冷凍なのに焼きたての味~人気急上昇!パンの定期便:読んで分かる「カンブリア宮殿」

公開: 更新: テレ東プラス

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こだわりパンが楽しめる~次世代ベーカリービジネス


高島さんのお宅に、静岡のパン屋から送られてきたという冷凍パンが届いた。高島さんは全国のこだわりのパン屋から冷凍パンが届くサブスクサービスを利用している。2年前にこのサービスに出会って以来、冷凍パンに対する考え方が変わったという。

「すごくおいしいと言われるお店で買っても、翌日になって温めて食べると風味が落ちてしまう。それを思うと『パンスク』さんの冷凍パンは、食べたい時に焼きたてで食べられます」(高島さん)

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自宅にいながら焼きたてパンが楽しめる「パンスク」。実はどこのパン屋さんのものが届くかは選べない仕組みなのだが、それがかえって楽しいという。

「どうしたらこんなおいしいパン屋さんに出会えるのだろうというパンばかり。楽しみに待っている、出会っているという感覚です」(高島さん)

基本は月1回のお届けで3990円。今、急速に会員数を増やしている。加盟店は約100軒だ。

香川・高松市の「ル パン ドゥ アベス」も他県から足を運ぶファンが多い人気店だ。オーナーはフランスの三つ星レストラン「ジョエル・ロブション」のベーカリー専門店で腕を磨いた村井宣彦シェフ。人気の秘密はよそでは味わえない品ぞろえにある。

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村井さんが「パンスク」用に作っていたのはトマトフォカッチャ。どんな工夫をしているのか聞くと、「作り方はお店で出すものと全く同じです。冷凍だからといって特に何を変えているわけではない」と言う。

窯から出したトマトフォカッチャの粗熱をとったら、パンスク専用の袋に入れて封をする。それを箱に詰めて普通の冷凍庫に入れればOKだ。

「焼きたてと変わらない感じでできたので、これはいいなと。すごいですよね」(村井さん)

冷凍でもおいしい秘密が独自開発した袋にある。袋の内側にガスバリア層という特殊な層があり、これがパンの水分や香りを逃がさず、焼きたての状態をキープしている。

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「パンスク」を生み出したパンフォーユー社長・矢野健太(34)が栃木・那須町にやってきた。加盟してほしい店を口説くためだ。「生地がおいしい」と評判のベーカリー「パン香房 ベル フルール」。まずはどの位置に、どんなパンが置いてあるかをチェックしていく。

「一番目立つところにパーネ・アランチャ、いわゆるフランスパン生地のパンがある。フランスパン生地って基本的に手間がかかる類のパンなので、フランスパン生地を使って、この種類というのは結構珍しいですね」(矢野)

続いてオーナーの笠原計人シェフから直接、話を聞く。小麦粉の配合について尋ねると、「配合は基本、全部変えています。やはりそのパンに合う配合があるので」と言う。

笠原さんが厨房に招いて見せてくれたのは、まるでケーキのようなイチゴパン。水は一切使わず、「とちおとめ」1パックを丸ごと使った渾身のパンだ。

「食べたことないです。いちごは食べても香りが鼻に抜けないじゃないですか。鼻に抜けてくるんですよ。すごい」(矢野)

オーナーのこだわりを確認すると、矢野が持ってきた冷凍パンを勧め始めた。まずは香りを確認するオーナー夫妻。そして、焼かないでそのまま食べ始めた。

「おいしいです。なんの臭みも出ていない。パンの弾力も焼きたてと同じ」(笠原さん)

矢野はこうして全国の人気店に足を運び、加盟店を増やし続けている。

おいしいのに客が来ない~苦境ベーカリーを救う秘策


その一方で、矢野は埋もれた名店の発掘にも力を入れている。

群馬・高崎市で4年前にオープンした「ブーランジェリー サイ」。手間暇を惜しまない丁寧なパン作りで近所でも評判の店だ。だがこの店は立地が悪い。高崎駅から歩いて30分かかる住宅街にあり、客が10人を下回る日もあるという。

「立地が多少悪くても、お客様が車でいらっしゃってくれるかなという希望があって出店してみましたが、希望通りにはならなかった」(オーナーシェフ・齊藤貴規さん)

それでも客のことを考え、多い日には50種類ほどのパンを焼いている。ただ、買う客がいないから、12個焼ける天板なのに焼くのは2つだけ。こんなやり方だから儲からず、一時は倒産寸前まで追い込まれたという。

