巨大企業なのに「ベンチャー」~TOPPAN快進撃の裏側!:読んで分かる「カンブリア宮殿」

公開: 更新: テレ東プラス

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激減する雑誌や本の印刷~なぜ「印刷会社」が絶好調?


神奈川・小田原市のスーパー「クイーンズマートヤオマサ」。コーヒー売り場で「ネスカフェ・ゴールドブレンド」の棚作りが慌ただしく行われていた。おなじみのパッケージがフルリニューアルされたという。デザインがガラッとシンプルに。その顔とも言える金色がひときわ輝きを放っている。

「『ゴールドブレンド=金』というイメージがより強まったデザインになったと思います」(「ネスレ日本」三村美優さん)

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「ゴールドブレンド」リニューアル発売の1カ月前、新たなパッケージを作った2人が神戸にあるネスレ本社へ最終的な仕上がりを見せにやってきた。店頭での光具合まで計算し、細かいラインが施された金色に、凹凸を刻んだ文字。高級感あふれる仕上がりだ。

「店頭で上質さを感じられ、印象が変わる。本当に予想以上。凸版さんなくしてネスカフェのクオリティーは実現できないと思います」(「ネスレ日本」飲料事業本部・中西弘明さん)

パッケージを作ったのは凸版印刷。だが、その仕事はラベルの印刷だけではない。詰め替え用パッケージも凸版印刷が開発した。特殊な構造で、簡単に詰め替えができ、回収してリサイクルもできるパッケージ。使い勝手まで考えてくれたのだ。

「包括的に提案していただけるのがありがたい。製品設計から消費者へのつながり、さらに製品が使われた後のことまで提案いただけるのは凸版さんならでは」(中西さん)

凸版印刷は年商1兆6000億円、印刷業界トップに君臨する巨大企業だ。埼玉・川口市、最新鋭の川口工場では日本中で発売される本や雑誌が印刷されていた。この日、刷っていたのはスポーツ総合誌『Sports Graphic Number』だ。

「この工場で印刷から製本まで行っています」(川口工場・東田薫)

ところが、工場内を見るとほとんど人がいない。無人の搬送機が走り回り、極限まで自動化が進められているのだ。

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「印刷を取り巻く環境は年々厳しくなっており、スマートファクトリー化を進めて効率アップしていこうと」(三井拓也工場長)

かつて繁栄を極めた印刷産業は、デジタル化の流れの中で雑誌の廃刊などが相次ぎ、市場はピーク時から半減してしまったのだ。

だが凸版印刷はここ数年で反転攻勢。年商を一気に2000億円も増やした。

「デジタル木材」が大人気~印刷技術で建材に革命を


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2022年、横浜市みなとみらいにオープンした「ウェスティンホテル横浜」。自慢は、木目調の温かみを感じる美しい館内だ。いたるところにさまざまな種類の木材が使われているようだが、総支配人のリチャード・スーターさんが明かす。

「多くの人がこれを木と思っています。僕も最初は信じられませんでした。木目を印刷するなんて、すばらしい」

木材にしか見えないが、実は全て凸版印刷が開発した木目を印刷した「建材」なのだ。近年、木材が高騰する中、この木目の建材が売れまくっている。

「意匠材を貼り合わせた後、押して木をカンナで削ったような表情を出しています」(環境デザイン事業部・塚原史雄)

まるで本物のように木の凹凸まで再現しているが、高度な印刷技術でアルミなどにプリントしたものだ。

「長持ちするし環境にもやさしい。新国立競技場もそうですが、本物の木では耐久性がなく長持ちしない。そういう部分に我々の商材を使っていただいています」(塚原)

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凸版印刷がさまざまな木目を再現できるのには理由がある。膨大に保有する木目のデータは5000種類以上。このデータを使って、リアルな木目の建材を作り出しているのだ。

「今は本物のきれいな木材を安定して確保して作るのが難しくなっているので、印刷で表現する需要が高まっています」(環境デザイン事業部・坪井剛)

