ニッポンに行きたくてたまらない外国人を世界で大捜索! ニッポン愛がスゴすぎる外国人をご招待する「世界!ニッポン行きたい人応援団」(毎週月曜夜8時)。毎回ニッポンを愛する外国人たちの熱い想いを紹介し、感動を巻き起こしています。
今回は、「ニッポンにご招待したら人生変わっちゃった! スペシャル」をお届けします。
ニッポンで秘伝のどら焼きレシピを学び、帰国後に驚きの進化を遂げた!
紹介するのは、イタリア出身でカナダに住む、どら焼きを愛するニコレッタさん。
丸い形のどら焼きの原型は、明治初期に、日本橋大伝馬町の「霊岸島 梅花亭」二代目が考案。銅羅型のあん玉に、薄く衣をつけて皮を焼いた銅鑼焼きが始まりだといわれています。
近年は、フランスを中心に、欧米のパティシエたちが工夫を凝らしたどら焼きを作っているとか。人気の理由は、なんといってもあんこ。小豆に含まれるポリフェノールは赤ワインの2倍近く、食物繊維はゴボウの3倍! 健康志向の強い欧米人が、あんこを使った和菓子に大注目しているのです。
ニッポンにはまだ一度も行ったことがないニコレッタさんは、本やインターネットなどの情報を元に、ニッポンのどら焼きを手作り。小豆が煮えたら砂糖を入れ、最後に塩を少し入れて甘みを引き立てます。欧米や南米では豆はあくまで食事で、味付けは塩が定番。甘いお菓子にするのは、日本独自の文化なのだそう。
こうしてできた粒あんを、はちみつを加えて焼いた生地に挟めば、ニコレッタさんのどら焼きが完成。近所に住む友人の皆さんにも好評です。
そんなニコレッタさんを、3年前、はじめてのニッポンへご招待しました!
まず向かったのは、静岡市。素材と製法にこだわったどらやき専門店「河内屋」の店主・森廣良さんにお世話になります。
どら焼きを作るのは午前と午後の2回。材料の仕込みに手間がかかるため、1日350個限定です。1人でも多くの人に食べてほしいという森さんの思いもあり、一度に買えるのは1人5個まで。ニコレッタさんも行列に並び、出来立てをいただくと......「デリシャス! なんて美味しいの!」と大絶賛!
行列の絶えない「河内屋」の美味しさの秘密を特別に教えていただけることに。まずは、どら焼きの肝となるあんこ作り。小豆は厳選した十勝産の最上級のものを使います。作り始めるのは前日の午前中から。丁寧に洗った小豆を釜へ入れ、たっぷりの水で火にかけます。これは、空気に触れると皮が破れやすくなるため。
粒の形がきれいに残るよう弱火でじっくり5時間半煮たら、煮汁を切ってアクを取ります。出来上がりのタイミングは、釜の中の小豆の盛り上がり方で判断。指でつぶれるくらいがベストな茹で上がりです。
そして、もうひとつ大切なのが砂糖。使うのは、雑味がなくスッキリとした甘みのある白双糖(しろざらとう)です。白双糖と小豆を銅鍋に入れ、そこに加えるのは寒天。あんこをしっとりさせるためで、森さんのアイデア。
「あんまりかき回さないようにね。つぶあんではなく、潰れちゃうから」と森さん。
銅鍋は、遠赤外線効果でじっくり火が通り、側面と底の温度差が少ないのが特徴。小豆から出る水分で、外側から中心へと対流がうまれるため、かき混ぜなくても焦げつくことはないそう。
そして、小豆の状態を確認するため、深夜11時近くまで3時間つきっきり。あんこだけで、すでに8時間半。森さんがここまでこだわるのは、過去に和菓子店をオープンしたものの、経営が軌道に乗らず廃業した経験があるから。二度と同じ失敗はしたくない...。その思いがあるからこそ、美味しくするためのひと手間を惜しみません。
ここで、どら焼きの肝となるあんこを美味しくする秘密の製法を教えていただきました。それは水飴。甘みをまろやかにして、小豆を潰さずしっとり炊き上げることができるそう。
しゃもじを上げたときに小豆がくっつくようになったら、煮詰まらないよう容器に移します。こうして13時間かけ、あんこが完成! さらに一晩寝かすことで、味がしっかりなじみ、絶妙な食感になるとか。
お昼のどら焼きの販売が終わると、森さんが作り始めたのはバターチキンカレーと天津飯。16歳の頃から自炊していたため、料理は和洋中ひと通り作れるそう。本格的な味わいに、ニコレッタさんは「オイシイです!」と大満足。
ふわふわの生地作りも教えていただくことに。卵に、隠し味として香りとコク、旨みがでる醤油を加えて混ぜますが、「だいたい1000回」という森さんの言葉にニコレッタさんはびっくり!
