黒沢あすか、小さい頃に憧れた“男を誘う”女優たち。母の三面鏡の前でマネした台詞は「私でいいの?」

テレ朝POST

2002年、塚本晋也監督の映画『六月の蛇』に主演し、第34回シッチェス国際映画祭最優秀主演女優賞をはじめ、国内外で多くの賞を受賞して注目を集めた黒沢あすかさん。

多くの映画、ドラマに出演し、2011年に公開された映画『冷たい熱帯魚』(園子温監督)のエキセントリックな鬼気迫る演技が話題になり、ヨコハマ映画祭助演女優賞受賞。

舞台にも活躍の場を広げるが、2012年に突発性末梢性めまい症を発症。一時は仕事ができない不安にかられたというが、4カ月後に復帰。2017年にはハリウッド映画『沈黙-サイレンス-』(マーティン・スコセッシ監督)に出演。2022年3月5日(土)に主演映画『親密な他人』(中村真夕監督)が公開される黒沢あすかさんにインタビュー。

 

◆テレビの中で繰り広げられる大人の世界に憧れて

神奈川県で生まれ育った黒沢さんは、小さい頃は年下の男の子たちを引き連れて自転車を乗り回して江ノ島まで遊びに行っていたという。

「私が住んでいた地域では年下の男の子が多くて、女の子のお友だちが少なかったんです。だからいつも男の子たちを引き連れて遊んでいました。太陽が昇ったらみんなで声を掛け合って遊び、太陽が沈みかけてきたら『みんなそろそろ帰ろうか』って。やんちゃでした」

-11歳から子役としてお仕事をされていたそうですが、芸能界に興味を持ちはじめたきっかけは?-

「芸能界というふうには考えていなかったんですけど、子どもだから夜9時には『早く寝なさい』って、四つ離れた兄と同じ部屋に押し込められていたんです。

夜中にトイレに起きたときに両親たちがいる居間のドアを開けると、たまたまですけどテレビで男女がキスをしていたり、あるいは女性が悩ましく男性を誘っていたりとか、そういう子どもにはドキッとするようなシーンをやっていて。

当時は大人の女の人というと自分の母親しか知らなかったので、『こんなに色気を振りまいて男を誘う人がいるんだ。この女優さんたちは色っぽいなあ』と思って驚いて見ていたんです。驚きとともに、『あんな風に自分もなりたい』と、どこかひそかに思った瞬間でもありました。

それからそっとテレビを覗き込む時間が増えていくとともに、女優さんたちが言っているセリフでピンと響いた言葉があって、それが艶っぽい声で、『私でいいの?』って言っている声。それがビビッと響いて、それから母親の三面鏡の前で母親の化粧品を出しては、『私でいいの?』って、子ども心にいろんな声のトーンでやっていました(笑)」

-そのときはまだ小学生ですよね-

「そうです。その当時新聞広告で土日には必ず『新人タレント募集』という記事が出ていたんです。そこに入学すればテレビに出られてCMにも出られると書いてあって、『うわーっ、これいいじゃん』って思って親に内緒でいろんなところに応募していました。

一次審査二次審査と受かってくると先方からお手紙が届くんです。親に気づかれないように郵便受けから取っていたんですけど、ある日取り忘れたら母親が取ったようで父親にその手紙を渡して『あすかが何か怪しいことをしている』って告げ口したんです。

それで父親が驚いて『何をやっているんだ? 事件事故に巻き込まれたらどうする? ふざけてやることじゃない』って言って、そのやりとりを何回か繰り返した後、最終的に父親が、『本気なのか?』って言ったんです。

それで、当時ある劇団だけが、入学金がものすごく高くて、『俺はそこまでは出せないけど、もうちょっと安い授業料だったら払える』って言ってくれたんです。『そのかわり、仕事が来た場合には劇団からの電話の応対、自宅付近の駅から撮影所や集合場所まで全部自分1人で行けるか?』って確認されて、『わかんないけど行かせてくれるんだったらできるって言ったほうがよさそうだな』と思ったので、『できる、できる!』って返事をして(笑)。

