ニッポンに行きたくてたまらない外国人を世界で大捜索! ニッポン愛がスゴすぎる外国人をご招待する「世界!ニッポン行きたい人応援団」(月曜夜8時)。毎回ニッポンを愛する外国人たちの熱い想いを紹介し、感動を巻き起こしています。
今回は、イギリス女性の来日の様子をお届け。さらに、ニッポンに行きたいブラジルの夫婦を紹介します。
佃煮職人から、秘伝のタレやこだわりの製法を学ぶ
紹介するのは、イギリスに住む「佃煮」を愛するメラニーさん。
ご飯のお供の定番、佃煮。発祥は約400年前。本能寺の変で織田信長が討たれ、身の危険を感じた徳川家康は本国の愛知まで帰ることに。その途中、川を渡る船がなく困っていたところ、大阪・佃村の漁師たちが舟と小魚煮を献上。感謝した家康は、のちに漁師たちを江戸に呼び寄せ、隅田川河口の島を居住地として提供したそう。
彼らの故郷「佃村」にちなみ「佃島」と命名されたこの島で、漁師たちが家康に献上した小魚煮を売り出したのが、佃煮の発祥といわれています。現代では、魚だけでなく海藻や野菜、肉、あらゆるものが佃煮に。その種類は100を超え、日本人には欠かせないものとなっています。
醤油や味噌なども自作するほど和食好きのメラニーさん。5年ほど前に読んだ本で、出汁をとった昆布を佃煮にすることを知ったそう。出汁ガラの昆布で作った佃煮の美味しさに感動し、改良を重ねながら昆布の佃煮を作り続けています。
実は、イギリスのレストランでシェフをしていたメラニーさん。2年前、店がコロナ禍で廃業してしまい無職に。そこで自身の佃煮ブランドを立ち上げ、ロンドンのお店やマーケットで販売を始めたそう。ところが、佃煮の見た目を不審がる人もいて、売り上げはあまり伸びず、今はマーケットでの販売を休止しています。
そんなメラニーさんの佃煮作りを見せてもらうことに。使うのは、アジアンマーケットで購入した北海道産の日高昆布。8時間以上水に浸け、柔らかくなったら昆布の水気を切り、味や食感にムラが出ないよう小さく切りそろえます。
刻んだ昆布を鍋に入れ、そこに酢、みりん、砂糖、たまり醤油を。ポイントは、昆布を戻した時の水を加えること。昆布の旨味が溶け出しているため、味に深みが生まれるそう。
弱火にかけながら、底が焦げないよう定期的に混ぜ、煮込むこと1時間。メラニーさん特製、昆布の佃煮が完成。その味は、メラニーさんのご主人や友人の皆さんにも好評です。
しかし、メラニーさんにはもっと改良して美味しくしたいという思いが。独学では限界があるため、「ニッポンで本物の佃煮作りを学んで美味しく作れるようになりたい」と語ります。
そんなメラニーさんをニッポンにご招待! 念願の来日を果たしました。
向かったのは、東京・江東区の東雲。佃煮が誕生した江戸時代の佃島は、現在も「佃」という地名で残っており、周辺の築地、門前仲町界隈には今でも多くの佃煮店が。
その中の一つ、創業66年の「佃宝(つくほう)」。食の人間国宝ともいわれる「農林水産大臣賞フードマイスター」に選ばれた水谷豊夫さんが創業した、佃煮の名店です。初代最後の愛弟子としてこだわりの味を受け継いだ、佃煮職人の鈴木正信さんにお世話になります。
店頭には、あさりやたらこなどの佃煮がずらり。人気ナンバー1は、北海道日高産の一等品昆布で作る細こぶの佃煮。試食させていただいたメラニーさんは「最高です! 味は濃厚なのに塩辛くなくて、しっかりと海藻の風味を感じます」と絶賛!
