<AKB48×地方自治体メンバー>が企画、予算まで交渉し”実行”まで落とし込む...テレ東が見つけた新たなビジネスのカタチ

公開: 更新: テレ東プラス

AKB48最大の魅力「楽曲」を通して一般企業や地方自治体・学生など、さまざまな方々とタッグを組み、一緒に"新しいコンテンツ"を創作する、バラエティParavi「AKB48、最近聞いた?~一緒になんかやってみませんか?~」(毎週火曜深夜1時35分 MC:ひろゆき、AKB48)。

1月18日に放送された第1回目のパートナーは「群馬県」。群馬県知事に「群馬と一緒に何か作らせて」とお願いしたところ、群馬県片品村で、オープン直前のスキー場を貸し切りで使わせていただけることに!! そこで、サマーソングのイメージが強いAKB48が、冬もキュンキュンできるMV作りに挑戦。群馬の秘境で、隠れた名曲とされる「あの歌」をMVとともにリバイバルさせた。

「テレ東コンシェルジュ」は、番組の総合演出を務める高橋弘樹プロデューサーを取材。番組の企画意図、群馬県とのコラボに至るまでの過程、今後のビジネスプランについて話を聞いた。

paraviakb_20220128_01.jpg▲「日経テレ東大学」でも、企画・製作統括を務める高橋氏(右)。左はイェール大学助教授の成田悠輔。

「AKB48、最近聞いた?」と尋ねたら、「最近聞いていない」と答える人もいる

――第1回目の放送を拝見しましたが、AKB48メンバーがアイデアを出し合い、いろいろな企画を提案する姿が印象的でした。企画意図、群馬県とのコラボレーションが生まれた経緯をお聞かせください。

「番組タイトルの『AKB48、最近聞いた?』は、NBA48の曲『太宰治を読んだか?』にインスパイアされました。この曲では、小説家・太宰治の存在が友達のいなかった少年の世界を広げるコミュニケーションツールとして作用します。曲の世界観と同じように、AKB48の存在がメディアや企業との対話ツールになって欲しいと考えました。

いま『AKB48、最近聞いた?』と尋ねたら、『最近聞いていない』と答える人もいるでしょう。でもAKB48にはいい曲がたくさんあるし、いいキャラも多い。その"最近知られざるAKB48"同様、すごくいいのに知られていない場所や企業なども世の中にはたくさんあります。"それなら両者をコラボレーションして新しいものを生み出すのはどうだろう"というところから番組が生まれました。

第1回目に群馬県とのコラボを選んだのは、近年は魅力が最下位と言われたり、ネットで"秘境の地グンマー"などといじられたりしているから。でも草津は日本三名泉の一つですし、都心からも近いなど、本当はいいところがたくさんある県です。"もったいない、もっと魅力を引き出せるのでは?"と考えてお声がけさせていただきました」

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――番組の企画を話した時、群馬県側の反応はいかがでしたか?

「『それは面白そうだ』と、リアクションはかなり良かったです。ただ我々としては、いわゆる"アイドルが地域や自治体を盛り上げる"というありきたりな企画はやめようと考えていました。片方だけに恩恵があるのではなく、掛け算にしたかった。第1回目は群馬の片品村にフォーカスを当てましたが、村はもちろん、同時にAKB48の知られていない魅力も引き出さなくてはならないわけです。さらに言えば、それぞれのメリットが対等でないと話が成立しません。だから番組づくりのハードルが高い。

今回はAKB48のメンバーたちが県の方々と議論して企画を進めていった結果、ちょうどオープン直前のスキー場が見つかり、パウダースノー状態の場所をMV(ミュージックビデオ)の撮影現場として使わせていただけることになりました。

寒い中、日が暮れるまでAKB48のメンバーがいいものを作ろうとしている姿を、現地の皆さんはとても好意的に受け取ってくださり、いろいろ手を貸してくださいました。そうすると、AKB48側は対価として"知られざる自分たちの名曲"を魅力あるものとして伝える必要がある。この過程に持っていくまでが、実はものすごくハードルが高いのです」