それで運良く受かった劇団に入学ができました。だから芸能界に入りたいではなく目立ちたいという、その一心でした」

※黒沢あすかプロフィル
1971年12月22日生まれ。神奈川県出身。11歳から児童劇団に所属して子役として活動。1993年、映画『愛について、東京』(柳町光男監督)のヒロインに抜てきされ話題に。1993年、『野菊の墓』(テレビ東京系)に主演。『あすなろ白書』(フジテレビ系)、映画『六月の蛇』、映画『冷たい熱帯魚』、映画『沈黙-サイレンス-』、映画『楽園』(瀬々敬久監督)、映画『昼顔』(西谷弘監督)など多くのドラマ、映画に出演。2019年には私生活のパートナーでもある特殊メイクアップアーティスト・梅沢壮一さんが監督を務めた短編映画『積むさおり』に主演。アメリカ・サンディエゴで開催のHorrible Imaginings Film Festival短編部門で最優秀主演女優賞受賞した。2022年3月5日(土)に主演映画『親密な他人』の公開が控えている。

 

◆オーディションで映画のヒロイン役に

児童劇団に所属し子役として芸能活動をスタートした黒沢さんは、1993年に公開された映画『愛について、東京』のヒロインの中国人・アイリン役に抜てきされる。

※映画『愛について、東京』(柳町光男監督)
日本で差別を受けながらもアルバイトをして日本語学校に通う北京からの留学生・方純は、日本で生まれ育った中国人少女・アイリン(黒沢あすか)と付き合いはじめる。しかし、仲間たちとパチンコ店でイカサマをしたことがバレてしまい、オーナー(藤岡弘、)にアイリンを差し出すことに…。

-アイリン役はオーディションですか?-

「はい。今思うと柳町監督は、アイリンという女の子をわからせるために、『羅生門』(黒澤明監督)、それから『少女ムシェット』(ロベール・ブレッソン監督)、『赤線地帯』(溝口健二監督)、『気狂いピエロ』(ジャン=リュック・ゴダール監督)、その他にもまだまだいっぱいあったんですけど、言われた中でその当時、18歳の私が観ることができた作品がその四つで、観た感想をレポート用紙にまとめて来いということでした。

いつも東中野のポレポレ坐が待ち合わせの場所で、喫茶店で読んでくださって、ほかに何か感じたことはあるかと聞かれました。いつも監督とお会いするときは、私一人だけなんです。

でも、噂ではほかの女優さんもオーディションに参加しているらしいということでしたし、結構長い期間だったので、私が受かっているのか、落ちているのか、どういう状況なのか…さっぱりわからなくて。

だから不安でした。不安と『もうこんなのいいんじゃないかな』という諦めの気持ちになったり、かと思うと奮い立たせる自分がいたり…そういう時間を過ごして『受かりました』って言われた印象もとくに残っていないんです。気がついたらもう衣装合わせということになっていました。

でも、『愛について、東京』が完成して、東京国際映画祭での舞台あいさつも監督とご一緒したあとで、監督やプロデューサーさんたちと一緒にテーブルを囲んでいたときに聞かされたのが、プロデューサー側は無名の私を使うということには大反対だった。なぜならそれはもう1人の主演の方純くんが素人だから、宣伝活動などいろんな意味で力がない。もっと確かな人材が欲しいと言われていたらしいんです。

だけど柳町監督が『やっぱり彼女が1番いいんだ。なぜなら、彼女はパッと初めて見た瞬間から大地の匂いがしたから』っておっしゃってくださっていた。それで、もう変えることができなかったそうなんです」

