インディーおじさんが語るゲーム業界『アトムの童(こ)』吉田修平氏インタビュー

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日曜よる9時から放送中の山﨑賢人が主演する『アトムの童(こ)』。ゲーム業界を舞台に、若き天才ゲーム開発者・安積那由他(山﨑)が大資本の企業に立ち向かう姿と、周囲の人たちとのかかわりによって成長していく姿を描く完全オリジナルストーリーだ。

那由他と隼人(松下洸平)の作ったゲーム「アトムワールド」は、ゲームユーザーが選ぶ「アジアゲームアワード」で見事ベストワン賞に輝いたものの、SAGASに買収されるという衝撃の展開を迎えた。そこで今回はゲーム協力として本作に携わり、インディーゲームだけでなくゲーム業界全体に造詣が深い吉田修平氏に前後編に渡ってインタビュー。前編はインディーゲームを含めゲーム業界の仕組みやインディーゲームの可能性について聞いた。

いいパブリッシャーと出会えるかが、デベロッパーにとって成功のカギ

——最初に、大手ゲーム会社に所属する吉田さんがインディーゲーム業界に携わるようになったきっかけを教えてください。

ゲームがデジタルで配信されるようになり、爆発的なインディーゲームブームというのが2000年代の後半にアメリカや欧州を中心に巻き起こりました。個人のクリエイターがゲームを作り、配信し、ユーザーもネットストアで気軽にインディーゲームを購入できるようになったんです。

当時、私は大手パブリッシャーであるソニー・インタラクティブエンタテインメントでPlayStationのAAA(トリプルエー)と呼ばれる規模の大きなゲームを作るファーストパーティーの責任者でした。ですが、インディーゲームがとても好きだったので、自らインディーゲーム業界に足を踏み入れるようになりました。ゲームイベントがあると、インディーデベロッパーのあるブースを訪ねたり、インディーデベロッパーが開催するライブストリーミングに参加したりしていたんです。その頃からインディーデベロッパーの方たちを応援していたので、いつの間にか“インディーおじさん”や“VRおじさん”などと呼ばれるようになったんです。

 
『アトムの童(こ)』パブリッシャーの相良晶(左)『アトムの童(こ)』パブリッシャーの相良晶(左)

——お話の中でデベロッパーやパブリッシャーという専門用語が出てきました。劇中にも相良晶(玄理)というパブリッシャーが登場しますが、どのような意味を持っているのでしょうか。

簡単に言うと、“ゲームを作る会社”がデベロッパーで、“ゲームを売る会社”がパブリッシャーとなります。劇中に出てくる相良さんのように個人的な活動をするパブリッシャーの方も実際にいます。パブリッシャーは、デベロッパーにゲームの制作費を出資し完成したら宣伝と販売を行いますので、デベロッパーにとって、パブリッシャーはとても重要です。

その一方で、デジタルストアでも直接販売ができますので、自分たちでゲームを作り、パブリッシャーになることもできます。実際、そのような形で販売されているゲームもたくさんありますが、クリエイターの多くは、宣伝や販売には興味がなかったり、得意ではなかったりします。そういった事情もあり、デベロッパーは、いいパブリッシャーと出会えるかどうかが、成功のカギとなります。

——デベロッパーとパブリッシャーが対立することはないのでしょうか?

デベロッパーが作りたいゲームとパブリッシャーの作ってほしいゲームにズレが生じて、昔は衝突することがよくありました。しかし最近は、そういう対立軸もほとんどなくなり、小さなデベロッパーの不得手な分野をパブリッシャーが助けるという構図に変わってきています。今回の作品では、那由他さんや隼人さんにとって、SAGASはいいパブリッシャーではなかったため、ドラマのような因縁が残ってしまったとも言えそうです。

——では、実際のゲーム業界での大手パブリッシャーと、インディーゲームを作るような小さなデベロッパーとの関係を教えてください。

以前は大中小のメーカーがたくさんあったのですが、時代とともに中堅以下のメーカーが減ってきました。といってもドラマの中のSAGASの様に大手メーカーがゲーム市場を独占したわけではなく、膨大な数のインディーゲームが世に出ているからです。そして新しいアイデアは、インディーシーンから生まれることが多いのです。なぜかといえば、多くの資金を投入する大手パブリッシャー作品では、その分を回収すべく大きな売り上げ見込みの立つ手堅さも求められます。そのため、インディーゲームのような冒険的なゲームを作ることが難しい面があります。大手で働くクリエイターの方たちも常にインディーシーンに注目しています。例えば、現在とても人気のゲームジャンルであるバトルロイヤルゲーム。これもインディーのクリエイターが作ったゲームが発端でした。

また近年では、大手パブリッシャー各社がインディーゲームに注目し、多くの支援・育成体制を整えています。弊社のプレイステーションですと、ゲーム開発の敷居を出来るだけ低くするため、PS5用ソフトの開発用ハードウェア無償貸し出しプログラムなども実施しています。他のパブリッシャーさんでもインディーゲームのクリエイターコンテストや育成プログラムが多く実施されています。つまり、大手とインディーは非常に深い関係性を持っているといえます。

 
『アトムの童(こ)』那由他『アトムの童(こ)』那由他

——那由他たちの作った「アトムワールド」は「アジアゲームアワード」でベストワン賞に輝きました。やはり何かの賞を獲ると、売り上げも伸びるものなのでしょうか?

そうですね。売り上げに直結する場合が多いです。インディーゲームはあまり予算をかけた広告は行なわれないので、口コミでじわじわと広がっていくことが多いんです。しかし、賞を獲得することで一気に認知されますので、大きく売り上げを伸ばすことができます。ほかにもプロゲーマーや、ゲームの実況動画、解説動画などを配信するストリーマーが取り上げたことで、発売してから2年後に一躍人気になったゲームの例もあります。

——では、小さなデベロッパーが、大手ゲームメーカーに成長する可能性もあるのでしょうか?

現実的に見れば、可能性は低いかもしれません。この業界には、たくさんのゲームクリエイターがいますし、年間に販売されるゲーム数も多いので、どれだけいいゲームを作っても、そもそもユーザーに知ってもらうのが難しいんです。小さなデベロッパーが出すゲームが大ヒットするためには、何かのきっかけが必要です。例えば賞を獲る、いいパブリッシャーと出会う、キャラクターにファンがつく…そういう意味でいうと、「アトムワールド」が大ヒットして、アトム玩具が大メーカーに変貌する可能性はありました。

しかし、アトム玩具は思いがけずSAGASに買収されたことでどうなっていくのか。これからの展開が非常に気になるところですし、皆さんにも那由他さんや隼人さん、海(岸井ゆきの)さん達のこれからを見守っていただければと思います。

[プロフィール]
吉田修平(よしだ・しゅうへい)1986年ソニー株式会社に入社。数多くのゲーム制作に携わり、現在はソニー・インタラクティブエンタテインメントでインディーズコミュニティをサポートするインディーズ イニシアチブ代表を務める。

■番組概要
[タイトル]
日曜劇場『アトムの童(こ)』
[放送日時]
毎週日曜よる9時~9時54分

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