名門校の知られざる姿を、生徒や親、教師など、さまざまな視点を通して紐解く情報ドキュメンタリー「THE名門校!日本全国すごい学校名鑑」(BSテレ東 毎週月曜夜10時)。「名門とはいったい何か?」常識を打ち破る教育現場に密着する。
今回の名門校は、今年で創立100周年を迎える「本郷中学校・高等学校」。ここ20年間で東京大学をはじめとする難関大学への進学実績が急上昇し、教育界からも注目を集める進学校だ。番組では、東大や京大などを目指す「特進クラス」で学ぶ1人の高校2年生に注目。彼が自分の成績よりも大切にしているものとは...そこに躍進の秘密があった。
東京都豊島区。JR山手線の巣鴨駅と駒込駅の間に「本郷中学校・高等学校(以下、本郷)」はある。完全中高一貫の私立の男子校で、全校生徒は1697人。1922年、高松松平家の伯爵、松平賴壽(よりなが)によって、「旧制本郷中学校」が設立され、今年が創立100周年にあたる。
建学の精神は、「個性を尊重した教育を通して国家有為の人材を育成する」。その精神にたがわず、個性豊かで優れた人材を輩出してきた。世界的アーティストの村上隆、競泳の金メダリスト・北島康介、「こち亀(こちら葛飾区亀有公園前派出所)」でおなじみの漫画家・秋本治、EXILEのATSUSHI(敬称略)など、数多くの卒業生が多方面で活躍している。
本郷では、高校から「進学コース」と「特進コース」(2002年に設置)に分かれ、「特進コース」は、東大・京大・一橋・東工大の最難関国立4大学への進学を目指す。2022年春の大学合格者数は、東大13人、その他の国公立大が80人、医学系大学に50人、早慶上理が360人、GMARCHが332人など高い実績を誇る。
この20年間で進学実績を飛躍的に伸ばしている本郷。近年は東大合格者数ランキングにも顔を出す、都内屈指の進学校に。その躍進の秘密はどこにあるのだろうか?
「本数検」に込めた教師の思いが功奏
校内には、勉強に集中できる場所として自習室や図書室の他に「ラーニング コモンズ」というスペースが設けられている。グループ学習やディスカッションもでき、生徒に人気だ。図書室の蔵書は3万7000冊。受験対策の「赤本」(教学社が発行している大学・学部別の大学入試過去問題集)もズラリと並ぶが、ほとんどが後輩のために卒業生が残したものだという。
一方、屋外に目を向けると、都心にもかかわらず、9000㎡を超える人工芝の広大なグラウンドが。ラグビーやサッカーの公式戦も行える規模だ。体育館はもちろん、屋上には野球部のブルペン、バレーボールやテニスのコートも完備している。
充実した部活動も本郷の魅力のひとつで、運動部と文化部を合わせて38もの部活がある。中でもラグビー部は強豪として有名だが、スポーツ推薦はなく、部員は一般受験で入った生徒のみ。これまで全国大会に10回出場し、準優勝を果たしたこともある。ちなみに「日本文化部」の部室を覗くと、琴や三味線など、伝統の和楽器を演奏している生徒の姿があった。
そんな部活動が盛んな本郷で長年受け継がれているのが「先輩が後輩の面倒を良く見る」という精神。ラグビー部の高校3年生は、「なるべく学年の壁は作らないようにというのは心がけている」と教えてくれた。中学野球部の顧問・福島庸介先生も「生徒の特徴として、後輩に親切にしてあげたい、優しくしてあげたいという気持ちを持った生徒が多い。縦のつながりを大切にしているのではないか」と感じているそうだ。
この伝統の精神は勉強にも活かされている。部活動で先輩が後輩の面倒を見るように、中学2年生が教師役になって中学1年生に教える「合同授業」の時間だ。
「合同授業」は年に数回行われている。その様子を覗いてみると、中学2年生が1年時の1学期に受けた中間テストを教材にして授業を行っていた。自分の経験をもとに学習のポイントを説明することで下級生のためになるだけでなく、自分の基礎力強化にもつながるというユニークな取り組みだ。図書室に残された「赤本」も、この伝統の象徴だったのだ。そしてこの精神が本郷躍進を下支えとなっている。
