無限の模様を生み出す...伝統技法「墨流し」の奥深い世界:世界!ニッポン行きたい人応援団

公開: 更新: テレ東プラス

墨流しをアメリカで広めたい…自作の墨流しノートも大人気!

続いて紹介するのは、アメリカ・フロリダ州に住む墨流しと型染紙を愛するルースさん。

nipponikitai_20201221_21.jpg
約4年半前に出会ったルースさんが愛してやまないのは、ニッポンの「墨流し」。墨を水に垂らして水面に作った模様を紙や布に写しとる、ニッポンの伝統技法です。

nipponikitai_20201221_22.jpg
その歴史は、平安時代までさかのぼるといわれています。ルースさんが墨流しを知ったきっかけは、航空会社に勤務し、ニッポンによく行っていたおじいさんとおばあさんの影響。2人はニッポンが大好きで、小さい頃からニッポンのことをたくさん教えてくれたそう。いつしか墨流しのことも知り、夢中になったといいます。

独学で墨流しを行なっていますが、ニッポンには行ったことがないというルースさんを、ニッポンにご招待!

向かったのは京都。全国でも数人しかいない墨流しの職人・山﨑一裕さんを訪ねました。

nipponikitai_20201221_23.jpg
奥さんの由美子さんと夫婦で工房を営む山﨑さんは、職人歴25年。繊細な技を駆使し、墨流しで染めるのは着物用の反物。鳥の羽が折り重なったようなこちらの着物は、100万円以上の値が!

nipponikitai_20201221_24.jpg
千枚通しで見事な花柄を浮かび上がらせたり、道具を巧みに動かして孔雀のような模様を作るなど、絶妙な力加減と計算された動作で無限の模様を生み出します。

nipponikitai_20201221_25.jpg
普段は絹織物を染めている山﨑さんですが、ルースさんのために和紙を使った墨流しを見せてくださることに。水に染色用の糊を混ぜたもので墨流しを施しますが、糊の割合によって作る柄も変わるそう。水と糊の配分は季節や気温によっても変わると教えてくれました。今回は、さらっとした水と糊を混ぜた液で実演。

nipponikitai_20201221_26.jpg
「すごく広がりますね」というルースさんに、「そう、水に近い糊の方が広がりやすいんですね。真水だけですと、墨の比重が重たいんですぐに沈んじゃうんですね」と返す山﨑さん。墨が沈まない方法を考えていたというルースさん、水と糊を混ぜる技法はとても勉強になったようです。

水面に墨が浮いた状態でないと模様が綺麗に写し取れないため、筆づかいの素早さも重要。模様の広がり具合を計算し、間隔をあけながら約80もの墨の輪を作ります。「線を何層も重ねることで複雑な模様になる。これでちょっと流してみましょうか」と山﨑さんが取り出したのは太めの棒。水面を軽く撫でていくと…。

nipponikitai_20201221_27.jpg
「紙の場合、空間をあけた方が面白味があってね」そう話しながら綺麗な丸い模様を棒で崩していくと、より一層複雑で美しい模様が現れました。手すきの和紙を使い、和紙と水面の間に空気が入らないよう、奥さんと息を合わせて模様を写し取ります。

nipponikitai_20201221_28.jpg
「ワオ! 大きな波とさざ波が溶け合って美しい! 感激しすぎて何を言ったらいいのか」とルースさん。同じ模様は2度と作ることができない…この世に1枚だけの柄です。

そしていよいよ、初めて見る着物の墨流し染めを見せていただくことに。13mの反物を一気に染めるための16mの水槽にビックリするルースさん。

nipponikitai_20201221_29.jpg
ここに水と糊を混ぜた液を張り、絹の反物を竹ひごの両端に針がついた「伸子(しんし)」と呼ばれる道具でシワができないように広げていきます。続いて山﨑さんが取り出したのはエアブラシ。「先ほどは筆で色を置いていたんですけど、筆だとなかなか出だしと最後まで平均に色が置けないので…。着物の場合は、出だしと最後が同じ雰囲気でないとダメなんですよね」と山﨑さん。エアブラシで色付けをしていきます。一見、無造作に吹き付けているように見えますが、もちろん仕上がりを計算して作業しています。水槽を何往復もして色を重ね、模様の下地が完成。

