TBSでは毎週火曜よる10時に、福原遥&深田恭子のW主演ドラマ『18/40~ふたりなら夢も恋も~』を放送している。福原演じるキュレーターになるという夢に向かって歩き始めた直後に予期せぬ妊娠が分かる18歳・仲川有栖と、深田演じるアラフォーで仕事に生きて恋を後回しにしてきたアートスペシャリスト・成瀬瞳子の2人が、年の差を超えたシスターフッド(=女性の絆)を築いていく物語だ。
本作の大切なキーワードであり、劇中にもたびたび登場する画家、パウル・クレーの作品。日本におけるパウル・クレー研究者の一人で、日本パウル・クレー協会代表を務め、本作のパウル・クレー監修も行なっている新藤真知氏に、クレー自身のことはもちろん、彼が描く作品の魅力を語ってもらった。
名画家、パウル・クレーのルーツはノートの落書き!?
――第1話冒頭、有栖が絵画に夢中になるエピソードとして名画「セネキオ」との出会いが描かれました。完成までにどんな背景があったのでしょうか?
撮影では、東京国立博物館の資料館をお借りして、架空の「パウル・クレー展」を開催しました。台本を読んで、物語の象徴的な場面となると感じたので、アピール度が高くてわかりやすい作品がいいと思い、「セネキオ」を推薦しました。
「セネキオ」は不思議な力を持つ絵。実際、子どものころに「セネキオ」を観てクレーが好きになったという方がいたり、「セネキオ」の複製画に魅了されてボロボロになるまで飾っていたという方がいたりするんです。
「セネキオ」はとても広大な世界観の絵画ですが、本物はiPadくらいととても小さな絵。ドラマに登場したのは、実物よりもかなり大きな複製画でしたが、10歳の有栖が大きな衝撃を受けたということを具現化するうえでは必要な大きさだったと思います。
クレーは欧米ではとても知られた画家ですが、日本では正直そこまで知名度が高いわけではない、好きな人は好きだけど一般的とはいえない画家なので、今回のお話をいただいたときには驚きました。
――パウル・クレーは、どのような人物なのでしょうか?
20世紀を代表する革命的な画家であり、教育者、思想家、そして何よりも素晴らしい生活人です。スイスの首都・ベルンで、音楽教師の父と声楽家の母のもとに生まれました。自身も幼いころからバイオリンに親しみ、11歳のころにはベルンのオーケストラに在籍していたほどの腕前でした。

――クレーには音楽家という道もあったということですか?
音楽の才能に恵まれていた一方、本を読むことも大好きだったクレー。「これからの時代、音楽と絵画、どちらがより発展するか」と考えて絵画を選んだという経緯があったと言われています。ただそれは建前で、「田舎町のベルンではなく都会で暮らしたい」という思いからドイツの大都市ミュンヘンにある美術大学に進学したと友人に話しています。
音楽の才能は「バウハウス」での教員時代にも活かされています。校舎でヨハン・ゼバスティアン・バッハの楽曲を弾いて生徒たちに聴かせていたようです。教育者としても熱心な側面が伺えるエピソードのひとつです。
しかし一方で、高校時代のクレーは、不良少年だったそう。成績は良いのに、親が何度も学校に呼び出されるほど素行は悪かった。そんな彼は授業中、ノートの端っこに落書きをよくしていました。それがクレーの画家としての出発点です。
僕が思う彼の黄金期は、第1次世界大戦後のドイツが国を建て直すために作ったデザインや建築に関する総合的な教育を行う学校「バウハウス」で造形理論を教えていた40代、50代前半ぐらいのころです。それまでのクレーは、ピアニストの妻の収入に支えられて絵を描き、家事や子育てをしていたんです。教師になったことで初めてお給料をもらい、生活人としてもとても安定していました。造形理論の研究にも余念がなく、一方で教鞭をとらない日は画家として教員住宅内のアトリエで昼食を挟みながら9時から17時までと時間を決めて絵を描いていたそうです。何枚もの絵を並行して一度に描いていたという話が残っているので、芸術活動というよりは仕事として絵を描いていたという印象が強い。きっちりとした性格なのに、芸術家として色彩感覚に優れた絵を描き上げる、意外性の塊のような人です。
――新藤さんが感じる、クレーの一番の魅力とは?
パイオニアということでしょうか。
彼自身には、新しい時代をつくるというような気概はなかったと思います。しかし結果として20世紀の芸術の概念を根底から覆し、後世の芸術家たちに多大なる影響を与えた画家だということは、間違いありません。
思想家としての彼にも僕は注目しています。18歳くらいから書いていたという彼の日記を読み解いていくと、同時代の哲学者マルティン・ハイデッガーやアンリ・ベルクソンと似たような時間論(過去・現在・未来という3つの時間が伸縮自在に存在するというもの)を突き詰めているんです。
とてもユニークな人物なので、このドラマを通して、パウル・クレーという画家をもっとたくさんの方に知ってもらえたらうれしいです。
■番組概要
【タイトル】
火曜ドラマ『18/40~ふたりなら夢も恋も~』
【放送日時】
毎週火曜よる10:00~10:57