男女の友情は成立する?『いちばんすきな花』が描く「2人」という関係の難しさ

公開: 更新:
男女の友情は成立する?『いちばんすきな花』が描く「2人」という関係の難しさ

生方美久の書く台詞は、どうしてこんなに自然に心に入ってくるのだろう。

かつて一度はどこかで感じた、だけど自分ではうまく言葉にできなかった想いを結晶化させたような台詞が、鼓膜を震わせ、まるでアルコールのように、あるいは優しい毒のように全身をまわり、私たちを虜にする。

社会現象を巻き起こした『silent』(フジテレビ系)から1年。待望の連ドラ第2作である『いちばんすきな花』(フジテレビ系、毎週木曜22:00~)が始まった。それは、決して『silent』がビギナーズラックでもまぐれでもなかったことを証明する、脚本家・生方美久の底知れぬ才能にただただ圧倒される最高の幕開けとなった。

山盛りポテトを2人で分けっこすることは、もう二度とない

もう名場面を挙げれば、キリがない。それくらい、一つひとつの場面に刺さる台詞と巧みな小道具使いが散りばめられている。

たとえば、潮ゆくえ(多部未華子)と赤田鼓太郎(仲野太賀)の別れの場面。ずっと仲の良い友達だった。2人の間に、邪な下心なんて何もなかった。だけど、年頃の男女が密室でふたりきりなんていうのは、常識のある人たちからすれば論外なのかもしれない。

結婚を決めた相手からゆくえとの関係を断つように求められた赤田は、ゆくえに別れを告げる。ゆくえとの付き合いの方がずっと長いはず。だけど、天秤にかけたとき、捨てられるのは、恋愛ではなく友情の方なのだ。同じ「2人」でも、恋愛と友情では重さが違う。

別れ話をするのは、いつものカラオケボックス。密室で2人きりにならないためにドアから顔だけ出しているところに、赤田のバカ正直さが出ている。そんな赤田だから、2人組になるのが苦手なゆくえでも心を許せたのだろう。

赤田がいなくなったら、買ったばかりのスタンプを誰に試し打ちしたらいいの。そう尋ねるゆくえに、芸能人の公式アカウントに送ればいい、すぐに返信もくれるから、と赤田は答える。そのやりとりが、重たい場面のはずなのに、ちょっと笑えて、本当に2人は得がたい友達だったんだな、と思う。

そして、ゆくえは歌う。結婚式のときに歌うはずだった木村カエラの「Butterfly」を。お祝いのはずだった曲が、二度と会うことのない友を送る別れの歌となる。赤田の方を見ずに手を振るゆくえが痛ましい。部屋を後にする赤田の横を通り過ぎるのは、いつも2人で食べていた山盛りポテト。赤田は、それをほんの少し一瞥して、だけど立ち止まることなく、前に向かって進んでいく。もうあの山盛りポテトを2人で分けることはない。もう「2人」には、戻らない。

お揃いで使うはずだったピンクのマグカップと、アイスの棒

春木椿(松下洸平)は、婚約者の小岩井純恋(臼田あさ美)を男友達のモリナガくんに奪われた。モリナガくんとは、友達じゃなくなっちゃった。純恋の告白に、椿は仲直りできるよと励ます。そういう意味じゃないことくらいわかってる。だけど、そういう意味であることを願ってしまう。目の前には、純恋との新生活で使うはずだったお揃いのマグカップが片方だけ置かれている。でも、もう片方が使われることはない。

ゆくえたちが家を訪れたとき、椿はピンク色のマグカップをゆくえに供すことをほんの少しためらって、それから佐藤紅葉(神尾楓珠)に手渡した。だって、ピンク色のマグカップは純恋のものだから。異性であるゆくえが使うと意味が生まれる。恋人でもない異性と「2人」になってはいけないのだ、椿は。

結婚指輪を、家の前の花壇に椿は埋めた。お墓みたいに、「オクサマ」と書いたアイスの棒を立てて。あれは、別れ話を切り出されたときの食べさしのアイスだ。形からして、たぶんパルムだろうか。森永乳業のアイスを食べながら、モリナガくんに寝取られた話を聞く。マヌケすぎて、ジョークにもならない。あのパルムは食べないまま溶けてしまったんだろう。残ったアイスの棒は、1人になった椿みたいだった。

雌雄同体のカタツムリなら傷つかずにすんだのだろうか

深雪夜々(今田美桜)はその華やかな容姿から同性には妬まれ、異性には下心を抱かれる。そんなのは、もう慣れっこのはずだった。だけど、同僚の相良大貴(泉澤祐希)は言う。傷つけられるのには慣れても、傷つかなくなるってことはないでしょ。その言葉がうれしくて、相良と友達になれる気がした。

だけど、相良は夜々を性的な対象としか見ていなかった。友達っていうのを、自分が男と遊ぶ言い訳にするの良くないよ。相良のお説教が、夜々をまた傷つける。傷つく心に絆創膏を貼ってくれた相手が、もっと深い傷をつける。夜々みたいな子を生きづらくさせているのは、相良みたいな男なんだということを相良自身がわかっていない。それどころか勝手に夜々を加害者にする。

夜々はカタツムリになりたいと言っていた。あれは、どういう意味だろう。カタツムリみたいに硬い殻があれば、傷つかずにすむという意味だろうか。それとも雌雄同体であるカタツムリなら、もう男とか女とか、そういう枠組みから自由になれるという意味だろうか。確かに性別なんてなければ、夜々も、きっとゆくえだって、傷つかずにすんだ。

幹事の務めを果たしていれば、1人で浮いていても誤魔化せる

そして、紅葉は誰とも「2人」になれない寂しさを抱えていた。誰からも好かれるけど、誰の特別にもなれない。同窓会に行っても、きっと最後は1人になる。だから、最初から面倒な幹事の役を買って出る。幹事なら1人で浮いていても、幹事の務めを果たしていれば、その場にいる意味を誤魔化せるから。誰と話していいかわからなくて、ひたすらみんなの注文を取ってまわることでやり過ごしていた、いつかの飲み会を思い出す。

久しぶりに友達からサシ飲みの誘いが来る。うれしくて、開けたばかりのカップ焼きそばの封をいそいそと閉じる。だけど、サシ飲みの目的はただの勧誘。結局、自分は便利に利用されるだけの存在でしかない。情けなくって、怒りも湧いてこない。もう一度、カップ焼きそばを食べるためにヤカンを火にかける紅葉がやるせない。

抜けるタイミングがわからなくて、結局最後の1人になってしまうグループLINEも、頑張っているのに思うように発注が来ないイラストの仕事も、同窓会に呼ぶためにわざわざ先生の家を訪ねる真面目さと、結局引っ越しをしていて空振りに終わる徒労感も。いいやつなのに、何もうまくいかない。気を遣えば遣うほど距離ができる。その器用すぎる不器用さが、なんだか自分を見ているみたいだった。

2人になれない4人が出会い、これから物語はどう進んでいくのだろうか。きっとこの中の4人がそれぞれ2人組になるような安易な展開は選ばないはず。かと言って、4人が無二の親友のようになる姿もまだちょっと想像がつかない。

恋愛でも友情でもなく。1人と1人がつながり合って、新しい関係を築き上げる。今回登場したガーベラの花束みたいに、1種類の花をまとめた花束も綺麗だけど、種類の違ういろんな花をアレンジメントした、世界でたったひとつの花束もまた美しい。

4人は、そんな花束になっていくのだろうか。

PICK UP