ニッポンに行きたくてたまらない外国人を世界で大捜索! ニッポン愛がスゴすぎる外国人をご招待する「世界!ニッポン行きたい人応援団」(月曜夜8時)。毎回ニッポンを愛する外国人たちの熱い想いを紹介し、感動を巻き起こしています。
今回は、「ニッポンの漬物を愛してやまない外国人大集合スペシャル」をお届けします。
【動画】「ニッポンに行きたくて行きたくてたまらない」と願う外国人に密着!そこにはたくさんの感動が!
ニッポンで漬物の里巡り! 芸術品と称される漬物の製造も体験
紹介するのは、アメリカに住む、漬物を愛してやまないジョシュアさん。
秋は、新米の美味しい季節。炊き立てのご飯にぴったりなのが漬物です。その歴史は古く、約1100年前の文献「延喜式」には、味噌漬け・酢漬け・粕漬けなど50種類近くの漬物が作られていたという記録が。当時は高級品でしたが、安土桃山時代に禅宗が普及し、精進料理が発展。野菜栽培が盛んになり、漬物も広く食されるように。
発酵食品として栄養価が高く、食物繊維も摂取できる漬物。漬けることで生まれる植物性乳酸菌には、優れた整腸作用と、免疫力を向上させる働きも。1993年には、京都の伝統的な漬物「すぐき漬け」から全く新しい植物性乳酸菌・ラブレ菌が発見され、マジックピクルスとして世界から注目を浴びました。
ジョシュアさんが漬物に出会ったのは11歳の時。日本人の叔母がお土産にくれた「しば漬け」の味に感動! これをきっかけに、漬物に興味をもったそう。以来、インターネットや本で独学。今では30種類以上の漬物を作るまでに。
ここで、しば漬けの作り方を見せてもらいます。車で向かったのは、一定額を支払うことで新鮮な野菜を直接入手できる、地域支援型農業を行っている農場です。
広大な農園には、ニッポンのきゅうりも。水分が少なく、塩を加えて発酵させると風味がより濃縮されるため、漬物作りに最適だそう。ニッポンの品種がない場合は、近いもので代用。イタリアの品種のなすは成長するとしば漬けに向かないので、小さいものだけ収穫します。
「しば漬けの味を作るのは乳酸菌です。新鮮な野菜には、その乳酸菌がたくさんついています」。野菜を塩に漬けると、浸透圧で中に含まれる水分が出て、その過程で野菜に付着していた乳酸菌が糖類などを分解。野菜の青臭さが消え、漬物独特の風味が生まれるのです。
自宅に戻り、いよいよしば漬け作り。しば漬けに入れるしそは、ニッポンでは両面が赤色ですが、アメリカでは同じ品種のタネが手に入らず、片面だけが赤いしそで代用します。
しその量に対して5%の塩を揉み込み、余分な水分や苦味を出します。しそから出た水分は捨て、水で洗ったら、きゅうりとなすをカット。最後に千切りにしたしょうがと5%の塩、水洗いしたしそを入れて3分揉み込みます。
瓶に移したら、野菜の重さに対して3倍の重しを乗せます。これより軽いと水っぽくなり、重すぎると固い食感に。インターネットで購入した漬物用の重りの上に瓶を置き、水を入れて重さを調整。この状態で待つこと1週間、きゅうりとなすのしば漬けが完成!
