8月16日(金)に放送された「ガイアの夜明け」(毎週金曜夜10時)のテーマは、「パリで勝つ!そしてロスへ」。
パリ五輪で選手を支えた日本企業の知られざる闘いに独占密着! 選手たちの眠りをサポートする寝具、池江璃花子選手が着用する水着、新マラソンシューズの開発など、ガイアのカメラが“スポーツメーカーの挑戦”を追った。
【動画】パリで勝つ!そしてロスへ!スポーツメーカーに独占密着“もう一つの五輪”
最後の瞬間まで諦めない!“日の丸水着”開発の舞台裏
100年ぶりにパリで開かれた夏のオリンピック。日本が獲得したメダルの数は、海外の大会では最多となる、金メダル20個を含む45個。その裏側では、もう一つの闘いが繰り広げられていた。
1月。専修大学(神奈川・川崎市)の総合体育館で、競泳女子・池江璃花子選手が着用する水着の広告宣伝用の撮影が行われた。その様子を見守るのが、スポーツメーカー「ミズノ」の大竹健司さんだ。
ミズノは2015年に池江選手と契約し、水着を提供。2019年、東京五輪に向けた開発から大竹さんが担当。そして東京五輪終了直後から、今度はパリ五輪に向けて新たな水着を開発してきた。大手繊維メーカー「東レ」と組み、従来よりも水を弾き、水中での重さが約6%軽くなる新素材の開発に成功。その新素材を使った水着が「GX・SONIC 6」だ。
3月、新たな水着を着て臨んだ「パリ五輪 代表選手選考会」。池江選手は0.01秒差で2位に食い込み、見事パリへの切符をつかんだ。
6月中旬、大阪にあるミズノの本社。オーストラリアでトレーニングしていた池江選手から、急きょ「新しい別の水着を試したい」との依頼が入る。これまで池江選手が着ていたのは背中の部分が丸く開いたもので、代表選考会でも、このタイプを着用して代表権を獲得した。
しかし池江選手が新たに要望したのは、背中の部分を生地で覆う「背閉じ」タイプ。このタイプは、主に海外の有力選手が好んで着用している。そこで大竹さんが、急きょ「背閉じ」タイプの水着を送って試してもらったところ、池江選手から「背閉であることにより、肩甲骨がぐいっと上に上がるので、より前へ前へと推進力のあるストロークができる」との感想が返ってきた。
オリンピック直前で水着を変えるのは異例のことだが、大竹さんは「直前で変える勇気のある選手はなかなかいないと思う。よりいいものを求めていることが分かったら、“できることをしよう”という気になる」と熱く語る。
大竹さんは「背閉じ」タイプの新たな改良品を、イタリア遠征中の池江選手の元へ。すると1週間後の6月21日、新しい水着を着た池江選手は、イタリアで行われた国際大会の50mバタフライで、世界記録保持者に次ぎ、2位になった。
パリ五輪開幕まで1カ月を切った7月9日。ミズノの協力工場「トーヨーニット」(三重・四日市市)では、池江選手が本番で着る水着の最終製作に取り掛かっていた。「背閉じ」にしてから試作すること3回。急ピッチで作業が進められるが、ミリ単位の精密さが求められる。「レース前のアップで1回着るかどうか。いきなりレースだと思う」と大竹さん。
こうして水着は完成し、池江選手のリクエストに応えることができた。
7月27日。パリ五輪の競泳会場に入った大竹さんは双眼鏡を取り出し、手元の資料に何かを書き込み始めた。各選手がどのメーカーの水着を着ているか、チェックするのだ。
例えばあるレースでは、ミズノ着用者が1人なのに対し、フランス発祥のブランド「アリーナ」が4人と半数を占めている。「全世界のシェアが分かるので、将来的にはオリンピックの場でも高いシェアを取れるようにしていきたい」と大竹さん。オリンピックは、スポーツメーカーにとっても闘いの場なのだ。
個人種目でのオリンピック出場は、8年ぶりとなる池江選手。大竹さんが開発した「背閉じ」タイプの水着で、「女子100mバタフライ」準決勝に臨むが……。
“眠り”で選手を支える! 日の丸マットレスが挑むパリ五輪
去年11月、柔道81㎏級の永瀬貴規選手(パリ五輪で金メダルを獲得)が、寝具メーカー「エアウィーヴ」本社(東京・大手町)を訪れた。ここには、全身の画像をもとに、AI(人工知能)が最適なマットレスを選ぶ独自のシステム「マットレス・フィット」がある。