これは、生地を流す時に切れを良くするため。混ぜる回数が足らないと卵が粘り、切れが悪くなるそう。しっかり混ざると焼き上がりも美しく、空気を多く含み、ふっくらとした食感になるのです。
ニコレッタさんも混ぜる作業に挑戦。かき回すのではなく切る、という森さんのアドバイスに従うと、「上手いね、俺の弟子になれるよ」とお褒めの言葉も。ここでグラニュー糖を投入。砂糖がムラなく混ざると泡のキメが細かくなり、生地がなめらかになります。薄力粉は、気温や湿度に合わせて分量を微調整。
続いて、ハチミツと日本酒。湯煎してアルコール分を飛ばし、香りを残した日本酒でハチミツを割って加えると、生地の香りが引き立つそう。さらに、ふっくらさせるため重曹を混ぜ、粘りの元となるグルテンを抑えるために冷水を加えます。
「感触を確かめてもいいですか?」と話すニコレッタさんに、森さんから「『の』の字を書く」とのアドバイスが。持ち上げた泡立て器から垂れる生地で、ボウルの中の生地に「の」の字を書き、終わりまで来ると字が消えるくらいが良い状態だそう。
こうして生地を、焼く直前に40分以上かけて仕込み、いよいよ焼く作業。「どら焼きを作るのに一番大切なことは何ですか?」と質問すると、森さんは銅板の温度と答えます。気温や湿度など日々条件が変わる中、焼き始めから終わりまで銅板をベストな温度に保つには、長い経験が必要なのです。
「どらさじ」という専用の道具で生地をすくい、持ち上げ......手首のスナップで、一瞬宙に浮かんだ瞬間を逃さず銅板へ。銅板に流したら、手首の返しで垂れてくる生地を切ります。手作業で流しているのに、大きさは全く同じといっていいほど。膨らんできたらひっくり返し、生地がふっくらしてきたら、焼き上がり。
ここで、ニコレッタさんも焼かせていただくことに。森さんのようにはいきませんでしたが、プロの道具で焼けるまたとない機会に「アメージング!」と感激。2枚の皮を片手で持って開き、あんこを素早く挟めばどら焼きが完成!
作りたてを頬張り、笑顔が溢れる森さんとニコレッタさん。「ニッポンのこのような名店でどら焼きを焼かせてもらえたなんて、本当に幸せです」と話し、その後も時間の許す限り、どらさじの使い方を教えていただきました。
別れの時。「どら焼き作りとあんこ作りを学ばせていただき、本当に光栄です。私の夢を叶えてくれて、本当にありがとうございました」と感謝するニコレッタさんに、森さんからお土産が! どらさじと、生地をひっくり返すへらをいただきました。大感激のニコレッタさんは、森さんご夫婦とハグをして別れを惜しみました。
あれから3年。ニコレッタさんから届いた感謝のビデオレターを森さんご夫婦のもとに届けます。
お土産のどらさじとへらを、今も大事に手入れをして使っているニコレッタさん。早速、どら焼き作りを披露します。まずは地元で見つけたという十勝産の小豆を茹でて、指で軽く潰れたところで砂糖と寒天を投入。水飴も加えて、一晩寝かせます。
続いて、生地作り。教わった通り、卵に旨みを出すための醤油を足し、1000回切ります。そこへグラニュー糖と薄力粉を加えて、ハチミツとお酒を湯煎してアルコールを飛ばし......重曹と冷水も加え、「の」の字を書いて生地の状態も確認。生地を焼いてあんこを挟むところも教え通りにうまくいき、森さんは「あ〜上手い!」「すごい! すごい!」と絶賛!