「柄を作っていきましょうか」と山﨑さんが取り出したのは手作りだという櫛のような道具。それを液につけ、水槽の端から端まで道具の向きと力加減を保ったまま移動し、現れたのは鳥の羽のような模様。今度は先ほどより小さい櫛を使い、羽模様を崩すようにしてさらに細かい柄を作ります。

nipponikitai_20201221_30.jpg
作業開始から1時間。いよいよ反物に写しとる工程です。少しでもずれたり滲んだりすれば、これまでの工程も反物もすべて台無しになってしまいます。「クリスマスプレゼントを開ける前と同じドキドキです」というルースさんに、「一瞬なんでね。じゃあいきますよ、ワンツースリー!」と反物を水面につけていく山﨑さん。水槽の端から反物がサーッと染まっていきます。「わあー! まるで魔法!」とルースさんは大興奮。

nipponikitai_20201221_31.jpg
色は一瞬で定着するのであとは糊を洗い流し、乾かした後、仕立て職人に渡り、着物に仕立ててもらいます。古くからの墨流しを発展させ、反物を染め上げる職人の技。それが世界にたった一枚しかない着物を生み出しているのです。

ルースさんも生地の墨流し染めを体験させていただけることに! 下地となる色をつけたところで、ルースさんにバトンタッチ。これほど大きいサイズの墨流しはもちろん初めて。いつもは陽気なルースさんですが、この時ばかりはこの表情。

nipponikitai_20201221_32.jpg
慎重に模様を作っていくルースさんに「すごいね! 上手です」と奥様の由美子さん。すると、山﨑さんがハートをひとつ加えてくださいました。

nipponikitai_20201221_33.jpg
人生初の反物の墨流し染めは、かわいらしい柄に。「ニッポンに来て、職人さんのもとで墨流しを体験させてもらえたなんて夢のようです」と感謝の気持ちを伝えます。

続いて訪れたのは、山﨑さんが染めた着物を扱う卸問屋「京朋」。

nipponikitai_20201221_34.jpg
「よろしければ羽織ってみはりますか?」という店長さんの勧めに、「ぜひ!着てみたいです」と大喜びのルースさん。着物は間近で見るのも着るのも初めて。着付けが終わった自分の姿を鏡で見ると、目には涙が…。

nipponikitai_20201221_35.jpg
実はルースさん、結婚した当時はお金がなく、ウエディングドレスが着られなかったそう。「墨流しの着物が花嫁衣装のようで感動しています」。そこへ「変身しはりましたね!」と山﨑さん夫妻がやって来ました。「墨流しの着物を着る機会を作ってくださって、ありがとうございます」と感謝するルースさんに、由美子さんからプレゼントが。なんと、初めて作った墨流し染めを着物の帯揚げに仕立ててくださったのです。「嬉しすぎて夢のようです。天国にいるみたいです」とルースさん。いただいた帯揚げを結んでもらうと、ハート模様もばっちり!

nipponikitai_20201221_36.jpg
あれから4年半。ルースさんからのビデオレターを、山﨑さん夫妻のもとへ届けます。「帰国後も 墨流しを作ったことを思い出し、懐かしい気持ちでいっぱいです」と話すルースさん。ご主人のライアンさんと、お腹の中にいる息子さんを紹介してくれました。

nipponikitai_20201221_37.jpg
墨流し作りにも大きな変化がありました。以前は小さな容器で墨流しをしていましたが、山﨑さんを見習って大きなトレイを使うようになったそう。さらに、たくさんの色を使うことも学び、時間を見つけては、墨流しの作品作りに没頭しているそう。「以前の私は水の中に筆をゆっくり浸けすぎていました。山﨑さんから学んだのは、筆の先端をほんの少し素早く浸けるということです」と話し、最近練習しているという模様を見せてくれました。さて、ルースさんの墨流しの出来栄えは?