もう習うことなどないようにも見えるジョシュアさんですが、浅漬けだけはどうしてもうまくいかないそう。
乳酸発酵を伴う「古漬け」に対し、発酵させず、塩で素材から水分を抜いて野菜の旨みや味わいを凝縮させる「浅漬け」。「毎回同じ塩の量で統一していますが、食感が固すぎたり、柔らかすぎたりうまくいかないんです」と話します。
そこで、「真の職人さんから漬物作りを学びたい」と願うジョシュアさんを、ニッポンにご招待! 念願の来日を果たしました。
向かったのは、漬物の一大産地・京都。寺院が多く、精進料理と共に漬物が発展。京野菜と呼ばれる上質な野菜の旨みを活かすため、さっぱりとした味付けの浅漬けが好まれ、今でも漬物の消費量は全国1位です。
ジョシュアさんを受け入れてくださったのは、「京つけもの富川」の皆さん。手作りにこだわったしば漬けや千枚漬けは、「京ブランド認定食品」に選出。二代目の富川恭裕さんは、伝統産業をけん引する担い手として京都市が認定する「未来の名匠」に選ばれています。
早速、富川さんおすすめの漬物を試食。旬の野菜を別々に漬けて一緒にした「五色漬」をいただき、「一つひとつの漬物の食感が全然違うのが面白いです」とジョシュアさん。浅漬けの最大の特徴は、野菜の旨みと歯切れの良い食感にあります。
富川さんは、京野菜の産地である南丹市日吉町で野菜を生産。自社農園の新鮮な野菜で漬物を作っています。「鮮度のいい状態でお漬物にすると、よりお漬物が美味しくなる」と富川さん。
ここで、念願だった浅漬け作りを教えていただくことに。富川さんの弟で工場長の正也さんが、赤しそと白菜の浅漬けを教えてくださいます。
まずは、白菜を手切りで8ミリの千切りに。同じ包丁でジョシュアさんも白菜を切ると、包丁の切れ味の良さにびっくり! 歯ごたえを良くするため、野菜の繊維を潰さないよう、常に切れ味を良くしているそう。
千切りが終わったら、水分を抜くため、白菜の分量の5%の塩を入れて混ぜていきます。白菜の上にのせる重しは4キロ。ジョシュアさんは毎回野菜の重さに対して3倍の重しをのせていましたが、正也さんは素材によって同じ分量でも重さを変えています。
そもそも漬物石は、全ての野菜が塩水に漬かるようにするのが役目。しかし重すぎると、野菜から水分が抜けすぎて固くなり、軽すぎると全体が塩水に浸からず、歯切れの良い食感になりません。
野菜の水分量は状態や天候によって、毎日数%の違いが。そのため、正也さんは野菜を混ぜる際、見た目だけでなく手の感触で水分量を感じ、3.5キロから30キロまで20種類ある漬物石を組み合わせ、ベストな食感の漬物にしているのです。
こうして白菜を漬け込むこと2日。塩漬けが終わったら味付けの工程へ。まずは、自社農園で採れた赤しそをみじん切りにして白菜と混ぜ、爽やかな風味と色合いに。味付けに使うのは、富川さんの父である初代が開発した浅漬けの出汁。醤油、酢、みりんなどを混ぜ合わせた門外不出の配合で、素材を活かす味になっています。
この出汁に、野菜の旨みを引き立てるため、シロップと米酢を加えます。正也さんは野菜によって微妙な甘味や酸味を出汁に加え、毎回同じ味になるようにしているのです。
このタレを塩漬けにした白菜に和えれば、浅漬けの出来上がり。2、3日後にちょうどいい塩梅になるそうですが、味見させていただいたジョシュアさんは「もう美味しいです!」と大絶賛。作業後、向かったのは富川さんの農場。お店の皆さんが、ジョシュアさんのためにバーベキューパーティーを開いてくださったのです。富川さんの農家仲間の皆さんも集まってくださり、京風おでんや、しば漬け入りのたこ焼きなどにも舌鼓を打ちました。
翌日は、ゆずで風味をつけた大根の浅漬け、ゆず大根も教えていただきました。大根は皮の内側に繊維が多く、その部分も丁寧に剥くことで食感を均一に。その後も時間の許す限り、京漬物を学びました。
別れの時。ジョシュアさんは「僕は京漬物の歴史や製法を勉強しに来ましたが、実際は違うことを学びました。京漬物を美味しくするのは、野菜から漬物まで全てに愛を注ぐということです。富川の皆さんを見ていると、全てに愛を注ぐということを実践しているのだと感じます」と伝えました。
お世話になったお礼に、日本語で感謝の言葉を綴った色紙を手渡すと、富川さんからお土産が。皆さんが寄せ書きをしてくださった特製うちわです。さらに、この日工場で作った揉みしそもいただき、「帰っても本物のしば漬けが作れますね」と喜ぶジョシュアさん。最後に皆さんとハグを交わし、別れを惜しみました。
「京つけもの富川」の皆さん、本当にありがとうございました!
