森山未來「神戸でアーティストとしてもっと面白く遊びたい」アーティスト・イン・レジデンスへの思い

公開: 更新: テレ東プラス

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アーティストが一定期間ある土地に滞在し、異なる文化環境で制作活動を行うプログラム「アーティスト・イン・レジデンス」。兵庫県神戸市の「アーティスト・イン・レジデンス神戸(AiRK)」代表のダンサー・俳優の森山未來さんと、千葉県松戸市の「PARADISE AIR」のディレクターで建築家の森純平さんの対談。「アーティスト・イン・レジデンス」とは何なのかについて語りあった【前編】に続き、今回は、町での存在意義、町の人たちとどう関わって何を目指していくのかについてうかがった。

町や町の人との関わり方

――松戸の「PARADISE AIR」は"松戸宿"の歴史伝統を踏まえた「一宿一芸」をコンセプトに、元ホテルを活用。神戸の「アーティスト・イン・レジデンス神戸(AiRK)」は、神戸開港とともに造成された外国人居留地・北野の「外国人マンション」を利用しています。立地と建物についてどのように決めたのでしょうか。

「松戸駅からすぐの街の中心部にあります。元ホテルとして使われていたフロアをお借りしています。松戸という街が元々宿場町だった歴史などもふまえて国内外からアーティストの滞在を受け入れています。最近『新しいレジデンスをつくりたい』との相談を受けているんですが...新築の物件にレジデンスを作ることはなかなか難しいですね。アーティスト・イン・レジデンスというものに正解がない分(【前編】参照)、まったくのゼロの状態から"これとこれがあったらベスト"とはなりにくくて。だからすでに土地あったものを読みかえて『ここがこうなったらいいね』『この景色をアーティストに見せたいよね』というものをベースにして空間を変えていく方がいい。さらにその街の人と一緒にうんうん悩みながら実験していくやり方が良いかなという気がしています」

artist_20221009_005.jpg千葉県松戸市「PARADISE AIR」(撮影: 加藤甫)

森山『KIITO(デザインクリエイティブセンター神戸)』("デザイン都市・神戸"の創造の拠点)で仕事をしていた時、これだけ魅力的な文化施設であるにもかかわらず、神戸の人にあまり知られてないし、僕も知らなかったので、まず『KIITOはアートセンターのハブになるべきだ』という思いがありました。だからKIITOからほどよい距離にある場所というところから探し始めて。

KIITOがある中央区は貿易を中心とした港町で、旧外国人居留地があり、その北側にある北野は雑居地として昔から外国人が住んでいる場所です。最初は異人館を、との話もあったのですが、行政条例などもあり、運営メンバーの一人『神戸R不動産』の小泉寛明さんが探してくれた『外国人マンション』に。神戸市内の大使館、領事館で働いていた方の家族向けに作られた建物なので、天井が高く、メイド部屋があるなど裏動線も成立していたりして、空間として非常にユニークです」

artiste_20221009_02.JPG「アーティスト・イン・レジデンス神戸(AiRK)」にて

――すでに日本人だけでなくアメリカやフランスから来たアーティストやクリエイターが滞在されています。北野は魅力がある土地ですね。

森山「異人館など観光地としての顔もありますが、実は北野町という狭い地域の中に22の宗教施設が入り混じっています。すぐ近くにシナゴーグ(ユダヤ教の会堂)、ちょっと南に下るとジャイナ教の寺院や、モスク(イスラム教の礼拝堂)があって。これだけ世界中の宗教施設が密接している場所は類を見ず、それぞれが緩やかに繋がりながら成立している。日本人はあまりピンとこないかもしれませんが、この状態は海外から来るアーティストからしたら"アンビリバボー"だと思います。パフォーミングアーツ(演劇・舞踊など、肉体の行為によって表現する芸術)に限った滞在施設ではないので、さまざまなジャンルのアーティストやクリエイターに門戸を開いています」

――レジデンスが持つ"町との橋渡し"という役割についてはいかがですか?

「街との距離感が重要だと思っています。街の人に会いたいときには会いに行けるけれど、基本的にはレジデンス施設は生活の為のプライベートな空間。創作活動するときは町なかで行うことが多いので自然と街の人とコミュニケーションが生まれていきますが、その近さと同時に、創作の為の一人の時間を選べることも大切だと思います」

森山「公共性を考えて、地域の人たちとどう関わるのか、どんなコミュニケーションを取っていくのかについてはバランス感覚が重要です。地域をリサーチして人と関わる制作スタイルのアーティストは、自然にコミュニケーションが生まれるので放っておいてもOK。内省的な時間を過ごすことを目的として、コミュニケーションを必要としているわけではないアーティストの場合は、運営側がアーティストをフォローできる立場にいないといけない。『絶対に交流してください』とすると、ストレスになってしまう場合があるんです。

また、地域の人たちに対しては、運営側が施設の存在を理解してもらうためのコミュニケーションをしていかないといけないと思います」

「アーティストの活動をきっかけに街の人に話を聞くと、『そんな歴史があったのか』など貴重な学びがたくさんあります。それを運営メンバーだけでシェアしているのはもったいなくて、なんとか可視化したいとい気持ちもあります。

