芝居にどんどん自分の気持ちが揺さぶられていきました。すごかったです。普段落語ではできない経験でした。

落語家が映画をやっているのではなくて、役者として呼んでもらっているので、役者としてちゃんと結城美栄子さんという名俳優さんに向き合うことが大切だとわかりましたし、今回は本当に勉強になりました」

-撮影で印象に残っていることは?-

「撮影が3月の寒いときで、一番ハイライトのシーンが深夜の撮影だったんです。結城さんに何かあってはいけないという思いがリアルにありました。

すごく寒かったんですよ。それで、ようやくうまくいったと思っていたら、『OK』という声がかかる直前くらいに『ハックション』って聞こえてきて、『えーっ!?』って言ったら、結城さんのご主人だったんです(笑)。音楽を担当してくださっていたご主人(猪野佳久さん)のクシャミで、もう一度撮り直しになってしまいました(笑)」

-それは大変でしたね。父親役が林家ペーさんというのは驚きでした-

「そうですよね。僕も最初に聞いたときはビックリしました。セリフがいっぱいあるので、大丈夫かなって(笑)。シリアスな芝居をしているところを見たことがなかったので。

でも、撮影が進んでいく中で、朴訥(ぼくとつ)としたお父さんというのが、ペー師匠じゃなかったら描けなかったんじゃないかなと思うようになりました」

-とても心温まる作品ですね-

「ありがとうございます。すごい大事件やドンパチがあってという映画ではないですけど、とても心にしみる映画なので、一人でも多くの方に見てもらえたらいいなあと思っています」

-たい平さんの地元・秩父に映画館ができて、こけら落とし作品として公開されました-

「はい。29年ぶりに映画館ができました。秩父の人は、映画を観るために池袋に1時間電車に乗って行っていましたからね。

でも、子どもが自転車に乗って映画館に行ったり、友だちやカップルで映画を観るとか…その町の映画館ならではの出来事もあると思っているので、映画館ができたのは本当にうれしいです」

 

◆長男と父子役で共演!YouTubeでは立場が逆転?

映画『でくの空』ではたい平さんの長男でお弟子さんでもある林家さく平さんが息子役で出演し、父子共演を果たした。

「今はまだ修業中の身ですけど、いろんなことを経験させたいと思っています。落語家というのはあまり多くのスタッフに囲まれてやる仕事ではないんです。同業者に囲まれていることが多いので。

たくさんの人が携わって一つの作品を作る映画という場所を経験できたことだけでも、彼にとっていい経験になったと思います。そしてちょっとだけ映画の先輩として僕がお芝居することで、横にいる彼にも何か伝わったんじゃないかなって。彼のお芝居がどんどん変わっていったので、それは横で見ていて楽しかったです」

-息子さんに「落語家になりたい」と言われたときはどうでした?-

「僕は親の反対を押し切って落語家になっていますので、何をしたいと言っても反対をする気は一切ありませんでした。それは一番近くで見ている商売だから、そうなる気持ちもわかるので、『落語家になるって大変だよ』って言ったくらいです。でも、自分がなりたいものになったほうが人生はいいと思っています」

-うれしいという気持ちはありました?-

「父親がやっている仕事が嫌いだとか、父親が嫌いだったら、同じ世界に入ろうとはきっと思わなかったと思うので、そこだけはすごくうれしいですね。でも、本当に大変な世界だということは僕が一番わかっていますから、大変だろうなあとは思っています」

-たい平さんのYouTubeもさく平さんが手伝ってくださっているとか-

「はい。それはすごいんですよ。僕ができないことを全部やってくれるので、それは助かっています。

コロナがなかったらずっと弟子と師匠の関係なので、どこか窮屈だったと思うんですけど、コロナ禍で色々制限があって落語ができなくなったときにYouTubeチャンネルを開設したんですが、YouTubeではディレクターと出演者なんですよ。

だから完全に立場が逆転でしょう? それに尊敬もできるじゃないですか。そういうものがあったおかげですごく良かったなあって思います。

『あそこ撮ったやつ使われなかったんだけど』って言うと『いや、あそこはあまりおもしろくなかった』なんて言われて『そうだよね』って(笑)」

-いい関係ですね。ストレス解消はどのように?-

「昔から猫が好きで、今、保護猫を4匹飼っているんです。2歳半が3匹と1歳半が1匹。このところ急激に僕になつくようになって、それがすごくうれしいんですよ。僕のなで方がすごく気持ちいいみたいです(笑)。4匹のうち1匹はカミさん派ですけど、3匹は僕派。猫は本当に可愛いです。見ていると癒されますね」

-今後はどのように?-

「実は、僕は何かやりたいと言ってやっているのではないんですね。“出会い”と“縁”と“受け身”でいろんな経験をさせていただいているんです。

マラソンを走らせてもらったときも、誰かの頭に『たい平を走らせよう』とか、映画も監督の頭に『たい平を主演で』ということで形になって。その誰かの思いに応える仕事だと思っているので、自分からあれをやりたいこれをやりたいというよりは、『たい平にあれをやらせたらおもしろいだろうな』と言ってくださる方の思いにいつでも応えられる自分でいたいと思っています」

公開中の主演映画『でくの空』に加え、テレビ、ラジオ、CM、自らの独演会や全国での落語会など超多忙な日々。マルチな才能を発揮し、勢いが止まらない。(津島令子)

PICK UP