TBSは「赤坂エンタテインメント・シティ計画」の実現に向け、赤坂二・六丁目地区再開発計画のビル二棟の建て替えや、サカスエリアを含めた再開発を進めており、その裏にどんな思いがあるのでしょうか。再開発担当の増田隼人、木村円香、猶原広大に話を聞きました。
街作りの最重要課題は赤坂に”TBSらしさ”をどう落とし込むか
エンタテインメント・シティ推進室は何をする部署で、今どんなことをしていますか?
猶原 メインは赤坂再開発の推進業務です。今はビルを解体していて、近々着工予定ですが、その間に開発にかかわる工事やデザイン、設計といったいろいろなプロセスがあるので、TBS側の窓口となって打ち合わせを進めています。
オフィスや劇場など、用途は大筋決まっていて、ビルの中に入れる具体的な店舗は、もう少し竣工が近づいてきてから決めていく予定です。
木村 2020年4月から赤坂エンタテインメント・シティ推進室という部署は存在していましたが、今年7月に部署名と組織が少し変わりました。今回の組織改編で大きく変わったのは、サカス広場やBizタワー等でのイベント運営や施設管理をしているメンバーと同じ局になったことです。今後は私たちも積極的に関わっていけたらと思っています。
役割分担は?
増田 担当については、大きく建築計画と事業計画に分かれています。
建築計画に関しては、街、建築、各機能計画、ソフトのように分かれていまして、基本的には全員で取り組んでいますが、各機能にリーダーとして担当を付けています。全体計画に関しては僕、ホテルを猶原、駅まちを木村が担当しています。猶原は事業計画や契約に関しても担当しています。新築ビルの再開発に関しては三菱地所株式会社さんとの共同事業のため、事業計画はそれぞれの担当が中心となって検討を進めています。
また、劇場やホールは映画アニメイベント事業局ライブエンタテインメント部のメンバーとも連携しています。

※赤坂二丁目・六丁目地区再開発計画のスケッチパース
放送局であるTBSが赤坂の再開発に乗り出す意義は何でしょうか?
木村 アンケートで「赤坂といえば何を思い浮かべる?」と聞いたら、TBSを挙げる人がダントツで多かったんです。だから、今回TBSが赤坂再開発に入ったことは計画の認知度を上げるうえでもすごく重要だと前向きに捉えています。一般の方にも赤坂=TBSと認知されるようになったのは、『Nスタ』のお天気コーナーなどで赤坂の様子をお届けしているからだと思います。今後はTBSらしさをどうやって街に落とし込むかがひとつの大きな課題です。
猶原 放送局が街作り事業に乗り出すことは意外に感じる人もいるかもしれませんが、実は珍しくはないんですよね。今はどの放送局も放送事業は右肩上がりにはならないという共通認識があるので、安定的な収益を求めて不動産業を行っていると思います。

※(左から)TBSエンタテインメント・シティ推進室の木村円香、増田隼人、猶原広大
まるで自分の墓を作るような感覚?街作りの意外な魅力
皆さんがTBSに入社してから、赤坂の再開発に関わるようになった経緯は?
猶原 僕は2021年4月にTBSへ中途入社してきました。もともと金融機関に勤めていて、デベロッパーさんとかかわっていく中で、不動産の開発に興味を持つようになりました。せっかくならおもしろい要素が入った開発がしたいと思い、TBSの赤坂再開発を見つけて入社に至ります。
木村 私はもともとチアをやっていたこともあり、人が感動する瞬間に関われる仕事をしたくてTBSに入社しました。お客さんの感動する瞬間に直接触れられる仕事がしたいと話していたところ、新たにできたこの部署に入ることになりました。
増田 僕は学生時代、建築学科にどっぷりのめり込んで、当時から街作りに興味がありました。就職活動では空間体験の内装デザイン会社にいきたくて、そこしか受けていませんでしたが、落ちてしまって悩んでいたときに、ゼミの先生から勧められたのがテレビ局でした。TBSには技術職入社で、今はデザインセンターと兼務しながら街の開発もやっています。

