恋愛は面倒…でも結婚したい!“恋愛”と“結婚”を分ける新しい結婚の形

公開: 更新: テレ東プラス

歯止めがかからない日本の少子化――政府が掲げる“異次元の少子化対策”では根本的解決が見えてこない中、「ホンマでっか!?TV」(フジテレビ系)などでもおなじみの世代・トレンド評論家・牛窪恵さんが、新著『恋愛結婚の終焉』(光文社新書)で新しい結婚の形を大胆に提言。結婚しない今の若者たちを取り巻く環境、恋愛と結婚についてお話をうかがいました。

記事画像撮影:山田ミユキ

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若者たちは恋愛する余裕がない


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――著書『恋愛結婚の終焉』に書かれている、“恋愛と結婚を分けて考えるべき”という主張は大きな気付きになりましたし、深くうなずくばかりでした。牛窪さんがこのテーマについて書こうと思われたきっかけは?

「2015年に出版した『恋愛しない若者たち―コンビニ化する性とコスパ化する結婚』(ディスカヴァー・トゥエンティワン刊)で若者たちが恋愛しない理由を読み解いた際に、企画段階からご一緒した、同社元社長で出版プロデューサーの干場弓子さんと『恋愛しなくなれば当然、恋愛結婚は減るよね』という話をしていました。

90年代後半の労働者派遣法改正によって非正規雇用が増え、2003年以降は若い男性の1割以上が非正規雇用となり、その後、“格差社会”“下流社会”という言葉が使われ始めました。その時点ではまだ社会人になってから広がる格差が話題でしたが、ここ6、7年は特にコロナ禍の影響もあり、学生時代から格差が露呈しています。

私の取材でも、大学生の格差は明らかで、入社段階から多額の借金を背負うことになる貸与型奨学金の問題も顕著でした。ただ、それ以前に親の収入の違いやシングルマザーなど家庭環境により子供の時からの格差が顕在化しています。経済的な理由で生理用品が購入できなかったり、自治体の食糧給付の列に若い人が多く並んでいたり、社会問題にもなっているように若い人たちが食べるのにも困る状態なのです」

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――恋愛を面倒に感じる若者が増えていることによる未婚率の上昇だけではなく、経済的に困窮した若者に恋愛を謳歌して結婚する余裕はないということですね。

「それなのに、まだ上の世代の一部は『恋愛して結婚するのが当たり前』『ドラマのような恋愛に憧れるのが若者だろう』などと言い続けている。一方で、Z世代を中心とした若い人たちは『結婚は無理ゲー』『恋愛は贅沢品』と言っているわけです。このギャップが大きいにもかかわらず、いわゆる“昭和の考え方”を引きずった人たちが、時代の変化に気づいていないんですよね。

また、さまざまな研究結果からも伺えるのですが、近年はSNSの普及によって自己肯定感の低い若者が増えています。SNSには、いかにその人が楽しく過ごしているか、良い生活をしているか、いい面ばかりが投稿されていますから、他人の投稿を見ているうちに、自分がいかに劣っているか、いかにツイていないかと卑下するようになってしまうんですね。これは日本だけではなく先進国において、ここ5、6年顕著な傾向です。お金だけでなく心にも余裕がない中で、若者が脳天気に『なによりも恋愛したい』とか『結婚すればいいことがあるはず』とは考えられない状況です」

――若者は、恋愛しなくなった一方で、今“推し活”と言われるような趣味に情熱とお金と時間を費やす人々も増えていますよね。

「『恋愛しない若者たち』(2015年出版)で取材した時にも、すでにそういう現象が見え始めていました。特に男性の間で、アイドルグループのCDを買って握手会に参加するという形の応援が広がり、握手会でどうすれば笑顔で握手をしてもらえるか、どうしたら会話できるか、などをファン同士で情報交換するようになっていて。まだその頃は、“誰が一番長くしゃべったか”など競争意識が強く、みんなで緩くつながって応援する“推し”の概念には至っていないニュアンスでしたが。

当時の20代(おもに現30代)は、子供~青春時代に「セカチュー」(「世界の中心で、愛をさけぶ」)や「恋空」のようなラブストーリーの流行を体験していて、インタビューでも恋愛への憧れは感じました。ただ、『憧れがあるのになぜ恋愛しないの?』と尋ねると『それとこれとは別じゃないですか』と。いわゆる“物語”と“リアル(現実)”の世界は違う、同じように考える意味が分からない、というのが彼らの答えでした。

その後、バーチャルアイドルが人気を博し、メタバースでは仮想空間で実際の自分と違う姿で会話を交わすのも当たり前になってきています。若い人たちは、現実の生活で交際する相手と、“推し”を含め毎日のように心をときめかせる対象は違うと気づいているのです」

契約としての結婚も選択肢に


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――とはいえ、若者が結婚したくないわけではなく、結婚願望はあるのですね。

「今の若い人たち、特にZ世代は親御さんと仲がいいので、“家族”というものに対する憧れは強いんです。女性の多くは子供を産み育てたいという思いもあり、男性は少なからず親孝行として孫の顔を見せたいとも考えています。そのために結婚したい。

経済的に苦しい時代でもあり、90年代後半以降、親元を出ない未婚者の割合がずっと多い状態が続いています。そうなると、親御さんが倒れた時が怖い。女性はまだ横のつながりがあるから多少はいいのですが、男性がとくに心配です。親が倒れて介護のため会社を辞めた男性が、一人でどうしようもなくなって自宅にこもってしまい、親が亡くなっても放置してしまうようなケースも増えてくると思います。

