「高嶺の花」に手が届く!?~メルセデス・ベンツの独自すぎるブランド戦略:読んで分かる「カンブリア宮殿」

公開: 更新: テレ東プラス

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アウトレットで格安に&4時間4000円で満喫

横浜市金沢区の「三井アウトレットパーク横浜ベイサイド」にあるメルセデス・ベンツ公式のアウトレット販売会場。常に30台から40台が展示されており、試乗はできないが乗り込んでシートの感触を確かめることもできる。

アウトレットで売られているのは販売店などで展示や試乗に使われていた車。だから比較的新しい車種ばかりで、走行距離も3000キロ~1万キロ未満。そんないい状態なのに、価格はかなり安い。

例えば新車だと390万円するA180という車種。去年の秋の車でまだ3000キロしか走っていないが、価格は新車より100万円も安い。高級感もあり一番人気のCクラスの220dは新車価格で650万円だが、ここでは417万円。このアウトレットでは平均で新車より2~3割も安く買えるのだ。

どれも1台限りなので、「逃したらこんなチャンスはない」と、購入する家族が続出。大きな買い物だが、ほとんどの客は即決するという。アウトレットで購入する人の9割が初めてベンツオーナーになる。

もっと手頃にベンツに乗ってみたいと言う人にピッタリのサービスもある。

東京・品川。品川プリンスホテルの隣にある「メルセデス・ベンツ レント」。メルセデス・ベンツ公式のレンタカーショップで、現在、全国に28店舗ある。

この店には9種類のベンツが並ぶが、全てが最新モデル。もっとも安いAクラスは24時間で1万2200円、4時間なら4000円で借りられる。この料金は国産レンタカーのコンパクトカーとほぼ一緒だ。コロナ禍にベンツのレンタカーの利用者は増えており、今年はここまでで去年の3倍になっているという。

アウトレットやレンタカーを全面的に打ち出す戦略でベンツの高かった敷居を下げ、客の裾野を広げた仕掛け人が、メルセデス・ベンツ日本社長・上野金太郎(56)だ。

「ベンツは『いつか乗ればいい』『最後に乗る車』と皆さんがおっしゃる。もっと幅広い層にメルセデス・ベンツというブランドを理解してもらう努力が必要だな、と」(上野)

ドイツのメーカー、ダイムラー社の高級ブランドとして世界170の国と地域で販売されているメルセデス・ベンツ。日本国内の売り上げは2000年以降、頭打ちの状態となり、2008年にはリーマンショックが追い打ちをかけた。そこで上野はもっと幅広い層に乗ってもらうべく手を打ったのだ。

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6年連続輸入車販売1位~ベンツはなぜ売れるのか

一方、ベンツ本来の魅力はなかなか乗れないステータス感にある。それについて30年来のオーナー・櫻井淳さんは「メルセデスがそこまでやらなくたって、そこまで媚びなくていい。好きな人が乗ればいいというのはありました。ただ、単に車好きとしては、アウトレットやレンタカーはありだと思いました。さすがメルセデスだと」と語る。

こうした顧客も満足させるべく、上野は客層を広げながら、快適性や高級感のアピールも続けている。

メルセデス・ベンツは大きく分けると4クラス。最もコンパクトなAクラス(362万円~)。内装などに高級感を加えたCクラス(489万円~)。クラシカルな雰囲気と重厚感を持つEクラス(769万円~)。そして最高峰のSクラス(1293万円~)。それぞれのクラスから生まれたワゴンやクーペ、さらに電気自動車などを合わせると全部で34車種になる。

ベンツの中では最も手頃なAクラスだが、最新車種では運転席の目の前にあるパネルがスイッチ一つで燃費などの表示が切り替わり、ナビの画面も出せる。「ちょっと暑い」などと話し掛けるだけで温度調節できる自動音声機能もAクラスをはじめ全車種に搭載されている。

今年1月に発売されたSクラスの上位モデルになると、快適性はさらにグレードアップ。車のキーを持った人が近づくとドアの取っ手が自動で飛び出し、後部シートは各席にモニターが。全座席に体をもみほぐす機能がついている車種もある。

新たな客層を取り込みながら長年のベンツファンも離さない上野の戦略により、2012年の社長就任以来、売り上げを伸ばし、2015年にはフォルクスワーゲンを抜いて輸入車販売数・国内トップに。以後6年間、首位を守り続けている。

「メルセデス・ベンツは憧れでもあってほしいし、親しみやすくもあってほしい」(上野)

「高嶺の花」だと思っていたベンツが、知らない間に変わっていた。

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ドイツ本社は猛反発~車を売らないショールーム

東京・港区のメルセデス・ベンツ日本が運営するショールーム「メルセデスミー東京」。

1階にはカフェ。ラテアートの世界チャンピオンが淹れてくれる「ホットラテ」(430円)で世界最高峰の技が味わえる。

2階は落ち着いた空間のレストラン。イタリアから取り寄せたという石窯で焼き上げた本格派のピザやビーフ100%のハンバーガーが人気だ。バンズをよく見るとベンツのマークが。その名も「メルセデス・バーガー」(1200円~)だ。

普通の車のショールームとは違うと上野は言う。

「ここは車を売ってないので、どうやって家賃を払っているのかとよく聞かれるんです」

施設内にはベンツのロゴが入ったアパレルや小物など、オリジナルグッズ約600種類が並ぶ販売コーナーはあるが、肝心の車はセールスせずに展示しているだけ。ここは車を売らないショールームなのだ。

