「これ、なんなんですか!? てか、どうかしてる、みんなが。お客も演者も!」
サプライズでゲスト出演したスチャダラパーのBoseが異様な盛り上がりを見せる会場でそう感嘆の声を漏らした。そう、それはまさに“奇祭”だった。
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何しろ、トップバッターのヒム子こと日村勇紀のステージからどうかしていた。「ヒム子はベタが好き」と歌う「ヒム子の新時代」を披露している中、「さあ、立て!」と観客を煽る。
ここまではよくある光景だが、ヒム子は立ち上がった観客に向かって「屁をこくぞ!」とアリーナ席、2階席、3階席の順におならを浴びせていく。そのおならで倒れ込むように座っていく観客たち。さいたまスーパーアリーナに詰めかけた15000人を超える観客たちも巻き込み、会場総出で“コント”をしているのだ。
今回で10回目となる「マジ歌ライブ」である。
「マジ歌ライブ」は、テレビ東京の深夜番組『ゴッドタン』(毎週土曜深夜1時50分)の人気企画「マジ歌選手権」のライブ版。2009年、約1200人キャパの日本青年館ホールから始まった。第2回は2011年3月下旬に開催予定だったが、東日本大震災の影響で中止を余儀なくされた。だが、プロデューサーの佐久間宣行は「延期」にこだわり、わずか2週間後の4月7日、震災から1ヶ月足らずで、エンターテイメントが軒並み「自粛」を迫られる中で強行。オープニング映像ではこんなメッセージを送った。
「笑えるか? そんな元気はないか? 笑おうぜ!」
2017年には日本武道館、2018年には横浜アリーナにも進出するほどにまで成長した。そんな、どんなことがあっても歩みを止めなかったマジ歌ライブだが、2020年2月13日、さいたまスーパーアリーナでの開催以降、約3年半もの間、中断。コロナ禍が降りかかってしまったからだ。
ウルフルズの「笑えれば」とザ・クロマニヨンズの「エイトビート」を乗せた今回のオープニング映像でも、『ゴッドタン』がコロナの影響を強く受けたことが語られていた。必要以上に濃厚な“接触”をする『ゴッドタン』は、それまであった半分以上の企画ができなくなった。それはマジ歌も例外ではなかった。ハライチ岩井はこう語る。
「マジ歌は必要のないエンターテイメントですからね(笑)。でも必要のないことを全力でやる。これがマジ歌なんで、やり続けるだけじゃないですかね」
約3年半ぶりの開催となるマジ歌ライブ。「マジオールスター歌謡祭」と銘打たれているように、いまや各番組でMCを務めるような芸人たちが集結。オープニングVTRはこのテロップで締めくくられた。
「さあ、笑おうぜ」
ヒム子に続いて登場したのは、東京03角田と大竹マネージャー。初登場時には東京03のマネージャーだった大竹もいまやASH&Dコーポレーションの社長だ。“アルファルファ”の飯塚と豊本もステージ脇で見守る中、角田はドラマ『半沢直樹』で演じた三木重行の衣装で、是枝裕和監督の映画『怪物』に出演できたのも『半沢直樹』のおかげだと歌う曲「帳消しだ」を「伝説の始まり」と改め歌い上げる。
ダサい人生もそれを上回る何かがあれば「帳消し」にできると歌う角田は、曲の終盤で「本当にダサいのは豊本だ」と壇上に上がるよう促すと、ここで豊本がまさかのハプニングを起こしてしまう。そのダサさがあまりにも曲のテーマと合致していて奇跡的だった。
マジ歌には大きくわけて2種類ある。
ヒム子のようにキャラクターを作りあげて、本ネタのように歌う、いわばコント要素の強いタイプと、角田のように自分の芸人人生をテーマにしたドキュメンタリー要素の強いタイプだ(もちろんそれぞれどちらの要素も混在しているが)。
後者の要素の代表格といえばハライチ。前回のライブにも出演した芸人の中で、この3年半の間にもっとも大きく状況が変わったコンビといえるだろう。
3年半前は「腐り」の真っ只中にいた岩井。テレビのバラエティに順応する澤部のような芸人を「お笑い風」などと評していた。それをテーマにした「テレビのバケモノ」を歌うと、澤部は「本当のバケモノは俺なんかじゃない」「本当のバケモノはこの会場にいる」とステージ脇で見ていた朝日奈央を指名。朝8時にリハをしているにも関わらず「ええ?私?ちょっと待って、急に?」としっかりリアクションを取るバケモノっぷりをいかんなく発揮した朝日は、バラエティの定石をテーマにしたハライチとのトリオ漫才をしてみせるのだ。