珍しい木や美しい模様の木材を世界中から集め、デジタルデータにしている。「最近のトレンド」と言うのが、アメリカの屋外の倉庫で使われていた木材。傷だらけの木材をデータ化しデザインし直すと、独特の木目が出来上がり、これがおしゃれな店舗から引っ張りだこなのだという。

「カフェなどで時間が経ったイメージの空間を作るのに使われます」(坪井)

凸版印刷はこういった建装材事業で1300億円以上を稼ぎ出しているのだ。

非公開寺院を拝める秘密~巨大企業でベンチャー魂


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凸版印刷のビジネスは、和歌山・高野町の世界文化遺産に登録された高野山でも展開中だ。

高野山の参拝客をちょっとがっかりさせるのが「西塔」。

「ふだんは非公開になっています。中は鮮やかな絵画が描かれていて、仏様の浄土のような世界になっています」(「高野山執務公室」岩西彰真さん)

西塔は貴重な壁画などを保存する観点から、のぞき穴からしか内部を見ることができないのだ。このジレンマを解消したのが凸版の最新技術。高野山の一角にできた「高野山デジタルミュージアム」(高校生以上1000円)で見ることができる。ここでは臨場感あふれる映像で、ふだん見ることのできない寺院の内部を体感することができるのだ。

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さまざまな角度から撮影した高精細なデータを基にリアルな映像を作り上げた。初めて見る光景に、参拝者たちは釘付けに。凸版印刷が映像を手がけるデジタルミュージアムは集客にもってこいと、全国20カ所の観光地などが導入している。

「印刷会社がデジタル映像を作る。『どうやって作るのか』と興味がありましたが、どこがVRなのか分からないぐらい現実に近く作られていてびっくりしました」(岩西さん)

秘密は印刷で長年培ってきた現実の色彩を再現する高度なデジタル技術にある。東京・丸の内の「NIPPON GALLERY TABIDO MARUNOUCHI」を視察に来た大阪・関西万博テーマ事業プロデューサーの河森正治さんも、その臨場感に息をのむ。

「没入感という言葉だけでは表現できない。3Dメガネをかけなくても『奥行き感』がある。この先の未来が楽しくなりそうだと思いました」(河森さん)

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新たな分野に攻める凸版印刷を率いるのは社長・麿秀晴(67)。この日はタイにあるパッケージの印刷工場「サイアムトッパンパッケージング」を訪ねた。現地企業と組んで建てたこの工場で海外市場向けのパッケージも作っている。

高度な技術を武器に、国内だけのビジネスから脱却し海外に挑んできた麿。今や凸版の海外事業は全売り上げの33%に達している。

「日本で培った技術やノウハウを世界に展開しないともったいないと思っています」(麿)

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ジリ貧の印刷業でさまざまな挑戦を続けて生き残る凸版印刷。その原点は1900年の創業時にある。凸版印刷を作ったのは当時、大蔵省印刷局の技術者を中心とするメンバー。お札の偽造防止のための最新印刷技術を武器に独立した挑戦的なベンチャーだったのだ。

「ベンチャーを創業した者が新しい技術を使い、知恵を出し、工夫した。それがあったから123年も続いてきたのかなと」(麿)

おいしさを保つ魔法のフィルム~開発者は社長だった


麿は凸版に莫大な利益をもたらしたある製品を開発した。それは日本中の商品に使われている。たとえば愛媛・松山市の工場。しっとりとしたこし餡を職人がフワフワの生地に巻き込んで作るのは、愛媛県の銘菓「一六タルト」だ。

おいしさになくてはならないものが、内側をコーティングするように貼られた薄いフィルム。凸版印刷が開発したGLバリアという画期的なフィルムだ。

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「賞味期限を延ばす効果にひと役買っています。長いものでは2週間延びました」(「一六」玉置剛社長)

包装の内側にGLバリアを使うことで酸素や水蒸気の侵入を防ぎ、賞味期限を延ばせるという。おいしさはそのままに食品が長持ちすると、GLバリアはさまざまな商品に使われている。

