「似てる……ふたりとも何かたりてない」
若林正恭(King & Prince・高橋海人)と山里亮太(SixTONES・森本慎太郎)を居酒屋に呼び出したプロデューサーの島貴子(薬師丸ひろ子)は、彼らの胸の内を聞いて、そう確信した。
『だが、情熱はある』(日本テレビ系、毎週日曜22:30~)第10話にして、伝説のユニット「たりないふたり」の誕生である。
夢の世界でぶち当たる壁
『M-1グランプリ』をきっかけに、ようやくブレイクを果たしたオードリー。売れて嬉しいが、聞かれるのは春日俊彰(戸塚純貴)の貧乏エピソードばかりで、ロケも春日の住むアパート「むつみ荘」がほとんど。若林は、盟友でもあるわくわくテントの鈴木足秋(水沢林太郎)に「テレビで同じ話していいの?」と問いかけ、どこまでも楽しんでいる春日に対して、不満をぶつけた。
一方、山里は相変わらず、売れっ子の相方・しずちゃん(山崎静代/富田望生)とうまくいっていない。そんなとき、朝の情報番組『スッキリ』から声の出演オファーがあった。しずちゃんはドラマで、自分は顔を晒さず声だけ……? 不満ではあったが、山里はナレーションの仕事をまっとうする。
強烈な個性を持つ相方の影に隠れているが、確かな才能と圧倒的な「たりなさ」を持つ若林と山里を見た島は、ふたりにユニット結成を提案する。
まずはライブからだ。「飲み会ってなんでみんなあんなにも楽しそうなのか」など、全然ポップではない、ふたりが想っていることをぶつけるこのライブ。若林も山里も、相方がネタを考えてくれることが嬉しかったが、決してその喜びを口には出さなかった。
ライブ当日。「たりないふたり」は漫才を披露。大成功を収め、若林も山里も確かな手応えを感じていた――。
この話から、メディアの露出が増えたあとの若林と山里の姿が描かれているが、巷には当時の映像や雑誌などが資料として多く残っているため、本物とくらべられるケースも増えてきた。
その中で、若林や山里の口から語られたエピソードをはじめ、ラジオ『オードリーのオールナイトニッポン』のやりとり、雑誌などの小道具にいたるまで、制作陣がリアルにふたりの歴史を具現化しており、SNSでも絶賛の声が相次いでいた。
演者側の高橋が制作陣について「スタッフさんが、情熱と愛とリアリティを持って臨んでいらっしゃる」とインタビューで語っていたが、まさにその言葉の意味を理解できた回だった。
高橋と森本が積み上げてきた功績
『だが、情熱はある』10話にして改めて思ったことがある。それは、高橋と森本が、若林と山里を演じることを「当たり前」に昇華させていることだ。すでに「似てる」の領域は超えていて、もはや同化している。これは、ふたりが常に高いハードルを越えてきた努力の賜物だと思う。
当たり前になったからといって「感動が薄れるのか?」と問われればそうではない。毎回驚かされて「やっぱり、ふたりともすげえ!」と痛感するシーンが多々ある。たとえば、今回のたりないふたりの漫才。若林の間(ま)のとり方、山里の手の動き、挙げればキリがないほど、細かなことを積み重ねて完璧なネタを披露している。漫才は、下手だと違和感を覚えてしまうが、ふたりにはそれを感じなかった。
最後に、このドラマを見るようになって、King & PrinceとSixTONESのことを追いかけはじめた方々に問いたい。「グループの中にいる高橋くんと森本くんが別人に見えませんか?」と。もともとファンの方はご存じだったのだろうが、こんなにも作品とのギャップがあるのかと驚く。ステージに立つ彼らがキラキラしすぎて、カッコ良すぎて、同一人物なのにまったく違う人に見えてしまうのだ。
もちろん、ふたりが演じる若林も山里も「笑い」に命を燃やしていて、とても美しい。ただ、それとはまた違う輝きで主題歌の「こっから」や「なにもの」をパフォーマンスするふたりを見ると、改めて凄まじいことをしているのだ、と強く感じる。
演技で魅了して、歌とダンスで酔わせる。最高のエンターテイナーである高橋海人と森本慎太郎と出会えて良かった。
次回は6月18日に放送。若林と山里の「たりないふたり」が、ついにテレビに進出。多くの人の人生の歯車を動かした伝説の番組が始まる――。
文・浜瀬将樹