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そんなオーナーを救ったのが、この店の評判を聞きつけた矢野だ。味を確かめて、「パンスク」に加盟するよう勧めたのだ。

「焼き板もオーブンも、目一杯使うと効率は上がる。作った分は、こちらもお客様を抱えているので、しっかり買い取って売りますよ」(矢野)

「パンスク」は、会員に送るパンの製造をベーカリーに依頼し、直接、客に郵送してもらう仕組み。店で売っているパンを多めに焼けばいいだけだから、増える作業は冷凍と箱詰めぐらい。しかも、作った分は必ず売れるから、廃棄ゼロだ。さらに、配送の伝票や宅配便の手配までパンフォーユーがやってくれるから、店側の手間はほとんど増えない。

「パンスク」に加盟して、以前は6個しか焼けなかったクロワッサンが今は42個。売り上げは加盟前の1.5倍にアップした。

「お客様も喜んでもらっていると思いますし、僕もパンフォーユーにも収入になる。もう最高だと思います」(齊藤さん)

客もベーカリーも喜ぶ仕組みで、業績は右肩上がりに急成長。会員数も3万人を突破した。

「10年後にはベーカリーのビジネスの仕方が根本から変わっていると感じます」(矢野)

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自分の考えよりも他人の意見を~起業1年目から倒産危機


東京・飯田橋にあるパンフォーユーの東京オフィス。従業員は40人、こだわりのパン屋を探して全国を駆け巡っている。

この日は人気店のパンを持ち寄って試食会が開かれていた。加盟店に勧誘するかをここで決める。運ばれてきたのは埼玉でファンが多い老舗ベーカリーのパン。早速、食べ始めたが、「どういう食事にもなじむ味だと思うんですけど、パン単体で楽しむというものではないかな」「確かにこれを食べて特別な感じにはならないかな」といった意見が出た。

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人気店ならどこでもOKではなく、加盟店選びには独自の基準がある。

「ただおいしいだけだと、それで終わってしまう、どこでも一緒になってしまう。人に勧めたくなるというのが基準です。人に話したくなるほど特徴があるかというと、ちょっと違うかなと」(パンスク事業部・西尾香春)

会議の間、矢野は社員の意見を聞くばかりだった。

「自分の考え、意見よりも、他の人の意見のほうが大事だと思っている。たくさん痛い目にあったので。思い出すと涙と嗚咽が(笑)」

矢野は1989年、東京で生まれ、小学生の時、群馬・桐生市に移り住んだ。

「家が貧乏だったので、ちゃんと給食費が払えない時期があったりとか、電気が止まったりとか。父親は勉強が嫌いで、『お前はするな』と言われていたんですけど、『勉強をしないとあなたみたいになるじゃないですか』とずっと言っていて、そこに対する反抗は大きかったですね」(矢野)

猛勉強の末、京都大学に進学。卒業後は広告大手の電通に入社し、順風満帆なサラリーマン生活を送っていた。だが、地元桐生では倒産する企業や商店が増えていく。職を失う友人もいて、街の疲弊を切実に感じるようになった。地元を盛り上げたいと、矢野は電通をやめ、起業を決意する。

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地元で業務用の冷凍パンメーカーの社長と出会った矢野は、2017年、それを個人向けに販売する会社を立ち上げた。

しかし、当時はまだサブスクという仕組みではなかった。小麦粉やバターの種類、トッピングなどを客が自由にオーダーできるネット販売。「世界初のオーダーメイドパン」だと、自信満々で始めたが、結果は大失敗だった。

次に考えたのが、全国の名産品をパンに練り込んだ「パン甲子園」というサービス。北海道は「チーズ」、宮城なら「ずんだ」……ご当地グルメで盛り上がるはずだと意気込んだが、またも大失敗に終わった。

「お客様が欲しいものを僕自身が考えきれていなくて、自分のアイデアに酔っていたというところが一番の失敗要因だったかなと思っています」(矢野)

たて続けの失敗に、冷凍パンメーカーには愛想を尽かされ、提携は解消。打開策を見出せないまま資金を食い潰し、通帳に残ったのはわずか1万円だった。

失敗から生まれた新事業~オフィスに冷凍パンを届ける


矢野に残されたのは、売れ残った200個あまりの冷凍パンだけ。矢野はその残ったパン全てを、友人の千葉久義さんが勤める会社に送りつけた。千葉さんは何が何だか、わけが分からなかったと言う。