nipponikitai_20201221_38.jpg
「綺麗に仕上がってる。めちゃめちゃ上達していると思います。墨のラインがはっきり写って他の色が柔らかく染まってるので、メリハリが効いてバランスがいいと思います」と山﨑さん。紙が乾いたら、切り抜いて厚紙に貼り、和綴じのノートに。来日前も趣味でこのようなノートを作っていたルースさんですが、山﨑さんから墨流しを学んだおかげで、このノートが貴重な収入源になったそう。

nipponikitai_20201221_39.jpg
以前は結婚式の招待状などを作って生計を立てていましたが、新型コロナの影響で仕事が激減。そこで、墨流しノートをたくさん作り、オンラインショップで販売を始めたところ、年間200冊ほど売れたそう。「墨流しノートに救われました」。模様のレパートリーは、日々増え続けています。

さらに、墨流しをアメリカで広めたいと、墨流し教室を開催。作り方だけでなく、墨流しの歴史なども伝えています。ここでルースさんから山﨑さん夫妻にサプライズ! 手作りの墨流しノートが届きます。

nipponikitai_20201221_40.jpg
ご夫妻は「画面で見るよりかなり線が細い。繊細に出来ているのが素晴らしいです」と感動!

nipponikitai_20201221_41.jpg
「言葉では言い表せないほど感謝しています。完璧を追求する山﨑さんを見て、私はすごく影響を受けました。いつかライアンと一緒に息子をニッポンに連れて行き、みなさんにお会いしたいです」。
山﨑さんも「今度は、ルースさんが自分の着物を作るお手伝いができたらいいなと思いました」と、温かいメッセージを贈ってくださいました。

素朴で可愛らしい模様が海外でも人気! 型染紙の魅力に触れる

ルースさんには、墨流しと同じくらい夢中になっているものがありました。千代紙の一種・型染紙。京友禅の技法を用いて、手漉きの和紙に色鮮やかな模様を染めたもので、着物の小紋柄がベースとされ、その柄は500種類以上。

nipponikitai_20201221_42.jpg
全国でも数軒しかない型染紙を作る創業約80年の「和染工芸」(京都)を訪ねると、川勝啓吾さんが迎えてくださいました。

nipponikitai_20201221_43.jpg
型染紙が置いてある倉庫に行くと、ルースさんが持っているものと同じ柄を発見! 「私の家の引き出しに入っている型染紙は、ここから来たんですね!」と大喜び。

型染紙に使うのは、手彫りの柄から起こした型。型の下に和紙を挟んだら、そこに米ぬかと塩から作る「防染糊(ぼうせんのり)」をゴムベラで一気に塗ります。糊をつけた場所には色が付かず、和紙の色がそのまま残るという仕組み。

nipponikitai_20201221_44.jpg
そして、型染紙作りに欠かせないのが大豆。「何に使うのか、全く見当がつきません」とルースさん。一晩水に浸けてふやかした大豆を豆腐作りに使う機械ですりつぶし、豆乳にします。この新鮮な豆汁(ごじる)と顔料を混ぜて使用します。大豆に含まれるタンパク質には紙に色を染み込みやすくする性質があるので、顔料と調合することで和紙に色がしっかり定着するのです。ベースとなる色を和紙全体に広げ、乾いたら別の色を次々と重ねていき、一晩乾燥させます。翌日、これが美しい模様に変わるのです。

nipponikitai_20201221_45.jpg
その後は川勝さんのご自宅にお邪魔し、夕食をご一緒させていただくことに。川勝さんのお母さまと奥さんと一緒にちらし寿司作りをお手伝い。仕事を終えた川勝さんが帰宅する頃には、ご馳走がズラリと並びます。

nipponikitai_20201221_46.jpg
すると川勝さんが「今日のメインディナー!」といって、ホットプレートに豆乳を流し入れました。豆乳が温まってきた頃、「いくよ~」といって豆乳の表面を引っ張り上げると、見事な湯葉が!

nipponikitai_20201221_47.jpg
初めて見たルースさんはこの表情。

nipponikitai_20201221_48.jpg
何度もできる湯葉を堪能しました。型染紙作りに欠かせない豆乳を、京都名物の湯葉として食卓で振る舞う…川勝さんの粋な演出でした。

翌朝。型染紙の仕上げ作業に移ります。和紙に直接お湯をかけて糊をふやかし、手でさーっと撫でると…!

