緩和ケアと終末期ケアの違いは?専門医が教える病棟を選ぶ際のポイント:主治医の小部屋

公開: 更新: テレ東プラス

長寿番組「主治医が見つかる診療所」(月曜夜8時から)は、いま話題の健康法から、いざというときの医師・病院選びのコツまで、医療に関するさまざまな情報をお届けする知的エンターテイメントバラエティ。

今回、WEBオリジナル企画「主治医の小部屋」で取り上げるのは「緩和ケアと終末期ケアの違い」について。質問者のご家族は「緩和ケア」という言葉に直面し、不安を感じている様子ですが…。当連載初登場で、同番組のレギュラー・宇井睦人医師は、緩和ケアにも精通している総合診療医。緩和ケアや終末期医療の解説のほか、緩和ケア病棟を選ぶ際のポイントについても教えていただきました。

悲観的にならず、QOL(生活の質)を上げるために寄り添って


12/10主治医
Q:50代女性です。85歳になる母は心臓弁膜症と診断されて通院しています。先生からは「ご高齢なので、負担がかかる手術は避けて緩和ケアの方向で考えていきましょう」といわれました。納得はしているのですが、なんとなく治る見込みがないから?…と考えてしまうことも。よく「終末期ケア」という言葉も聞きますが、その違いがよくわかりません。ぜひ教えていただきたいです。また、緩和ケア病棟の選び方のポイントも知りたいです。よろしくお願いいたします!

――緩和ケアと終末期ケアに大きな違いはあるのでしょうか。

緩和ケアは、完治する見込みのない疾患を抱える患者さんやそのご家族の、肉体的・精神的つらさなどを改善するためのアプローチです。一方の終末期ケアもケアの仕方に大きな違いはあるわけではなく、医療者側も明確に分けて提供しているわけではないでしょう。どちらも「病気を治す」のではなく、QOL(Quolity of life;生活の質)を改善し支えてゆく、という目的は同様だと思います

また、「緩和ケアはがん患者さんに提供されるもの」という誤解も非常に多いのですが、緩和ケア・終末期ケアともに、概念として対象となる疾患が限られているわけではありません(緩和ケアの診療報酬が付く疾患群としては、悪性腫瘍・心不全・AIDS(後天性免疫不全症候群)などがあります)。

――緩和ケアの中の最後のほうに終末期ケアがやってくるということでしょうか?

おおむねその理解でよいと思います。ただし、「緩和ケアは終末期だけではなく、診断時もしくは早期から提供されることが推奨」されていますので、一般的に終末期ケアよりも対象となる期間は長くなりますが、「緩和ケアは終末期に提供されるもの」と誤解されている方もとても多いですね。いずれにせよ疾患名や時期で明確に区別されるものではない、ということです。
相談者の方は医師から「手術は避けて緩和ケアの方法で考えていきましょう」と言われ、納得はしている一方で”治らないのだ”という現実にショックを受けておられるのかもしれません。もちろん完治の見込みがない現実を受け止めてゆく必要はあるかと思いますが、必要以上に悲観的にならず、お母さまの苦痛を予防して和らげるよう、しっかり支えていく方針と考えられるのが良いと考えます。

――では、終末期ケアはいつから始まるのでしょうか。

実は「終末期」には厳密な定義はないとされているのですが、医師などの医療関係者が死を予測できる時期が、概ねそれにあたります。がん患者さんであれば、食事を摂れないような衰弱に伴う症状が現れると概ね1〜2カ月で亡くなることは医学的に知られています。この知識も一般の方にはあまり周知されていないと思いますが、このような時期には終末期として対応してゆくのが妥当だと思います。しかしご本人やご家族が気づくことはなかなか難しいものでもありますので、担当の医療者とよく相談してほしいですね。

緩和ケア病棟選びのコツは、家族や友人と面会できるかどうか


12/10主治医画像素材:PIXTA

――具体的に緩和ケアの内容をお聞かせください。

緩和ケアは患者さんやご家族の苦痛を軽減し、QOLを向上させるアプローチが主な定義ですが、この複雑な苦痛である「全人的苦痛(トータルペイン)」は4つに分けられるとされています。

