8万人の町に年間300万人~感動!田園×絶品スイーツ:読んで分かる「カンブリア宮殿」

テレ東プラス

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番組開始から16年がたち、かつて登場したトップたちの夢が次々に実現している。

「近江八幡にしかできないことはいっぱいある」と、2012年に語ったのは、老舗和菓子店「たねや」の山本昌仁だ。当時、山本はスイーツの巨大施設を作るとぶち上げていた。

琵琶湖に寄り添う人口8万人の滋賀・近江八幡市。京都と米原の中間にあり、交通の便は良くないが、その分、古くからの風情が残る美しい町だ。

その郊外に、連日、客が詰めかける「ラコリーナ近江八幡」がある。緑のアーチをくぐると、そこはまるで童話に出てくるような幻想的な緑の世界。ひと際目を引くのは、草が生い茂る大きな三角屋根だ。

三角屋根の中の大空間に店を構えるのは、バウムクーヘン好きなら知らぬ者はいない名店「クラブハリエ」。目の前で職人たちが作りあげる焼きたてを味わえる。そこにはデパ地下などで圧倒的な人気を誇る和菓子の老舗「たねや」も。「ラコリーナ近江八幡」を運営するのは、近江八幡に創業したたねやグループなのだ。

作りたてのカステラが味わえるのは栗の木を100本使ったカフェ「栗百本」。「カステラたまごのオムライス」(880円)など、地元の食材をふんだんに使った食事も楽しむことができる。

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来場者は年間300万人以上。客を引き寄せる秘密は三角屋根の裏手にあった。広がるのは懐かしい田園風景だ。黄金色のお米や、小川にはメダカ。都会では出会えない田舎の魅力が満載なのだ。美しい風景を作り上げてきたのは「ラコリーナ」のスタッフたちだ。

「実際に泥の中に足を入れて苗を植える経験をさせてもらいました」(「たねや」青木志歩)

素朴な風合いの建物の壁も「従業員がみんなで仕上げた建物です」(同)と言う。

「ラコリーナ近江八幡」の広大な土地にはかつて厚生年金の宿泊施設が立っていた。赤字に苦しむ施設をたねやが23億円で買い取り、かつてあった田園風景に戻したのだ。それをやり遂げたのが、たねやグループCEO・山本昌仁だ。

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「滋賀県といえば琵琶湖のイメージがあると思いますが、圧倒的に田園風景が多い。その田んぼの風景をいかにきれいに見せるか。なんとなく『懐かしいとな』いう環境が整ってきたと思っています」(山本)

当初ここを購入した山本の父が計画していたのは、スイーツ売る施設が並ぶお菓子の館。

ところが山本は、その計画を破棄してしまう。

「『お菓子の館』で大きいものができようとしていたのが、かなりの方向転換です。お金を借りようとしている銀行をはじめ、いろいろなところから『ここまで進んでいるのになぜ?』という声がありました」(山本)

山本はこの場所に何を作るべきかを考えつづけた。行き着いたのは「八幡山が大事なんです、それで八幡山をバックに建物の位置を決めた。東京や大阪や名古屋にないものを、せっかく滋賀県に来てもらったのに都会と似たものではダメ。『これが「たねや」なんだ』と思ってもらえる空間づくりをしたかった」(山本)

山本は、四季の表情豊かな八幡山をシンボルに、「自然に学ぶ」というコンセプトで「ラコリーナ」を作り上げていった。

こだわりは景観だけではない。たねやは旬の材料をふんだんに使い、季節ごとにさまざまな菓子を作り続けている。

「今の時期は栗だし、これからはぜんざい。節分には節分のお菓子がある。『ラコリーナ』の環境の季節感もありますが、ケースの中にも季節感を出していく」(山本)

「ラコリーナ」を訪れる客を魅了するのは、他では味わえない自然のうつろいを全身で味わえる感動なのだ。

開業から7年、今や「ラコリーナ」は、滋賀県ナンバーワンの集客施設となっている。

地方を武器に老舗の独自戦略~「近江八幡」でなぜ勝てる?

