スポーツの「ミズノ」が快進撃~知られざるビジネスの全貌:読んで分かる「カンブリア宮殿」

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ミスタードーナツに佐川急便~ユニフォームの秘密とは?


「ミスタードーナツ」のユニフォームは、高温のキッチンでも快適に作業できるよう、汗を吸って乾きやすいニット素材で作られている。スタッフのひとりは「べたべたしないのでさらさら。汗をかいたとしてもすぐ乾くのですごくいいなと思います」と言う。

一方、「佐川急便」の配送スタッフは、荷物を運んだり、おろしたり、腕を大きく動かす作業が多い。青と白のユニフォームは「結構動きやすくて、肩は完全に違和感なく動かせます。通気性もいいので、涼しい感じがする」と言う。わきの下を特殊なカッティングにすることで肩回りの動きやすさを実現。こちらも吸汗・速乾性の高い素材が使われている。

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実は「佐川急便」「ミスタードーナツ」のユニフォームを作っているのは、スポーツメーカーのミズノだ。

この日はミズノ社員たちが「佐川急便」へ。取り出したのはアンダーウエアのようなもの。いたるところにセンサーがついていて、それを配送スタッフに着てもらう。そのまま普段の作業をしてもらい、データを取り始めた。動作を解析して3D映像にする。

「腕を上げる作業が多い業種であったり、はしごを上る作業が多い業種であったり、それぞれ動きや姿勢が違うので、その動きに応じた設計をしています」(ワークビジネス事業部・箕輪陽一)

これはアスリートのユニフォームを作る際にも使う手法。動作のデータをもとに、体に負荷がかからず、より動きやすいウエアを設計しているのだ。

「スポーツウエアを作るうえで蓄積されてきたノウハウや素材を、当社の要望にフィードバックして、制服を細かくアップデートしていただけるところが魅力的。非常に信頼しています」(「佐川急便」総務部・古川浩隆さん)

ミズノといえば、プロ野球史上最年少の三冠王、東京ヤクルトスワローズの村上宗隆選手や卓球の伊藤美誠選手、水泳の池江璃花子選手など、トップアスリートのウエアや用具を手掛ける、日本を代表するスポーツ用品メーカー。そのミズノが今、拡大しているのが、企業向けのワークビジネスだ。

7月に「東京ビッグサイト」で開かれた製造業や建設業向けの展示会に、ミズノもブースを出していた。そこには「セブン‐イレブン・ジャパン」「NEXCO西日本」「熊谷組」など、様々な企業のユニフォームが並ぶ。スポーツウエアの素材やノウハウを活かし、これまで1200の企業や自治体に納入している。

建設現場などで使われる作業靴も展示されていた。ミズノのスタッフは「スポーツシューズのノウハウを入れて、安全かつ耐久性や履き心地の良い靴を展開している」と言う。

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「オールマイティVS」というモデルは、つま先に耐久性が高い野球用スパイクの人工皮革を採用。アッパーはテニスシューズと同じ通気性の高い構造になっている。また「オールマイティTDⅡ」では、ソールに競技用ランニングシューズで使われる高反発素材を採用している。「軽くて履きやすい」「作業しやすい」と好評だ。

ミズノのワークビジネスの売り上げは今や97億円。2016年の本格参入以来、急成長を遂げている。

シューズもジャケットも~働く現場が快適に


ワークビジネス事業部の香山信哉はこの日、川崎市のバス会社「中日臨海バス」を訪れた。2カ月前からこの会社にシューズのモニターを依頼。バスの運転士6人に試してもらっている。

それは自動車メーカー「マツダ」とソールを共同開発したドライビングシューズ。ペダルを踏んでも滑らず、足裏に感覚が伝わりやすいよう独自の構造になっている。

香山は実際に運転士が使う様子を見せてもらう。大型バスは今でもマニュアル車がほとんど。両足ともに繊細な操作が要求される。2カ月間使った運転士・小野寺典昭さんの評価は「足裏の感覚がすごく敏感、最後に止まるときも微調整でスムーズに止まれる」。

