尾上松也、父が演じた「赤胴鈴之助」に新たな息吹を「明日への元気の源に!」

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「20代前半からずっと形にしたいと思っていました!」と歌舞伎俳優・尾上松也さんが企画から参加した真夜中ドラマ『まったり!赤胴鈴之助』(テレビ大阪、毎週土曜24:56~/BSテレ東・BSテレ東4K、毎週土曜24:00~)が1月8日よりスタートします。

本作で松也さんは、自身の父・尾上松助が子役時代に演じた赤胴鈴之助に挑むが、その姿は大人であり、舞台も令和にタイムスリップするという奇想天外な設定。「やるからにはいままでにない鈴之助を……」と意気込む松也さんに、作品への熱い思いや、歌舞伎俳優としての自身の人生などを伺いしました。

――クレジットに「企画:尾上松也」と入っていましたが、本作の参加経緯を教えてください。

赤胴鈴之助というのは、亡き父が幼少期に演じたお役でしたので、引き継ぐという気持ちではないのですが、何かの形で僕自身ができないかというのは、20代前半から頭のなかにありました。そんななか、4年ほど前からいろいろな方との繋がりのなか、ドラマと新作歌舞伎で赤胴鈴之助を題材にした物語をやるというお話が進んでいきました。その意味では、構想10年以上は経っていますので、形になったことは嬉しいですね。

――長い年月をかけて形になった企画ですが、どのあたりが一番大変でしたか?

漠然と赤胴鈴之助という題材をコメディにしたいというのは僕のなかにありましたが、具体的にどうするか……というところが一番難航したところです。鈴之助が異世界に行ってしまい、違和感を覚えるという設定の土台作りや脚本にも時間がかかりました。

――主演でありながらプロデューサー的な立ち位置もされていたんですね。

今回に関しては恐縮ですが、キャスティングをはじめ、自分なりの意見のようなものは言わせていただいた感じです。もちろん監督さんはいらっしゃるのですが、僕のイメージがスタートになっていますので、衣装やメイクなども提案させていただきました。今回はじめての経験でしたので、とても刺激的でしたし、今後ほかの作品でもこのような関わり方をしていかれたらと思っています。

――現場ではどのように立ち振る舞いを?

撮影に入ってからは、企画者というよりは演者として徹していた感じはあります。守屋健太郎監督とは、過去にもご一緒していて、逆に固まり過ぎてしまうと面白くなくなってしまうので、現場に入ってからいろいろなパターンのお芝居をやらせていただいて、そのなかから監督に選んでもらうという形で進めていました。

――かなりコミカルなシーンも多いですね。松也さんのなかで、赤胴鈴之助を演じるうえで、核となる部分はどこだったのでしょうか?

この作品の鈴之助は、真剣にアホなことばかり言って、バカなことばかりやっているように見えますが、彼が本当にやりたいことは「悪と戦いたい」ということ。平和を守るという情熱、もちろんそれを取り違えている部分もありますが、そこだけは強い信念として持っているので、意識して演じました。

――そうした熱い思いが鈴之助の魅力でもありますね。

僕自身、コロナ禍になりお仕事が完全にストップしてしまい、制限のなかで、何をしていいか分からなくなってしまいました。皆さんも経験がしたことがないような状況になったと思うのですが、鈴之助も、いきなり令和の時代に来てしまい、永遠の休日が訪れて何をしたらいいのか途方に暮れてしまう。完全に後付けなのですが、そういった部分が、今の時代に似ているというか、鈴之助の行動が腑に落ちる部分もあるのかなと感じました。

――鈴之助をコメディにしようと思った発想はどこから?