次に向かったのは、奈良県の東大寺。酒粕で作った漬物、奈良漬を学ぶためにやってきました。
奈良漬は、酒粕に長期間漬けて発酵させる「古漬け」の漬物。日本最古の漬物といわれ、今から1300年前の木簡には「加須津毛瓜(かすづけうり)」という記載が。江戸時代、奈良の漢方医が白瓜の粕漬けを「奈良漬」として売り出し、徳川家康に献上したところ風味の良さに感激。その漢方医を江戸に呼び寄せ販売させたことで、全国的に広まったといわれています。
お世話になるのは、東大寺の参道に店を構える、創業約150年の「森奈良漬店」。明治天皇に奈良漬を献上したという名店です。
早速、奈良漬を食べさせていただくことに。ジョシュアさんがいただく初めての奈良漬は、一番人気の瓜。「こんな漬物は初めてです! 最初は強いアルコールを感じて、噛むほどに味わいが増していきます」とジョシュアさん。
森さんによると、砂糖を入れて甘くしている奈良漬も多いそうですが、森奈良漬店の奈良漬は甘くなく、お酒がきいています。アルコール濃度も約9%と、一般的な奈良漬の約5%に対して高め。酒粕の風味や香りをしっかり味わえる、創業当時から変わらぬ味です。
そんな奈良漬がどのように作られているのか、早速見せていただくことに。
工場内には、奈良漬を漬けている80キロの樽が約4000個も! 奈良漬の良い香りに、ジョシュアさんはうっとり。
まず、見せてくださったのは酒粕。そもそも酒粕は、蒸した米や麹からなる「もろみ」から、日本酒を絞ることによって生まれる副産物。そこには、米や麹由来の食物繊維やアミノ酸が多く含まれています。
酒造メーカーから仕入れた酒粕は、高さ2メートルの巨大なタンクに集め、丹念に踏み込んで空気を抜きます。この酒粕を発酵させると、糖がアルコールに変化。こうして半年かけて熟成させ、初めて奈良漬に使える酒粕に。
漬けている瓜は一旦酒粕から出し、酒粕を替えて漬け替え。脱塩しながら少しずつ味付けをしていきます。少なくとも3、4回は漬け替えをするそうで、「そんなに手間がかかるんですね」とジョシュアさん。他の粕漬けは一度漬けたら同じ床に漬け続けますが、奈良漬は酒粕を何度も変えながら最低1〜2年は漬けるとか。
クリーム色だった酒粕は、瓜を漬けて半年経つと濃い茶色に。これはメラノイジンという物質の色で、長期間発酵熟成させるしょうゆや味噌が茶褐色なのも、この成分に由来します。
3、4回にわたり新しい酒粕に漬け替えることで、瓜の塩分が酒粕の旨み成分に置き換わり、30%ほどだった塩分が3%ほどに。また、瓜が吸収したメラノイジンには抗酸化作用があり、腸内環境を整え、血流改善などにも効果があるそう。こうして徐々に味を染み込ませることで、野菜の細胞を壊さず、シャキシャキとした食感の奈良漬になるのです。
酒粕と塩の他に何か使っているのか質問すると、「使わない」と森さん。奈良漬は職人の技と、時間によって作り上げられます。ジョシュアさんは「こんなに手間暇を惜しまない漬物があるなんて、本当にいい勉強になりました」と伝えました。
「森奈良漬店」の森さん、本当にありがとうございました!