我々も様々な専門性をもつチームで運営しているのですが、他の人が体験したことは話を聞くことしかできないし、人が入れ替わったら残らなくなってしまう。『PARADISE AIR』は来年で10年を迎えますが、10年前のことは、すでに僕と数人しか知りません。未来に向けて、そういった瞬間をどう記録し残していくのかも大事だと思っています」

artist_20221009_006.jpg千葉県松戸市「PARADISE AIR」のメンバー(撮影: 加藤甫)

森山「『PARADISE AIR』と『AiRK』ではスタイルが違うし、『AiRK』としての在り方をこれから少しずつ発見していくしかないですね。僕は定期的に来ているわけではなくて、一番アーティストと対話しているのは住み込みで管理人をしてくれている『神戸フィルムオフィス』代表の松下麻理さんです。僕とは見えている景色も違うと思うので、シェアする時間をしっかり取りたいですね」

――今の時期(※9月初旬の取材時)は、毎年秋に六甲山で開催される現代アートの祭典『六甲ミーツ・アート芸術散歩』の制作のためにアーティストが滞在しています。

森山「『AiRK』が、こうした神戸の文化施設をどうフォローアップできるかが、大きなモチベーションにはなっています。『KIITO』、『DANCE BOX』(神戸新長田を拠点にコンテンポラリーダンスを中心とした舞台芸術作品の公演を企画制作)、『C.A.P.(芸術と計画会議)』(神戸を拠点に文化活動を推進する団体)などのレジデンスプログラムのパートナーの経験から公共性を担保出来るのは文化施設だと思っているので、そこで行われる公演やイベントについて僕らもできるだけ発信していきます。それぞれの施設が、ここを拠点として神戸のカルチャーを共同で底上げしていく――それが僕の想像する『AiRK』のパブリックとの関わり方のイメージですね。

今は文化施設と共同したものがメインなので、滞在するアーティストはアウトプットする瞬間が見えている人ばかりです。来年はオープンコール(公募)して、空いている期間にパフォーミングアーツの若い人に来てもらって、この地で内省的な時間を過ごしてもらいたい。無理のない範囲で少しずつやっていけたらいいですね」

――神戸市は、文化芸術施策の目指す姿や基本的な方向性を示す中長期的な指針として「文化芸術振興ビジョン」が策定されています。

森山「ビジョンの要綱には、2020年にようやく震災復旧債を完済し、これまでフォーカスできなかった"アート"に目をむけ、国内外からアーティストを招聘して神戸市内で活動できる体制を整える、と書かれています。これは『AiRK』の後押しになりました。

神戸の魅力は30分で海にも山にもいける利便性。アーティストには、どこへでも行ってもらって、僕らには思いもよらないような発見やコミュニケーションが生まれたらいいなと思っています。

欧米の企業ではアーティストの視点による問題の発見や評価にニーズがあって、企業にアーティストが入り、実践されています。神戸の中で『AiRK』という場所を通して見えてくるものがきっとあるはず。コミュニケーションを通じて何かが発見されたり改善されたりするのは間違いないので、こうしたことにも取り組めるアーティストと僕は遊びたいですね」

これまでの変化とこれから

artist_20221009_007.jpg千葉県松戸市「PARADISE AIR」街での作品展示(撮影: 加藤甫)

――始動したばかりの神戸の『AiRK』に対し、2013年に発足した松戸の『PARADISE AIR』は来年で10年を迎えます。町との関係でどんな変化がありましたか?

「最初は、地元自治会の人たちと一緒に運営していました。でも、街に招く上でやっぱりアーティストって、ポートフォリオ(作品紹介)を見ても、どんな人なのかよくわからないんですよ。ペインターから絵の画像を見せられても、ダンサーの踊りの動画を送られても、実際に街で何をするのかわからない。だから、相手を信じるしかない。そんな中で、例えば自治会から参加していた運営メンバーは町会に対して責任があるので、何が起こるか不確かな中ではなかなかチャレンジングな判断ができない。

そういった状況の中で最初の数年は面白いアーティスト達から応募は来るもののなかなか誰を選ぶか決められませんでした。そこでPARADISEAIRを運営するための組織を、独立した団体として立ち上げました。これは街と関係がなくなったというわけではなく、例えばロングステイプログラムでは、600組の応募者の中から6人まで絞った最終選考会に審査員として地元自治会の人たちに入ってもらうことにしたり。関わってもらうタイミングを変えてみたということですね。

どのアーティストに来てもらいたいか街の人と話してみると、例えば"街にある色のことを作品にしたいです"とか普段生活しているのとは全く違う色々な角度から議論をしていくからこそ、"もしも街にこんなアーティストがやってきてこうなったら何が起こるだろう"というポジティブな未来を想像できるようになってきました。年1回、アーティストのプランをきっかけに"こんなこと、未来にできたらいいな"を想像する、すごくいい機会になって面白いですね」

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