さらにハライチはライブ後半にも再登場。MCを務める昼の帯番組『ぽかぽか』本番前、楽屋の鏡に向かって「俺は変わったんだ」と言い聞かせるようにつぶやく岩井。白黒に塗り分けられたアシンメトリーな衣装に身を包んでステージに上がった岩井は「グッバイ」を歌い、「腐っていた」自分と対話する。
「昼番組なんてお笑いできないだろ?どうだ?ストレス貯まっただろ?」と問う過去の自分に「確かに昼の番組ではお笑いできないと思ってた。でも違ったんだ。昼の番組だからこそ本当に面白いボケじゃないと視聴者には残らない」と答え、「その場を円滑に進める役割を自ら買って出る人間はスゴイよ。だって自分の手柄にならないことをやれるってスゴイことだろ?」と澤部を褒め称える。
そして、アイドル風衣装になった“新生・岩井勇気”は、澤部とともに「あの頃の僕たちは今を見て何ていうのかな?描いてた未来とは少し違う今の自分を」「あの頃と変わらない隣にはお前がいる」と国民的グループが歌ったあの曲風の「腐りの向こう」を美しく歌い上げるのだ。矢作が言うように「ハライチの芸人人生が全部わかる」ステージだった。
ダイノジもこの3年半の間に拠点を地元・大分に戻すなど状況が激変。彼らはいつものように特設DJブースを駆使し、歌手になる夢を持つマリナやお馴染みのヒロコとともに「俺たちの大分Way」や「大分に戻ろう」を披露。圧巻のライブパフォーマンスで会場をヒートアップさせた。
「サービスブランド」の「ゆうこ」こと森三中・黒沢は、一人っ子の未婚・親が高齢者というつらい状況に“闇堕ち”。客席から登場した彼女は「親が高齢者世代だね」などと観客に呼びかけながら、陰鬱とした曲調と化した「JUST NO SIDE GIRL」2023年バージョンをソウルフルに絶唱。
そこに「もうやめて!」と入ってきたのは、「かよ」こと野呂佳代。ミュージカル風に呼びかけ「JUST NO SIDE GIRL」のオリジナルバージョンを一緒に歌うのだ。生で聴くとなおさら野呂の圧倒的な歌唱力が光る。
ライブ初登場の錦鯉は、長谷川雅紀をコーラスで従え、渡辺隆がムード歌謡風に、ようやく売れるも坐骨神経症などに苦しみ身体が言うことをきかない現状を歌い上げると、渡辺が敬愛するVTuberの兎田ぺこらが登場。
「こっちの世界においでよー」と渡辺に促すと、彼はVTuberとなり、「ノリノリノリノリ渡辺」と踊り出すのだ。
あっと驚く豪華なサプライズゲストも「マジ歌ライブ」の大きな見どころのひとつ。前述のBoseが登場したのはバカリズムのステージだった。バカリズムといえば、コント要素の強いマジ歌の極致。夏帆がコメントを寄せるVTRをバックに「ワイプで小首振る女優の謙遜」の美しさを「秋桜」と称し粘っこく歌うと、今度はトロッコに乗り客席を周りながら「恋のパステルカラー」を渋谷系風に軽やかに歌う。そのラップパートに登場したのがBose。なんと「今夜はブギー・バック」の一節が再現される貴重すぎる場面も。
角田が後半に再登場した際には、ドラムを務める風間カメラマンが首と腕を大怪我したということで「この中にドラム叩ける方いませんか?」と客席に呼びかけると、そこに「たまたま」いたのはなんとピエール中野。“日本一のドラマー”が「ココロノハコ」を演奏した。
ヒム子による「PPP」の際にはGO皆川も登場し、会場全体で「ウンチョコチョコチョコピー」をやってのけるのだ。
前半にはL.A.COBRAとして登場し、「ヨソウガイウンチ」「UNCHIだって上下関係…」「ハズレ☆ウンコ」「におい」「RINDO~DOG or HUMAN」「EARTH~僕らが世界をつなげる日~」とうんこ曲メドレーを披露したロバート秋山。
後半には「Healing COBRA」として、謎の集団「オメガ」の思想を“布教”する。会場には彼が慕う「淡邦人先生」も登場。実はこのライブの企画・運営・物販はすべてオメガによるものだという衝撃的な“事実”が明かされる。思えば、会場の外では「オメガドッグ」や「オメガメンチ」などといった限定フードが売られていた。そして物販販売員の手の甲にはオメガの刻印が…!