メラニーさんが作った佃煮を鈴木さんに食べていただくと、「美味しいけど少し硬い。味がのペーっとしてる」とのこと。味が薄く、中まで染み込んでいないそうで、「醤油を多く入れると塩辛くなってしまうし、どうすればいいのか……」とメラニーさん。そこで、「佃宝」の昆布の佃煮の作り方を見せていただくことに。
昆布の佃煮には、大きく分けて水戻し、下茹で、冷却、煮込み、冷蔵と5つの工程が。
まずは昆布を戻すところから。メラニーさんは水だけで昆布を戻していましたが、「佃宝」では、酢、日本酒、砂糖を加えた水を最初に吸わせます。水だけで戻すよりも深みのある味わいになり、柔らかくなるそう。
戻し方にもポイントが。お米と同様に、乾燥した昆布は最初に浸けた液体を最も吸収する性質があります。そのため、絶えず混ぜることで、まんべんなく吸収させるそう。「私の作り方は最初から違っていたんですね」。
乾燥しないよう混ぜ続けること1時間。その後、一晩浸け込むと、たっぷりと調味液を吸収し、5キロから約15キロに!
戻した昆布を煮る前に、下茹でを。この時、前回煮た時に残っている昆布の茹で汁を使います。この昆布出汁は、「佃宝」の佃煮全てに使います。これも、鈴木さんが初代から受け継いだ美味しさの秘密。茹でて昆布を柔らかくするとともに、旨味成分を昆布に戻すのです。
鈴木さんによると、初代からは「ものを大事にしなさい」と教えられたそうで、昆布を戻した際に出るヌルヌルしたタレも、全部きれいに投入。
メラニーさんも下茹でをお手伝い。全体に熱が行き渡るようにまんべんなく混ぜます。
1時間の下茹でを終えると、簡単に噛み切れるほど柔らかい昆布に。メラニーさんは水で戻してそのままタレで煮ていましたが、これでは昆布が十分に柔らかくなっていなかった可能性が。
下茹でして昆布を柔らかくしたら、すぐに打ち水をするのがポイント。昆布を冷まし、ベストな食感を保ちます。さらに扇風機の風に当て、味がぼけないように余分な水分を抜いたら、「佃宝」の味を決める最も重要な工程、煮込みへ。
煮込みに使うのは、創業から60年以上継ぎ足されている門外不出の秘伝のタレ。その材料はお店でも鈴木さんしか知りませんが、メラニーさんだけに教えてくださいました。「これは生涯の秘密ですね」とメラニーさん。
この秘伝のタレに、醤油や昆布の茹で汁、お酒などを加え、火をつける前に下茹でした昆布を入れます。野菜を塩で揉み水分を出すのと同じ原理で、塩分を含む醤油に昆布が反応。余分な水分が抜けたそのスペースに、タレや合わせ調味料が染み込み、極限まで昆布が旨味を吸収するそう。
火にかけ、煮詰めること1時間。煮上がった昆布はツヤツヤに! ここで、「佃宝」で長年、佃煮のおいしさを保ってきた極意が明らかに。昆布を煮る時に入れた秘伝のタレは、お玉およそ2杯分。そして煮た後に残ったタレの量もおよそ2杯分。これを目安にタレの量を調整しています。鈴木さんは、その日煮る昆布の状態や気温から煮上げる時間を見極め、秘伝のタレを守り続けているのです。
こうして煮上がった昆布は、バットに広げて冷却。完成を待つ間、メラニーさんはある場所へ。向かったのは、創業133年の海藻卸問屋「和気食品」。こちらの昆布を使っている鈴木さんが、昆布の種類や味の違いを知ってもらいたいと紹介してくださったのです。
北海道のほとんどの種類の昆布を扱う「和気食品」。代表取締役の和氣弘明さんに、昆布について教えていただきます。羅臼昆布は濃厚で旨味の強い出汁が出ることから昆布の王様と呼ばれ、厚さや長さ、色味によって1等から5等に分けられています。その量は、国産昆布のわずか1%ほど。中でも天然の1等品は幻といわれるほどの希少品です。
「佃宝」で使っているのは日高昆布の1等。厚みがあり、肉質が柔らかいため食用向きで、佃煮や昆布巻きなどに使われています。さらに、真昆布の折昆布も見せてくださいました。中には最長20メートルにのぼるものも!
羅臼昆布の出汁をいただいたメラニーさん。「美味しいのですが、単純に甘いとかしょっぱいとかでは表現できない味です。これはやはりグルタミン酸の量なのでしょうか?」との質問に、和氣さんは「よくご存知で!」とびっくり。グルタミン酸は、羅臼や利尻の昆布に多く含まれています。
最後に、お土産として羅臼昆布などニッポンを代表する昆布のプレゼントをいただき、大感激! 「和気食品」の皆さん、本当にありがとうございました!