「たねや」の創業はちょうど150年前の明治5年。甘いものがなかった終戦直後には、自慢の栗饅頭が飛ぶように売れ、その名を知られる存在になった。1976年、デパートへの初出店という賭けに打って出たのは、3代目で現名誉会長の山本徳次だった。

「デパートだから新しい物を売らんとな」と、気合を入れ、華やかな和菓子を作り並べたが、他の店が賑わう中、たねやの商品は全く売れなかった。ところが、意気消沈した徳次が仕方なくデパート向けをやめ、地元でいつも売る商品を並べたところ、売れた。

「やっぱりこれだった。滋賀県は田舎です。田舎には温かい人間の感触がある。それが"鄙美(ひなび)"。雅に対して滋賀は鄙美なんだ」(徳次)

雅と言い表わされる京都の華やかで洗練された美。それに対して徳次は、近江の田舎らしい温もりを鄙美と呼んだ。そんな徳次の後を継いだ昌仁は、近江の土地へこだわり抜く戦略でたねやの存在を高めていった。

「ラコリーナ近江八幡」の一角で、山本はまるで雑草のような、どこにでもある草木を育てている。近隣の野山に咲く様々な草花を大切に育て、鉢植えに素朴な風合いの寄せ植えを作っている。

その寄せ植えが届けられるのが都市部の店。毎週金曜ごとに近江八幡から送られ、新たな季節を感じるものに取り替えられる。大都会の店でも、たねやが近江八幡の土地にこだわり続けてきたことを示す寄せ植えなのだ。

地方を武器にした独自戦略で生き残ってきたたねやの最大のピンチがコロナだった。デパ地下から「ラコリーナ」まで、全ての売り場が閉鎖になった。

「お菓子は作り続けていこうと。でも店は完全に閉めたので、販売する場所がない」(山本)

それでも山本は諦めなかった。コンビニやスーパーにも販路を拡大、さらに手作りでドライブスルーまで作り、コロナの苦境を必死で乗り越えたのだ。

「ラコリーナ近江八幡」で10月中旬、秋の恒例行事が開かれた。稲穂を運んで始まったのは脱穀作業。機械を足で漕ぎ、稲穂からもみだけを落としていく昔ながらのやり方だ。近くの農家から譲り受けた機械で、脱穀したもみと藁クズをさらに選別する。

作業をするのは「たねや」の社員たち。そのひとりは「普段は経営企画室で仕事しています。私たちも学んでいかないといけないことかなと」と言う。来場客も珍しそうに足を止め、中には実際にやってみる客もいた。

一方、山本は和菓子のディスプレーを秋らしいものへと変更していた。都会にはない四季をいかに感じさせるか。地方で闘う山本の勝負は続いている。

「季節によって、その時々のおいしいものを。通販と一緒ではなく、毎回来ていただくと何か発見していただけるようにしたい」(山本)

急拡大!スマホで美味食材~生産者とのおいしい関係

「ポケットマルシェ」、通称ポケマルは、生産農家が自由に商品を販売できるサービス。スマホアプリで簡単に注文できるので、生産者から直接食材を買うユーザーは驚くべき速度で増えている。サービス開始からまだ6年だが、コロナ禍に会員が急増、ついに60万人を超えた。参加する生産者の数も全国で7000人を突破している。

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佐賀・唐津市で牡蠣を養殖する吉田善史さんは「ポケットマルシェで出品を始めて、気に入ってくれるお客さんも増えてきた。びっくりしました。まさかこんなに買ってもらえるとは」と言う。

コロナ禍に飲食店などへ卸せなくなりポケマルを始めたところ、売り上げが一気に1.5倍に。今では年間1500ケースを出荷している。

だが吉田さんが最も嬉しいのはポケマルで消費者とつながったこと。ポケマルは、食べ終わった後の感想やメッセージ機能で、生産者と消費者が気軽に交流できるのだ。

「感想を聞いたら気合いが入ります。リピーターがさらに増量で倍うれしい」(吉田さん)

