8月9日(金)に放送された「ガイアの夜明け」(毎週金曜夜10時)のテーマは、「あなたの運転 見守ります~シニアドライバー新時代~」。
高齢ドライバーによる事故が後を絶たない。死亡事故は2年連続で増加。大きな社会問題になっている。そんな中、自治体や自動車メーカー、ベンチャー企業がタッグを組み、高齢ドライバーが安全に運転できるよう、新たな技術開発に取り組んでいる。高齢ドライバーたちのドキュメントとともに、ニッポンの車社会の未来像を模索する。
【動画】シニアドライバー新時代!高齢者の運転技術を診断する最新アプリ:ガイアの夜明け
高齢者の運転を事故鑑定のプロがチェック!
2009年に創業した「ジェネクスト」は、保険会社などから依頼を受けて交通事故を鑑定する会社。これまで500件以上を調査してきた社長の笠原一さんは、交通事故を減らすために、事故鑑定で使う機械を開発。「映像に映っているものを分析・解析することで証明していく」と話す。
これは事故車に取り付けられていたドライブレコーダーの映像。広範囲を記録するため、映像にゆがみが生じ、事故発生時の正確な情報を把握することができない。
ジェネクストが開発した機械は、レコーダーに残されていた映像を1ミリ四方の方眼紙に重ね合わせることで映像のゆがみを補正。当時のスピードや事故の状況を正確に知ることができる。こうした分析で実績を積んできた笠原さんの原点は、12年前に父・敏一さん(当時66)が起こした交通事故にあった。
当時のドライブレコーダーが捉えた映像を見ると、タクシー運転手だった父・敏一さんが道路を右折して建物の駐車場に入ろうとした時、左からやって来た車と衝突している。道路は横断可能な場所だったが、敏一さんには「安全運転義務違反」という処分が。
事故直後の過失の割合は9対1だったが、その結果に息子の笠原さんは疑問を持ち、ドライブレコーダーの映像や現地の情報を独自に調べ上げた。すると、相手の車が100キロ以上のスピードを出していたことが分かり、過失割合も真逆の2対8に。加害者から被害者へと立場が逆転したのだ。
「証明によっては、その人の人生を変えてしまうことにもなりかねない」。笠原さんは、正確な交通事故鑑定の必要性を感じた。
事故の鑑定の他、事故が多発する場所を調査し、標識が見えにくいなどの情報も提供。笠原さんは、各地の自治体からさまざまな依頼を受けている。
2月。笠原さんは、高齢者の事故を減らすため、新たな取り組みに着手しようとしていた。高齢ドライバーの運転状況を記録するという実証実験だ。
向かったのは横浜市役所。横浜市でも高齢者による事故の割合が増えており、笠原さんとタッグを組むことになったのだ。
1週間後、ジェネクストに集められた66歳から71歳までの7人のドライバーは、提携する保険会社の協力の下、公募によって選ばれた。
実験に使うのは、ジェネクストが開発したアプリ「アイ・コンタクト」。GPSで車の位置情報がジェネクストに転送され、走行したルート上でどんな運転をしているかを全て記録することができるシステムだ。運転中に起こしたスピード違反や踏切で一時停止しているかどうかなど、違反の種類ごとにカウント。それを運転技能の点数として割り出す仕組みだ。
「高齢者が特別に危険なのか。認知機能が低下して免許の返納をした方がいいという状態になれば危険だという認識もあるが、高齢者全てがそうかというとそうでもないだろう」。
笠原さんは「アイ・コンタクト」を使って、高齢ドライバーの実態を知りたいと考えていた。
2月中旬、約1カ月半に及ぶ実証実験が始まった。今回の参加者の中で最高齢の香田辰彦さん(71)は、若い頃からドライブが趣味で、運転にも自信があるという。長年保険会社に勤め、取引先へ向かう時など毎日運転。今も仕事を続けている。
運転する前に「アイ・コンタクト」のアプリを起動させ、スタートボタンを押すだけ。その後は香田さんの運転を全て自動で記録し、ジェネクストが交通違反の有無などを数値化してくれる。