―― たしかに、双方の折り合いをつける作業が大変そうです。

「事前に全体的な流れや予算の決め打ちはせず、会議の場で現地の魅力を見つけなければならないのは、特に大変でした。ましてや見つけるだけでなく、企画の実行まで落とし込まなくてはいけません。加えてお金のやり取りもある。これら全てを番組中に進めていくのは、なかなか珍しいことです。
双方の魅力を本気で引き出せるかというハードルを掲げ、しかも、それぞれが納得しなければ折り合いはつかない。でも極端に言えば、なあなあにするくらいなら、折り合いがつかなくてもいいとも思っているんです。それも一つのリアルですから。

"なんとなくやる"はつまらない。テレビの企画でなくともお互いが腑に落ちて、気持ちよく握手できるかどうか。それがこの番組における一つのルールになっているのかなと思います。

今回の橋渡し役としてサポートしてくれるのが、2ちゃんねる開設者のひろゆきさんをアニメ化した"ひろゆこ"。双方の間に入ってどちらにもメリットのある提案かどうかを見事にジャッジしてくれます」

――MVのエンドロール(※Paravi 限定公開中)に、"演出"としてメンバーの名前が載っていることからも制作側の一体感が伺えます。

「メンバーがMVの演出をするというのは、なかなかないことです。みんな当事者意識を持って、移動中のバスの中でもさまざまな案を出してくれました。彼女たちは番組の企画はもちろん、どんなことでも一生懸命に取り組むと思いますが、それでも自分たちにとって利が明確だと力の入れ方がまた変わってくる。

ものすごく寒い雪山での撮影だったので、普通ならテンションが下がってしまうところですが、彼女たちがそれでも頑張れたのは、やはり、豪雪地帯のパウダースノーを貸し切って自分たちをアピールすることができるという条件に、大きなメリットを感じたからではないでしょうか」

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社会問題にも向き合えたら...とはいえただの人助けには留まらない

―― 一般企業や地方自治体、学生団体などとタッグを組むとのことですが、今後の予定は?

「次はメディアと組みたいと考えていて、出版業界と一緒にやろうと。すでにロケはしていて、大手の小学館とマニアックな東方通信社にAKB48が『何か一緒にやりません』と話を持ちかけます。東方通信社を選んだ理由は、MVを撮るのであればいいロケーションが不可欠と考えたから。この出版社は離島専門誌を手掛けているんですよ。交渉がどうなるかは見てからのお楽しみということで。

今後は、一般からの公募、学校などの教育機関、行政機関、スポーツ団体とも組んでみたいです。まだ想像の段階ですが、いま社会問題になっているフードロスや牛乳廃棄について、乳業メーカーや農産省などと一緒に何か仕掛けたいよね、とか。もちろんただの人助けに留まらず、"AKB48側が得するにはどうすればいいのか"それを考えることは忘れずに。うまく掛け算できるかどうかが肝要です」

【テレビ東京だからできること】
「一言で言えば、優れた作り手がたくさんいることが魅力であり、強み。ジャンルも多岐に渡るので、どんな人と組みたいか、どんな番組を作りたいかを漠然とイメージして声をかければ、それにふさわしい人材が必ず見つかります。個人的な話だと、副業OKなのもうれしい。本を書いたり、仕事のスキルを生かしながら自由に働けるテレビ局です。副業で書いた東京の島に関するエッセイ『都会の異界 東京23日の島々』、発売中です。よろしくお願いします!(笑)」

【高橋弘樹 プロフィール】
制作局プロデューサー。早稲田大学政治経済学部卒業。2005年、テレビ東京に入社。『空から日本を見てみよう』『家、ついて行ってイイですか?』『ジョージ・ポットマンの平成史』『吉木りさに怒られたい』などを担当。『日経テレ東大学』企画・製作統括も務める。
著書に、「博報堂生活総研のキラーデータで語るリアル平成史 」(共著。星海社新書)、「都会の異界 東京23区の島に暮らす」(産業編集センター)、「1秒でつかむ 「見たことないおもしろさ」で最後まで飽きさせない32の技術」(ダイヤモンド社)、「TVディレクターの演出術: 物事の魅力を引き出す方法」 (ちくま新書)など。

(文/森田浩明)

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