「私の名前が入った特許が国内外で24件くらい登録されています。もちろん会社に帰属しているけど、個人に帰属していたら生活が違っていたかも(笑)」(麿)

麿がその開発に挑んだきっかけは34歳の時、ドイツでの出来事だった。

デュッセルドルフで開かれた世界最大のパッケージの展示会。視察に訪れた麿は衝撃的な商品に出会う。それは微生物の働きによって水とCO2に分解される容器。世界の環境を意識した新技術に麿は驚いた。

「パッケージも生分解のものが出てきた。放っておいたら日本は遅れる。ましてやうちの会社は置いていかれるという思いで開発を始めました」(麿)

そこで挑戦したのがパッケージの機能を進化させる新たな保護フィルム。食品の劣化を防ぐGLバリアの開発だった。麿は工場に泊まり込み、深夜に稼働していない生産設備を利用。6年かけ量産化に成功する。

食品ロスをなくすGLバリアの大ヒットでパッケージ部門の年商は3800億円を突破。麿は、減少した印刷の売り上げをカバーする新たな屋台骨を作ったのだ。

「自分の目的意識や目標を持って『ここまで頑張らなきゃ』という思いがあれば、たいがいのことはできる。できないものは途中で諦めたからだと思うんです」(麿)

その麿が大胆な決断をした。120年掲げた社名から「印刷」の文字を外し、トッパンホールディングスに変えるのだ。

「印刷という枠の中にはまらないビジネス展開を、お客様に対しても社内に対しても新しいアプローチをしてほしいということで、思い切って『印刷』を取ります」(麿)

社名変更は10月1日。巨大企業は変わり続ける。

大人気!白い恋人パーク~印刷会社がこんなことまで


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札幌で人気を呼んでいる「白い恋人パーク」(大人800円)。まるでヨーロッパのような可愛らしい世界が広がるが、ここでも凸版印刷の意外なビジネスが展開している。

さまざまなアトラクションがある館内からは「白い恋人」の製造ラインが一望できる。この「白い恋人」のパッケージを手がけているのが凸版印刷だ。

「凸版さんは提案もしていただけるし、いいものに仕上げていただける。非常に助かっています」(「石屋製菓」宮の沢工場・小針学工場長)

だがそれだけではない。大勢の客が詰めかける人気アトラクション「スタディベース・カカオポッド」は、プロジェクションマッピングでチョコレートの歴史や作り方を楽しく学べる。このアトラクションは企画から映像制作まで凸版印刷がトータルで手がけている。

テーマパーク内のさまざまなアトラクションは凸版印刷の高度な印刷技術や画像技術に支えられているのだ。

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「凸版さんは『こっちのほうが面白いですよ』とか、デジタル系の技術の情報もいつも先に教えていただける。すごく頼りになります」(『石屋商事』パーク事業部・池田明さん)

「白い恋人パーク」で巨額の受注を取り付けたのが、北海道事業部・柳島俊太郎だ。印刷から次々に拡大する凸版のビジネスの秘訣とは?

「最初はパッケージを中心にお取り引きさせていただいていたが、パッケージだけでなく、より広く深くお客様と関わりを持ちながら、一緒にものを作っていくことを大事にしたいです」(柳島)

※価格は放送時の金額です。

~村上龍の編集後記~
明治33年、大蔵省印刷局から独立した若手技術者ら5人が立ち上げたベンチャーが開祖で、「凸版」という名前を使い、技術を株券の印刷などに使用した。情報を外に漏らさないということが会社の強みとなり、歴史となった。長いこと紙の印刷がメインだったが、当時役員でも何でもなかった麿さんが「GLバリア」というフィルムを開発した。印刷とは関係ないと思ったが違った。機能が印刷されているらしい。麿さんは約5万人の社員を率いている。把握してますか、と聞いたら、1人1人は無理だが、おおよそのところはと答えた。

<出演者略歴>
麿秀晴(まろ・ひではる)1956年、宮城県生まれ。1979年、山形大学工学部卒業後、凸版印刷入社。2019年、社長就任。

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