毎回、まるで友人のように家族ぐるみでコミュニュケーションを取っているユーザーにとっても、生産者は驚くほど近い存在だ。

消費者と生産者の関係をポケマルで劇的に変えた「雨風太陽」代表・髙橋博之がこの日訪ねたのは、ポケマルで最も売る生産者、愛媛・八幡浜市の二宮昌基さん。みかんを「年に1万箱ぐらい売っているんじゃないですか」と言う。

4年前、ポケマルへの出品を始めた二宮さん、最初の1年は5箱しか売れなかったという。爆発的に売れるようになった理由は、さまざまな改善にあった。

「箱をとめるテープの色、茶色いガムテープだと、『せっかくミカンがおいしいのに、安っぽく見える』というコメントがあったので、使うのをやめました」(二宮さん)

地道な改善活動でファンを増やしていった二宮さんは、ポケマルで直接消費者に売るようになり、生産者としての意識が大きく変わったという。

「クレーム対応にしろ、お客さんとのやりとりは、自分である程度やらないとダメですね。そのほうが実力がつきます」(二宮さん)

農協などへの出荷から、生産者自身が自立していくことこそが髙橋の最大の狙いだ。

「二宮さんみたいに自分たちで考えて売る力をつけてほしいんです。長い目で見たらそのほう絶対に生産者の力になる。生産者だけでなく地方もそう。先細っていく地方の活力を取り戻すことにならない」(髙橋)

髙橋の本拠地は生まれ故郷の岩手・花巻市。駅に隣接した「雨風太陽」の本店を訪ねると、壁に「食べる通信」という名前の雑誌が並んでいる。髙橋は2019年に番組に出演した時、この雑誌の編集長だった。

「食べる通信」は通販で雑誌と地域の食材が一緒に送られてくるユニークなサービス。都会の消費者に、生産者の知られざる苦労を伝えることが目的だった。その紙面作りの中で、髙橋はもっと生産者と消費者を結びつけることはできないかと、ポケマルのサービスに行きついたのだ。

「僕らが頑張って10年やっても東北の生産者を120人しか(雑誌で)見せられてないんです。だけどポケマルは、北海道から沖縄まで、7000人の農家、漁師が日々、自分たちの思いや生産に関わることを毎日発信している」(髙橋)

ポケマル急拡大したきっかけが三重県にある。橋本純さんは栄養豊富な伊勢の海で、良質なえさにこだわった鯛の養殖をしている。その水産会社は月2万尾も出荷していたのだが、そこへコロナが襲った。

「急に出荷できなくなり、どうしようかどころではない、パニックでした」(橋本さん)

行き場をなくした養殖の鯛は、成長しすぎると売り物にならなくなってしまう。その苦境を聞きつけたのが髙橋だった。

「『僕行くよ』という感じで飛んできてくれた」(橋本さん)

コロナが急拡大した2020年春。髙橋は一人新幹線に乗り込み、三重の橋本さんの元を目指した。そして到着するなり熱く、「『今ある状況を純さんの言葉で全部喋ってよ』と。めちゃくちゃうれしかった」(橋本さん)

動画を投稿すると、1日に100件もの注文が殺到。2カ月で5000尾以上の鯛をポケマルで売り上げた。その後、コロナに苦しむ生産者の間でポケマルは瞬く間に広がっていった。

消費者と生産者をさらに近く~小学生が鹿ハンターに密着

東京・世田谷区に住む小学生、栗原葵くんが珍しいものを見せてくれた。水辺に生息する希少なコオイムシだ。採った場所は「岩手県の田んぼの水路」だと言う、

葵くんが母・道子さんと夏休みに参加したのはポケマル「おやこ地方留学」。ポケマルの生産者を訪ねる家族向けツアーで、髙橋が今年から始めたものだ。

栗原さん親子が参加したのは、岩手県遠野市の漁業や農業など生産者のもとで1週間を過ごすプラン(15万4000円~/親子2名)。普通の農村体験などと違い、鹿のハンターと1日行動をともにするなど、かなりハードな体験が組まれている。

