我々はなぜ森本慎太郎“山里”と高橋海人“若林”に​想いを馳せるのか?『だが、情熱はある』余白の妙

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我々はなぜ森本慎太郎“山里”と高橋海人“若林”に​想いを馳せるのか?『だが、情熱はある』余白の妙

「山里と若林、なんか目の奥が死んでるよね。なんていうか真っ黒……ふたりとも何かがたりてない」

2011年、のちに、山里亮太SixTONES森本慎太郎)と若林正恭King & Prince高橋海人)を引き合わせることとなるプロデューサー・島貴子​​(薬師丸ひろ子)は、テレビに出ているふたりを見てこうつぶやいた。

4月30日放送の『だが、情熱はある』(日本テレビ系、毎週日曜22:30~)第4話は、もがいて、もがいて、もがき苦しむ山里と若林の若手時代が描かれた。もともとの気質はあるだろうが、このときの経験が、ふたりの目をさらに黒く塗りつぶすこととなる。

解散、野次…うまくいかない芸人人生

2000年、山里は和男​​(清水尋也​​)​​とのコンビ・足軽エンペラーとしてバラエティ番組『ガチンコ!』の企画「ガチンコ漫才道」に出演。全国放送のテレビで優勝することはできたが、反響も仕事もゼロ。同期のヘッドリミットとも差は開くばかりだった。

彼はノートに自分の想いを吐露するかのように「俺は天才ではない? そんなわけない」「勝つのは天才の俺」とぶつける。その日を境に、宮崎(九条ジョー)​​のときと同様、相方の和男に厳しい要求をつきつけるように。「なんでやねん」の練習も何百回とさせ、追い込んだ結果……和男にブチギレられ解散となった。最後のライブを終えたあと、和男は芸人を引退。山里は、ピン芸人“イタリア人”として活動を始める。

反響が伴わなかったとはいえ、テレビに出ることができた山里とは打って変わって、若林の環境は変わらない。相方・春日俊彰戸塚純貴​​)のバイト先のツテで、ものまねショーの前説に出られることになったが、売れない芸人・ナイスミドルを受け入れてくれるはずがなかった。

場を盛り上げようとしても、ものまねを観に来たお客さんには響かない。というか、観てくれない。野次も飛ばされる最悪の状態だ。一念発起し「アメリカンフットボールのものまね」に切り替えたが、まったくウケなかった。若林はある想いを持って、ステージ上で、客席で、春日に永遠とぶつかっていく。

そんなとき、売れっ子の事務所の先輩・谷勝太(藤井隆)に挨拶する機会があった。若林は「君あれだね、『みんな死んじゃえ』って顔してるね」と言われて……。

たりないふたりの心の叫び

多かれ少なかれ、嫉妬や劣等感はほとんどの人が持っている感情だ。それを表に出すか出さないかの違いである。

山里は“本気”でお笑いに取り組んだ結果、その心の闇を相方に撒き散らした。間違いもたくさん犯したが、同時に反省もしていく(改善するかは別として)。ノートに書いた「天才」の部分を塗りつぶし、自分を責めたくなくて、俺は人を責めていたと内省。「天才じゃないことを受け入れないと」と記した。

一方で若林は、鬱屈とした世界にいても、芸人としての葛藤を口にはしない。外から見れば何も考えていないように見えるが、彼も心の中でもがいていた。

このドラマは、ふたりの心情や状況をナレーションで説明することが多い。“心の声(モノローグ)”も必要に応じて使うが、多用はしない(ノートのシーンは別として)。そこには余白があって、我々に考える隙を与えてくれる。「このとき、どんなことを思っていたのか」「なぜこんなことをしたのか」と、いろいろと想像を掻き立てられるのだ。それにくわえて、山里の人間臭さと、若林の卑屈さが色濃く描かれているから、我々はさらに苦しくなる。モヤモヤも残るし、しばらくこの痛みを引きずる。彼らの心の叫びを受け取ってしまう……。

山里と若林の成功部分だけ切り取ろうと思えば、切り取ることができただろう。もっとふたりの心情を見せて、明確に感動を煽ることもできたはず。それをしなかったのは、このドラマが、山里と若林の人生に本気で向き合っているから。視聴者に新たな感情を植えつけてくれる、新しいかたちのエンタメだと思う。

視聴者を唸らせた「半年後」のシーン

最後に、触れざるを得ないのが2021年の公園でのシーンだ。『だが、情熱はある』では、ふたりのユニット「たりないふたり」の解散ライブ『明日のたりないふたり』​​の前後も描かれている。今回は、ライブを終えたあと、半年ぶりに撮影が行われた場面が流れた。

こちらは実際にドキュメントとして配信されたもので、ロケ場所の公園や衣装も再現。何より、森本と高橋がスゴかった。あのとき、山里と若林が作り出した“うねり”を見事に再現していて、鳥肌がたった。そのシーンを観たことがなくても「もはや本人だ」と思うことだろう。

これまで数多くの作品に出演し、そのたびに演技力の高さを見せつけてきた森本と高橋だが、今回はひと味違う。演技というベクトルじゃないし、ただのものまねでもない。森本は山里を、高橋は若林の人生を生きている。

彼らなりに不安もあっただろう。葛藤もあっただろう。それでもふたりは挑んだ。その覚悟に我々は胸を打たれるのだ。

次回は5月7日に放送。山里は新しい相方として山崎静代(しずちゃん富田望生)​​をロックオン。若林は解散を決意!? まだまだ売れる気配がなくても、情熱はある――。

文・浜瀬将樹