香田さんの車を追うと、想定以上に良いスコアが出ていることが分かったが、この日の取材中、ヒヤリとする出来事が起きた。一時停止の標識がある十字路に差し掛かった時のこと、停止線でしっかり止まるも、子どもの姿に気づかずに進んでしまったのだ。香田さんの車の車載カメラを見てみると、子どもがいるにも関わらず加速していた。
この映像を見た香田さんは、「ちょっとうっかりだったね。自分が一番よく分かるんです、やばいなって。ヒヤリとする回数が増えれば(運転を)やめる」と話す。
宇佐美利美さん(66)は、息子・マキさんの勧めで参加。長年、旅行代理店や保険会社で勤めてきた宇佐美さんは、共働きの息子夫婦に代わって保育園に通う孫の送り迎えをしているが、それだけに自分の運転に責任を感じていた。
実験中の決まり事は、車に乗る時にアプリをオンにするだけ。宇佐美さんが苦手とするのは駐車。1年ほど前、コンビニの駐車場で隣のトラックにぶつけてしまったという。いつまで運転できるのか…周りの人にも相談していた。
3月下旬。実験開始から約1カ月半が経過し、結果発表の日。視力の低下が気になっている香田さんと家族のためにも運転を続けたい宇佐美さん…そんな2人に、意外な診断が出る。
高齢者も安心して移動できる「街」を作る…マツダの新たな挑戦
6月下旬。自動車メーカー、マツダの試験場(広島・三次市)では、マツダが開発した安全技術の体験会が開かれ、地元の住民や三次市 福岡誠志市長もやって来た。
このイベントを主催したのは、商品やサービスを企画するマツダの吉田真一郎さん。早速参加者たちを車に乗せ、試験場のテストコースを走る。
しかし、しばらくすると、運転していたマツダの社員が気を失ったふりをし、アラート音が鳴った。実はこれは、2年前に発表された、急病などの異変を感知する「ドライバー異常時対応システム」。今回のように意識を失って手放し運転をしていると、センサーが異常を検知して、自動で車を停止させるというシステムだ。吉田さんは、企業と地域住民の関係をもっと近づけたいと考えていた。
試験場からほど近い川西地区は、住民の半数以上が高齢者で、唯一の公共交通機関である路線バスは日中に1本。吉田さんは市と協力して、交通インフラが乏しいこの地域で、住民の足となるプロジェクトをスタートさせていた。
広島に本社を置くマツダが6年前にスタートさせたのが、地域内交通、通称「支えあい交通」。運転できる住民がドライバーとなり、移動手段のない地域住民を医療機関などへ連れて行くサービスで、利用料は無料。マツダは専用の車両を提供するだけでなく、車検などの維持費もすべて負担している。
吉田さんは立ち上げメンバーの一人で、「支えあい交通」を通して自動車メーカーの新たな役割を実感していた。「自動車会社は車を造って売るだけではダメで、われわれが持っている製品やノウハウを地域のために、社会課題解決のために生かさないといけない」。
実は吉田さん自身も、兵庫県で一人暮らしをしている母親がいて、「支えあい交通」は他人事ではなかった。「母は車の免許を持っていない。父が先に亡くなって、遠くに移動できなくなっている。今は川西地区でやっているが、将来的には自分の親も(助けたい)」と、胸の内を明かす。
しかし、「支えあい交通」は大きな問題に直面していた。ボランティアのドライバーたちの平均年齢は60代後半…運転する側の高齢化も進んでいたのだ。ここからは、高齢ドライバーをサポートする、新技術が必要になる。
この日、吉田さんが向かったのはマツダの研究施設。ゲーム機のようなドライブシミュレーターが設置されているが、よく見るとドライバーに向けられたカメラが3台も。マツダの栃岡孝宏さんによると、これまでは体の傾きなどでドライバーの異常を見分けていたが、その機能を進化させ、「顔の向き」や「目線」、「まぶたの動き」まで分析できるようになったという。そしてこの目の動きを研究していくと、“事故なき社会”の手助けとなる可能性があるすごいことが判明した。