-難しい役でしたね。中国人なんだけど日本で生まれ育って日本語しか話せない-

「さっぱりわからなかったです。とくに女性として藤岡弘、さんを役柄上ですが誘う。それは中国人の彼との関係をもっと豊かなものにするため、いろんな意味を込めて近寄っていったはずなのに…という、そこの言動だったり行動だったりが、難しかった。どうしたらいいのかわからなかったです」

-最初はすごく可憐で可愛らしいアイリンが、お金持ちの藤岡さんと付き合いはじめて外見がガラッと変わっていく。あの変貌ぶりがすごかったです-

「あの当時自分で気がついたのは、セリフで男性を誘ったり何かをするというのは、自分で難しいと感じるけど、たとえば(映画のシーンで)日本刀を持ってちょっとした愛を交わすような動きのあるものになると平気なんだと感じた瞬間でした」

-『愛について、東京』はなかなか取り上げるのが難しい内容でした-

「そうですね。テレビでは放送できないでしょうし。冒頭の牛が殺されるシーンから衝撃的でした。あの当時もいろんなものに引っかかるということで、大人たちが難しい会話をしているなあという印象がありました」

-初めてヌードでラブシーンもありましたけど、抵抗感は?-

「まったくなかったです。それはあの当時の私でも、これがチャンスになるのであれば、裸の一つや二つという思いがありましたし、それと、下着をつけて男性を誘うよりも、そういったものがない状態で自分のからだをさらしたほうが自分らしい感じがしましたし、そっちのほうが自分のからだがきれいに見えるという認識はありました」

-たしかにすごくきれいなヌードでした-

「ありがとうございます。でも、肉付きが良くて当時も言われたんです。『お前は肩幅があってお尻も大きい。日本人の女優さんの華奢さがない』って。でも、そういうものも含めて柳町監督は、『大地の匂いがする』っておっしゃってくださったと思うんです。

だから必要だったことだと思うんですけど、いつも『男みたいだ』といじられることが多かったので、裸であろうと何であろうと、初めて受け入れてもらえて、『それでいいんだよ』って言ってもらえたのがすごくうれしかったんですよね」

-あの作品に出演したことで女優として生きていく決意はかたまりましたか?-

「そうですね。まだ10代でしたけど、東京国際映画祭にも出席できたものですから、私はもうこれで有名になれるかもなんて軽く考えていました。お仕事もバンバンいただけるようになるだろうし、自分の進む道は明るいぞって思っていました」

 

◆初主演ドラマでショッキングなことが…

『愛について、東京』が公開された翌年、黒沢さんはドラマ『野菊の墓』(テレビ東京系)に主演することに。

「念願の民さん役でしたけど、現場でスタッフさん、照明の方から『何か今までの民さんに比べたら骨太だよね。華奢さがないよね』って言われて、あれは奥歯を噛み締めましたね。

もちろんわかっているんです。今までの民さんと違うということは。とくに私も見ていた『野菊の墓』の民さんは松田聖子さんでしたから、全然違うということはわかっていたんです。

だけど、なぜ自分が選ばれたかというと、『愛について、東京』があったし、見た目だけではなく、内面をこの子は表現してくれるんじゃないかと思って、お声をかけてもらったんだろうと。

そういうところに自信をちょっと持って演じていたところに入ってきた言葉だったのでショックでした。『そうすると日本で私がやっていくのは無理なのかな。受け入れられないのかな。私の何がダメなんだろうか。だったら痩せるしかないなあ』とか…。

当時は、すべての人がいいと言う、異を唱える人が1人もいない状況に自分を持っていかなきゃいけないと、そういう風な考え方になっていたんです」

-そんな人はいないんですけどね-

「そう。いないんですよね(笑)。それでまた『野菊の墓』の相手役の男の子が細かったんですよ。あの細さは少年の細さなんです。だけど私は21歳で胸も大きくなってきている。アイリンもやったことによって、いろんな女の情念だったり、そういったものもわかってきているので、なかなかやっぱりそこは消せないですよね」

