エンタメ業界の激変「10年前に今の状況があるとは...」松山洋社長×浜野謙太 対談:チェイサーゲーム

公開: 更新: テレ東プラス

chasergame_20221027_01.jpg
いよいよ最終回を迎える木ドラ24「チェイサーゲーム」(毎週木曜深夜0時30分/テレビ東京系)。漫画の原作者・松山洋社長(株式会社サイバーコネクトツー)と、仕事をサボりがちな3Dアニメーター・上田和範を演じる浜野謙太さんのスペシャル対談!

『NARUTO-ナルト- ナルティメット』シリーズや『鬼滅の刃 ヒノカミ血風譚』など数々の人気作を生み出してきたゲーム制作会社・サイバーコネクトツーの松山社長。一方、アーティストであり俳優としても活躍する浜野さん。エンターテイメントを仕事にするお二人に、エンタメ業界で働く上で大切なことや、この10年の変化やこれからの展望などについてお話をうかがいました。

共感してもらえるのは天才ではなくダメな方

――ドラマで片岡愛之助さんが演じる「ダイナミックドリーム社(DD社)」の"松山社長"は、原作者である松山社長がモデルですが、ご自身でご覧になって、いかがですか?

松山洋社長「テレビ東京さんから愛之助さんにオファーすると聞いた時は、引き受けていただけないだろうと思っていたんです。愛之助さんは原作の内容を確認してから決めたいとのことだったので漫画をお送りしたら『これならやりたいです』とお返事いただけて、受けてくださることに驚きました。愛之助さんの演じる"松山"は、原作漫画の絵のように、おでこが広くてコワモテではないですが、漫画での松山の存在感と独特のオーラが完全に一致していますね」

浜野謙太「ドラマでは、愛之助さんはあからさまにみんなを怖がらせる仕様にされていましたね。美女とかドラどか(笑)。愛之助さんも『面白い役だから引き受けた』とおっしゃっていました。松山社長みたいにカリスマ的な人が上にいてくれると、怖いけど、良いモチベーションで仕事ができる気がします。芝居でも、怖くてもビジョンが見えている監督の方が、信頼できるって思えますね」

chasergame_20221027_02.jpg浜野謙太さん演じるダメ社員の上田

――浜野さんは、ダメ社員の上田を演じてみて、どんなことを感じましたか?

浜野「僕は原作と脚本から"会社や社会にはこういう人が必要なんだ"という筋の通った意図を感じたので、そこをしっかり体現したいと思って演じました」

――浜野さん演じる"上田"のモデルになった社員さんは、実際にいらっしゃるんですか?

松山「実際にいます。最初に漫画にした時は、他の社員から『上田さんのことをこんなに赤裸々に描いて大丈夫ですか』と言われました(笑)。大丈夫です! 漫画で一番話題になったキャラクターは上田で、反響も大きかったです。どのゲーム会社にも、魚川(東啓介)のような天才肌の人間と、上田みたいな人間、どちらもいます。そんな中で不思議と共感してもらえるのは、天才ではない上田の方なんです。

浜野さんが『世の中の多くのゲーム会社、普通の企業にも上田みたいに仕事のできないヤツはいる。そういう人間でも、今もいるということは、それなりのポジションと役割がある。その存在を許してくれる会社がすごい』とおっしゃってくれて。上田に対する周りの反響って、そういうことなんですよね」

浜野「演じていて、楽しい役でした」

松山「ドラマ版『チェイサーゲーム』では、浜野さんが演じる上田の話がめちゃくちゃ良いんですよ。最終話を観ると、上田のことを好きになるし、多分心のどこかで『お前のこと誤解してごめんな』って、思うでしょうね(笑)」

浜野「最後に、上田のスタンスが生きてくる展開なんですよね。終盤は主人公の龍也(渡邊圭祐)も目まぐるしく動くことになるんだけど、そこで龍也にとって良い言葉をかけられるのが上田で。自分のペースを貫いている上田だからこそ言えることなんですよね。とても良い話になっているので、多くの方に観ていただきたいですね」

8時間キッチリ仕事すれば面白いものができるわけじゃない

chasergame_20221027_03.jpg「チェイサーゲーム」第8話より

――『チェイサーゲーム』では、ゲーム業界の知られざる実態や、ここで働くために大事なことが描かれています。松山社長はゲーム、浜野さんは音楽とお芝居と、お互いエンターテイメントの世界でお仕事をされているお二人ですが、エンタメ業界で働く上で大切にされていることを教えてください。

