『初恋の悪魔』を考察する。連続殺人事件の犯人は何者か?

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『初恋の悪魔』を考察する。連続殺人事件の犯人は何者か?

まさに「考察ドラマ」の様相を呈してきた。『初恋の悪魔』は昨今の考察ブームに対し、捜査ではなく“考察”メインの推理劇を展開することで、ある種の皮肉と批評をまぶしてきたかのように見えた。

が、ここに来て自らもどっぷり「考察ドラマ」に両足を突っ込んできた感がある。散りばめられた謎はどう回収されるのか。第6話で明かされた事実をまとめながら、この謎について考察してみたい。

ルービックキューブの1面は、雪松の過去か

「綺麗事を口にしてきた人って、泣いてきた人だと思うんですよね。必死に生きて、なのに転んで傷ついて、それでももう一度立ち上がろうとした人たちの言葉だと思うんです」

そう馬淵悠日(仲野太賀)は言った。これまで「負けてる人生って誰かを勝たせてあげてる人生です」と綺麗事で自分の本心を目眩ししてきた悠日らしい人生哲学だ。そして、この「綺麗事」というフレーズは、謎の女性・淡野リサ(満島ひかり)が摘木星砂(松岡茉優)に残した言葉へとつながっていく。

「人生でいちばん素敵なことは遠回りすることだよ。だから私たちは悲しくない。遠回りしてる今がいちばん素敵なときなんだよ」

悠日の思想を借りるなら、この言葉の主であるリサもまた“泣いてきた人”ということとなる。行き場を失った少女たちを拾い、寝床と食事を与えるリサはどんな人生を生きてきたのか。なぜ殺人事件の容疑者にまつり上げられてしまったのか。ゴチャゴチャだったルービックキューブがいよいよ揃いはじめようとしている。

現時点での謎をまとめると、3つに大別される。

■2019年7月、悠日の兄・朝陽(毎熊克哉)はなぜビルの屋上から転落したのか
■2017年8月、15歳の中学生・塩澤潤は誰に殺されたのか
■2019年、17歳の高校生・吉長圭人は誰に殺されたのか

下記2つの事件はいくつかの共通点がある。全身に多数の刺し傷があること。遺体は川に遺棄されたこと。靴が発見されていないこと。容疑者がすでに捕まっていること。そして、どちらも被害者は未成年の男子であること。

さらに、第6話のラストで新たな遺体が発見された。この遺体にも靴がない。同一犯によるものと見ていいだろう。犯行はまだ終わっていなかった。

ストレートに考えると、最も有力な犯人は雪松鳴人(伊藤英明)だろう。朝陽のスマホに執着していたのも怪しいし、雪松なら犯人をでっち上げるだけの力がある。朝陽を殺したのも、朝陽が雪松の犯行を決定づける証拠を握っていたからで。あえて偽りの部屋番号を教えて捜査を撹乱し、朝陽を屋上におびき寄せ、突き落とした。

犯行の動機はまだわからないけれど、被害者が未成年の男子であることが偶然でないのだとしたら、この世代の男子に対し、歪んだ感情を抱くだけの何かがあるのかもしれない。そして、それがタイトルの『初恋の悪魔』に回収されるものだとしたら、ルービックキューブは揃う気がする。

靴を履いていないのは、どこかの室内に監禁していて、そのまま遺体を運び出したからとも考えられるし、川に捨てるという行為と結びつけるなら、投身自殺の見立てともとれる。雪松には、靴を脱ぎ、川から身投げして死んだ、極めて親しい間柄の人間がいたのでは……?「犯罪にも、犯罪者の個性というのが出る」と森園真澄(安田顕)は言った。ならば、これらのすべてにも何かしらの意味があるはずだ。

「よそから来た人間は悲劇を風化させるななんて言いますが、住んでる者からしたらね、忘れるんですよ」

雪松には、忘れたい過去があるのか。それとも、忘れさせたくない何かがあって事件を起こしているのか。このいかにもたくましそうに見える男には、誰にも見せていない別の顔がある。

ただ、そこに摘木がどう絡んでくるのかはわからない。摘木はどういう経緯で朝陽のスマホを手に入れたのか。人格が入れ替わるきっかけに何か規則性はあるのか。そもそもなぜ2つの人格が宿るようになったのか。しばしば登場する「おばあちゃん」の存在が彼女に何か影響をもたらしたのか。

ルービックキューブは、4面くらい揃ってからの方が、残り2面を揃えるのに難儀する。

最後に「ただいま」と言うのはどちらの摘木星砂だろう

そんな謎解きと共に、第6話の大きな見どころとなったのが、摘木の過去だ。家を飛び出し、頼るあてもない中、リサに拾われ救われたこと。そこで過ごした“家族”との日々。僕たちが見てきたスカジャンの摘木とはまるで違うもう1人の摘木。それは、“蛇女”なんて忌々しいあだ名とは程遠いくらい、切実で、儚くて、彼女は彼女で自分の人生を精一杯生きていたことが伝わってきた。

こうなってくると、どちらの摘木が本物で、どちらの摘木が偽者だなんてジャッジできるはずがない。でもきっと悠日からすればスカジャンの摘木が摘木だろうし、スカジャンの摘木に残ってほしいと思うだろう。でも、もし鹿浜だったら。あるいはリサだったら。会いたいのは、スカジャンの摘木ではなく、“蛇女”と忌み嫌われたもう1人の摘木かもしれない。

その選択をいずれ誰かがしなければいけないのだとしたら――。想像しただけで、もう胸が押し潰されそうだ。

「ここの家賃はお金じゃない。『ただいま』『おかえり』って言うことだよ」

すべてが終わったとき、最後に「ただいま」と言うのはどちらの摘木星砂だろう。そして、「おかえり」と迎える鹿浜たちは、どんな顔をしているのだろうか。

謎と嘘と人間模様が混濁し合い、極上の没入感を味わわせてくれる『初恋の悪魔』。次週はお休みだが、その間、TVerでは全話無料再配信を行う。未見の人も、途中離脱してしまった人も、もう一度最初から遡ってヒントを探りたい人も、思う存分楽しんでほしい。

一筋縄ではいかない悪魔だが、取り憑かれた者はみな不思議と頬を紅潮させている。まるで子供時代の初恋みたいに。