会場が騒然となる中、淡邦人先生に救われ、いまはオメガ埼玉支部にいるという人物が紹介される。TKO木下である。彼もまたオメガを称える歌を柔くなった表情で優しく歌うのだ。
そしてステージ下から飛び上がって登場してきたのがフットボールアワー後藤だ。光るギターもせり上がってくる。
オープニングVTRでは、「ずっと前から一生治らんウイルスにおかされてるからね。ロックのウイルスや」「どのワクチンも効かない」と語っていた後藤は、やたら長いコール&レスポンスを含む「ジェッタシー」や「GOTOタイムトラベル」を披露。この日いちばんともいえる熱狂を生む。「レベルが違う」「頭がおかしい」「ここ(さいたまスーパーアリーナ)に立った人の中で一番ダサい」と矢作が評す通り、毎秒のようにダサかった。
しかし、最高にダサいことは、実は最高にカッコいいことなのだ。そう見えたのは、僕らが“ウイルスにおかされている”からだろうか。
大トリはもちろん、劇団ひとり。前半には韓国の大スター「イムハタ」と化したトシムリンとして登場し「抱きしめてイムハタ~K-POPバージョン」を披露した彼は、最後はやはり「カッパ」となり再登場。生配信があるにもかかわらず、飯塚に尻穴に入った尻子玉を引き抜かせるイカれた展開に。飯塚はカメラに向かって絶叫する。
「寄らないで! うんこ付いてっから!」
おならに始まりうんこで終わる、サイテーでどうしようもなく、最高にバカバカしくてくだらないライブ。「奇祭」と呼ぶに相応しい多幸感あふれる祝祭だった。
アンコールでは後藤の「ギター回し」で沸かせた「ヘブリカン」に続き、最後は恒例の「さくら」を日村指揮のもと全員で合唱。
途中、日村は、多くの出演者が50代になり大人の品格が求められるようになったと前置きしつつ「だけど関係ありません」と力強く宣言した。
「くだらないことをやりたいです。バカみたいなことをやりたい!私はちんこを出したい!」
まさに芸人たちの心のちんこもうんこも丸出しのライブだった。それは『ゴッドタン』開始当初から変わらない。それどころか深化し続けている。「マジ歌」の精神は止まってなどいなかったのだ。
紙吹雪が舞い、出演者たちが手を振ってステージから捌ける中、なぜか飯塚だけは、ステージの反対側でせり上がり“上空”で終演を迎えた。
「なんで上げたの? ねえ、降ろして!」
(取材・文/てれびのスキマ)
9月21日(木)さいたまスーパーアリーナで開催した「ゴッドタン マジ歌ライブ2023 ~マジオールスター歌謡祭~」。会場に来られなかった方も、アーカイブにて“奇祭”を体験できます!
<「ゴッドタン マジ歌ライブ2023」配信チケット>
¥3,300円(税込)
※アーカイブ配信期間:2023年10月10日(火)23時59分まで
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