『いちばんすきな花』空疎な「わかる~」よりずっと尊い、多部未華子“ゆくえ”と今田美桜“夜々”の共感

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『いちばんすきな花』空疎な「わかる~」よりずっと尊い、多部未華子“ゆくえ”と今田美桜“夜々”の共感

作家に才能があるとしたら、それはきっと、あのとき確かに感じたのに、雑多な日常に追われて、いつの間にか忘れてしまった痛みやもどかしさを、記憶の引き出しから取り出して、鼻先がツンとなるような空気感までそのまま再現してみせる力だと思う。

生方美久は、その才能が突出している。だから、抜けない棘みたいに突き刺さる。

2人組が、苦手だった。そんなささやかな、わかる人にはわかるテーマから始まった『いちばんすきな花』(フジテレビ系、毎週木曜22:00~)。第2話も、わかる人にはわかる痛みが無数に散りばめられていた。

『いちばんすきな花』は、秘密の友達みたいなドラマだ

結婚式に自分だけ呼ばれていない疎外感。
わかってもいないのに「わかる〜」と共感したふりをする徒労感。
思ってもいない悪口に付き合うときの自分が汚れていくような虚無感。
気まずさを煮詰めたような移動教室の時間。
交換ノートを絶対に止めない人と、軽率に止める人。
わざと足音を立てて今来たばかりのように装う臆病さ。
負けたときに感じる、悔しさじゃなくて、恥ずかしさ。
そして、その恥ずかしさを感じ取ってしまったときの申し訳なさ。

なるべく思い出さないように封をしていた感情が、このドラマを観ていると呼び起こされる。外れた蓋から、胃を締めつけるような痛みがせり上がってくる。

でもそれと同時に、自分の気持ちをわかってくれる人がいることにうれしくなる。言葉にできなかった感情を言葉にしてもらえることに、つい心臓が跳ね上がる。

前作『silent』(フジテレビ系)のように大泣きする感じではない。そういうわかりやすい感動を、今のところこの作品は狙っていない。だけど、久しぶりに本音を言い合える友達を見つけたような高揚感がある。みんなといるときは親密な素振りなんて見せないのに、ふたりのときだけ急に砕けた顔になる、そういう類の友達だ、『いちばんすきな花』は。

4人は痛みに対する感度が似ているから通じ合えた

第2話は、初めましてだから何でも言い合えた4人が、二度目ましてを終えるところまで描かれた。交わるはずのなかった4人だけど、話してみると共通点が多い。

潮ゆくえ(多部未華子)は頭のいい人、春木椿(松下洸平)は都合のいい人、深雪夜々(今田美桜)は顔のいい人、佐藤紅葉(神尾楓珠)は調子のいい人。みんな何かしらの「いい人」で、誰かの気を遣わなくていい人になりたいのに、なれない。

そんな自分の席を見つけられなかった4人の居場所が、春木家のダイニングテーブルなのだろう。ここに座っていると、誰にも言えなかったことを素直に話せる。本音を言えたのは、初めましてだからじゃない。二度と会わない間柄だからじゃない。この4人だから、胸の奥底にしまっていたものを気負わずさらけ出せるのだ。

人と人の心が近づくのって、きっと居心地の良さなんだろう。性格が似てるからとか、趣味が合うからとか、そういうことだけじゃなくて。なんなら性格は正反対でも、好きなものはバラバラでも、居心地がいいと思う相手はいる。

この4人の場合、きっと痛みに対する感度が似ているんだと思う。夜々は思わず漏らした「よかった」を、紅葉に勘違いされないように必死に弁解する。椿は夜々の年齢を尋ねるのに、配慮に配慮を重ねて干支で確認しようとする。4人とも、人を傷つけることを極端に恐れる。それは、自分が傷つくことに敏感だからだ。自分が傷つきやすいから、相手の傷にもデリケートになる。

でも、中にはあんまり気にしない人もいる。だから、人の容姿を褒めるふりをして相手の内面を軽んじるし、人の夢を応援するふりをして調子よく利用しようとしたりする。そういうモヤモヤに何度もぶつかってきた4人だからこそ、そういうことをしないこの4人にホッとするのだろう。寒い夜に飲む温かいコーヒーみたいに。

ゆくえは、ずっと「わかる〜」と下手な作り笑いをすることで、集団生活をやり過ごしていた。本当の自分の気持ちは誰にもわかってもらえないと絶望しながら、無意味な「わかる〜」を繰り返してきた。

でも、ゆくえと同じように負けた側の気持ちに寄り添ってしまった夜々は、その場で簡単に「わかる〜」なんて言わなかった。そうやって相手の気持ちを簡単にしてしまうことをよしとしなかった。その代わり、別れ際に夜々はあなたの気持ちがわかるとゆくえに伝えた。それは、ゆくえがきっと何万回と繰り返してきたであろう空疎な「わかる〜」よりずっと特別なものに思えた。

二度目が苦手な椿が交わした「今度」

「今度」「あの二人に聞いてみますか」

椿は紅葉と、ゆくえは夜々とそう言い合った。自然と「今度」という言葉が出た。人と関係を築くことが苦手な4人にとっては、奇跡みたいなことだ。「今度、ご飯に行こうよ」。果たされもしない口約束を平気でする人はいるし、そういう空っぽの約束を人一倍嫌いそうな4人が口にした「今度」はことさら意味があって、いとおしい。

きっとこのドラマは、わからない人には全然わからないんだと思う。4人がつまずいているものは、本当に小さな小さな石で、そんなものに引っかかりもせず、つま先でコツンと蹴り飛ばして生きていける人の方が多いのかもしれない。

でも、中にはその小石が靴の中にまぎれこんで、ずっと気持ち悪いままの人もいる。『いちばんすきな花』は、そういう人のためのドラマだ。射程範囲は確かに狭いかもしれない。けれど、進入角度は間違いなく深い。そんなドラマがあってもいいと思う。

紅葉は、椿の家に予告してハンカチを忘れていった。それは、今度4人で集まるための口実。普通に召集をかければいいのに、そんな七面倒くさいやり方をするところが、このドラマらしい。でも、この忘れ物を取りに行くために、ゆくえと夜々と紅葉が椿の家を訪ねて、椿がコーヒーを淹れて、4人でテーブルを囲む姿を早く見たいなと思っている自分がいる。

1人でも生きていける時代に、1人と1人と1人と1人が集まって4人になる。その先に、どんな新しい関係が待っているのか。生方美久の描く答えが早く知りたくてしょうがないのだ。

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