『最高の教師』加藤清史郎“相楽”にできる償いとは何か?

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『最高の教師』加藤清史郎“相楽”にできる償いとは何か?
「最高の教師 1年後、私は生徒に■された」を見る

自分の罪を認めること。そして、それを詫びること。簡単なようで、ちゃんとできる人は多くない。

最高の教師 1年後、私は生徒に■された』(日本テレビ系、毎週土曜22:00~)第8話は、これまで描かれてきた罪にひとつの決着がついた回だった。

加藤清史郎が、抑制の中でにじませた相楽の弱さ


鵜久森叶(芦田愛菜)がこの世を去ったその日、星崎透(奥平大兼)のビデオカメラに、制服姿で学校に潜入する浜岡修吾(青木柚)の姿が映っていた。このことから、浜岡とつながりのある相楽琉偉(加藤清史郎)に疑惑の目が向けられる。

だが、相楽は鵜久森の死に直接的な関与はしていなかった。第8話で焦点が当てられたのは、鵜久森の死の真相ではなく、鵜久森のことをいじめてきた相楽がその罪と向き合うことだった。

5年前に母親を亡くしたことが、相楽の欠落の背景にあると迫田竜輝(橘優輝)は感じていた。だが、そのこと自体に劇中では比重を置かなかった。どんな理由や過去も、犯した罪の免罪符にはならない。加害者の悲劇をこの物語は情状酌量したりしない。

だが、決して相楽を突き放すこともしない。相楽にすべきことは、同情を寄せることでも許しを与えることでもない。自分がいかに弱い人間か。自分のしたことがどれほど卑劣なことか。自分で理解させる。弱い自分を守るのではなく、弱い自分を自らさらけ出させる。九条里奈(松岡茉優)は、そのために相楽と正面から向き合った。

回を重ねるごとに、息継ぎさえも忘れるような緊迫感で視聴者を釘付けにしている本作だが、この第8話も素晴らしかった。白眉は、後半のホームルーム。約12分30秒間、一切場面転換することなく、教室という限られた空間で、物語を大きく展開させた。

中心にいたのは、相楽役の加藤清史郎だ。自分と関係のないところで楽しそうにしているクラスメイトに抱いた嫉妬心。自分の全能感が引きはがされていくことへの恐怖心。そして、自分が最低の人間であることを自覚する絶望。

「これ以上、誰かに忘れられない傷をつくることの方が怖くなった」

そう声を震わせた相楽は、学校のカリスマでも、教室を支配する黒幕でもない。弱くて、小さな、高校生だった。

この12分30秒の加藤清史郎の演技の何がすごいかと言うと、彼は一度も声を荒げなかった。感情に任せて、野放図に自分の芝居に陶酔することもしなかった。

大きな声をあげたり、大粒の涙を流すような芝居は、意外に容易い。だが、時にそれは醜く映る。加藤清史郎は、抑制を効かせ、針の穴に糸を通すような集中力で、相楽が初めて「本当」をさらけ出す瞬間を演じ切った。だから、観る者も惹きつけられる。

これだけの芝居を22歳でできるというのは、やはり規格外だと思う。加藤清史郎のこれまでのキャリアなど今さら取り上げるのも野暮なほど周知のものではある。だが一方で、ここ数年の映像作品を観る限り、その小柄な体格も理由にあるのだろう、どちらかと言うと頼りない役やお人好しの役、コミュニケーションが得意ではない役を振られることの方が多かった。

迫力の求められる相楽琉偉という役は、加藤清史郎のパブリックイメージとはおおよそ真逆の役どころと言っていいだろう。実際、相楽琉偉を加藤清史郎が演じていることに驚きの声も見られた。

が、確かな力で相楽琉偉という役をものにし、役者としての幅の広さを大いに更新してみせた。もう「元天才子役」などという肩書きで彼を語ったら笑われてしまうのではないかと思わせるような名演技だったと思う。

一生罪を抱えて生きることが、相楽にできる償いなんだと思う


鵜久森の自宅を訪ねたシーンも心に深く残る。母・美雪(吉田羊)は、相楽が娘にしてきたことをおおよそ理解した上で伝える。

「ずっとあなたのことをすごい同級生だって自慢してた」

その言葉と共に甦る鵜久森の「同じクラスになったら友達になれるかな」という笑顔が、悲しくて悲しくてしょうがない。

もしかしたらあったのだろうか、2人が友達になれる世界線が。もう一度、タイムリープして高校生活をやり直せたら、今度は仲良くハンバーガーショップで一緒に笑い合えたりしたのだろうか。

でも、私たちはわかっている。人生に2周目なんてないことを。そんなのはドラマの中だけの話で、時間はまっすぐ前に向かって進むだけ。やり直しなんて誰もできない。つけた傷は一生消えないし、犯した罪はなかったものになんてならない。

「許す、許さない、はそれぞれあっていい。大事なのは考え続けることだと私は思います」

教室で里奈はそう言った。このドラマではしばしば「許す」「許さない」という概念が登場する。そのことへの一つの答えとなる台詞だったと思う。

許してほしい。許したくない。許されないことはわかっている。許す。30人30様の想いが、きっとあの場で交錯していた。その一つひとつに正解も不正解もない。

美雪だって、相楽のことを許したのか許さなかったのか、それはわからない。許されたからといって、相楽が救われるかどうかも確かではない。

ただ、忘れないこと。一生抱え続けること。自分が何をしたのか。誰の尊厳を踏みにじり、大切なものを壊したのか。犯した罪と向き合い、背負い、もう二度と同じ過ちを繰り返さないように生きること。そして、他の誰かが苦しんでいたら手を差し出せる勇気を持つこと。

もう決して届かない「ごめんなさい」を何度も繰り返しながら生きることが、相楽にできる償いなんだと思う。

一方、鵜久森は一体誰に呼び出されて新校舎に向かったのか。その真相は次回以降へと持ち越しとなった。浜岡が誰に頼まれて学校へやってきたのかも謎のままだ。

気になるのは、もうひとりのボス的存在である西野美月(茅島みずき)がここに来てなりを潜めていること。迫田や瓜生陽介(山時聡真)らが相楽と一緒に頭を下げたときも、同じようにいじめに加担していた西野はそれにならわなかった。彼女の贖罪はまだ終わっていない。

メタ的な話になるけれど、茅島みずきというキャスティングを考えても、このままフェードアウトということはないだろう。真のラスボスは西野なのだろうか。

また、星崎の本心も読めないままだ。江波美里(本田仁美)が浜岡と電話をしていたときも、星崎は気だるそうに突っ伏したまま。この緊迫した状況下で、ひとりだけ緊張感に欠けている。星崎には大切なクラスメイトを失った胸の痛みも、教室の一員である以上、自分も鵜久森のいじめに加担していたひとりなのだという自覚もほとんど見られない。ある種、モンスター的にも見える星崎こそが、この教室の最大の闇にも見える。

地獄の2学期ははたしてどんな結末を迎えるのか。里奈は卒業式の日を生き残ることができるのか。物語は、いよいよ佳境へと向かっている。