-オンエアをご覧になっていかがでした?-

「何も感じなかったです。なぜ何も感じなかったかというと、やっぱり現場で言われた『今までの民さんと違うよね』という言葉が頭にインプットされているので、もう自分の中で認められなくなっちゃったんですね。もうこれじゃないんだって。次なんだと。だから次にお仕事をいただけるためになんとかしなきゃという思いでいっぱいでした」

 

◆主演映画『六月の蛇』が海外でも高く評価されて

2003年、塚本晋也監督の『六月の蛇』に主演。この映画で黒沢さんが演じたのは「心の健康センター電話相談室」でカウンセラーとして働くりん子。セックスレスで潔癖症の夫(神足裕司)と二人暮らしだが、ある日突然、かつて自分が自殺を思いとどまらせた相談者の飴口(塚本晋也)から自慰行為をする彼女の写真の束が送られて来る。りん子は写真と引き換えにさまざまな要求をされることに。

「この作品もオーディションでしたけど、台本にはロングヘアを1本縛りにしているって書いてあったんです。当時、私は仕事で髪の毛をショートカット、坊主刈りみたいな感じで短かったので、その段階で落ちるかもしれないって思ったんです。

だけど、髪型なんてどうにでもなるし、挑んでもいないのにダメだと思うのは私らしくないなと思ったので面接に行って。そのときに多分キーポイントになったと思うんですが、私はヘルパーの資格をとっていたんです。

そのときに『いろんな人たちの悩みや何かを共有しようとするときには、言葉の後に必ず“?”をつけて話しかけると、相手は自然と実はですねって自分の胸の内を話すようになるということを学んだんですよ、介護をしながら』というお話をしたら、そこに飛びついてくれたんです。ですから、心の相談室のシーンに関してはアドリブなんです。言っているセリフも、『お好きにやってください』と言っていただいたので」

-海外でも高く評価されて話題になりました-

「そうですね。当時、柳町(光男)監督が観に行ってくださったそうなんです。『“六月の蛇”を観たよ。すばらしかったね』って、あの褒めたことのない柳町監督が、すごく褒めてくださったんです。『すばらしい、本当にすばらしい。成長しましたね』って言ってくださって、本当にうれしかったです。

『愛について、東京』のときには一度も褒めてもらえないまま終えていたものですから、『どういうふうに私のことを見てくれているのかな? 私のことを覚えてくれているのかな? 気がついてくれることってあるのかな?』なんて思っていたので」

-演技力も高く評価されて賞も受賞されましたが、実感は?-

「意外とそれがなかったんです。たしかに色々取材はしていただきましたけど、実感はあまりなかったです。海外で認められて賞も取ってきた作品なのに、そんなに変わってないなあって。『日本で本当に“六月の蛇”という映画は浸透しているのだろうか?』とちょっと疑問でした。ですから私が『六月の蛇』の影響で仕事が増えたということはあまり感じず、またくすぶりはじめちゃったんです」

とは言うものの、次々とドラマ、映画の出演作が続き、2010年には黒沢さんご自身が「これまでの女優人生の集大成」だと感じたという『冷たい熱帯魚』(園子温監督)に出演。血まみれの鬼気迫る演技が話題を集めた。次回はその撮影エピソードなども紹介。(津島令子)

©2021 シグロ/Omphalos pictures

※映画『親密な他人』
2022年3月5日(土)よりユーロスペースほか全国順次公開
配給:シグロ
監督:中村真夕
出演:黒沢あすか 神尾楓珠 上村侑 尚玄 佐野史郎 丘みつ子
1年前に行方不明になった息子・心平の帰りをずっと待ち続けている46歳の石川恵(黒沢あすか)の前に、心平の消息を知っているという20歳の青年・井上雄二(神尾楓珠)が現われる。やがて二人は親子のような恋人のような不思議な関係に…。

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