松山「私は自分のことを普通だと思っていないんです。365日仕事をして『趣味は仕事です』と答えられる人間ですから。ウチの会社も300人近いスタッフがいますが、みんなが私みたいであって欲しいとは考えていません。それぞれ違う視点を持って仕事をするのが、会社であり仕事なので。

いろんな人間の夢と事情が集まっているのが会社で、だからこそ衝突が生まれるのは当たり前です。言ってみれば"魂の削り合い"。そういう衝突の中で、お互いを知り、良い仕事ができていくと思います」

浜野「僕の仕事との向き合い方は、上田に近いです(笑)。マネージャーも分かっていて、"ここは家族のために空けておきたいんだろうな"と察してスケジュールを空けてくれたりしますし。事務所とは一緒に考えながら"幸せに仕事ができていないと意味がない"ということは、なんとなく共有しています。今は、面白いバランスでできていますね。

あとは、現場で俳優やアーティストが率先してやった方がいいことがあるんです。子供を現場に連れて行くとか、上田みたいに積極的に仕事量を減らすとか。そういうことができる職場の方が生産性があるんじゃないかと思いますし、それは『チェイサーゲーム』を通じても感じます。自分としては、業界全体の仕事の環境が良くなって欲しいと思いながら、仕事にもプライベートを絡ませています」

松山「ゲームを作る仕事は特殊技能なんです。男性も女性も関係なく、何年もかけて得たスキルがあるのに家庭の事情で仕事ができなくなるのは、社員にとっても会社にとってももったいない。例えば、保育園に子供を預けたり家庭のことをやった後に半日仕事ができるという社員がいれば相談に乗ります。時短勤務で子供を迎えに行く社員もいます。

特に、我々の仕事は8時間キッチリ仕事すれば面白いものができるかというと、そうじゃないんですね。10時間かけて書いたプログラムが使えなくて、1時間で書いたプログラムの方がバグがなかったりする。それはクリエイターのジレンマでもあって。働き方や会社への貢献の仕方はいろいろあると思うので、社員には『なんでも相談して欲しい』と伝えています」

chasergame_20221027_04.jpg「チェイサーゲーム」第8話より

――ドラマの中でも「ゲームはチームで作るものだからコミュニケーションが大事」という話が出てきました。ゲームも、音楽もドラマや映画もチームでもの作りに取り組むお仕事だと思います。周りの人とディスカッションする機会が多いと思いますが、その時に大切にしていることはありますか?

松山「"情報は、自分から情報を出した人間に一番集まってくる"というのが持論です。ゲーム業界は秘密が多いので、情報を遮断する会社や人も多い。でも、誰かが情報を出して、そこから『そうは思いません』とか『そう思います』とディスカッションが初めて生まれるわけで。最初の一歩を誰かが踏み出さないと、他のいろんな情報は出てきません。みんな"誰かが話の口火を切ってくれないか"と思っているけど、誰もやろうとしていない。だからこそ、"一歩目はまず自分で"という意識を持った方がいいんじゃないかと思います」

浜野「松山さんのお話を聞いて、自分の幼稚園時代を思い出しました。僕は幼稚園の時、必ず最初に発言する役割をやらされていたんですよ。僕がしゃべると、みんながしゃべり出すんです(笑)。

僕のバンド(在日ファンク)で打合せをする時は、僕がいっぱいしゃべっちゃうから、なかなかみんなの意見を取り上げられなかったりするんですよね。10年以上やっているバンドで、どんどん新しいことを試して変わっていかないといけないと思っていて。7人のメンバーで意見を交わしたいんですけど、僕がリーダーだから僕の意見しか出なかったりして。他の誰かから出てきた意見をもっとうまくキャッチしたいんですが、リアクションが来た時に『それじゃないんだよ』って返してしまったり...。松山さんは、周りの意見のフックアップをどうしていますか?」

松山「私は情報を発信することが多くて、周りの人間や部下から意見が来ますけど、浜野さんと同じように、全然違うなと思うこともあるんです。そういう時は、"要素分解"をして伝えます」

浜野「"要素分解"ですか」

松山「上がってきた意見に対して、なぜ"違う"という結論になるのか、その理由を並べて1つずつ説明する。それはサボらないようにしています。『それは違う』とシャットアウトすると、もう他の意見が上がってこなくなってしまうので、なるべく丁寧に説明するようにしています」