続いて向かったのは、岩手県花巻市。こちらでジョシュアさんが見たかったのは、漬物の芸術品とも称される「金婚漬」です。
ジョシュアさんを受け入れてくださったのは、半世紀以上、金婚漬を作り続けている「道奥」。創業者の阿部羑子さんと娘の久美子さんが親子で営んでいます。金婚漬を販売するために開いた「金婚亭」には、他にも50種類の漬物や花巻の土産品が。
にんじん・ごぼう・瓜を昆布で巻き、瓜の中に詰めた金婚漬。江戸時代に岩手県の農家が味噌樽に野菜を漬けたのが起源といわれ、庶民の漬物でした。農閑期に滋養に富む野菜を漬け込むことで、冬に不足しがちな栄養素を補っていたのです。
長く漬けるほど味わいを増すことから、金婚式を迎える夫婦になぞらえ「金婚漬」という名前に。おめでたい漬物として、岩手ではお祝いの席や結婚式などにも欠かせないものだそう。羑子さんは61年前、郷土の漬物を多くの人に知ってほしいと、農家の女性たちと共に「金婚漬」を初めて商品化。その文化を広めてきたのです。
初めて金婚漬をいただいたジョシュアさんは、「すごくシャキシャキしていて最高です」。
久美子さんのオススメの食べ方は出汁茶漬けで、お酒の後の締めにもぴったりだとか。さらに、すいとんのような「ひっつみ」などの郷土料理も堪能しました。
金婚漬の作り方を教えていただけることになり、工場へ。使うのは、白瓜の一種である「かりもり」です。固く生食には向きませんが、漬物にするとカリッとした食感になり、金婚漬には欠かせないそう。
かりもりを3カ月塩漬けにしたら、調味液に漬け込みます。調味液のベースとなるのは、もろみ醤油。醤油を絞る前のもろみをそのまま残したもので、豊かな香りとコクが。この調味液に、1カ月じっくりと漬け込みます。
瓜の中に詰める具材は、瓜とゴボウ、そして岩手県産の長にんじん。甘味とにんじん特有の香りが強いのが特徴です。細長く切ったら、こちらも調味液に1カ月漬け込みます。
そしていよいよ、金婚漬を作るための最も大事な工程へ。昆布の上に具材を並べ、その上から新たな昆布で巻き、瓜の中に入る太さにまとめていきます。「昆布をきっちりしっかり巻かないときれいにできない」と久美子さん。少しでも細い部分があると、輪切りにした際、箸で持っただけで崩れてしまうそう。
1メートルほどの均等な太さの昆布巻きが完成したら、いよいよ瓜の中に詰めていきます。ジョシュアさんも、アドバイスをいただきながら挑戦。昆布巻きがほどけないよう瓜だけを回しながら詰め、両端をカットすれば、金婚漬が完成!
ジョシュアさんは「金婚漬が芸術品だっていう意味がわかりました。全て正しいサイズと数を選んで作り上げていますよね。教えていただき本当に感謝します」と伝えました。
別れの時。「伝統的な金婚漬や家族の繋がりが学べてとても感動しました」とジョシュアさん。お土産に、金婚漬と漬物の盛り合わせをいただき大喜び! 「アメリカで家族や友人にも食べさせてあげます」と話し、「金婚亭」を後にしました。
「金婚亭」の皆さん、本当にありがとうございました!
漬物を通してたくさんの出会いがあったニッポン滞在。帰国を前にジョシュアさんは、「本当に想像できないほどの経験をしました。皆さんが文化や伝統を家族で引き継いでいるということに感動しました。お世話になった皆さんに本当に感謝しています。一生忘れません」と語りました。
ジョシュアさん、またの来日をお待ちしています!