具体的には、疾患や治療によって生じる症状や副作用などの「身体的苦痛」、気持ちが落ち込む・眠れないなどの「精神的苦痛」、仕事の継続や経済的な問題などに関する「社会的苦痛」、自分の生まれてきた意味や生きる価値などが見出せない「スピリチュアルペイン(霊的な苦痛)」があり、それぞれに対応が異なります。

たとえば「精神的苦痛」の場合、うつや不眠に対し傾聴するだけではなく、薬も選択肢になります。ですが「スピリチュアルペイン」は、人生の意味や自身の存在価値に悩むような苦悩であり、薬では対応できません。はじめはその苦しみゆえに語ってくださらない患者さんも少なくない中で、少しずつお話をお聞きしながら支えを強めてゆく、という根気強いアプローチが原則になってきます。「社会的苦痛」も同様に粘り強くサポートをしてゆきますが、補助金などの制度が使える場合もありますので、行政などに相談する柔軟性も求められます。

痛みや息苦しさなどの「身体的苦痛」は、モルヒネなどの医療用麻薬(オピオイド)を使って対応する場合もありますが、現在は薬そのものも薬の使い方も進歩しており、「麻薬を使ったら余命が短くなる」というようなことはありません。これも非常に多くの方が誤解されていますね。

これらの4つの苦しみは相互に影響し合います。たとえば、「スピリチュアルペイン」が強い患者さんでも、「身体的苦痛」を麻薬などで抑えることでかなりの方が安定した状態になります。このように、緩和ケアでは、総合的なアプローチが必要になります。

――緩和ケア病棟の選び方のポイントはありますか。

お伝えした緩和ケアの概念とは少し異なるのですが、”緩和ケア病棟”としては(診療加算などの関係もあって)悪性腫瘍の患者さんにほぼ限定している病院もあります。相談者の方のケースは心臓弁膜症でしたので、緩和ケア病棟の入院前面談でお断りされてしまう施設も少なくないのではと考えますが、一般論としてNGポイントをあげるとすれば「面会制限が厳しいところ」は避けたほうがよいと思います。

実際に緩和ケア病棟の平均在院日数は数週間とされており、終末期の方も多いのですが、気持ちもふさぎ込みがちな中で1人で過ごすのはつらいことで、ご家族の面会が支えになっている方はたくさんおられます。またご家族の面会はOKでも、友人は面会できない、という施設もあります。ご家族がいなかったり、ご友人が大きな支えになることもありますから、どこかで線を引きたいのは理解はできるのですが、それもどうかと…。緩和ケア病棟は看護師の質の高さや配置の手厚さが売りですが、相性が合う・合わないを含めて、雰囲気など以外で判断するのは難しいでしょう。ですので面会制限は、わかりやすいポイントの1つかと考えます。

――宇井先生、ありがとうございました。

【宇井睦人医師 プロフィール】
湘南鎌倉総合病院・総合診療科 部長。医師・公認心理師。
2007年 順天堂大学医学部卒業。日本緩和医療学会認定医・研修指導医、プライマリ・ケア連合学会家庭医療専門医・指導医、日本内科学会総合内科専門医、医療政策学修士。著書に『緩和ケアポケットマニュアル(第2版)』など。

※この記事は宇井睦人医師の見解に基づいて作成したものです。

今回お話を伺った宇井先生も出演する、次回の主治医が見つかる診療所は、【救命救急ドクターヘリ&昭和の健康“言い伝え”検証】!

12/10主治医
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【ドクターヘリ&ドクターカーに密着】
365日24時間体制で患者を受け入れる日本を代表する2つの救命救急病棟に密着▼心筋梗塞の疑い80代女性…救急車なら1時間かかるところをヘリならわずか10分で搬送! 命を救う壮絶現場▼医師が同乗する“ドクターカー”で緊迫の心臓マッサージ▼家の階段から転落した少年を救え▼ダンプの荷台で大けが男性「皮下気腫」を処置せよ

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