ミズノは、こうした現場の意見を参考に改良を重ね、企業に売り込んでいくのだ。

一方、都内の建設現場にやってきたのはミズノ法人営業部の守友龍騎。出迎えたのは大手ゼネコン「竹中工務店」生産本部の田坂友美さんだ。

「竹中工務店」の現場ではミズノのファン付きジャケットが使われている。ファンから空気を取り込むことで汗を蒸発させ、涼しく感じさせるものだ。「竹中工務店」は2019年からミズノ製を採用している。以前は他社のものを使っていたが、「今まで使用していたファン付きジャケットはけっこうもわっと膨れてしまいました。ミズノさんの場合は膨れずに、空気が循環して熱が逃げていく」(田坂さん)と言う。

一般的なファン付きジャケットは空気で膨らんでしまい、動きの妨げになるものが多かった。ミズノは、ファンで取り込んだ空気が袖と首からスムーズに抜けるよう設計。膨らみにくく動きやすいものを開発したのだ。

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この日、守友が来た目的は、ジャケットの改良のため、現場の声を聞くこと。すると「首から出る自分の汗のにおいが臭い」「ファンの汚れが気になる」といった声が。企業ごとに要望を聞き、細かい改善を繰り返すのだ。

「やはり聞いていくと、現場ならではの細かい要望や課題があるので、まだまだやれることはあるのかなと思います」(守友)

ミズノの本社は大阪にある。従業員は約3400人。ワークビジネスの好調もあり、2022年度は売上高2120億円、営業利益129億円と、ともに過去最高を記録した。

スポーツ以外の分野を拡大~寝具市場に参入の理由


本社の隣には去年、研究開発拠点「ミズノエンジン」が完成。施設内に陸上競技のトラックがあり、天井には動作解析カメラが並ぶ。ここで解析したデータを商品づくりに生かしている。

「トップアスリートの動きのデータを取って、それをアパレルの設計などに活用しています」(グローバル研究開発部・古川大輔)

スポーツで培ったノウハウがワークビジネスにも活かされているのだ。

施設内のグラウンドで社員たちがやっていたのはサッカー。腰には「500」と表示された端末がついている。実はこれミズノが開発した「500歩サッカー」という競技。歩数を制限して、ゼロになったら退場。適度な運動で楽しめる仕組みだ。ミズノはこの「500歩サッカー」を企業や自治体に提案。イベントの運営を行っている。

「歩数制限がかかっていることで強度を少し下げて、大人と子ども、お年寄りから若い人までフラットに楽しめる競技になっています」(ライフ&ヘルス事業部・渡邉萌)

ゴールを決めた四代目社長・水野明人(74)は「自分はあまり得意でないと思っていたけど、やったら楽しい。それがきっかけでいろいろなスポーツをやり始める人も出てくるだろうと。市場が拡大するひとつのツールになります」と言う。

水野こそスポーツ以外の分野を拡大した張本人。この日もスポーツ以外の新製品のテストが行われていた。

今年発売したばかりのマットレス。寝ている時にマットのどこにどれぐらい圧力がかかっているかを計測する。内部には通気性・耐久性に優れた繊維素材を採用。断面を見ると、上は細い繊維で体に柔らかくフィット。下は太い繊維でしっかり体を支える。さらに、頭、肩、腰など6つのゾーンに分け、それぞれ形状を変えることで安定感とフィット感を高めた。他にも枕や敷パッドなども開発、寝具市場に本格参入した。

「寝ない人はいないですからね。日本に1億2000万人いて、1%を取れたら120万人。びっくりするような数字じゃないですか」(水野)

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軽さと強さに自信あり~トヨタも採用した素材とは


この日、「ミズノエンジン」に視覚に障がいのある2人の姿があった。開発中の白杖のテストをしてもらうためだ。白杖は素材にカーボンが使われている。

「ゴルフのシャフトの知見で、しなり感とか、“振り軽さ”が大事なので、そこを白杖で活かせないかと」(グローバル研究開発部・加瀬悠人)