原作の赤胴鈴之助は、少年剣士なんです。おそらく小学校高学年ぐらい。私はもう30代半ばになっておりまして(笑)。歌舞伎で舞台化したときには、青年剣士という設定だったのです。おしろいも塗りますし、そこまで年齢差というのは違和感なくできるのですが、さすがに映像作品で、僕が10代を演じるというのはちょっと……。いまの僕の年齢で赤胴鈴之助を演じるにはどういう設定がいいかと考えたとき、とことんコメディのドタバタ喜劇という発想が思い浮かびました。歌舞伎の舞台では真面目な、そしてドラマではコメディというすみ分けにしました。

――コミカルな芝居という意味では、鈴之助の兄弟子、竜巻雷之進役の今野浩喜さんとの掛け合いも作品に彩りを添えていますね。

鈴之助がメチャクチャに描かれていたので、雷之進にはそれをしっかり突っ込める役柄を期待していました。そういう意味では、今野さんをご提案いただいたとき、お芝居の経験も豊富でコメディアンとしても優秀な方ですので、非常にピッタリだなと思いました。実際のお芝居も、僕がボケまくるのですが、泳がすところは泳がし、突っ込むところは鋭い。さすがプロだなと感じました。

――松也さんの顔芸も炸裂していました。

守屋監督は過去に『さぼリーマン甘太朗』や『課長バカ一代』などでご一緒して、顔芸はかなりいろいろチャレンジさせていただいていたので、もうセットみたいなものです(笑)。面白く表現させてもらううえで必要不可欠な方なんです。以前『半沢直樹』のときは、歌舞伎の先輩方が好き放題顔芸をされていたので「俺もやりたいな〜」ってもどかしかった(笑)。僕のお役が正義側でしたので、やる場面がなかったですからね。

――本作の主題歌「RED」でアーティストとしてもデビューされました。

もう恥ずかしさしかないですね(笑)。これまでも歌う機会はありましたが、どなたかのカバーだったり、ミュージカルで役として歌ったり……ということがほとんどでしたので、個人として歌うというのは、嬉しい半面、やはり恥ずかしかったです。ですが、経験したことがないことにチャレンジするというのは自分のライフスタイルですので、これからもどんどん挑戦していきたいです。

――新たな世界に飛び込むのは怖くないですか?

もちろん守りに入ってしまう気持ちもありますが、僕は30歳ぐらいまでに、何とか結果を出さなければ……と常に挑戦をしてきました。元来、腰の重い人間なので、現状に満足してしまうと何もしなくなってしまう危険性がある。そうはなりたくないので、常に自分にリスクを背負わせようとする部分はあります。まだまだ自分のなかで結果を出せているとは思ってはいないので、納得できるところまではリスクを恐れず突き進みたいです。

それは歌舞伎においても同じで、先輩方を見ていると、生涯役者として舞台に立っていらっしゃる方たちが多く、その情熱に感服することも多いんです。僕もそんな先輩方に見習って、精進していきたいと思っています。

――赤胴鈴之助という一つの目標が形になったことで、いまどんな思いでしょうか?

このドラマと新作歌舞伎ができたということで、一つのゴールとなったのかなという感じはありました。ドラマはこれから放送ですが、新作歌舞伎は昨年の夏に上演が終わりました。その際、観劇された方がとても喜んでくださったようで、ご一緒した生田斗真くんも「ぜひまた」と言ってくれたので、これはゴールではなく、第1章だったのだと思うようになりました。

――この題目も受け継がれていけば……という思いでしょうか?

まあ、僕は結婚もしていませんし、受け継ぐという言葉をどう受け止めるかは難しいところですが、歌舞伎の伝統というのは、子供に受け継がせるものだけではないと思っています。歌舞伎役者全員がファミリーという感覚ですので、今回僕らが演じた「赤胴鈴之助」という作品を見て、後輩たちが「面白かったので、この作品をやろう」という形で受け継いでいってくれたら嬉しいです。100年後、200年後、僕とは関係ない歌舞伎役者の後輩が「今月は赤胴鈴之助やってみるか」という風に言ってもらえたら、それが本当のゴールなのかなと思います。

――とても斬新な『まったり!赤胴鈴之助』ですが、楽しみにしている方にメッセージを。

今回の作品は、漫画原作をドラマ化させていただいたのですが、漫画の設定とはまったく違う角度から構築したコメディ作品になっています。毎回、違うジャンルの笑いが散りばめられているので、気軽に見ていただき、明日への元気の源になっていただければ嬉しいです。

(取材・文:磯部正和)

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