nipponikitai_20201221_49.jpg
まるで手品のように糊が溶け、美しい模様が現れました! 顔料の接着が強すぎるときれいに色が落ちないため、大豆の汁を混ぜる昔ながらの方法でしかこの素朴な味わいは出せないのだそう。ルースさんも糊を落とす作業を体験させていただくと、「わー! とてもなめらかで触っていると気持ちいいです。この経験は一生忘れません」と感激。糊を落とした和紙を50度以上の乾燥機に乗せて約3分。型染紙の完成です。

憧れの型染紙作りを体験し、感無量のルースさんに、川勝さんから「ルースさんが染めた型染紙と、会社で染めた型染紙をプレゼントします」と素敵なサプライズが。

nipponikitai_20201221_50.jpg
別れの時。「これから型染紙に触れる度、皆さんのお顔や素晴らしい仕事ぶりを思い出すでしょう」と挨拶するルースさんに、「私たちは作るばかりで使っている方とお会いする機会がないんですけど、遥か遠いアメリカのルースさんにうちの型染紙を使っていただいて本当にありがたく思っています」と川勝さん。2人の娘さんたちからはルースさんの似顔絵をプレゼント!

あれから4年半。ルースさんからのビデオレターを川勝さんのもとへ届けます。ご主人のライアンさんを紹介した後、大きなお腹を見せて「来月、男の子が生まれてくる予定です」と報告します。

nipponikitai_20201221_51.jpg
川勝さんも「おめでとう!パンパンやで」と嬉しそう。プレゼントでいただいた似顔絵も、額に入れて飾っています。

nipponikitai_20201221_52.jpg
今も変わらず型染紙を愛しているルースさん。その影響はご主人にも…。ルースさんがニッポンで作った型染紙があまりにも美しいとのことで、趣味のサーフィンで使うフィンにその型染紙を貼り、樹脂で防水加工したそう。

nipponikitai_20201221_53.jpg
さらに、「型染紙作りは真似できませんが、川勝家の“あるもの”を真似しています」とキッチンへ移動。そこにはフライパンにたっぷりと注がれた豆乳がいい具合に温まっていました。川勝さんのお宅で食べて以来、夫婦でハマっている湯葉パーティー。ホットプレートがないため、フライパンで立ったまま湯葉を味わいます。

nipponikitai_20201221_54.jpg
最後は川勝家からルースさんに「頑張って元気な赤ちゃん産んでください! おめでとう!」とエールを贈りました。

nipponikitai_20201221_55.jpg
その思いが通じたようで、ルースさんは11月に男の子を出産。ルースさんをニッポンにご招待したら、コロナショックを墨流しと型染紙で乗り切り、その魅力をアメリカ中に広めていました!

今夜7時放送! 月曜プレミア8「世界!ニッポン行きたい人応援団スペシャル」は、3時間の拡大版でお届け。

新企画「ニッポン住んじゃった人応援団!」
海外に暮らしながらニッポンのあるものが好きすぎて来日し、そのまま住むことを決意した外国人の方たちを応援!
▼「益子焼を愛する」ハンガリー人女性
16歳の時に美術の専門学校で見たニッポンの焼き物の美しさに感動し、陶芸を学び始めた彼女は5年前に単身来日。「器の中に自然の美を見出す益子焼に深い魅力を感じるんです」と話す彼女が、師匠からの課題に挑戦!さらに、ニッポンの凄さを再発見!

特別企画「遠く離れた絆をもう一度結んじゃいましたSP!」
▼大衆食堂を愛すメキシコ人男女
約2年前、ニッポンにご招待。その際は家族4代にわたり87年続く名物食堂・三勝屋でお世話になり、秘伝のレシピまで伝授してもらった。そんな2人からビデオレターが。来日後、売上は3倍になったものの、新型コロナウイルスの影響で売り上げが減少。しかしある言葉が2人を支えていた…。

nipponikitai_20201221_56.jpg
▼「生まれ故郷のニッポンを見たい、娘や孫に会いたい」日系移民男性
約3年前、63年ぶりに故郷ニッポンにご招待。長男や次女と感動の再会を果たし、さらに、生まれ故郷である福島県いわき市三和町で、手元に1枚もない最愛の母の写真を大捜索した。そんな彼からビデオレターが。当番組出演をきっかけに「とある奇跡」が…そして次女からも感動の報告が!

【ゲスト】徳光和夫、小芝風花

どうぞお楽しみに!

PICK UP