そうしたリスクを減らすためにも、そろそろ恋愛と結婚を切り離して、激しい恋愛感情にこだわらずに“信頼できるパートナー同士が、親元を離れて生活を共にする”、場合によっては“対等な契約関係を結んで結婚する”といった選択をする人たちが今より増えればいいなと考えました。何しろ、いまだに未婚者(18~34歳)の8割以上は『いずれ結婚するつもり』だと考えているのです」

――契約関係の結婚といえば「逃げ恥(逃げるは恥だが役に立つ)」ですね! 老々介護の問題も、これから超高齢化社会を迎え、さらに厳しい世の中になっていくわけですから。著書を拝見し、恋愛対象でなくとも助け合える相手との結婚を選択肢にすることは、若い世代にオススメしたいと思いました。

「国の第三者機関の調査(※)によれば、男性も5割が結婚相手(女性)に経済力を求めています。都心で暮らすとなると地価も物価も上がって、一人で生活するのは厳しい時代ですから、男性も一定程度、経済力がある女性と結婚したいと考えるのでしょう。ただ、男性の多くが積極的に稼ぐ女性を探し、「自分は家事・育児力を身に付けるので」と胸を張るかといえば、おそらくそれは難しい。社会を変えるには女性の行動が肝ですから、まず女性に訴えていきたいというのが今回の本の趣旨でもありました。「おひとりさまマーケット」の本を書いたときと同じです。
※2021年 国立社会保障・人口問題研究所「第16回出生動向基本調査」

生物学では、“フィメール・チョイス”=多くの生物において女性(メス)が男性(オス)を選ぶのが一般的とする説が、半ば常識となっています。青山学院大学 総合文化政策学部の福岡伸一教授は、著書で、女性の性染色体XXを無理やり作り変えたのが男性の性染色体XYで、そのため男性は、病気にかかりやすく精神的に弱く、多くの国で平均寿命が女性より短いという考察をしていらっしゃいます」

結婚が縁遠くなる概念!?


――今回の著書『恋愛結婚の終焉』では、運命の相手と恋愛して結婚し、子を持つことこそが理想だとされる“ロマンティック・ラブ・イデオロギー”という概念についても説明されています。自分自身も、そうした考えに縛られていたことに気付きました。

「恋愛・結婚・出産を三位一体化するのが“ロマンティック・ラブ・イデオロギー”で、若い人たちも、まだこれに囚われています。日本における婚外子の割合は2.4%で、世界的に見ても最低レベルです。子供ができたら結婚届を出さないといけない、あるいは恋愛力のない人たちを『どうせ結婚できないでしょう』と見るなど、当たり前のように“恋愛と結婚と出産はセット”という考え方が強固です。

2006年頃、“婚活”がブームになり、今では一般的になりました。かつての“お見合い”との違いは、必ずしも周囲の紹介者に頼らず、みずから積極的に婚活アプリなどを利用することで、自発的に相手を見つけるということ。周りに頼るか自発的かの違いはありますが、出会いの段階までは、“婚活”と“お見合い”に大きな違いはないですよね。

ただ、そこからの大きな違いは「恋愛力」がものを言うかどうかです。そもそも婚活で出会う段階では、恋愛感情とは別のさまざまな条件(年収や正規か非正規かなど)で選んでいるのに、いざデートの段階では、『男性なのに奢ってくれない』や『こんな店しか知らないのか』『女性なのに気が利かない』など、恋愛軸のフィルターをかけて相手を見てしまう。いわばお見合いの時代より、ハードルを上げているわけです」

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――ロマンティック・ラブ・イデオロギーからの脱却には、フィクションの力も大事なのかなと考えています。私の世代は特に、素敵な恋をして結婚する男女を描いた漫画やドラマを観て、それが理想だと思い込んでいたので…。でも、徐々にフィクションの世界も変わってきているように思います。

「バブル期のトレンディドラマは、大体、大恋愛の末に結ばれて、女性がウェディングドレス姿で笑顔で終わるというストーリーが多かったと思います。でも、現実の結婚はそこから先が本番だということに皆さんが気付いていなかったというか、その点を指摘しない人たちがほとんどでした。終身雇用制で、経済的に将来不安が少なかったせいもあると思います。

最近の漫画やアニメでは親がバツイチだったり、カップルが必ずしも男女ではなかったり、さまざまな形の家族や恋愛が意識的に描かれるようになっています。先ほどお話しに出た、『逃げ恥(逃げるは恥だが役に立つ)』(TBS系)も契約結婚(偽装結婚)から始まる同居、をテーマにしたドラマでしたよね。そういう作品を観て育った子たちが大人になって、若者の意識も変わり始めたのではないでしょうか」

後編】では、マーケティングのエキスパートである牛窪さんならではの視点で提言する“共創結婚”という概念についてうかがいます。

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新著「恋愛結婚の終焉」(光文社新書)

【プロフィール】
牛窪 恵(うしくぼ・めぐみ)
東京生まれ。世代・トレンド評論家。立教大学大学院(MBA)客員教授。著書を通じて “おひとりさま”“草食系男子”などの言葉を広めた。近著は「恋愛しない若者たち」(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、「若者たちのニューノーマル」(日経プレミアシリーズ)、「なぜ女はメルカリに、男はヤフオクに惹かれるのか?」(共著/光文社新書)など。「サタデーウオッチ9」(NHK総合)「ホンマでっか⁉TV」(フジテレビ系)をはじめ、テレビの番組コメンテイターとしてもおなじみ。
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(取材・文/伊沢晶子)

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