もうひとつの躍進のきっかけは学校独自の取り組みにあるという。
それが、2003年に始まった「本郷 数学基礎学力検定試験(通称・本数検)」だ。年3回、数学科の先生が問題を作成する検定試験で、各学期の開始月(4月・9月・1月)に実施される。範囲はそれまで習ったところ全てのため、一夜漬けは通用しない。
しかし「本数検」は、通常の定期テストや受験対策とはいっさい関係がないため、当初は合格証を出してもそのありがたみを感じる生徒は少なかったという。
そこで「本数検」を定着させようと知恵を絞り、朝礼で校長表彰の最初に「本数検」の表彰をすることに。数学科の吉村浩先生は「勉強で頑張るのも、部活動・生徒会で頑張ることと同じようにかっこいい。それを生徒に知ってほしかった」と振り返る。
全校生徒の前で表彰されることで、生徒たちのモチベーションはじわじわと上昇。当初は得点に応じた「級」を認定していたが、上の級を取る生徒が増えてきたため、初段から参段まで追加することに。やがて、生徒たちが自主的に勉強する文化が根付き、それに伴い進学実績も上昇し始めた。
「学校全体の発展を考える」。生徒会長が語る本郷の魅力
年に3回ある「本数研」の日。
特進コースの教室を覗くと、名前を書き忘れてしまった生徒が...。本郷高校の生徒会長を務める高校2年生、曾根廉心くんだ。学年で4人しか取得していない「本数研」の参段を取った1人だ。しかし、名前を書き忘れると0点になるのが「本数検」のルール。一度痛い思いをしたら、大学入試の本番で書き忘れることはないだろうという、学校の親心だ。
実は廉心くん、本郷は第一志望ではなかったという。しかし入学してからその考えが一変。そのきっかけとなったのは、新入生のための部活紹介イベントだった。学校のために尽くし、イベントを仕切る生徒会の先輩たちの姿に憧れを抱き、生徒会に入った。「自分の成績に関係ないのに、学校のために尽くせる人がこんなにいるんだ、と。それが中1の自分には輝いて見えた」。
生徒会では「学校生活をより良く」を合言葉に、これまでいくつもの改革を行ってきた。たとえば通学用リュック。3年前までは肩掛けのカバンだったが、生徒から変えてほしいという要望が相次ぎ、生徒会が何年もかけて学校と交渉。最初に交渉した先輩は既に卒業し、廉心くんたちがこれを引き継いだ。これも後輩思いの本郷ならではだ。
本郷中学の生徒会長・笠井敬斗くんは「曾根さんは親しみやすくて優しい先輩」と語り、他の中学生徒会メンバーも「話しやすい」と印象を語る。廉心くんは先輩たちの精神をしっかり受け継いで実践していることがうかがえる。
実は廉心くんの弟・佑心くんも本郷中学1年生だ。兄から先輩と後輩のつながりが強い学校だと聞き、本郷を志望した。
廉心くんたち生徒会は今、春の一大イベント「高校競技大会」の準備に追われていた。わずか12人の高校生徒会メンバーで、高校生全員が参加するイベントを仕切るため、仕事量が多く、難関大学を目指す特進コースにいる廉心くんも勉強が後回しに...。
そんな中、学校では今年入った新入生の保護者会が開かれた。弟・佑心くんが入学したため、曾根家のお父さんも出席。廉心くんは、大会の準備の合間を縫って校内を案内することに。廉心くんのお父さんは、勉強を後回しにして生徒会活動に励む息子をどう見ているのか? そして廉心くんはお父さんの職業に就きたいそうだが...その内容はぜひ番組で。
迎えた競技大会当日。学年ごとにクラス対抗で4つの団体球技を行うが、今年の目玉は新競技の「ハンドボール」。生徒会では、ハンドボールのルールを知らない生徒のために紹介動画まで作った。それが功を奏し、ハンドボールは大盛り上がり!