エアウィーヴのマットレスの一番の特徴は、内部がスプリングではなく、エアファイバー(樹脂製の繊維)を使っていること。おすすめのマットレスを試した永瀬選手は、「いいです。しっかりした睡眠が取れれば、次の日も良いパフォーマンスにつながる」と話す。
エアウィーヴは長年アスリートに寝具を提供し、そこで得たデータを開発に生かしてきた。この会社を一代で築き上げた会長の高岡本州さんは、この日、社員を前にあるチャレンジを明かした。
「オリンピック選手が戦う前の日は『人生で一番大事な日』。そこに選ばれたかった。寝具を1万6000台(選手村に)納める」。
パリ五輪 選手村で使われる寝具に、エアウィーヴが採用されたのだ。高岡さんは今回のオリンピックを、欧米市場を開拓するための突破口にしようと考えていた。
愛知・幸田町にあるエアウィーヴの工場では、選手村に搬入するマットレスの生産が始まっていた。釣り糸を作る技術を応用して独自のマットレスを作るが、このマットレスには画期的な特徴があった。表裏で寝心地を変えられるように、作る段階で硬さを変えているのだ。上下の繊維の密度を変えることで、硬さの違いを出すことができる。
さらに、硬さが違う3つのマットレスを用意。これを、上・中・下と部分ごとに組み替えることで、より自分好みの体形にフィットした寝具になる。
3月4日。セーヌ川沿いに建設された選手村では、マットレスの設置作業が進められていた。エアウィーヴからは5人のチームが送り込まれ、約3カ月で1万6000床の寝具を運び込む。フレームはリサイクル可能な段ボールを使用し、1床ずつ組み立てていく。
しかし、フランス人の作業者から完成の報告があり、部屋でチェックしてみると、フレームの一部は破れ、マットレスをセットする基本の順番が無視されていた。結局、日本から来たスタッフが一つ一つ直していくことに。
3月13日、高岡会長が選手村にやって来た。この日、国際オリンピック委員会(IOC)の関係者が、ベッドの搬入状況を確認することになっていた。IOCの関係者が「フランス国内でリサイクルできる?」と尋ねると、「できる。ごみにはならない」と答える高岡さん。史上最も環境に配慮することを目指した今回のオリンピック。実は、フランス国内で全てリユース、リサイクルできることが、寝具の選定条件の一つになっていた。そのために、高岡さんが打った秘策とは……。
“逆襲のアシックス”…起死回生のシューズ開発プロジェクト!
6月2日。岡山市のグラウンドでは、女子マラソン日本代表の前田穂南選手が練習していた。前田選手は、今年1月の選考レースで、19年ぶりに日本記録を更新。その時に着用したシューズを開発したのが、国内最大のスポーツメーカー「アシックス」だ。
このシューズを手掛けたのが、開発責任者の竹村周平さん。過去アシックスは、軽量化を追求した薄底シューズで世界を席巻。多くのメダリストの足元を支え、栄光を共にしてきたが、アメリカの「ナイキ」が開発した厚底シューズの登場で、状況は一変。陸上長距離界は、厚底一色に塗り替えられてしまった。
そこで過去の栄光を捨て、新たに取り組んだのが、独自の厚底シューズだった。世界中のアスリートから膨大なデータを集め、イチからスタート。目指したのは“勝てるシューズ”の開発だ。
プロジェクト開始から約4年…。パリ五輪開幕の1カ月前、竹村さんが急ピッチで作業を進めていたのが、パリ本番で各国の代表選手が使用するシューズの仕上げ。アシックスがパリで勝つために選んだカラーは、鮮やかなイエロー。パーツを組み合わせて一枚のシート状にし、ミシンで慎重に縫い合わせていく。
それぞれの選手の足形に合わせて形を整え、最後に厚みのあるソールを張り合わせ、アシックスの自信作「メタスピード・パリ」が完成。竹村さんはシューズを手に取り、「頼むで、しっかりと一緒に走ってよ」とつぶやく。
さらに竹村さんは、スペイン南部の街・セビリアを舞台に、かつてないチャレンジをスタートさせていた……。
この放送が見たい方は「テレ東BIZ」へ!