騒音被害「6割以上」が泣き寝入り、2000人のアンケートで判明 対策などを専門家に聞いた

公開: 更新: テレ東プラス

アンケートの集計内容や寄せられた意見や疑問をもとに、レイ法律事務所の弁護士・浅井耀介氏に話をうかがいました。

souon_20220316_05.jpg画像素材:PIXTA

Q.主観と捉えられがちな騒音被害ですが、迷惑行為と認められる境界線を探る方法は?

「騒音トラブルが発生する大きな原因の一つとして、何をもって騒音とするか、人によって基準が異なる点が挙げられます。例えば、近所の住人からすれば子どもうるさい声も、音を出している住人からすれば、かわいいわが子がはしゃぐ微笑ましい声です。

どれほどの音が騒音であるか明確に規定する法律があればいいのですが、工事音など公害と呼ばれるような音を除き、人の話し声、洗濯機や掃除機の音、楽器の演奏音などの生活音に関して一律に規制するような法律は現状では定められていません。

しかし、目安となる基準は存在します。環境省が定める騒音に関する環境基準では、居住地域において、午前6時から午後10時までの間で55デシベル以下、午後10時から翌午前6時までの間で45デシベル以下を維持することが望ましいと定めています。

具体的には、洗濯機から3メートル離れたところで聞こえる音が約55デシベルです。隣の部屋との距離や居住している部屋の防音設備によって聞こえる音の大きさは減退していきますが、夜間の洗濯機はこの環境省の定める基準によれば騒音とされる可能性が高いでしょう」

Q.近所の住人の音がうるさいと感じた場合、まずすべきことは?

「騒音被害に悩まされている場合、まずは聞こえている音が本当に騒音かどうか証拠収集をすることが大切です。身の回りの音をデシベル化するための騒音測定器は数千円で購入することができますし、最近ではスマホのアプリで音を測定することもできます。

測定したデシベルの数値をメモにとるなどして、一時的ではなく連日基準値を超えた音が発生しているのだということを記録できると、より証拠価値が高くなります」

Q.証拠を集めて騒音と断定できた場合、どんな手順を踏めばよいのでしょうか。

「“うるさいので気をつけてくれませんか”“ごめんなさいね”などのやり取りが騒音主とできればいいのですが、残念ながら最近では、そういった温かいご近所付き合いは減ってきているのが実情だと思います。また、聞こえている音が騒音だと断定できたとして、マンションではその発生源を特定することも難しい場合が多いです。

ですから、いきなり音の発生源と思われる住人に自らコンタクトをとるのは避けた方がいいでしょう。まずは管理人や管理会社に、戸建ての場合は自治会などに連絡をすることが望ましいです。音を発生させている人はそれを騒音だと認識していない例が少なくないため、第三者を通じて貼り紙や投書などで注意喚起をしてもらうことで騒音が止まるケースも多々あります」

Q.アンケートの回答の中には「マンション住まいだが、管理人や管理会社がきちんと対応してくれなかった」というものもありました。

「管理人や管理会社はエントランスやエレベーターなど共用部分に関して管理責任を有するのが原則であり、専有部分(各居住部分)については管理責任を有しないことが多いです。そのため、騒音に関する苦情を入れたとしても“住民同士のトラブルは住民同士で解決して”と対応してくれないこともあります。

また仮に対応してくれたとしても、注意喚起の貼り紙や投書では効果がないことも考えられます。そのような場合は、警察や弁護士へ相談することも一つの手です」

Q.警察に相談した場合、どこまで対応をしてくれるのでしょうか。

「現在進行形で騒音が聞こえているのであれば、まず110番通報を。警察から騒音主に対して注意がされ、その制止をきかずに人声、楽器、ラジオなどの音を異常に大きく出し続けた場合は、軽犯罪法が定めている静穏妨害の罪にあたります。

また継続的な騒音被害に悩まされている場合は、警察に対して被害届を提出する方法も考えられます。その際、前述の方法で証拠化した日々の騒音の記録を持参することで、より誠実な対応が期待できます。悪質な騒音に対しては他者に精神的なダメージを与えたとして、傷害罪が適用されることもあります。

警察は基本的には民事不介入であり、刑事事件として取り扱ってくれるかどうかは場合によります。警察に相談したからといって必ずしもトラブル解決に向かうわけではない、ということも頭に入れておくべきでしょう」

Q.では、弁護士に相談した場合は?

