『最高の教師』芦田愛菜“鵜久森”が遺した、自分の人生を生きることの意味

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『最高の教師』芦田愛菜“鵜久森”が遺した、自分の人生を生きることの意味

人の幸福が面白くない、という人がこの世にはいる。でも、そんな生き方ほどつまらないものはない。

最高の教師 1年後、私は生徒に■された』(日本テレビ系、毎週土曜22:00~)第9話は、鵜久森叶(芦田愛菜)を死に追いやった犯人の正体がついに明らかとなった。

人を傷つける優越感は、1ミリも自分の人生を輝かせてはくれない


あの日、鵜久森を新校舎に呼び出したのは、西野美月(茅島みずき)だった。

東風谷葵(當真あみ)の鵜久森に対する想いを知った西野は、それをネタに鵜久森に揺さぶりをかけてきた。その結果、揉み合いの末に誤って鵜久森が転落してしまった、というのが事の真相だった。

このこと自体は、それほど驚きはない。おそらく大方の視聴者の想像通りの筋書きだと思う。でも、それでいい。『最高の教師』は決して考察が売りの作品ではない。そんなことよりももっと大事なことを、全身全霊をかけて伝えてくれるドラマだ。

「でもこれだけはわかってほしい。本当に私は鵜久森がこんなことになるなんて望んでなかった。そんなつもりじゃなかった」

涙ながらに自分を正当化する西野に、九条里奈(松岡茉優)は「ふざけるな」と呟いた。そこからが、今回のハイライトだった。

顔を手で覆い、悲劇の主人公を演じることで、目の前の現実を見ないようにする西野の腕を剥ぎ、里奈は力づくで西野に現実を直視させる。自分が今までやってきたことを。罪の意識もなく、ただ人を傷つけることを繰り返してきた結果が、あの日につながっていったことを。

「そんなつもりじゃなかった」は、つまり想像力の欠如だ。決して罪を軽くするための言葉ではない。自分がやったことの重みを理解すらしていない愚かさを露呈する言葉だ。前回の相楽琉偉(加藤清史郎)のときもそうだった。里奈は保身のための反省の言葉を許さない。徹底的に向き合わせる。そのためなら、何だってする。

結局、西野たちは面白くなかっただけなのだ。自分の関わりのないところで、自分より楽しそうにしている人が。自分の力の及ばないところで、自分より幸せそうにしている人が。だから、そういう人を見つけると無理やり自分たちのルール下に引きずりこんで、蔑み、痛ぶる。その行為のなんとつまらないことだろう。

「標的をつくって笑ってる時間なんて、大切な人生の無駄な時間でしかない」

あの鵜久森の言葉は、西野にだけに向けられたものではない。今この世界で、他者を攻撃して優越に浸ったり、歪んだ正義感を満たしているすべての人に向けた言葉だ。誰かを傷つけて喜んでいる時間があるなら、もっと自分の人生を生きろ。幸せな人の足を引っ張ったところで、自分が幸せになれるわけではない。自分の人生を面白くするのは、自分自身が与えられた時間をどう生きるかなのだ。

最悪の選択をしようとする前、西野たちはカラオケに行きボウリングに行った。でも、何も楽しくなかったし、もう他にしたいことも思い浮かばなかった。それはそうだろう。彼女たちは自分の大切な時間のほとんどを他人を傷つけることに使ってきたのだから。その人生がどれほど空虚であるかを、やっと気づいた。

眉村紘一(福崎那由他)や日暮有河(萩原護)のように夢中になれるものもない。瑞奈ニカ (詩羽)のように追いかけられる夢もない。クラスカーストの頂点でみんなを支配しているつもりだったかもしれないけど、そんな優越感は1ミリも自分の人生を輝かせてなどくれないのだ。

“モブ”だったクラスメイトが、一軍女子に向けた渾身の台詞


それを証明したのが、これまでほとんどスポットの当たることのなかった月野春香(柿原りんか)の言葉だと思う。クラス中で西野たちの行方を探す中、最初に彼女らを見つけたのは月野たちだった。西野から見れば“モブ”。踏んでいることさえ気づかない、石コロみたいな存在だったんだと思う。でも、そんなモブが西野たちに向かって言う。

「一生なんて気にできない。あなたたちのことを一生なんて気にできないよ」

自分の犯した罪の重さに苦しんで、西野たちは最悪の選択をしようとしたわけではない。クラスの頂点にいた自分たちが、これまで何の挫折も知らずに生きてきた自分たちが、一生“クラスメイトを死に追いやった極悪人”として後ろ指を差される。その事実に耐えられなくて逃げ出そうとしただけ。反省でも贖罪でもなく、自分が可愛くて、自分を守ろうとして、選んだ道だった。

でも月野は西野たちのしたことを許せないと怒った上で、「でも、一生あなたたちを憎み続けるほど、私は人間ができてはない」と言った。すごくリアルな言葉だと思う。

結局、西野たちは自分のことを過大評価しすぎなのだ。常に自分たちを中心に世界が回っていると思っている。でも、周りからすれば西野たちなんて教室の空気を悪くするウザい存在なだけ。眉村や日暮が相楽に「僕たちをちゃんとハブってほしいんだ」と言ったのと同じ。他人をどうだっていいと思っている人間は、他人からもどうだっていいと思われている。

じゃあ、そんな空っぽだった人生を西野たちはこれからどう生きていけばいいのか。西野たちはこれから考え続けなければいけない。「わからない」と思考を放棄するのではなく。わからなくても、考え続ける。最後の最後まで懸命に生きた鵜久森の生き様を決して忘れずに。

まさにこの3か月のクライマックスと言える回だったけど、個人的なMVPは今までほとんど存在すら多くの視聴者に認知されていなかったであろう月野だった。あの屋上の台詞は、他のどんな台詞よりも胸を突き刺すものがあった。月野春香みたいな子は、きっと日本の教室のどこにでもいる。そう感じさせるようなリアルな人物像だった。

演じる柿原りんかは、子役として活動を開始し、鵜久森役の芦田愛菜の代表作の一つである『マルモのおきてスペシャル2』でテレビ初出演。最も有名な作品は、生田斗真がトランスジェンダー役を演じた映画『彼らが本気で編むときは、』だろうか。そこで、生田斗真と桐谷健太と暮らす少女・トモを演じている。あのときの女の子が、たったワンシーンでこんなにも人の心を動かす俳優に成長したのだと感動すら覚えた。決して芦田愛菜や加藤清史郎だけじゃない。こんなふうに、いろんな俳優にスポットライトが当たるのも学園ドラマの魅力だ。

この第9話では、本作のクロスオーバー作品である『最高の生徒 ~余命1年のラストダンス~』(日本テレビ、毎週土曜14:30~)でメインキャストを務める藤原大志(山下幸輝)にも見せ場があった。話し合いの場でなぜ藤原が口火を切ったのか。「人が死ぬということを考えるんだ」という藤原の言葉の意味が『最高の生徒』では描かれているので、未見の人はぜひこちらも併せてチェックしてほしい。

最終話では、いよいよ1周目の人生で里奈が死を迎えた卒業式の日がやってくる。おそらく里奈を突き飛ばしたのは星崎透(奥平大兼)なのだろうけど、きっと大事なことはそこではない。憶測で語るのではなく、目を逸らさずに向き合うこと。里奈からの最後の授業を一言も聞き漏らしたくない。

『最高の教師 1年後、私は生徒に■された』は、TVerにて最新話に加え第1話~第3話、ダイジェスト動画が配信中。