皆さんそれぞれ夢を持って来られたんですね。どんなところにやりがいを感じていますか?
猶原 この業務は求められるスキルがものすごく幅広いと思います。不動産や工事、デザインに関する知識はもちろん、社内の意見を集約するためには社内の調整力やコミュニケーション能力も必要ですし、社内の承認プロセスを取るための資料作成もしなければなりません。業務が多岐にわたるので、自分に足りない部分がすごくよくわかる。逆に言えば、自分が伸ばせる部分がたくさんあると気付けたので、それは僕にとってやりがいだと思います。
増田 僕は自分の死後も残るという点ですかね。「地図に残る仕事」などとよく言いますが、よっぽどのことがない限り建物は自分の死後もしばらく残り、どこかの誰かの人生に関わり続けるものと捉えるとロマンを感じます。ある意味、自分のお墓だと思って作っています。
木村 私は新しいお店ができたら行ってみたり、お出かけしたりすることが好きなので、街を創りあげていく過程を見ることができて、自分ならどんな街に魅力を感じるかを考えることに日々楽しさを感じています。初めての経験なので、同時に難しさもすごくありますけど。
難しさを感じるのはどんなところですか?
木村 堅い話ですが、収益性との両立ですかね。おもしろいものを追求しても、誰も来てくれなかったらお金がかかるだけで終わってしまう。お客さんがちゃんと来てくれて事業として成り立たせることと、ぱっと見て目を惹くような街の象徴となるものをつくることを両立させるのはすごく難しいと感じています。
増田 おそらく、時代の流れと建築の流れのスピードが違いすぎることが一番苦しいんじゃないでしょうか。今入れたい機能やサービスを5年後に立ち上げても、今更感があるじゃないですか。そんな先見の明を持つのはなかなか難しいし、そこに本当に覚悟を持てるかというのはどの企業も苦しんでいると思います。建築はそれくらい前から決める必要があるんですよね。
あともう一つは、TBSが「エンタテインメント」という最も時流に敏感で、日々変化していくことが前提の分野に軸足がある点です。街づくりとしてそこに正面からフィットするものを考えるのはナンセンスなので、この特徴をどのような角度で計画に入れ込むかが重要だと思っています。
木村 私は本当に建築の知識がなかったので、5年後に完成予定の建物なのに、ドアのデザインなどすごく細かい部分も今の段階で決めなければならないことに驚きました。もちろん今後も変更はしていきますが、ここから先は変更にどんどんお金がかかってしまいます。そうなると、今考えて決めたことが結構大切なんですよね。
増田 あと難しいことといえば、意思決定ですね。自分たちが言うことが少なからずTBSの意見として捉えられる部分もあるので、すごく責任感があります。街づくりは当然一つの企業で完結するものではなくて、赤坂に住む人たちも含め、いろいろな人がいろいろな想いで関係するプロジェクトなので、合意形成をとるのはなかなか難しい。街を盛り上げたい、でもTBSはそこで収益を生まなければならない、というジレンマの中、TBSとしてどのようなビジョンを描いて、どのように街を巻き込み、どのように事業として成立させるかを同時に考えるのはとても難しいと思います。

来るたびに新しい発見がある、赤坂の街をもっと盛り上げたい
再開発に関わっている立場として、赤坂という街にどんな印象を持っていますか?
木村 これまでの赤坂は、目的がないと来ない街という印象があるかもしれませんが、舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』やHarry Potter cafeの効果で赤坂に来る人がすごく増えました。オフィスワーカーの足元にもなるので飲食店が多く、老舗やおいしいお店がたくさんあるのが魅力の一つだと思います。
猶原 飲食店に関しては、かなり深堀する余地がある街だと思います。僕も赤坂に通うようになって2年半くらい経ちますが、来るたびに新しい発見があって、研究しがいがある。敷居は少し高いけど、赤坂に来て嫌いになることはないだろうなと思います。
増田 赤坂は歴史が深いから、結果としてカオスだと思います。花街から始まってバブル期のキャバレーや夜の街みたいなところから、TBSが入ってオフィス街のイメージがついた。オフィスの中でも政治が動く街というか、メディアやものづくりというところがおもしろいですよね。ただ、オフィスが入りすぎたせいか、今は少し目立たなくなってきている気もします。
今後の展望は?
増田 「赤坂」という街のポテンシャルを最大限に引き出しつつ、「TBSらしく」街を創っていける仕組みを考え続けたいです。これまで主にテレビの番組コンテンツをつくってきたTBSが、ライブエンタテインメントを始め、体験も含めたところに領域を拡張する方針に舵を切っている。それは街というステージ、街というメディアを活用する可能性が拡張したということとも捉えられるので、TBSの事業成長と不動産の事業成長を掛け合わせていくこと、また街としての魅力もTBSの事業拡張に呼応していけるステージにしていきたいと思っています。

■詳細:
TBS INNOVATION LAND 記事にて