廉心くんには、もうひとつ成功させたい試みがあった。それはパソコン上で試合結果を集計すること。これまでは、グラウンド・中庭・屋上・体育館と、4つの競技会場の試合結果を生徒会メンバーが走り回って集計していたが、あまりの過酷さに前・生徒会長は倒れてしまったという。
廉心くんは昨年、先輩が作ったシステムに改良を加え、生徒会メンバー全員が試合結果をパソコン上で共有できるようにした。もう走り回って倒れる心配はない...しかし、ここで思わぬトラブルが発生。果たして大会の行方は? 生徒たちの奮闘ぶりはぜひ番組で見届けてほしい。
高校の生徒会メンバーの12人は、競技大会で大奮闘。自分の勉強も差し置しおいて、なぜ人のためにそんなに頑張れるのか? 廉心くんに聞いた。「人のためでもあり、自分のためでもある。本郷生は勉強を頑張るだけではなく、自分たちがいる環境をどう改善していくかを考える。自分の成績のために良い学校にいるのではなく、学校全体としてどこまで発展できるかを考える生徒が多い」。
本郷中学校・高等学校が名門校たる所以...それは、「人のためにかいた汗が自分を成長させる」という信念が、脈々と受け継がれていることにあった。コロナ禍で人とのつながりが希薄になりつつある今、思いやりの心を持ち行動できる生徒たち。勉強だけでなく、人としても躍進し続けていくだろう。
番組ではこの他、「本数検」に対する生徒たちの本音や、部活動の様子、高校球技大会の様子などを紹介する。
次回の「THE名門校!日本全国すごい学校名鑑」(BSテレ東)は、「花巻東...大谷を育てた夢実現の教え!東大へ...もう一人の二刀流」と題して送る。
今回の名門校は岩手の花巻東高等学校。ご存じ、大谷翔平選手と菊池雄星選手、2人のメジャーリーガーを生んだ文武両道の学校だ。早速カメラが学校を訪ねてみると...、大半の生徒が朝7時30分には登校してきた。その理由はスポーツ部の「朝練」。すると、ホウキを持った運動部員が大勢現れ、敷地内の掃除を始めた。「ゴミ拾いは運拾い」。大谷選手が、今もグラウンドのゴミをさりげなく拾う姿はこうして育まれたのかもしれない。
花巻東には、目指す進路によって4つのコースがある。ビジネスの世界ですぐに活躍できる人材育成を目指す「ビジネスコース」。難関国公立大や私立大学を目指す「特別進学コース」と「進学コース」。そしてスポーツに関わる医療や栄養学などの専門知識を学ぶ「スポーツコース」だ。もちろん施設やサポートは充実している。水泳部には温水プール。フルコートを持つサッカー部サッカー部を指導するのは、、元日本代表キャプテンの柱谷哲二さんだ。
そんな花巻東の教えの根本が「立志」と「夢実現」。夢を実現するためには大きな志と明確な目標、そして自ら課題を考えて克服していく力が必要となる。そのためにはどんな努力をすべきか、生徒一人一人が自ら具体的な言葉で目に見える形にまとめているのが「目標設定チャート」だ。大谷選手の高校時代のチャートを見ると「超一流選手になるためには技術だけでなく人間性も重要」と、克服していくべき目標が事細かに記してあった。
生徒一人一人が掲げる明確な目標...大谷選手を輩出した野球部の部員にとって、それは甲子園で優勝して日本一になること。その夢を現実にするため、グラウンドで汗と泥にまみれる部員たち。ところがそのバックネット裏で、一人猛勉強をする3年生部員の若松聡大くんの姿があった。目標はなんと東大に合格すること。そんな若松くんを野球部の全員が応援しているという。野球と勉強、もう一つの二刀流を追う青春に密着した。
どうぞお楽しみに!