「佃宝」に戻り、出来上がった昆布を試食させていただいたメラニーさん。「鈴木さんが私の佃煮をのっぺりしてると仰った意味がわかりました。この佃煮には驚くほどたくさんの美味しさが封じ込められています」と、「佃宝」の佃煮の味わいに改めて感動!
そして別れの時。「この経験を必ずイギリスで生かします」とメラニーさん。すると鈴木さんから、佃煮を並べるための漆塗りの器のプレゼントが。さらに、門外不出の秘伝のタレまで! 思わぬプレゼントに大感激! 「勉強した昆布を茹でる仕事をよく思い出して。必ずもっと美味しくなる」という激励の言葉をいただきました。
「佃宝」の皆さん、本当にありがとうございました!
続いて、あさりの産地・愛知県渥美半島の田原市へ。佃宝であさりの佃煮の美味しさを知ったメラニーさん。イギリスではあさりを食べる習慣がほとんどなく、冷凍食品でしか食べたことがないそう。なぜニッポンのあさりは美味しいのか、その理由を知りたいとやって来たのです。
愛知県はあさり類の漁獲量日本一。中でも渥美半島のあさりは、濃厚な味と実入りの良さが評判です。今回はあさり漁師の中川信久さんと大藤誠さんに、漁を見せていただくことに。
船で移動すること5分。ここ三河湾で上質なあさりが育つ理由は、その地形にあるそう。
外海から隔離された波の穏やかな遠浅の海で、エサとなるプランクトンが豊富。そのため、ふっくらとしたあさりに育つとか。
あさり漁に使うのは「マンガ」。8キロほどの鉄カゴに柄をつけた道具です。カゴについた櫛のような歯で海底を耕すように動かすと、あさりがカゴの中に入ります。あさりがいる場所の目印は、海底に2つ並んだ穴。これは、あさりが呼吸した跡なのです。
メラニーさんもあさり漁を初体験。「体力との戦いですね」と重いカゴを動かし、1時間で約10キロのあさりを収穫しました。
ここで中川さんが、前日から砂抜きをしてくださったあさりを浜焼きに。醤油はつけず、あさりそのものの味を堪能! 「ニッポンのあさりの佃煮が美味しい理由がよくわかりました」と大満足!
「渥美漁協」の皆さん、本当にありがとうございました!
続いて向かったのは、佃島に並ぶ佃煮の産地、小豆島。醤油造りが盛んなことがその理由です。昔から良質な塩の産地であり、気候が麹作りに適していたことから、日本有数の醤油の生産地として知られています。イギリスで醤油も自作しているメラニーさんは、佃煮に不可欠な醤油造りの様子を一度見てみたかったそう。
そこで、創業約150年の「ヤマロク醤油」へ。お世話になるのは、木桶造りの伝統を今に伝える五代目・山本康夫さん。国産の丸大豆と小麦を使い、4年以上の歳月をかけて作る「鶴醤(つるびしお)」は、全国から多くの注文が入ります。
100年以上前に建てられたもろみ蔵には、88本の木桶が。木桶造りの醤油の総生産量は、醤油全体の1%未満。山本さんは木桶文化を残したいと、友人の大工さんにも声をかけ、大阪の製桶会社で修業。自ら木桶を作り、醤油を製造しています。
普通の醤油は大豆と小麦を発酵熟成させて作りますが、「ヤマロク醤油」では、その醤油を空の木桶に入れ、醤油の中に大豆と小麦を仕込む「再仕込み」を。原料にする醤油も造るため、通常の2倍の歳月と材料がかかるのです。
4年の歳月をかけて仕込んだもろみを、はじめは醤油自体の重みだけで、10日から2週間かけてゆっくり絞り出します。時間と手間はかかりますが、雑味のない旨味だけを抽出した醤油になるそう。
木桶仕込みと再仕込み、2つのこだわりが生んだ醤油を味わい、「う~ん、旨味。凝縮された味がずっと口の中にいます」とメラニーさん。最後に山本さんから貴重な鶴醤と専用のケースをいただきました。
「ヤマロク醤油」の山本さん、本当にありがとうございました!