ゴルフクラブはミズノの主力製品のひとつ。シャフトなどに使うカーボンの加工に高度な技術を持っている。その技術を活かして開発したのが、折り畳み式の白杖だ。

大下歩さんは、現在使っている折り畳み式に不満があるという。「グラグラして不安定な感じがあります。ジョイント部分が、振った時に全体が揺れてしまう」と言うのだ。

今回は腕にセンサーを付けて、白杖を使っている時の筋肉の動きを計測。長時間使っても疲れないかをテストする。実際に試してもらうと、筋肉の動きは従来の折り畳み式よりも少なく、疲れにくいことが分かった。

「軽さは感じます。やっぱりグラグラしないというのが大きい。折り畳みだけどガタガタしない」(大下さん)

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ミズノはさまざまな製品にカーボンを提供している。例えば「NEXCO西日本」のETCバー。「カシオ」の腕時計「G-SHOCK」ではベルトの強度をアップするためにカーボンが使われている。さらには「トヨタ」の燃料電池車「MIRAI」。丈夫さが必要な水素タンクの材料にもミズノのカーボンが使われている。

日本に野球を広めて117年~スポーツ用品のパイオニア


草野球の選手たちに大人気のバットがある。ミズノの「ビヨンドマックス」。高反発のウレタンを使用し、最高級モデルでは金属バットに比べて反発性能がおよそ30%もアップするという。選手たちは「全然、飛距離が違う」「これがないと試合ができない」と言う。

プロ野球から草野球まで、ミズノは選手たちの熱い支持を集めている。

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その創業は1906年、現社長の祖父・水野利八が弟と興した水野兄弟商会が始まりだ。アメリカの野球文化に感銘をうけた利八は、日本にも普及させようと、野球用のウエアやシューズ、ボールなどの販売を始める。

1913年には野球用グローブの製造に乗り出すが、当時、野球人口は少なく、グローブがなかなか売れない。そこで利八は考えた。

「市場が大きくならないと商売も大きくならない。そのためにはトーナメントをやるのが、一番みなさん、楽しむだろうと」(水野)

利八が音頭をとって始めたのが関西学生連合野球大会。これが発展し、今に続く高校野球「夏の甲子園大会」になったのだ。

さらに利八は国内で先駆けとなるスキー板(1927年)や、日本初のゴルフクラブ(1933年)の開発など、次々と新たなスポーツ市場を開拓していく。

現社長の明人は1949年、二代目・健次郎の次男として生まれる。1975年、大学在学中にミズノに入社。当時、野球やゴルフの競技人口が増え、ミズノも成長を続けていた。

ところが2000年代に入るとその人気が低迷。ミズノの業績も伸び悩みはじめる。

一方、国内2位だった「アシックス」は、早々にゴルフ用具から撤退し、経営資源をランニングに集中。海外での売り上げを伸ばし、2006年、ミズノから業界首位の座を奪った。

そんな中、兄からバトンを渡され、四代目を継いだのが明人だ。

「これから少子高齢化がどんどん進めば当然市場は縮小する。新しいことをどんどんやっていくことが必要になる」(水野)

明人はスポーツ以外の新たな分野を模索する。なかなかヒットが生まれず、苦しい状況が続いたが、2016年、スポーツで培った技術で開発した作業靴が大ヒット。その後、企業向けのユニフォームを強化するなど、ワークビジネスを拡大していったのだ。

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~村上龍の編集後記~
明治39年、野球に魅せられた水野利八が「水野兄弟商会」を作る。出身地だった美濃から「美津濃商店」と改名した。わたしが初めて買ってもらった野球のグローブには、「美津濃」という漢字の文字が刻まれていた。ミズノと聞けば、その文字を思い出す。ナイキやアディダスはもちろん、アシックスにも漢字はない。ミズノは少子化が原因で、スポーツ人口が減るという現実に直面している。だがリソースは豊富に持っている。作業服や靴を扱うワーク事業が広い支持を集めている。これまでのスポーツで培った技が生きる。

<出演者略歴>
水野明人(みずの・あきと)1949年、兵庫県生まれ。1974年、イリノイ・ウエスレイアン大学卒業。1975年、ミズノ入社。1998年、副社長就任。2006年、社長就任。

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