ただし車は見るだけでなく、乗ることもできる。試乗はもちろん無料。「運転はちょっと不安」という人には、スタッフが代わりに運転するサービスもある。

「冷やかし半分でもまったく構わない」と、上野は言う。

「本当に一般のお客様にメルセデス・ベンツを気軽に体験、体感していただきたいという思いで始めました」

世界初のガソリン自動車はベンツ。ゴットリープ・ダイムラーとカール・ベンツが発明した。自動車メーカーとしては最古で、現在、世界37カ所に現地法人を持っている。

日本法人の設立は1986年。上野は1987年、一期生として入社した。しかし、仕事に打ち込むと、大きな疑問にぶつかる。

「このくらいの車の台数を売っていればいい。だからこういう客層と付き合っていればいい。その客層は枯渇しないと思い込んでいる人たちがいました」(上野)

このままでは未来はない。新しい客層の開拓は急務。そのためにはもっといろいろな人にベンツを知ってもらい、振り向いてもらわなければダメだ。そして行き着いたのが、車を売らないショールームのアイデアだった。

「これをやらないと新しいマーケットの開拓はありえない」(上野)

ただし、実現にはドイツ本社の承諾が必要。上野はショールームの模型を持ってドイツへ渡った。本社の役員たちを前に「これが未来の顧客を生むキー戦略」とプレゼンしたが。「車を売らないショールームなんて話にならない」「また日本が妙なことを言い出した」と、けんもほろろだった。

しかし、上野は諦めなかった。その後、何度もメールや電話で訴えかけ、何としても承諾をもらおうと、期間限定での開設を提案。ついに1年半という期間限定でドイツ本社からOKを取り付けた。

2011年の夏、ショールームはオープン。上野は、何が何でも客を呼ぼうとある仕掛けを施した。

「周りのコーヒーショップより30分早くオープンして、量も30%増量、値段も20%安くということを徹底していたら、朝の固定客ができたんです」(上野)

1年半で延べ90万人を動員。これまでベンツとは無縁だった新たな客層を開拓する戦略は実を結び、翌年の販売台数は3割もアップ。この実績もあって、上野は2012年、日本法人の社長になる。現地法人の社長にドイツ本社以外の人間がなるのは初めてだった。

上野が提案した当時ドイツにいた、メルセデス・ベンツ日本副社長のステファン・アルブレヒトが明かしてくれた。

「本社は車を売らないショールームのコンセプトが理解できず、そこに大金を使うことに強い抵抗を感じたんです。でも、金太郎が大成功したので本社の考え方も180度変わりました」

ドイツ本社を認めさせた上野発案のショールームは、その地に適した形で今や世界中に広がっている。

「金太郎は、メルセデスのために生まれてきた男です」(ステファン)

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「進撃の巨人」×メルセデス~人気アニメと異色のコラボ

東京・港区の「メルセデスミー東京」に『進撃の巨人』の巨大なオブジェが。ベンツの車体にも『進撃の巨人』の漫画がビッシリ。『進撃の巨人』とベンツという意表をつくコラボキャンペーンが行われていた。訪れていた進撃ファンの女性は「初めはギャグかと思って冷やかしに来たのですが。意外とマッチしていて懐の深さを感じました」と言う。

このコラボも上野の仕掛け。新たな客層にアピールするにはプロモーションにも変化が必要と考えたのだ。CMにも変化が。これまでのベンツのCMは、高級感を前面に打ち出した重厚な映像作品ばかりだった。

「けっして過去を否定しているわけではなくて、その時代に要求されているものを捉えにいく、刺激しにいく」(上野)

上野の大号令で作ったアニメCMは、『エヴァンゲリオン』でキャラクターデザインを手がけた貞本義行さんらと組み、1億円をかけて制作。映画館で流すと大反響を呼び、「アニメCMを見てベンツを買った」と言う人までいるほどだ。

「『あなたのやっていることは何でもありに見える』とよく言われるのですが、越えてはいけないところ、やってはいけないことは見越してやっています。それがギリギリのところだから、跳ねるんじゃないかな、と」(上野)

車離れの若者に関心を~ベンツ専門の整備士学校

東京・世田谷区の自動車整備士専門学校「東京工科自動車大学校」。自動車整備科の授業で使われているのはベンツだ。生徒たちのツナギにもベンツのマークがついている。「メルセデスの将来を担う若者たちを育成する場」だという。ここはベンツ専門の整備士を育成する学校なのだ。

4月26日、メルセデス・ベンツから新型電気自動車「EQA」が発売された。日進月歩の自動車業界にあって、上野は整備士の進化も欠かせないと痛感していた。そこで2016年に始めたのがベンツ専門の整備士を育てる専門学校のコースだった。授業で使うのは、ベンツの最新モデルだ。

女性もいる。皆川真緒さん(19)の実家は茨城県内の自動車整備工場。未来の車社会を支えていく信念で、日々、奮闘している。

「車のコンピュータの細部もすごく複雑になっていて、勉強しなければいけないので、そこが学べて楽しいです。一人前の整備士になりたいと思っています」

※価格は放送時の金額です。

~村上龍の編集後記~
『キリング・フィールド』という1984年の英米合作映画がある。カンボジア内戦を描いたもので、「ベンツ・イズ・ナンバーワン」という台詞が出てくる。運転手として会った男が敵の戦闘員として登場し、その台詞を言って主人公を助ける。上野さんも映画を見ていたし、その台詞を覚えていた。ベンツはポルポト時代のカンボジアを走っていて、故障が少なかった。メルセデスは何をやってもナンバーワンで、なぜか、そう宿命づけられている。

<出演者略歴>
上野金太郎(うえの・きんたろう)1964年、東京生まれ。早稲田大学社会科学部卒業後、1987年、メルセデス・ベンツ日本入社。2012年、代表取締役社長就任。

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