「事務の社員から『千葉さんに大量に冷凍のパンが届いています』『何ですかこれ?』って。俺も知らないんだけど、みたいな(笑)」(千葉さん)

千葉さんは試しに一つを温めてみた。

「小麦の香りがするじゃないですか。『なんかおいしそうですね』となって、実際にその場で食べる社員もいて、結構おいしいと言うんです」(千葉さん)

1時間後、千葉さんから送られてきた写真には空っぽになった冷凍庫が写っていた。この時、矢野は、今までやってきたビジネスは独りよがりだったと気付かされる。

「今までは、自分の考えをいかに世に出すかということばかりを考えていたのですが、千葉さんの一件を受けて、人の行動をしっかり見た上でビジネスに反映させることがすごく大事なのだなと感じました」(矢野)

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この出来事をヒントに始めたのが企業向けのサービス「パンフォーユーオフィス」だ。

東京・千代田区の「アパマンショップ」を運営する「アパマン」。不動産業界は土日がかき入れ時のため、休日出勤する社員も多い。だが、「飲食店とコンビニが入っているのですが、土日は閉まっているので不便です」(「アパマンネットワーク」・田畑理恵さん)。

同じビルの飲食フロアも土日が定休日。開いている近くの飲食街はどこも長蛇の列だ。「すぐご飯が食べられない、ランチ難民です」(田畑さん)

この問題を解決したのがパンフォーユーの冷凍パンだ。定期的にメニューを変えてオフィスに届けるサービスを5年前に開始。フレンチトーストにカレーパン、オレンジデニッシュまであり、値段は1個108円。企業が福利厚生の一環として導入し、半額を負担する仕組みだ。

「パンが郵送されてきますので、それを冷凍庫に入れるだけ。管理の手間は一切ないです」(社長室室長・山﨑戒さん)

「パンフォーユーオフィス」いまや300社以上が利用する大ヒットに。これが個人向けのサブスクサービス「パンスク」につながっていくことになる。

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パンを使った絶品スイーツ~企業コラボで新作続々


矢野がスイーツの開発に乗り出した。手を組むのは東京・港区のカフェ「BESIDE SEASIDE」。そのお披露目には20社のメディア関係者が訪れた。

考案したのは山形と群馬、2つの店のベーグルを半分ずつ使って作る「ダッチベーグルフレンチトースト」(1770円)。2種類のベーグルにフランボワーズソースをかけたマスカルポーネと塩キャラメルのアイスが一緒に楽しめる贅沢な一品だ。一緒にメニューを考えてカフェにもパンを買ってもらうのが狙いだ。

パンを使ったメニュー開発はカフェ側にもメリットがあるという。

「米や麺にこだわっている店はありますが、全国からパンを選ぶというのはなかったじゃないですか。ご当地のパンと食材を使うフェアも面白いのかな、と」(料理長・伊藤嘉希さん)

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パンフォーユーには今ではパンに関するさまざまな相談が来るようになった。

今回、川崎市の映画館「109シネマズ川崎」から依頼されたのは、映画『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』のイメージに合わせたパン。イメージカラーに合わせた黒いパンがほしいという映画館の要望で、パンフォーユーが神奈川のベーカリーに依頼した。

その「真っ黒ック・ムッシュ」(600円)の黒い生地は竹炭。ハムとチーズにベシャメルソースを合わせたクロックムッシュに仕立て上げた。

※価格は放送時の金額です。

~村上龍の編集後記~
収録後にパンフォーユーの冷凍パンをもらった。部屋に冷凍庫がなかったので、ホテルのを借りた。家に帰り、パンをもらったと告げ、冷凍庫に入れた。翌日から解凍して、バターを塗って食べはじめた。普通においしかった。製造者のパン屋は特別なことをしていない。店で出すパンを冷凍しただけだ。ものすごくおいしいわけではない、普通においしいのだ。それがすばらしい。だいたいものすごくおいしいパンは存在しない。「これはおれのパンだ」と妻に告げ、パンフォーミーだと言った。矢野さん、感謝です。

<出演者略歴>
矢野健太(やの・けんた)1989年、東京都生まれ。2011年、京都大学経済学部を卒業後、電通に入社。2014年、電通を退職。2017年、パンフォーユー設立。

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