「漆塗り」を愛するアメリカ男性が輪島塗の職人に弟子入り!独自の製法に驚き:世界!ニッポン行きたい人応援団

公開: 更新: テレ東プラス

続いては、ピーターさんが最も学びたかった漆塗り。「大﨑漆器店」で、輪島塗独自の知られざる製法を教えていただきます。

輪島塗の工程は、最初から最後の仕上げまで120〜130の工程があり、かかる期間は1年間。大﨑さんは、急いで仕事をすると良いものはできないと話します。
中でも強度を高めるのに重要なのが、木地屋から届いた器に漆を塗り、木地を固めた後の工程。輪島塗独自の製法「布着せ」です。ここから、職人歴10年の海守慎一さんの作業を見せていただくことに。

使うのは、生漆に米糊を混ぜたもの。これを机に塗り、その上に布を置いてなじませ、着せもの棒という道具でお椀の縁に張っていきます。この布着せこそ、輪島塗の大きな特徴であり、100年以上持つ頑丈さの理由。縁に布を着せることで、お椀の耐久性と強度が格段に上がるのです。

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布の余ったところは次の工程で持ちやすいよう浮かせておき、約2日乾かしたら次の工程へ。ピーターさんも布着せに挑戦しますが、慣れずにどうしても時間がかかってしまいます。素早く布を着せないと粘着力が弱まり、木地への付きが悪くなるそう。仕上がりも海守さんには及ばず、「海守さんのレベルになるには相当時間がかかりそうです」。

布をはがさず続けて行うのが、輪島塗独自の「一辺地付け」。お椀を「とのあしろくろ」という特殊な道具に乗せ、回しながら一辺地漆を全体に塗っていきます。一辺地漆とは、米糊が入った漆と、輪島地域でとれる珪藻土「地の粉」を混ぜたもの。他の漆器生産地ではやっていない、輪島独自の技法です。

大﨑さんによると、珪藻土を混ぜるとガラスのように硬くなるそう。漆と混ぜることで粒子が固く結びつき、断熱性に優れた膜になります。ピーターさんは一辺地付けにも挑戦しましたが、こちらも大苦戦。漆を均一に付けられず、海守さんに手伝っていただきながら修整しました。

この後さらに、2回細かい珪藻土を塗り重ね、お椀の強度を高める作業を経て、砥石で研ぐ「地研ぎ」の工程へ。色付けや模様を描く作業をしやすくするため、目に見えない凹凸を研いで平らにします。使う砥石も特別なもので、対馬の海底にあるものが一番良いとのこと。

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普段、紙やすりを使っているピーターさん。砥石で研がせていただくと「いい音しているよ」と嬉しい言葉が。力を入れすぎても入れなさ過ぎてもダメという、さじ加減が難しい研ぎの工程ですが、大﨑さんから合格点をいただきました。

続いて行うのは「中塗り」。下塗りが済んだ器の表面を滑らかにする工程です。これにより、仕上げの塗りが格段にやりやすくなるそう。

この作業で最も大事な道具が刷毛。来日前、日本製の刷毛を買ってはみたものの、使い方がわからず挑戦できなかったピーターさんですが、いよいよ今回の来日で一番学びたかった中塗りを教えていただきます。

中塗りなどの仕上げは、1年を通して温度は20度以上、湿度は70~80%に保たれた土蔵で行います。漆は適度な温度と湿度がないと乾かないのです。

中塗りを担当するのは職人歴45年のベテラン、隅祐智さん。まず、中塗り用の水分を飛ばした黒い漆を和紙で包み、「うま」と呼ばれる、絞って濾す道具にセット。これで細かいゴミなどを取り除きます。さらに、刷毛に含まれているゴミも丁寧に除去。中塗り用の刷毛は、女性の髪の毛でできています。

準備ができたら、底の部分から塗っていきます。中塗りの極意は「均一に塗ること」。厚く塗ると漆が垂れ下がって縮み、薄く塗ると研げなくなってしまうのです。この中塗りで、より強度が増し、奥深い艶に。

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ここで、刷毛での中塗りに挑戦させていただけることに! 刷毛だけ動かすのではなく、お椀も回転させているところを褒めていただき、初めての中塗りでしたがOKが出ました。この後は、風呂と呼ばれる温度と湿度が一定の場所で乾燥させて漆を固め、研ぎの作業に。そして黒や赤の漆で上塗りを行い、漆塗りの工程は終了です。この漆を塗って乾かす工程だけで、約8カ月かかるそう。

夢にまで見た輪島塗の真髄を教えていただいた後は、大﨑さんの奥さんが用意してくださった心づくしの料理をいただきます。さまざまな漆器で彩られた料理に、ピーターさんは感動! サザエのつぼ焼きやフグの唐揚げなど、輪島の海鮮を楽しみました。