小豆島に、この鶴醤を使った佃煮があると聞き、ある佃煮店へ。小豆島で佃煮が発展したのは1945年。戦時中の経済統制の流れでまだ醤油が自由に売れなかった頃、島に茂っていたサツマイモのツルを佃煮にして大阪に出荷したところ、醤油の味に飢えていた市民から注文が殺到! 以来、佃煮生産者が増加し、小豆島佃煮として醤油と並ぶ名産品に。
向かったのは、創業68年の佃煮店「小豆島食品」。「島の味」というブランドを冠した佃煮は“幻の佃煮”とも称され、専門店から依頼を受けた品は、品評会でも農林水産大臣賞2回、水産庁長官賞1回を受賞するなど、日本最高峰の佃煮店です。
四代目の久留島克彦さんは、45年間佃煮作り一筋。本物だけにこだわった佃煮を作り続けています。
試食させていただいたのは、キクラゲやホタテ貝、鶏そぼろなどの佃煮9品。全て、久留島さんが一人で作っています。一番人気の鶏そぼろは香川県の地鶏の中でも旨味の強い親鶏だけを使用。一般的な鶏そぼろとは違い、じっくりと2時間かけて煮込むことで、佃煮としての深い味わいを出しています。
「小豆島食品」の佃煮を存分に味わったメラニーさん。翌日、メラニーさんがイギリスでも作れるようにと、手に入りやすい鶏肉の佃煮を教えてくださることに。
その夜は、久留島さんのご自宅で歓迎会。食卓にはお寿司の他、卵かけご飯専用の佃煮も。昆布を卵かけご飯に合うように煮込んだ、小豆島食品の工場でのみ販売している限定品です。メラニーさんは「とても落ち着く味がします」と、出汁がよく効いた佃煮を堪能しました。
翌日、久留島さんが準備を始めたのは、「ヤマロク醤油」の鶴醤。鍋に4リットル注ぎ、そこに親鶏の胸肉のミンチを入れて火にかけます。醤油だけで煮るのは、鶏肉に熱が通りダマになる前に、最高級の鶴醤を行き渡らせるため。
焦げないよう混ぜる作業に、メラニーさんも挑戦。すると、一瞬で汗が出てきました。鍋の中身は鶏肉だけで20キロ。直火で作る佃煮作りは体力勝負なのです。
醤油が行き渡った鍋に加えるのは、利尻昆布の出汁と鹿児島県枕崎産かつお節の出汁。より一層の旨味を加えて煮ること10分。良い香りが漂い、メラニーさんは「白ごはん欲しいわぁ」。
ここで、味の決め手となる砂糖も投入。鹿児島県喜界島産のサトウキビから作られた砂糖は、ミネラルを多く含み、優しい甘味が特徴です。これを最後に加えることで、佃煮にふくよかな甘味をつけます。
ここまで、スタートから1時間ほど。今まではお惣菜やおかずという感覚の鶏そぼろでしたが、ここからじっくり煮詰めることで素材の水分を抜き、日持ちする佃煮に。その間も焦げないよう、まんべんなく味を行き渡らせるため混ぜ続けます。
こうして、2時間かけて煮込んだ鶏そぼろの佃煮が完成! 「全てが考え抜かれてこだわられていて本当に驚きました」。久留島さんは「これ以上のものを作ろうと思っても作れないだろうというところを追求して作ってきていますので」と語ります。
早速、奥さんが炊いてくださったご飯で出来立てを試食。「本当に美味しいです!」と佃煮とご飯を頬張るメラニーさんを見て、久留島さんも笑顔に。
翌日も帰国ギリギリまで佃煮作りを教わり、ついに別れの時。メラニーさんは「佃煮作りのたくさんのことを教えてくださり本当にありがとうございました」「佃煮作りに対するこだわりは、想像をはるかに超えていました。久留島さんのゴージャスな佃煮は唯一無二のものです。この経験は一生忘れません」と、久留島さんへのお礼の手紙を読み上げます。
久留島さんから、「小豆島食品」で創業当時から使っている前掛けと佃煮の詰め合わせをいただいたメラニーさんは「こんなにたくさん! 嬉しい!」と大喜び。「また日本に来ることがあったら小豆島へ来てください」と、温かい言葉をかけていただきました。
「小豆島食品」の久留島さんと奥さん、本当にありがとうございました!
佃煮を通じてたくさんの出会いがあったニッポン滞在。帰国を前にメラニーさんは、
「職人の皆さんが熱い情熱で仕事に向き合っている姿にとても感銘を受けました。イギリスに帰って自信を持って佃煮作りを続けたいと思います」と話してくれました。
メラニーさん、またの来日お待ちしています!