ここで、アレンジどら焼きも披露。ニコレッタさんが生まれたローマ発祥のマリトッツォを、どら焼きで作ります。生クリームにカナダ産のメープルシロップを加え、攪拌してクリーム状になったところでヘーゼルナッツをプラス。
皮にあんこを塗ってから生クリームを挟み、粉状のクッキーとブルーベリーをトッピングします。チョコレートソースをかければ、どら焼き風マリトッツォが完成!
「私の夢はニッポンにもう一度行ってどら焼きをもっと勉強することです」と話し、河内屋でもう一度修業させてほしいと願っています。いずれはフードトラックかショップを開いて、どら焼きをカナダで広めたいとか。
実は森さん、重い銅鍋を持ち上げられなくなったら店を辞めようと考えていましたが、「ニコレッタさんが頑張ってるんだから」と自分も頑張ろうと思ったそう。「本当にありがとうと言いたいね」と話す森さんでした。
小豆について学ぶ!多彩な小豆レシピも
「河内屋」に続いてニコレッタさんが向かったのは、北海道・十勝平野。あんこの原料の小豆について農家で学ぶためにやって来ました。国内で収穫される小豆の94%は北海道のもの。中でも昼夜の寒暖差の大きい十勝産の小豆は糖度や風味が高く最高品質と言われ、あんこ作りに最も適しているのだそう。
今期の収穫は終わっていますが、北海道で100年以上続く農家・外山聖子さん一家に、その後の大切な選別作業を見せていただくことに。外山さん一家が営む「十勝とやま農場」は、東京ドーム8個分の農地で、小豆をはじめ、およそ10種類の作物を育てています。
収穫した小豆「エリモショウズ」を見せていただくと、「美しいです! 粒が光り輝いていますね」とニコレッタさん。「エリモショウズ」は十勝を代表する品種で、あんこにした時の食感や風味に優れています。小豆は他の豆と同様、サヤに入っている点では同じですが、育てるのにほかの豆とは比べ物にならないほど手間がかかるとか。
農作物は、種類によって必要な栄養分や対策すべき害虫が様々。健康に育てるために、毎年作る場所を変えてローテーション(輪作)させる必要があります。一般的な作物は4年ほどの周期ですが、小豆はなんと8年! それでも広大な土地を誇る北海道だからこそ、小豆栽培が栄えたそう。
収穫した後は、機械で小石などを取り除きながら大きさを選別し、1粒残らず人の目でチェック。見た目の美しさも大切なポイントで、皮の破れたものや色・形の悪いものを取り除き、表面を磨くことでようやく売り物になるのです。
翌日、ニコレッタさんのために、外山家で朝からお餅を用意してくださいました。ニコレッタさんもお手伝いをしながら、つきたてのお餅で小豆と白小豆のあんこ玉を包んだ大福を作ります。きなこ餅や大根おろしのからみ餅もいただき、舌鼓を打ちました。
夕食時も、多彩な小豆料理のレシピを教えてもらうことに。小豆とかぼちゃを煮た「いとこ煮」やお赤飯、お汁粉など小豆づくし! 「あんこの小豆しか知らなかったのですが、こんなに色々な楽しみ方があるんですね」。
別れの時。ニコレッタさんが素晴らしい体験をさせていただいたお礼を述べると、外山さんは小豆が大好きな方がいることを実感できて「すごく元気をいただきました」と話します。小豆で作ったイヤリングと、鍋にかぶせて小豆を余熱調理できる手作りの鍋帽子をプレゼントしていただき、「本当にありがとうございます」と感謝を述べて別れを惜しみました。
あれから3年。ニコレッタさんから外山さん一家にメッセージが届きました。
いただいた小豆イヤリングと鍋帽子は、今でも大事にしているそう。「お餅の作り方を教えてもらい、一緒に料理もして、とても貴重な体験でした。素敵な時間を過ごせました。ありがとうございました」と感謝を伝えました。
ニコレッタさんをニッポンにご招待したら、どら焼きづくりが格段に上達し、夫婦でどら焼きの店を開く夢に向け、動き出していました!