「少し残酷だけどしょうがなかった」(葵くん)

「銃の音がした時はびっくり。やはり生き物の命をいただいて生きているんだと、改めて思いました」(道子さん)

髙橋は、受け入れるポケマルの生産者たちの収入も増える親子留学の取り組みを拡大しようと全国を回っていた。単に食材を売買するだけでなく、もっと都会の消費者と生産者が深い関わりを持てるようにするのが狙いだ。

佐賀・唐津市ですでに900回を数える車座集会が開かれていた。髙橋が地方の生産者を集め、その意識改革を即すため開催してきたものだ。

「普段食べている魚はどこでとれているんだっけ。佐賀か。では佐賀のどういう漁協で誰がとっているんだっけ。どういうこだわりを持ってやっているのか、背景を知って食べるのと、何も知らないで食べるのとでは意味が違うんです」(髙橋)

髙橋が訴え続けるのは地方の可能性だ。

「人間が生きていくために必要不可欠なものを生産しているのは地方。自分たちの価値を都会に伝えて、共感してくれる人たちをいかに巻き込めるか。地方はまだまだやっていけるし、元気になれると思っています」(髙橋)

松茸料理に紅葉川下り~豪華バスで楽しむ田舎ツアー

都会の消費者に地方の魅力を伝える。そんなテーマで人気のバスツアーがある。車両は世界的な鉄道デザイナー、水戸岡鋭治さんの手による特注で、その名も「ゆいプリマ」。ゆったりと座れる3列シートは、長時間でも疲れない総革張り仕様だ。

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大阪を出発した「ゆいプリマ」が向かうのは、田舎の秋を満喫する日帰りツアー。価格は6万8000円だ。京都市内を抜け、色づき始めた山間へ。出発から3時間ほどで目的地へ到着した。

そこは美しい庭園で知られる京都市大原の「野むら山荘」という料亭。味わうのはとっておきの秋の味覚だ。国産松茸の山里料理では選りすぐりの香り立つ松茸が惜しげもなく使われている。次々にふるまわれる旬の味わいを思う存分堪能した後は、自慢の庭園の秋の色づきを楽しむ。決して安くない日帰りツアーだが、客の満足度は高い。

「ゆいプリマ」のバスツアーを展開するのは神戸市の「神姫バス」。コロナ禍で路線バス事業が大打撃を受ける中、海外旅行をできない富裕層向けにこのツアーを考案した。特注のバスだけでもかなりの投資だが「これで上質のサービスを提供できるものが手に入りました」(長尾真社長)。

例えば東北のプランでは、バスから降りて、美しい紅葉の渓谷で川下りを体験。日本の地方はまだまだ輝きを放つ魅力であふれているという。

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「近場の良さを再発見する。コロナの副産物として我々も感じました。まだまだ地方は元気になる要素がたくさんあると思っています」(長尾さん)

村上龍の編集後記~
地方は疲弊している。昔、わたしの故郷には米軍基地があった。今はほとんど姿を消しているが、地方には「基地」が必要なのではないか。「雨風太陽」は、鹿猟などを親子に提供することで、基地を確保しようとしている。「たねや」は「ラコリーナ」で、すでに基地を持つ。そこでは近江商人の三方よしの精神が、自然に学ぶことで実践されている。最近なんとかファーストとよく言われるが、一方だけがよければいいのか。近江商人の知恵が、現代に生きている。本物を生みだす、基地があるからだ。

<出演者略歴>
山本昌仁(やまもと・まさひと)1969年、滋賀県生まれ。1994年、全国菓子大博覧会で最高賞を最年少で受賞。2011年、たねや社長就任。2013年、たねやグループCEO就任。
髙橋博之(たかはし・ひろゆき)1974年、岩手県生まれ。2006年、岩手県議会議員に初当選。2013年「東北食べる通信」創刊、編集長に。2016年、「ポケットマルシェ」開始。

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