『春になったら』木梨憲武“雅彦”に見る、幸せの極意

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『春になったら』木梨憲武“雅彦”に見る、幸せの極意

いくつになっても、親から学ぶことは多い。父との最期の3カ月を描いた『春になったら』(カンテレ・フジテレビ系、毎週月曜22:00~)。これは、父の背中を通して、娘が人生において大切なことを学び取っていく物語なのかもしれない。第4話を観ながら、そんなことを思った。

人を許した数の多い人ほど、きっと幸せなんだろう

幸せとはなんだろうと最近よく考える。

たとえば同じ境遇下にいても、自分の現状を幸せだと思える人もいれば、不幸せだと嘆く人もいる。なんなら、不幸せだと嘆くその人より、ずっと経済的に困窮していたり、人間関係が希薄であったりしても、幸せだと心満ちている人もいる。幸せとは、環境に由来するものではない。その人の心のあり方なのだ。

じゃあ、どんなふうに心を持てば、私たちは幸せを感じられるのか。椎名雅彦(木梨憲武)を見ていると、そのヒントが浮かび上がってくる。

第4話で最も強く心に残ったのは、「人にされたことは忘れなさい」ということ。雅彦には神健一郎(中井貴一)という旧友がいた。けれど、中学生の頃、神と好きな女の子の間を取り持つつもりが、逆に彼女から告白されてしまい、神から好きな女の子を奪う形となった。雅彦は半世紀近い時が流れた今も、そのことに負い目を抱いていた。

けれど、そんなささやかな行き違いよりずっとひどいことを雅彦は神にされていた。神の喫煙騒動に巻き込まれた雅彦は、2週間の停学処分に。そのせいで志望する大学の推薦を受けることもできなくなってしまった。当時野球部だった神は甲子園予選に出たいという保身で、真実を言い出せなかった。淡い三角関係より、ずっと苦い思い出だ。

だけど、当の本人はそのことをまったく忘れていた。このあっけらかんとした性格こそが、雅彦の幸せの極意なんだろう。自分が人を傷つけたり踏みにじったことは強く覚えていても、自分が人から裏切られたり貶められたことはすぐに忘れる。雅彦は、そういう人なのだ。

大抵の人間はそうはいかない。むしろ自分のしたことは棚に上げて、人からされた嫌なことばかりいつまでも根に持っている。逆に、人からもらった恩や心遣いはあっという間に忘れてしまうくせに、ほんの些細な自分の親切はいつまでも恩義せがましく覚えている。

なんにでも幸せを感じられる人と、そうでない人の差はここだ。人にしてあげたことは忘れなさい。でも、人にしてもらったことは忘れてはいけない。人にかけられた迷惑は忘れなさい。でも、人にかけた迷惑は忘れてはいけない。それを、雅彦はなんでもないことのように実践できている。だから、死を前にしても明るく笑っていられるのだろう。

当時の保身を詫びる神に、雅彦は「許す」と笑顔を浮かべる。この不寛容社会において、「許す」ことの重要性が見つめ直されている。もちろん「許さない」という強い気持ちが、社会を変えることもある。けれど、雅彦を見て思った。人を許した数の多い人ほど、きっと幸せなんだろうと。憎しみなんてずっと抱えていても、燃えないゴミとなって心に沈澱していくだけ。そんな負の感情は自分から手放してしまったほうが、ずっと身軽になれる。

廊下で雅彦と神のやりとりを聞いていた瞳(奈緒)は、改めて父の偉大さを知ったと思う。雅彦の周りがいつも幸せな空気で包まれているのは、彼の心が温かいからだ。

最も不憫キャラは、岸くんか黒沢くんか…?

雅彦と神の三角関係は、瞳と岸圭吾(深澤辰哉)、大里美奈子(見上愛)の3人の関係にそのまま投射される。美奈子が岸に想いを寄せていたことは、瞳も気づいていた。だけど、岸の好意が自分に向けられているなんてまったく思いもしていなかった。自分が鈍感なせいで、もしかしたらずっと美奈子を苦しめていたかもしれないと、瞳は謝る。美奈子もまたずっと本当の気持ちを隠していたことを謝る。美奈子から見れば、瞳は恋のライバル。だけど、その前に大切な友達。ちっとも陰湿にならない女同士の友情が令和らしい。

前回の予告では、雅彦が岸をいたく気に入った様子が挟まれていて、思わぬ援軍を得たように見えたけど、どうやら雅彦が岸を気に入ったのは、葬儀会社の人間として。おそらくここから自分の葬儀を準備するにあたって、雅彦は岸の力を借りようとしているようだ。つまり、娘の結婚相手としてはまったく見られていない模様。瞳自身も岸を異性として意識している素振りはゼロなので、今のところ岸は当て馬候補にすらなれていない。そんな不憫なところも、なんだか岸くんっぽくて愛らしい。

不憫といえば、コロコロと意向が変わる瞳と川上一馬(濱田岳)に振り回されっぱなしの黒沢健(西垣匠)もかなり不憫だ。いきなりゲストを増やしたいと言い出したかと思いきや、今度はその数を減らすと言う。なんとなく毎回「それは構いませんが……」と言っている気がするが、そろそろ「いい加減にしろや、ゴルァ!」とガチギレする黒沢くんも見たい。それはそれで萌え要素たっぷりなんで!