「弁護士は依頼を受けた場合、弁護士名義で注意喚起の文書を騒音主に対して送付します。損害賠償請求など法的措置をとられるかもしれないとプレッシャーを与えることで、管理人などからの注意よりも強い効果が期待できます。実際に、弁護士からの通知書で騒音がおさまるケースも多くあります。

しかし、通知書作成のみの依頼であっても、5~10万円程度の費用がかかってしまいます。現在受けている被害の大きさと解決にかかる費用とを天秤にかけ、検討してみてください。

この通知書により騒音トラブルが解決される場合も多いですが、中には裁判にまで発展するケースもあります。裁判では、実際に測定されたデシベルの値やその頻度、騒音主の改善に向けた努力などの事実関係を認定した上で、前述した環境省の定める基準などを参照に、それが被害者の受忍限度を超えていたかどうかを判断します」

Q.騒音の自衛のために、どんな方法をおすすめしますか。

「音は壁を伝って聞こえてきます。そのため、大きめの家具を壁から少し離して置くだけでも、音を軽減する効果があるはずです。同様に、壁に遮音シートを貼るのもおすすめです。最近では取り外し可能な遮音シートも増えており、賃貸物件でも安心して使用することができます。また、お気に入りのデザインのシートを選べば模様替えにもなり、一石二鳥でしょう。

逆に、知らず知らずのうちに自分が騒音主となってしまう場合もあります。そのときは自分の生活音のうち、どの音が騒音なのかを特定する必要があります。例えば洗濯機や掃除機など家電の音が大きかった場合は、静かな音のモデルへの買い替えを検討したり、使用する時間帯に注意したりする必要があるでしょう。また、足音による騒音トラブルの件数も非常に多いことから防音マットや防音カーペットを敷くことも効果的です。

新しい生活様式が広がり、自宅で過ごす時間が増えたためか、弊所でも騒音トラブルに関する相談件数が増えました。警視庁が受理した騒音に関する110番の件数について、緊急事態宣言が発出された2020年3~4月は、昨年比で3割近く増えたというデータもあります。

近年は、騒音トラブルが発展して凶悪な殺人事件に至るようなケースも散見します。そのような事態を避けるためにも、適切な方法での対処が求められます。一つひとつ課題をクリアしていけば、問題解決に近づくことができるはず。仕方がないと諦めず、先ほどお話しした段取りを参考に前進してみてください」

※この記事はテレ東プラスとYahoo!ニュースによる共同企画で、Yahoo!ニュースが実施したアンケートの結果を活用しています。全国のYahoo! JAPANユーザー(10代~60代以上)を対象に行い、2000人から有効回答を得ました(性別は男性61.8%、女性36.6%など。職業は会社員47.8%、自営業・フリーランス11.9%、アルバイト10.4%、専業主婦=主夫=10.3%、公務員4.0%、学生3.0%、団体職員1.3%など)。

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【浅井耀介(あさい ようすけ) プロフィール】
レイ法律事務所」弁護士。2017年大学在学中に司法試験に合格。国内最大規模の法律事務所にて企業法務を経験し、2022年レイ法律事務所に移籍。芸能案件や刑事事件、学校問題などをはじめとした様々な法律問題を取り扱う。自宅で趣味のウクレレを演奏することもあるため、騒音問題に関しては個人的にも関心が高い。

(取材・文/森田浩明)

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