続いては、優美な装飾を施す加飾。蒔絵と沈金という2つの装飾方法があり、今回は蒔絵を体験させていただきます。

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蒔絵とは、漆をつけた筆で器に模様を描き、金銀の粉を蒔き付ける技法。大きく分けて3種類あり、1つ目は模様に漆をのせて金粉を蒔く平蒔絵。2つ目は絵柄を高く盛り上げる高蒔絵。3つ目は、金粉を蒔いた上に漆を塗って研ぐことで、模様に奥行きを持たせる研ぎ出し蒔絵です。この研ぎ出し蒔絵を、蒔絵職人歴51年の北濱幸作さんに見せていただきます。

今回の模様は紅葉。まず、蒔絵筆という細く柔らかい猫の毛を使った専用の筆で、模様のアウトラインを描きます。続いて、模様の中を塗りつぶす地塗りといわれる作業。金粉や銀粉をきれいにつけるために、薄く均等に塗るのがポイントです。

金粉や銀粉は一粒の大きさによって数字がつけられており、数が大きいほど大きな粒に。紛筒という穴が開いた道具に銀粉を入れて、漆が乾く前にまんべんなく模様に蒔いていきます。なるべく均等にするため、毛棒という道具で余分な銀紛を一度取り除き、2回に分けて蒔くそう。

蒔いた後、余計な銀粉は払い落とします。その際に模様の上を撫でてしまうと銀粉が落ちてしまうため、「(銀粉を)飛ばしてくっつけていく感じ」と北濱さん。これを湿度60%以上に保った湿風呂に2日間入れて、漆を定着させます。

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ピーターさんも模様を描かせていただくことに。練習用の板に描いてみたものの、筆を寝かしていたため、漆の量が一定にならず繊細な線が描けません。すると北濱さんから、筆を立てて穂先で描くようにアドバイスが。うまく筆を使えば、1ミリの幅の中に線を3~4本は引けるそう。実際の漆器で挑戦すると、今度は上手に描くことができました。

再び北濱さんの作業を見学。最初に描いた模様と同じ要領で紅葉を描き、金粉を蒔いて固めます。そして銀粉を蒔いた方の紅葉の上から、緑の顔料を混ぜた漆を重ね塗り。銀粉に筆が引っかかり非常に塗りづらいため、慎重に筆を動かすことが重要だそう。

次は、光沢や立体感を生み出す研ぎの作業。耐水ペーパーで表面の凹凸をとり、砥石で細かく研いで滑らかにしていきます。図柄がない部分には、触れないように研ぐのがコツ。さらに、研磨剤を布につけて細かい傷を磨いていきます。こうして3段階の研ぎで銀紛が半分カットされ、緑と銀紛が絶妙に混ざった状態に。緑だけの葉が、何ともいえない光沢のある葉になるのです。

続いて、仕上げの上絵。枝や葉の筋に見立てた線を描いていきます。ピーターさんも、北濱さんが事前に用意してくれた、赤い漆を塗った紅葉に上絵を描かせていただきました。

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完成した蒔絵は、研ぎにより金粉銀粉の層が顔を出し、独特の風合いが。ピーターさんは「北濱さんの技術に本当に感動しました。家に帰ったらもっともっと練習します!」と、意気込みを見せました。

北濱さん、本当にありがとうございました!

輪島塗の特徴といえば、まるで鏡のようにまばゆい表面の光沢。それを生み出すのが呂色師という磨き専門の職人です。指に粒子の細かい磨き粉をつけ、鏡のように光るまで磨くと、鏡のような艶に! こうして職人の連携によって、世界に類を見ない漆器・輪島塗が完成するのです。

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「大﨑漆器店」の皆さんと、別れの時。ピーターさんは、工房の皆さんに勉強させていただいたお礼を伝えます。ネイティブアメリカンの矢尻のレプリカに加え、自作の漆器もプレゼントすると、大﨑さんご夫婦は喜んでくださいました。

「アメリカで漆文化を少しでも広めてほしいし、ファンを作っていただきたい」と話す大﨑さん。漆を塗る刷毛と蒔絵に使う筆をいただいたピーターさんは「ありがとうございます。皆さんががっかりしないように大切に使います」と感謝を伝えました。

「大﨑漆器店」の皆さん、本当にありがとうございました!

漆塗りを通して、さまざまな出会いがあったニッポン滞在。帰国を前にピーターさんは、
「素晴らしく刺激的な体験でした。人生で忘れられない日々になりました。輪島の皆さんの情熱を忘れずに、アメリカに帰ったらより良い作品を絶対作ります!」と語ってくれました。

ピーターさん、またの来日をお待ちしています!

月曜夜8時からは、月曜プレミア8「世界!ニッポン行きたい人応援団」を放送!

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